第1259話、連合国戦線 ――ネーヴォアドリス
シーパング同盟艦隊、セイスシルワ王都へ到着。
俺のもとに届いた報告によれば、輸送艦に避難民を収容する作業が開始されたらしい。その間、アーリィーの第三艦隊、ヴァリサのシーパング同盟艦隊が王都とその周辺を守る。
「ベルさんは、連合内の大帝国艦隊を叩きまくっている」
通り魔の如く、ベルさんのレーヴァテイン艦隊は、連合国の至る所に移動しては、真・大帝国に襲撃を繰り返し、出血を強いている。
「あの方が他方で暴れ回っている間は、大帝国侵攻軍もセイスシルワに集中できないでしょう」
ダークエルフのラスィアが、レポートを読み上げるように言った。
「皆もよく頑張ってくれている」
基本的に一カ所に留まるような戦いはしていない。セイスシルワの例外を除けば、守備隊を置かず、防衛線を張らないからこそ、数の不足を補えている。
やはり、機動戦なんだよな、戦いってやつは。
「大帝国の攻勢もかなり鈍化してきていますね」
「連合国内に、連中の艦艇を修理できる設備がほとんどないからね」
俺はニヤリとする。
「大帝国は、転移で敵地奇襲って手を使ってきた。これは決まれば一気に優勢になって、その後の進撃も楽になるいい手ではある。電撃的に敵地を制圧して、そこの物資や設備を接収することを想定しての戦法だったはずだ」
「ですが、閣下は大帝国に連合の施設を使わせなかった」
元は連合国が裏切った時用の自爆装置だったんだけどね。敵に利用されそうになったら、渡さないように破壊してから放棄するってのは常識だから、特にどうこう文句を言われることもないんだけど。
「多少の傷は、連合国の設備で直すつもりだったんだろうけどね。それができないとなると、損傷した兵器が修理できずに、どんどん戦闘不能になっていってしまう」
俺は、戦術モニターの表示を切り替える。旧ウーラムゴリサ王国に、かなりの数の真・大帝国艦艇が集まっている。その原因は、こちらの一撃離脱戦法により、ダメージを受けた艦艇たちである。
「……この様子だと、大帝国は艦隊を転移させる装置はあるけど、個々の艦艇は転移できないようなんだよな」
「個別に転移ができれば、損傷した艦艇は、とっくに大帝国領へ離脱していたでしょうし」
ラスィアが首肯した。
「攻勢が鈍化しているのも、進撃している艦艇が減ってきているだめですね」
「連中、増援はドンドン送ってきているみたいだけどね」
ただ連合から艦隊を戻す方法がないから、数の多さが、そのまま大帝国の戦闘力と見るのは間違いではある。
「もっとも、敵だっていつまでも、この状態を放置しているわけがない。損傷艦を使えるようにするためにも、手を尽くしてくるはずだ」
「はい」
「考えられるのは、現地に転移装置を送るか、あるいは作る」
転移装置で、ウーラムゴリサ王国辺りに集まっている損傷艦艇を送り返すのである。
「それか、シーパング同盟であるプロヴィア、クーカペンテに戦力を投入して制圧。無理矢理ルートを繋げる」
いや、もっと簡単な迂回ルートがあるな。
「ニーヴァランカから北海に抜けて、大回りするか。またはネーヴォアドリスを攻略し、大帝国植民地である旧トレイスへ抜けるルート」
「北か南へ迂回ですね」
「そういうこと」
西の大帝国、東の連合国に挟まれる形であるシーパング同盟の壁。ここにはウィリディス軍第五艦隊ことファントム・アンガーの主力と、第七艦隊=シーパング艦隊がいるため、連合国侵攻中の真・大帝国軍も正面から仕掛けるのは難しいだろう。
クルフも、そこに手を出せば、シーパングの主力が出張ってくると想像しているはずだ。
「転移装置を送ってくるのが一番、簡単だと思うんだけどね」
ただ、いかな大帝国でも艦隊転移にはそれなりのエネルギーを使うようで、思いつきで使えるほどではないみたいだけど。
「そうなると、やっぱネーヴォアドリスに肩入れして、大帝国ルートを通行止めにしてやるのが一番かもしれないな」
南ルートの遮断。現在、ネーヴォアドリスは、大帝国の侵攻軍の攻撃で東部を失陥。西へと後退しながら、なお交戦している。
……俺たちバルムンク艦隊も、今はネーヴォアドリスにいる。
「北ルートは如何いたしましょうか?」
「開けといていいんじゃない」
俺は微笑した。
「離脱できるルートが残っているほうが、行動を読みやすくなるし」
全部塞いじゃったら、敵が脱出ルート確保のために、どこを食い破ろうとするか予想しないといけなくなる。守備隊をそれぞれ送らないといけなくなるし、そういうのはうちのスタイルじゃないんだよね。
「そもそも、ニーヴァランカは救援も手遅れだしな」
北へのルートはそのまま放置。ただ観測ポッドなどで偵察はしているから、大帝国がそのルートを使う時は、こちらも道中を襲撃する部隊を送ればいい。
必要な時に必要な戦力を送る。守るのではない、襲うのだ。
『閣下』
シェイプシフター・オペレーターが報告した。
『ブル高原にて、ネーヴォアドリス軍と真・大帝国軍が接触しました』
「来たな。我がバルムンク艦隊は、これよりネーヴォアドリス軍を支援する!」
戦闘配置、発令。
西へ下がるネーヴォアドリス軍。それを追ってくる大帝国陸軍部隊による地上戦である。
プロヴィアへ避難を進める民を守るため、決死の防戦を展開しようとしている殿軍。普通に戦えば、まず彼らは負けるだろう。
だがその命を賭けた時間稼ぎに、俺たちも協力させてもらおう。
・ ・ ・
ブル高原は、一見なだらかな地形が広がっているが、無数の塹壕が掘られ、小高い丘には防御陣地が作られていた。
ただし、これはネーヴォアドリス軍が構築したものを、旧・大帝国が作り直し、さらにそれをファントム・アンガーの協力で奪回した後、しばらく放置されていたものを、改めてネーヴォアドリスが整備したものという、少々回りくどい過去が存在する。
それもこれも、西からの侵攻に備えていたのに、東から真・大帝国が攻めてきたからである。本来想定していた防衛線の逆からの攻撃である。以前、旧・大帝国が占領した時、防衛線の向きを変えたものが、ここにきて活用される格好になったのだ。
真・大帝国の魔人機と巨大戦車が草原を踏みしめ、防衛線に迫る。
ネーヴォアドリス軍の防御陣地から88ミリカノンが火を噴いた。放たれた砲弾は地面に穴を穿ち、土砂を巻き上げる。魔人機エアナルに命中した砲弾もあったが、魔人機特有の防御障壁によって弾かれる。
この反撃に対して、真・大帝国のギィー・ラジィル戦闘攻撃機が上空から降下してくる。低空をかすめ飛び、防御陣地に向けて爆弾を投下。88ミリ砲陣地がネーヴォアドリス砲兵と共に吹き飛ぶ。
そして、真・大帝国軍は、ネーヴォアドリス防御陣地へ向けて、突撃を開始した。
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