霧006 手放した我流
私はボウマって呼ばれてる。
本当の名前かどうかはよくわがんね。昔からそう呼ばれてたからそう名乗ってるだけ。アンダマンでもそうだったし、水の国でもそうだったから多分ボウマで良いんだと思ってる。
何年か前にライカンと一緒に水の国まできて、学校にぶちこまれた。
ひでー話だと思わね? 部屋と飯が大丈夫だっていうから来たのにさ。やることが偉そうなやつらと一緒になって勉強すんだよ? 騙されたと思ったにぇ~。ライカンつえーから逆らえないけどさ。
まーでもそれも昔の話。今じゃ不満はそんなないよ。
結構マコちゃんの勉強もそこそこ面白いかなって思うようにもなったし。数学以外は。
特異科のクラスの皆と遊んだり飯食ったりすんのって楽しいし。
てか静かにしてないと大人がうっさいんだよなぁ。ちょっとムカつくやつを“ボンッ”ってやろうとしただけで大げさになるからさぁ……。
……あれ? 何のこと考えてたっけ?
うーんなんだっけ……。
「おいテメーなぁ!? ボウマおめーなぁ!? こっちは勉強の時間削って教えてやってんだぞ!? 武器持った時は集中しろよなぁ!?」
あ、ロビナだ。
そうだった。ナタリーの取り巻きのこのうるせー奴から槍の使い方教えて貰ってたんだった。
「ぅぁーい」
「返事はビシッとしろよテメー! そんなんで騎士団入れると思ってんのかオイ!」
「入んねーよあたし」
「ぁあん!? そうなのかよ!?」
ライカンに連れられて。ヒューゴとソーニャと出会って。クラインにむかついて。ロッカがやってきて。
それから、なんだかわかんねーうちにナタリーとか、レドリアとか、デリヌスとか、ロビナとか、あと……えっと、鉄専攻の奴らとも会うようになったりして。
なんかここにきてから、名前知ってる奴増えたなぁ。
アンダマンにいた頃は、何人くらいの名前を覚えてるっけ。
孤児院のクソババアと、そこにいるクソガキどもと、ゴミ捨て場のクソジジイと、えーっと……。
うーん、全然覚えてにぇ。
「ロビナぁ……もういいだろ? 集中力ない奴に教えたって無理なんだよ。俺怖いよそいつが得物持ったままぼーっとしてる姿見んの」
「ふが?」
バーのカウンター席でえらそーに座ってる白髪頭の男がなんか言ってる。
名前なんだっけこいつ。ナタリーとだいたい一緒にいるけど……うーん、いじめてやりたい顔してんなぁ。
「馬鹿野郎ジキルてめー危なっかしいからこそ教えるんだろうが!」
そうだ、そんな名前だったじぇ。
「てめーの持った武器で怪我するようじゃ半人前以下だ! 教える側は半人前以下が勝手に怪我しねぇ半人前になるまでは面倒みてやらなきゃいけねえんだよ!」
「……よくわかんねえとこで律儀になるよなロビナは」
「はぇー……なんかロビナ、珍しくかっこいいこと言うな!?」
ロビナは結構良いやつだ。
普段は馬鹿みたいだけど、色々教えてくれるし。なんかロッカみたいな感じがする奴なんだ。馬鹿だけど。
あたしが槍で遊んでたら使い方をちゃんと教えてくれる、変だけど良いやつなんだ。
「ふんっ、格好いいなんて当然だろうが……なんたってこれ、ナタリーの言葉なんだからよぉ!」
「やっぱダッセ」
「ぁああん!? てめーナタリーさん馬鹿にしてんのかぁ!?」
ロビナは良いやつだけどあたしナタリー嫌いだよ。やなやつだし。
時々、このバーに来る。
“旧フォーニャ”。デリヌスが借りてるらしい、昔はバーだったらしい地下のお店。
そこは鉄専攻三年のこいつらが集まるアジトになってて、あたしはたまーにそこに入り込んで、置いてある人形に向かって槍の練習をしてるんだ。
「うぇいやぁ!」
「跳ねながら刺すなァ! 教えてやったろうがァ!」
「いーじゃん」
「良くねえ!」
「マジでこいつちょくちょく来るのに全然覚えないの何なんだろうな……」
別に槍を使って何かをしたいってわけでもない。
傭兵ギルドで働くにしたって、槍なんてなぁ。めんどくせーって感じ。持ち運ぶのだるいもんこんなの。
「うりゃっ」
でも、使い方だけはなんとなく覚えてたいって思った。よくわかんないけど。
あたしもうこれから背ぇ伸びるかわかんねーし。そしたら腕だって長くなんねーし。
けど槍だったらそんなことないもんにぇ。長いし、突けば遠くでぶっ刺さる! あと藁の塊に刺すの結構楽しいしにぇ。
自分じゃ届かないでかい奴も、腕の長いやつも、一方的にザクってやっておしまいだ。
あたしには“爆発”があるから武器なんてそんないらないけど、持つとしたら剣じゃなくてやっぱ槍だなぁ。
「……なぁおいボウマ。武器振り回してるとそんな楽しいのか?」
「んー?」
的をブスブスやってると、後ろからロビナの声が聞こえてきた。
「そこそこー」
「そこそこかよ」
「勉強よりは楽しいよ。体動かしてりゃいいんだしにぇ。あ、最近はライカンとも組み手? みたいなのやってんだぁ」
「デリヌスさんがうらやましがりそうなことしてんのなぁ……てか、私達だけじゃないのかこういうの」
「うん」
「その変な動きもそれか」
「さあ? そうなんでね?」
変な動きって言われてもなー。ロビナの他はライカンからしか教わってないもんあたし。
とにかく小柄なのを活かして跳んで跳ねて、時々爆風で立て直して。
「時々、叩き込むっ!」
相手が隙を見せたら、手を伸ばして“ボン”!
今は槍でズドンだけど、似たような感じ。
「……そうか、それ魔術込みの動きだったか。なるほどな……そう考えると腑に落ちる部分もあるか……」
「良いっしょ?」
「いや全然よくねえ。壊滅的に槍と合ってねえもん」
「はぁ!? 良いし!」
「悪ぃし! つか教えてやってんのこっちなんだからもっと言うこと聞けよ!」
その後、あたしはしつこいロビナから手取り足取りで槍の基礎みたいな、眠くなるような動きを教わった。
どっしり構えて、突き出してとか……うーん……。
「重心は落とせよ。で、足の幅は広め! 狭いと反動でもってかれるからな」
「むぅー……」
「なんだよまだ不満なのかよ? 鉄の騎士団がやってんのと同じ動きだぞ?」
「あたしはライカンとか、ロッカみたいな動きをしたいの!」
あ、言っちゃった。
「……ははぁん。ボウマあんたあれだな? 二人の動きに憧れてこういうのやってるクチだな?」
「んがぁ! 悪いかっ!」
「ンッヒッヒヒ、いや悪くねえよ。なんだよクソガキかと思ったけどわりと可愛いとこあんじゃん」
「かわいいって言うな! ぶっ殺すぞ!」
「おいおい振り回すなよ! 冗談でもそういうことすんなっ!」
……まあ、そうだよ。
ライカンはつえー奴だし。ロッカも……ちょっと馬鹿だけど、すごい良い奴だし、強いし。
あたしだって身体強化できんだからさ。二人みたいになりたいって思うの普通じゃん。
なのにあたし大会で二回戦目で死んじまったんだよ。かっこ悪いじゃんあんなの。
マルタ杯ってもう当分やらないらしいけどさ……もしも次とかあるなら、そん時はかっこよくなりたいじゃんか。強くなりたいじゃんか。
そしたら“聖櫃”みたいなとこでもさ。なんてかさ。誰かを助けたりとかもできるかもしんないじゃん。
「……片手でよ、無理やりにでも槍を扱おうっていうんなら……まあ、持ち方はこうだな」
「!」
「で、持つ場所はこう。突く時は体の前じゃなくて、ちょい横向き。そ、こういう感じ」
ロビナがあたしの体を手でぐにぐに動かして、今までとは少し違ったの使い方を教え始めた。
……なんとなくしっくりくる気がする。
「どうよ、この構え。ボウマは感覚派だからな、言ってみ? 良いか悪いかでさ」
「……なんか変なの。騎士じゃんこのポーズ」
ロビナに半分無理やり取らされた構え方は、頭の硬そうな騎士の奴らがとってそうな構え方だった。
「当たり前だろ。騎士の構えに決まってんじゃん。うちらは騎士を目指してるんだからさ」
「……ロビナがぁ?」
「ぶっ殺すぞ? ……いいか、騎士ってのは国ですげー強くて優しくてかっこいい連中のことなんだよ。だからその構えはすげー強くて優しくてかっこいい構えなんだ。今日もこの世界のどっかで誰かを守り、どっかの悪人を懲らしめてる……洗練された構えなんだよ」
「……洗練」
せんれん、かぁ。
「ロッカとか、ああいうタイプはマジでわかんねーけどな。けど、普通は我流なんてドン詰まるもんなんだよ。傭兵ギルドだってそうだろ? そりゃレッドカードくらいはバカでも仕事してりゃ取れるかもしんねーけどさ。上に行けるのは軍の経験者だったり、どこかで習ってる奴らばっかりだ」
「……ふーん」
「なんでこうした方がいいのか、なんて理屈っぽいのは考えなくて良いんだよ。ボウマ、お前頭悪いんだからさ」
「……」
なんかちょっと良い話かと思ったのに、ロビナ、むかつくこと言いやがって。
「ロビナの方が馬鹿だし」
「はぁ!? お前の方が馬鹿だから! 調子乗んな!」
「……ボウマさんや、そこのロビナは確かに馬鹿っぽいけどな……勉強とかはそこそこできるんだぞ。本当に意外なんだけど。つか俺たちAクラスだし」
「うそっ!?」
「ジキル! ぶっ叩く!」
「痛いっ!?」




