霧002 遅すぎた反論
「属性術を噴霧できるとはいえ、こんなに大型になりますかね? 杖と呼ぶには不格好じゃないですか。卒業制作じゃないんだからねぇ導師セドミスト。仮にも導師であるのだから……」
こんにちは。
ミネオマルタ国立理学学園特異科導師のマコ=セドミストです。
今、属性科の導師さんから嫌味たっぷりの助言を賜っております。
私が導師職についてよりずっとネチネチと絡んでくるお方です。正直に言ってつらいです。
「何より開発に用いた魔石類が用途に対して大きすぎるでしょう。ああいった予算を大幅に超過した制作物は魔具科の学徒らにとってもあまり気持ちの良いものではありませんし……」
何がつらいって、彼女は嫌味たっぷりではあるんですけど、言ってる内容自体は間違いなく正しいんだろなって所がつらいのです。
おっしゃる通りでぐうの音も出ません。こういう場面に遭遇する度、私は自分が根っからの現場人間なんだなと再確認させられます。研究職には向いていないんだなと。
「導師セドミスト。教職に励むのも結構ですが、導師たる者の本懐を疎かにしてもらっては困りますよ」
そう言って、彼女は私の返す言葉もろくに聞かないまま歩き去っていきました。
言うだけ言ってすっきりすればそれだけで満足だったのでしょう。学園内にはそんな導師さんも、何人かいます。
しかし最後の言葉もおっしゃる通り。私は導師なので、一応は研究職ではあるのです。
講義だけ開いてそれで終わりというわけにはいきません。ええ、一日二百分の初等理学の講義で済む閑職というわけではないのです。
自分の研究を進めていかなければなりません。それが導師の本懐ですからね。
「それでも結局は、人の手を頼らざるを得なかったと」
「ううう、すみませんガノマンテスさん……お忙しいところに手を煩わせるようなことを頼んでしまって……」
「いやいや、いいんですよ。こっちは好きでやっていることですからな。パレードゴーレムの整備をウン十体もやらされて嫌気が差していたところだったのです」
導師ガノマンテス。彼は魔具科の導師さんで、主にゴーレムの研究に取り組んでおられる方です。もちろんゴーレムに限らず、魔具全般に詳しい方でもあります。
私はそんなガノマンテスさんに泣きついて、自作の“霧のロッド”の改善点を洗い出していただけることになったのです。
色々あった末、もう少し小型化しないといけないことになったので……ああ、胃が痛い……。
「ま、詳細な設計図に理論表が揃っているともなれば難しいものじゃありません。術の理学式には詳しくありませんがね、まぁこのくらいの魔具であればサイズダウンは目指せるでしょう」
「どうにかできますか……?」
「ええもちろん。一度外装を崩すことにはなりますが、全て中央に収まるようになるでしょうな。被覆と導線緩衝材をしっかり詰めておけば混線も防げるでしょう」
「ああ良かったぁ。ありがとうございます……」
本当に優しくて頼りになる導師さんです。
もうちょっとお腹が引っ込んで顔もシュッとしていれば惚れていたかもしれません。
「で、その属性科の導師さんでしたっけ。その方に何か言われたのか詳しくは存じ上げませんが、まぁ気にしないことですな。この魔具は確かに大型で、重すぎるものではありますがね。冗長性と頑強さは、現場での運用に耐えうる設計になっています。魔具を作るにあたって、この信頼性は何よりも大事なものです。高い魔具を購入して、二、三回使って壊れて高い修理に出したのでは話になりませんからな。その点、この“霧のロッド”は素晴らしく頑丈だ」
「え、えへへ、そう言っていただけると……」
「ははは! まぁコストが高すぎるのとかさばりすぎるのとで、使い道は全くわからないですけども! それもロマンですよロマン! はっはっはっ!」
「はは、ははは……」
ガノマンテス導師のお心遣いは嬉しいのですが、うん……やっぱり私は研究職に向いていない気がします。
教職自体にはやり甲斐を感じてはいるんですけどねぇ……。
「そうだ。うちの学徒たちがそちらの、特異科のええと、ライカン=ポールウッドといったかな。彼の外装を作ったとかなんとかで」
「あ! ええ聞きました。頭部の装甲を作っていただけたそうですね。ポールウッド君は助かったと言ってましたよ」
「いや、世話になったのはこっちの学徒たちの方ですよ。結構良い支払いがあったそうですからな。世間に出る前に良い仕事が出来たと、喜んどりました」
ああ、確かに。
属性科の学徒さんであれば傭兵ギルドでいくらでもお金を稼ぐことはできるでしょうけど、魔具科の学徒さんたちにとってはなかなかお金のやり取りをする機会には恵まれなさそうです。
ポールウッド君の装甲作りは良いお小遣い稼ぎになったのかもしれませんね。
「また何か作るものがあれば遠慮なく言ってほしいだのなんだの、意気込んでいるところです。もしまた機会があれば、連中の工作に付き合ってやってください」
「はい。何かあればお願いするかもしれません」
あまり私が金物で困ることは無いとは思いますが……クラスのみなさんにもお伝えしておきましょうか。
特異科は孤立しがちですし、他の学科の方々と交流するのは良いことですからね。
ユノボイド君なんかは興味を持ってくれるかもしれません。
「さあ出来ました! あとは外装部分を整えて、露出した魔石を付け替えれば問題なく稼働するでしょう。うむ、悪くない」
「ありがとうございます! 導師!」
「なぁに困った時はお互い様ですとも!」
こうして私の霧のロッドは大幅な軽量化とスリム化を達成しました。
長さ自体は変わりませんが、先端部分の複雑な柄のパーツが取り払われ、かなり細くなった印象です。軽くなったおかげでギリギリ持ち運べ……なくもない程度にもなってくれました。
一人では絶対にできなかった作業です。ガノマンテス導師には頭が上がりません。
「これで私の今季の課題が一つ終わりました……ああ、やっと解放されたぁ……」
「ははは。苦手な分野に取り組むのは疲れる。まさにその通りでしょうな。しかし導師セドミスト、貴方の着想そのものはなかなか悪くはありませんぞ。上手く取り込めば乗り物に魔術による消火機構を内蔵することもできるのですから、これは斬新な研究です!」
「えへへ……そ、そうですか? ガノマンテスさんに褒めていただけると……」
「まあ私だったら普通の水属性術を普通の機構で霧吹きさせたほうが早いとは思いますがね!」
「あっ……」
「しかし霧そのものを噴出させるというアイデアには“逆にそうくるのか”という意外性がある! 実に良い着眼点だ! 発明とはそういう場所から生まれるのです!」
「あっあっ……」
「これからも面白い研究を頼みますよ、導師セドミスト!」
うーーーん!
私やっぱり研究職は向いてないですね!




