霧001 飛ばされた新米導師
こんにちは。
私はミネオマルタ国立理学学園特異科導師のマコ=セドミストです。
三年前までは杖士隊“白失の隊”のヘッドリーダーを務めていたのですが、諸々の事情で色々な人の不興を買い漁ってしまったために閑職に左遷されてたダメダメな新米導師です。未だに物を教えるということの難しさに戸惑う日々が続いています。
特異科というのは閑職です。
受け持つ学徒の数もたったの六人だけですし、指導内容にも制限がないので、クラスの皆さんに合わせる形でほとんどが基礎の基礎ばかりになっています。
それでも教え慣れていない私にとっては手一杯。人数の多い属性科を受け持っている導師の皆さんの指導力の高さを感じ、背筋を伸ばす日々です。
「すげぇー! ライカンの顔ピカピカだぁ!」
『うむ、魔具科の人たちと少し話をして、作ってもらったのだ。痛覚の通っていない外装だけということであれば機体絡みの面倒な資格もいらんようでな。造形が制作意欲をそそるとかなんとかで、仕上げてもらったのだ。もちろんお金は払ってあるぞ』
「おー、いいじゃん。前の顔と同じくらい狼してるよ」
特異科はとても小さなクラスです。ほとんど留学生で、出身も年齢もまちまちです。
けれど皆さんとても熱心に私の講義を聞いてくださりますし、良い子ばかり。
近頃は大会の件もあってか他の学科の人たちからも一目置かれているようで、私の指導力まで持ち上げられています。でもこれは勘違いです。私は基礎を、それも一日二時限だけ教えているだけで、実戦の指導はほとんどやっていませんからね……クラスの皆さんが不思議と実戦向きなんですよ。本当に。
「魔具科はゴーレム造りのノウハウもあるからな。それを応用すれば確かに十分可能ではあったか。オレとしたことが盲点だった」
彼はクライン=ユノボイド君。
大会本戦でも輝かしい成績を残した男の子で、つい最近全属性術士として認められた凄い魔道士です。
実戦での力量はともかく、知識量だけなら私よりもずっと上なんじゃないでしょうか?
講義中も彼から高度な質問が飛んできたりすると、いつも身が引き締まる思いがします。
あと、冷たい目つきがとても凛々しくて、良いですよね。実戦を意識しているのか体の方も細すぎるということはなくて、男の子らしいしっかりした体つきです。猫背気味なのがちょっと気になりますけど、そういう偏屈そうな雰囲気も素敵な感じがします。
「へえ、魔具科の人たちってこんなこともやってるんだなぁ。僕からも注文すれば何か作ってくれるんだろうか……」
彼はヒューゴ=ノムエル君。
いつも私の講義を真面目に聞いてくれて、何かとクラスの皆さんの間を取り持ってくれるとってもよく出来た子です。
ボウマさんの落ち着きがなかった頃はとてもお世話になりました。あの頃は私もまだ導師として未熟で……本当に頭が上がりません。彼がいなければこのクラスは全く違う形になっていたことでしょう。
あと何より、顔がとっても綺麗です。爽やかで優しそうで、声も落ち着いていて素敵です。他の学科の女子学徒さんからも密かに人気があるみたいですが、それも納得です。本当に顔が綺麗。
「やっぱライカンは犬っぽい顔が一番だじぇ」
『狼って言いなさい』
ポールウッド君の肩に乗っているあの子はボウマさん。
入学した当初こそ落ち着きがなくて、よく暴れて、騒いだり走り回ったりの絶えないとても困った子ではありましたが……今では当時からは信じられないくらい落ち着いています。
それもこれもポールウッド君とノムエル君の手厚い協力のおかげです。二人がいなかったら私は途方に暮れていたことでしょう。今こうして、初歩とはいえ理学の基礎を勉強してくれていることがとっても嬉しいです。導師をやっていて良かったと思えたのは、彼女が少しずつ成長を見せてくれているからかもしれませんね。
お顔は長い前髪でよく見えませんが、彼女の溌剌さや可愛らしさはそれによって遮られる程度のものではありません。クラスを明るく賑やかにしてくれる、とても良い子です。
「でもライカンさぁ。そんなに長い顔してると普段結構不便じゃないの。引っかかったりとかさ」
『最初はそうだったんだが、今では慣れきってしまったからなぁ。うつ伏せで眠れない以外は特に無いぞ?』
「へー」
茶髪を後ろで括った彼女はロッカ=ウィルコークスさん。
特異科の中では一番新しく入ってきた女の子ですが、今ではすっかりクラスの中心に溶け込んでいます。
講義にも頑張って取り組んでいますし、魔術を覚えることにも熱心で、とっても真面目な子です。元々故郷での仕事に熱心だったから理学に触れてこなかっただけで、勉強を始めた今ではとても飲み込みが……良い……分野もあります。はい。苦手なものは誰にだってありますよね。特に数学は時間をかけて覚えていきましょうね。
けど、魔術の実践においてはユノボイド君にも引けを取らないくらいです。大会でも結果を出していましたし、戦い方からも才能を感じさせてくれます。彼女のスタイルは全ての籠城型魔道士にとっての悪夢でしょうねー。彼女のような戦い方はさすがの私も初めてです。
危ない事に巻き込まれがちな彼女ですが、今の所取り返しのつかないことにはなっていません。これからも健やかであってほしいものです。
あと、ちょっと凄みのある目つきが良いですね。女の子ですけど、難しい問題を睨んでいる時の目つきなんかはとても凛々しくて素敵なんですよ。
「でも機人専門店で作ってもらわなくて良かったわね。きっとそっちだったらもっと高くついたんでしょ?」
『うむ。どうも倍以上は違うらしいからな。魔具科様々だよ。助かった』
「こういう時、学園のつながりって便利で良いわよねぇ」
ちょっと気だるそうな雰囲気のあの子はソーニャ=エスペタルさん。
まだ若いのに、それを感じさせないほどの美人さんです。クラスの中でも一番の衣装持ちさんでもありますね。たまに服のことで彼女と話すこともあります。お洒落さんです。
今でこそ明るくクラスの皆さんと話していますが、ウィルコークスさんが学園にやってくるまではとても物静かで、ぼんやりとした子だったんですよ。無気力というか、無関心というか……そんなエスペタルさんが今ではこんなに明るくなってくれて。
まだちょっと、心のことで通院が必要だとのことではありますが……現状は間違いなく、彼女にとって前向きに変化しているはずです。
近頃は講義中に何か専門的な自習をしているようで、居眠りされる頻度もぐっと減りました。エスペタルさんのやりたいことができたのはとっても喜ばしいことです。
『マ、マコ先生! ど、どうでしょうか! 俺の顔は! マコ先生からも何かお言葉をいただけたらなぁ……なんて、ハハハ』
「ライカン、ちょっと気持ち悪いわよ」
「ソーニャ、しっ」
そして今までずっと話題の中心だったの彼が、ライカン=ポールウッド君です。
とっても大柄な全機人さんです。昨日まではカルクのシュッとした顔だったのですが、今朝いつもの狼の顔に戻っていたので驚きました。
「ええ、とても似合ってると思いますよ!」
『本当ですか! 良かったぁッ!』
「うっしぇ」
やっぱりポールウッド君は狼のような顔が似合っています。何故かと言われると答えに窮するのですが、なんとなく。
まあ、私はあんまり全機人さんの顔についてはよくわからないんですけどね。表情も全然読めないですし。ポールウッド君が気に入ってるのであれば何よりだと思います。
ああ、もちろんポールウッド君もとても良い子ですよ!
はきはきと返事をくれますし、講義中もとっても真面目です。クラスの中では一番年上で、私よりも上なのですが、それでも学習意欲が高いのは素晴らしいことだと思います。
彼のような人がクラスにいてくださるのは、導師として嬉しい限りです。
ポールウッドさんのような優しい方は、ずっと親しい友人でいてくれると、豊かな人生を送れる。そんな気がします。
「さあ皆さん、今日もそろそろ二時限目の講義を始めていきますよー」
『ハイッ!』
「あいー」
特異科は今日も昼前までの短い講義ですが、一緒に頑張っていきましょうね。
みなさんが少しでも人生に役立つ理学を覚えられるよう、私も導師として力を尽くしていきますからね。




