砥037 気負わぬ連中
「よーしボウマ。“せーの”でいくからな、“せーの”で」
「うおりゃぁああああ!」
「おーい! まだちげぇよボウマ! おーい!」
歩いているうちに見つけた魔道士。よし、じゃあこいつを張っ倒そうってことで、私とボウマが一緒にやることになったんだけども。
ボウマと一緒に魔道士と戦おうっていう作戦は、最初の一歩目で足並みが揃わなかった。
左右から私とボウマで一気に距離を詰めて……あとは流れでどうのこうのして倒すという作戦だ。
しかしいざやってみればご覧の通りである。合図が合わずにボウマが突撃。そのまま知覚距離に入って魔道士の男との勝負が始まってしまった。
うーん……ボウマも一人で戦ってみたいってうるさかったし、こうなったらせっかくだ。しばらくボウマ一人でやれるかどうか、様子見でもしていようか。
「悪いけどロッカ。僕にはこの結果が見えてたぜ」
「いや私ももしかしたらそうなるんじゃないかとは思ってはいたけどさぁ……」
「何か起こったときのために準備はしておくか」
『うむ。保護の無い勝負だ。しくじった時は回収してやろう』
そんなわけでボウマの闘いを見守ることにしたんだけども。
「うおりゃぁああッ!」
「……“――”ッ!」
「んっへっへ、効かにぇ! おらァ!」
意外というべきか、ボウマは堅実に立ち回っていた。
最初の打ち合わせも何もない突撃とは違い、決定的に回避困難な間合いへは踏み入らないように飛んだり跳ねたりして攻撃を回避している。
身体強化込みの動きだ。横にくるくる回ったり、時々後ろにバッと退いたりと危ない場面も見えるけど、素人目からはなかなか様になっているように感じる。
『ふむ、子供の成長は早いな』
ライカンがそんなことを呟いている。この動きも、多分彼が教えたものなんだろう。
……じっと見ていれば、ボウマは自分の爆発を使って上手く相手の水投擲を吹き飛ばしたり、自分の体勢を整えたりと器用に活用している。
便利そうだ。けど、ああいう動きに慣れるのは相当な時間が必要なんだろう。
練習、したんだろうな。
私が見ていたよりもずっと長い時間、真面目に。
ひょっとすると彼女は、大会での不完全燃焼をここで発散したかったのかもしれない。
「よっしゃー! 後は顎殴るだけだじぇ! うぇっへーい!」
「ぐガッ……」
「あれ? 倒れにぇ……あわわわっ」
『おい油断するな! 全く……割り込むぞ!』
結局、ボウマはライカンと同じような相手を昏倒させる攻撃を真似したのだが、それは上手く決まらなかった。
ヒューゴと一緒で相手の反撃を許してしまい、あわや良い魔術を一発もらうところまで追い詰められてしまう。
ライカンがいなかったらどうなってたことか。
「接近技で相手の意識を奪うのはリスクが大きすぎるな」
実際のところ、クラインの言う通りである。
それが嫌なら遠くからホイホイ物を投げて相手を無力化するか、相手が怪我をするかもしれないけど気絶確実な一発を近くからお見舞いするしか無い。私の場合は後者が良いと思っている。
「でも、できれば綺麗なままで返してやりたいよね」
「それはまだ現状に余裕があるからこそ言えることだ。魔力が枯渇してきた頃に後悔しても遅いだろう」
「それは……そうだな」
綺麗事というか、理想論だよな。確かに。
ただでさえ今の私達は人数が少ないんだ。魔力のことも考えていかないと、厳しい状況に陥るかもしれないよな……。
「おぉーい、勝ったよぉー」
『これ。最後の詰めの甘さを棚に上げるんじゃない』
「うっせー! 勝ってたし!」
ともあれ、ボウマが無事で何よりだ。
そろそろ休憩に入るとしよう。
私達の中で、特に心労を抱えている奴はいない。
義務感とか使命感で押しつぶされそうっていう感じでもない。
むしろ魔道士を見つけるたびに“おっ、いたいた”みたいに食える木の実でも見つけたような気持ちになって、みんなで誰がやりたいかを話し合うような雰囲気だ。
感情の無い相手に普段はやれない自分の闘い方を試している、というか。そんな気持ちはヒューゴやボウマにも強くあるようで、苦境に苛まれたりはするんだけど、それでも一切めげる気配はない。
他人事だけど、強いよなーと思う。
けど精神的に気楽であれば、それはいい傾向だ。少なくともグズグズするよりはずっと良いだろう。
こうしてみんなで輪になって飯を食う時間も、学園でのそれと何ら変わりはなかった。
「うわっ、なにこれ。甘じょっぱい……ていうか、うめえ!」
「うみぇ!」
そして背嚢に入れられてた配給品の携帯食が美味い。
まるで高いバターと、クリームか何かを凝縮したような変な味だ。変だけど塩も効いてるし甘みも強いしで、とっても美味しい。酒と一緒に食べても合いそうな気がする。
「それはバターシリアルバーだね。軍人さんの間でも特に好まれてる携帯食らしいぞ。あ、ロッカもボウマもガツガツ食べてるけど、それかなり腹が膨れるからな。一気に全部食べるのはやりすぎだから、注意しなよ」
「えっ、そうなんだ。おいボウマ気をつけろよ」
「ええーっ! うう……他に何か入ってないかなぁ……」
味の良いバターシリアルバーはボウマのお気に入りになったみたいだ。確かに、ちょっとだけミルクを使った飴みたいなしつこい味わいがあるかもしれない。
『地図はどんなものだ、クライン』
「ん。順調ではある。が、もう目についた印の箇所は全て当たったからな。このまま直進して、未発見の相手を見つけ次第撃破、という形になるのだろう」
『ふむ。どこまで進んで行く予定だ?』
「限界まで、と言いたいところだが眠気を基準にせざるを得まい。オレはこの空間に最長でも五日しか滞在できないからな。食料に、何よりも水の心配がある。一休みしたら、その後は引き返すべきだろう」
『引き返す、か。その時は、目の前にまだ街が広がっている時でも、ということだな』
ライカンの言葉に、談笑していた私達もピクリと反応した。
「そうだ。引き返すことになった場合、踏破できなかったエリアに関わることはないだろう。例え、そこに人が残っていたとしてもな」
「……やっぱ、そうだよな」
「なあなあ、それって見捨てるってこと?」
「僕らの身を守るためだよ」
……救助人が怪我しちまったんじゃどうしようもない。誰かを助けようとして命まで奪われるなんてのは、最低だ。
わかっちゃいるんだけどな。それでも自分で実行するのも、ちょっと勇気がいることだ。
こうしてクラインみたいに毅然とした態度で決めてもらえると、結構助かるな。
「休憩は終わりだ。さあ、立って歩くぞ」
「……うし。じゃ、仕事再開するか」
「あ、待って!」
ボウマが焦ったように呼び止めた。
「あたしションベンしてくる!」
だ、そうである。
『向こうの小屋でしてきなさい。印もちゃんとつけておくんだぞ』
「はぁーい」
……うん。私はまだ平気だ。
けど次の休憩あたりでは、私もちょっと行っておきたいところだな。




