砥030 検証する一人目
班分けが決定した。
「まずロッカを含めたオレ達五人のチーム。魔術の勝手が独特なメンバーだから一塊にしておいた」
私達特異科の面子は一緒に行動することになった。
お互いに見知った間柄だし、人数も丁度いい。長時間の行動をするなら組み合わせでストレスにならないことも大切な要素の一つだ。
「基本は五人のチームとなるが、人数の都合でひとつだけ四人のチームになる。そこは“斬り込みのガルハート”に采配を任せようと思う」
「おうよ。ま、少数精鋭らしい働きはしてみせるぜ」
ガルハートは一人少ない四人編成だが、その分身体強化に恵まれた男たちで構成されている。
怪我人が出ても少人数で立て直せるように、ということだ。力持ちがいるだけで単純に心強い。
「もちろん、怪我人は人数で補うのが基本だ。“杯のモヘニア”と“閉ざされた氷室のメイボルド”が負傷者を一人ずつを担当しろ」
「……ええ、任せて」
『近場の探索はお任せを。無理せず行動しますよ』
行動速度を揃えるために負傷者を一チームにまとめるべきという意見もあったが、それはそれで不安定要素が大きくなるので良くないのだとか。
「“日陰者のリュミネ”も五人チームを率いるように。以上だ」
「質問があります」
「なんだ」
手を上げたのはリュミネ本人だった。
「私はリーダーにふさわしくありません」
「影魔術を一定以上習得しているから選んだ。それ以上の理由はない。他に質問はあるか?」
「雑だわ……」
影魔術自体がそもそもエリートの扱う属性術だ。クラインが言うからには、本当に習得の難しいものなんだろう。
けどそんな魔術を習得したっていうソーニャは一体どれほど勉強したんだろう?
なんて横道それたことを考えたけど、班分けはこれでまとまった。集中していこう。
「んじゃあ、各員地図を見ながら、所定の位置で行動開始。終業はトラブルがなければ一日後、再びここってことで。ご安全にー」
「ごあんじぇんにぇー」
復唱はボウマ一人だけだったけど、まあいいや。皆の顔色は真剣そのものだ。やる気を疑う時ではない。
救出作業、長くなるだろうけど頑張っていくか。
「それぞれの班が十五人を救出していかなければならない。つまり、十五人の魔道士を相手にする必要があるわけだ」
私達特異科は、仮に決めた方角でいうところの南側を目指している。
そこで見つけた魔道士を片っ端からはっ倒して、身元を確認しつつ略奪して、石碑に放り込んで、そしてまた次の相手を探すわけだ。しかし理想としての回数は十五連戦。前にいた時の私が十人くらいだったから、それを大きく上回る回数だ。
「けどこの人数いれば余裕そうだよね」
「囲んでボコせばいいじぇ」
「そうだね。突き詰めればそうなるけどね。君たち二人が言うとちょっと怖いんだよな」
いやヒューゴ、私は別にそんなおかしなこと言ってないだろ。手加減だってちゃんとするし。
「不調があればすぐに訴え出るように。オレたちは全員が全員それなりの力を持っているが、勝負は何が起こるかわかったものではない。怪我をしたならば……」
『お、早速人影だ。魔道士がいるようだぞ』
「おー、いきなりかよ。じゃあやっちまうか」
「うぇっへっへっ」
「君たち聞いてるのか?」
「僕は聞いているよ、クライン」
上から落ちてきた時に地図を書いていたので、そこらへんにいるんじゃないかというアタリはついていた。実際、それなりの歩き方をしてみると正解だったわけだ。
半球型のよくわからないレンガ造りの建物だかオブジェだかの前に、一人の魔道士が立っている。
女性だ。すごく若い。歳はきっと十五かそれ以下だろう。まだまだガキだってのに、その子は呆けた顔で宙を見ながら、うわ言のようにブツブツとつぶやいているようだった。
「こうしてみると、本当に居たたまれないね。可愛い顔が台無しだ」
『ヒューゴお前、そんな歯の浮くような言葉を使うんだな?』
「他意はないよ。かわいそうだなって思っただけさ」
「だがヒューゴの言う通り、顔を狙うのはやめたほうが良い。他の部位を狙って昏倒させるのが一番だろう。軽傷もやむ無しだ」
今のクラインの言葉はどこらへんが“言う通り”だったんだろう。わからん。
「で、誰がいくんだじぇ」
私達は魔道士の子から、結構な距離を開けて横並びになっていた。
ここから数歩踏み出せば、相手も覚醒して動き出すだろう。
『ふむ。ではまず、オレから行ってもいいだろうか? おそらくオレならば一人で十五人を相手にしても問題ないしな』
「嘘でしょライカン」
『学園の闘技演習場で十人抜きした程度の相手ならば、身体強化を使えば訳はない』
冗談ではなかったらしい。ライカンは至って普段通りの声色で断言し、前に出た。
『いっそ、色々と試して相手の出方を探ってみるか? クラインが分析すれば、何か今後の参考になるやもしれんぞ』
「面白い! 相手の行動パターンの細かな検証はしてみたかったところだ。良いぞライカン、是非頼む」
『おうよ。その都度声で指示でも出してくれ』
乗り気だった私やボウマが出る間もなく、ライカンが矢面に立つことになった。
けどクラインと一緒に色々調べてくれるみたいだし、結構参考になりそうだ。ありがたい。
「ぶぅー、あたしやりたかったのに!」
「落ち着けよボウマ。ライカンが本気で戦うところなんて、僕たちでも滅多に見れないだろ? 楽しんで見学しておこうぜ」
「……しょーがねぇなぁー、見てやるかぁー」
何様だよボウマ。しかも私の背中よじ登ってるし。なんだ。肩車か? しょうがない奴め。
「うし、よく見える!」
「アンタなー……次あったら私と交代してくれる?」
「やだ。ロッカに乗られたら重くて死んじゃうじぇ」
「ぁああん?」
「ぎゃーいだいいだいやべでぇえええ」
両足首をグッと握れば大人しくなる。馬鹿め、髪の毛掴めるからって優位に立ったと思うなよ。
『おーいボウマ。これから俺が戦う姿、ちゃんと見ておいてくれよー』
「あーい!」
そんなこんなで、私達の回収戦はのんびりと始まったのだった。
……なに、確かに時間は有限だけども。この世界では五日間も猶予があるんだ。
気を張り詰めて途中で折れちまうよりは、よほど良い。




