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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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砥029 尖りすぎる班分け


 操られている魔道士は一定の距離に近づくか、こちらから攻撃を仕掛けると反応して動き始める。

 するとそれまでの直立を裏切るかのように機敏になるので、初めて見ると結構驚くものだ。


 口頭では説明してある。けど、こういうのは実際に見せてみないと駄目なんだ。


「つーわけで今から、あの魔道士を倒すんで。無力化の一つの手本として、参考にして」


 距離は試合と同じくらい。ま、上級保護と思ってやれば同じようなものだ。

 気に留めなきゃいけないのは、致命傷が本当に致命傷になるってこと。


「演習とか試合じゃないから、事前に準備を整えた方が安全だって人はやっといて良いと思う。環境とかそういうの」

「ロッカの言葉を補足するならば、環境を広げるにしてもその距離にも気を配るべきだろう。環境が一定距離まで近づくと相手は動き出すかもしれない。自陣の構築は慎重になるべきだ」

「わからないけど多分クラインの言う通りだと思う」

「君はわかっているのか」

「なんとなく」


 あ、やべえ。なんか皆が不安そうな顔し始めた。


「大丈夫だよ。こっちが確実に先手を打てるし、必勝法はあるから」


 私は手に持ったアンドルギンで地面を一発打ち砕き、手頃な石ころを靴の甲に乗せた。


「杖を狙うと良いよ。最初に相手の杖をぶっ壊せば、それだけでほとんど動きが悪くなるから。諦めはしないけどね。杖がなくても素手で抵抗しようとはする。けど、そこまでいけばほら。みんな負けないでしょ?」


 甲を跳ね上げ、石を手に持つ。

 右手の中にギリギリ収まらない程度の、重量感のある礫。材質は上で掘削したものと同様だ。


「初撃はあんまりトロいと撃ち落とされたりするから気をつけて。投擲とかするなら速攻が一番。なんなら、杖とか気にせず直接本体を狙ってもいいと思う」


 そのまま石を握りしめ、振りかぶり……投げる。

 後ろで誰かが息を呑む音がした。けどそんなことを気にする前に、石礫が目標に着弾する。

 枯れ木が爆ぜるような音を響かせ、遠く向こう側にあった魔道士の杖は中程からぶっ壊れていた。


「こんな感じで壊す。誤射したら相手が死ぬかもしれないから、投げるものは気をつけて」


 同時に、魔道士が動き出す。

 が、自前の杖を壊されて少し動きを迷わせているのか、反応はあまり良くはない。追撃のチャンスはいくらでもありそうだ。


「出血はまずいけど、打ち合わせで骨折くらいなら大丈夫って言われてたから……腕とか足なら適度に痛めつけても大丈夫。とりあえず足をやっておけば後はどうにかなると思うから、杖が狙いにくかったらそっちやってみて」


 足元にあるもう一個の石を手に取り、先程と同様に投げる。

 魔力を込めた豪速球だ。相手は無手で迎撃魔術を使おうとしたようだが――間に合わない。

 私の投石は男の右脛に直撃し、遠くで硬質な音と小さな砂煙を燻らせた。

 堪らず、男がバランスを崩して前のめりに倒れる。


「後は確保! さっさと気絶させる!」


 身体強化を込め、全力で距離を詰める。

 起き上がろうともがく男の腹を蹴っ飛ばし、頬をひっぱたき、それでも動きそうだったら念の為に同じように何度かボコボコにする。

 そうすれば、ちょっと見栄えは悪いけどどうにか生命に別状は無いレベルの無力化が完了である。


 襟首を掴み上げ、遠くから皆に掲げて見せた。


「反撃されたら面倒くさいから、立ち上がれない程度には徹底的にボコボコにしちゃっていいよ。丁寧にやれば綺麗に気絶させられるかもしれないけど、自分の安全が第一だから。なにせ、数が多いからね。油断だけはしないで」


 と、まぁ普通に説明したんだけども。

 半分くらいの人たちの顔は、なんというか……“うわぁ”とでも言いそうなものだった。


「……骨折。聞いてはいましたけど……かなり深手を負わせるのね」


 嫌そうな顔をしてみせたのは、彩佳系のいかにも温室育ちそうな女の子だ。歳は私よりも二つは下だろう。


「上手くやれる魔術があるならそれを使ったほうが良いよ。雷とかだったら簡単にできそうだし。でも、叩いて上手く気絶させるのって本当に難しいんだよ。殴ったり首絞めたりして気絶させたりはみんなやったことあると思うけど、そんな毎回相手が都合よく白目剥くわけじゃないじゃん。しかも今回のは、起きてたら全力で反撃してくるんだよ。そんな状況で容赦なんてしてたら、命がいくつあっても足りないよ」


 私は前に、同じような状況に陥った。

 この聖櫃に囚われた魔道士たちを石碑で現世に戻しつつ、皆の食料や水を略奪していたときのことだ。

 最初こそ私は上手いこと気絶させたり、似た感じで相手を戦闘不能に追いやれた。

 でもやってるうちに無理は出てくるんだ。どうしても手強い相手はいるし、手荒にやらないと勝てそうもない魔術を使ってくる人もいた。

 そんな時、もしもこっちが怪我したらどうする?


 今動けるのは私達だけだ。彼ら彼女を助けられるのは、私達だけ。

 そんな私達が怪我でもして戦闘不能になったら、一番困るのは誰かって言うと、まあここにいる人達だよ。


「別に怪我させるのが悪いことだってのはわかってるよ。でも、そうやってでも安全に配慮しなきゃいけない状況ってわけ。……わかってて来たんじゃないの」

「わ、わかってる。わかってますけど……人を怪我させたことなど、ありませんもの」

「魔術の大会出てるのに?」

「だって……中級保護までで、人に傷を負わせることなんてないでしょう?」


 って訴えるように言われてもな。私最初にやったのが上級保護だったから、いまいちピンとこないんだ。


「ロッカの言う通りだ。そもそも、人質の怪我は折込み済み。ここから石碑で戻してやればすぐさまミネオマルタで最も万全な救護室に引き渡される手はずになっている。頭部や内臓の損傷はともかく、末端の外傷や骨折など一日で治してみせるだろう。何も躊躇する必要などない」

「同感だね。国はお金で全力でバックアップしてくれているんだから、ためらう必要はないんじゃないかな?」

「だな。何も殺そうってわけじゃないし、俺らの力を温存しながら大人数を救出していくにはそもそもこれしかやりようがねえ。ま、気持ちは分かるけどな。知り合いの骨を折ってやれるかっていうと、ちと気が咎めるかもしんねえ。やるけど」


 その後、皆は仲間内でやいのやいの色々と言葉を交わした。

 が、路線は既に決まっている。私の説明した方針に心理的な抵抗はあっても、反対する人はいなかったようだ。というより、ここまで来て引け腰になられても困るけど。


「で、これが石碑。だいたい石碑は、魔道士の近くにあることが多いから、よく注目してみて」

「……ほう、これが」


 構造物に囲まれてたその石碑は、見るからに他のものとは違った材質・雰囲気をもっている。

 表面には馴染みのない文字が刻まれ、読み解くことはできない。クラインもスケッチしようか迷っていたようだが、それは諦めたようだ。


「触ると転移するから気をつけて。……いや、あー……私達はどうなるんだろう。ここに囚われてる人は石碑に触れさせれば帰還は大丈夫だったけど、私達はよくわからないんだよね。帰れるかどうか」

「うぎぇーマジかよロッカぁ」

「あ、大丈夫大丈夫。言い方悪かった。来た時みたいにブラ……あの野郎に拝めば来てくれるから、最悪それで帰れるんだ。だから心配はしなくても平気」


 触れるだけで私達が帰れれば一番なんだけどね。けど、その検証はまだ後だ。余裕があるうちは、まだ私達は救出作業に専念しなきゃならない。


「ほい」


 というわけで、とりあえず石碑に魔道士を放り出して送還してみせる。

 もちろん、名簿でこの人の名前を確認した上で、彼にメモを託した上でだ。


「おおー」

「消えた。本当に帰れるんだ」

『影魔術なのだろうなぁ、これも』


 異空間から人が消え……帰れることが視覚的にでも示されると、それだけで皆の顔色は幾分和らいだ。

 けど私はここから触っても帰れないっていうどん底に叩き落されたからな。あれは辛かった……。

 ここにいる皆には、どうかそんな思いをせずに帰ってもらいたいものだ。


「さて、では班を分けることとしよう」


 一段落したところで、クラインがその場の浮ついた空気を取りまとめた。


「身体強化できる者、中級以上の雷魔術が扱える者、中級以上の環境魔術が扱える者……敵魔道士との戦闘は多岐に渡るため、こちらも手数を増やし、対応力を高める必要がある。一班につきこれらの要素を持つ者は必ず加えておきたいところだな」


 私は環境魔術使えるといえば使えるけど、クラインが言ってるのは多分火とか水のことなんだろうな。

 ……よく考えたらクラインは一人で全部こなせるのな。すげーや。


「構成において、一人が過剰に労力を担当することは避けたい。魔力切れを互いに補えることが理想だ」

『うむ。誰かが先に駄目になっては、後々手詰まりになるかもしれんからな』

「無力化した魔道士を運ぶにも、非力な者では難しい。そういった意味でも、分担は慎重に決めていくべきだろう」


 とはいえ、ここにいるのは大会に出場するだけの気概を持つ学徒たちだ。

 そもそもが学園や理総校出身の、優秀な学徒ばかり。環境魔術はほとんどの人が扱えるし、魔術よりはむしろ身体強化が使える人を上手に振り分けることのほうが大変だった。


 それでも一定数は扱える者がいるようで、班分けは概ね、馴染みのある顔同士が集まる形になっている。

 私達特異科もそんな班分けだ。


「僕たちはそもそも個人が尖りすぎてて、連携も何も取れそうに無いんだよね。混乱させるだけになりそうというか」

「あたし強化だけで魔術一種類しか使えにぇ」

『俺も』

「私も」

「お、そう言われてみると僕は強化さえ使えないぞ? 無力化した人を担ぎ上げるくらいはできるけどさ」


 細々とした魔術はほぼ全てクラインが担当である。雷も環境も全部クライン。これはひでえや。


「……君たちはせいぜいオレが疲れないように工夫してくれたまえ」

「おうおう、なんだその口のきき方は」

「あははは……まあ、けど大丈夫だろ。ロッカは慣れているし、さっきの投石も正確だった。ライカンも、魔術が使えないからといって遅れは取らないだろ?」

『まあな。場所さえわかっていればこの空間にいる全員を相手にしてもいいのだが、時間の問題もあるからなぁ』

「ボウマだって最近色々やってるんだろ? 今日はそいつが見られるのかな」

「にひぇひぇ……んふー、どうしよっかなぁ、ヒューゴに見せてやるかなー」

「僕も試合じゃ駄目だった分、活躍したいところだけど……怪我させないようにってのは厳しいかなぁ」


 どいつもこいつも、頼もしいなぁオイ。


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