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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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砥027 降下する先遣隊


「ふんッ」


 最初は強化を込めず、アンドルギンの重さと硬さそのままで振り下ろす。

 まっ平らでいてしかも柔らかめ、均質な石材だ。私の生み出す岩とほぼ同じだと考えてもいいだろう。

 ……いやあ、平面に振り下ろす一発目ってのは本当に気持ちが良い。

 手に伝わる素直な感触もなかなかだ。普通の堅枝(カシ)の柄じゃこうはならない。アンドルギンの又目堅枝(マタメカシ)だからこそ味わえる硬質な返りっていうのか。


「君がその労働を好きなのはわかった。だからその馬鹿みたいな笑い顔をやめて、さっさと続けろ」

「わ、わかってらぁ。馬鹿って言うな」


 手を休めてたのを目ざとく見つけやがって。お前は私の父さんかよ畜生。


「なあ、ライカンさん? これは一体、どうしているんだ?」

『この地面の下に、もう一層の広い空間がある。魔道士たちが囚われているのはそこらしい。飛び降りてゆけるそうだぞ? 俺も聞いただけで、直接見たことはないが』

「飛び降りるって……高さはどれくらいあるんですか?」

「前言ってた時は学園くらいって言ってたにぇ」

「学園? え、学園ってミネオマルタの!?」

「十階建てじゃないですか! それも普通の十階よりもある!」


 情報の共有は任せよう。今この作業は私が一番効率がいいんだ。こっちはこっちでやれば良い。


 前の時は、ほとんど自棄で掘っていた。

 命知らずの直下堀りだ。今にして思えば浅はかだったな。けど、今は構造もわかっているから何も怖いことはない。

 厚みはだいたい二メートル。多分……どこ掘っても同じだ。この空間じゃきっとそんな法則が働いている。


 穴の下を覗き込むと暗闇がある。落下をしてしばらくしないと、下の景色は見えてこない。

 だから飛び込むまでは結構恐ろしい空間だ。


「はあー……ロッカさん、とても上手なのね……」

「ん?」


 大きめに穴を作っていると、穴の傍で座り込むモヘニアが作業を覗き込んでいた。


「破片が飛ぶとあぶないよ、モヘニア」

「あら……確かにその通りね。ごめんなさい、仕事の邪魔をしちゃって……」

「いいよ。待ってる間、モヘニアは皆と情報交換してなよ。特異科のみんなは知ってるから、詳しく聞けると思うよ」

「……え、ええ。わかったわ……」


 こころなしか少し硬めの表情で、モヘニアは引っ込んでいった。

 なんだろ。さすがに酒飲みのモヘニアも緊張してるのかな。……まあいいや。作業しよう。


 今大事なのは、飛び込んでも危なくない大きめの穴だ。

 細い穴にすると後続が上から誰かが落ちてくるかもしれない。それは危険だ。

 つまらないことで怪我をしないよう、私にできるだけのことはやっておかなくちゃな。


「オレもロッカから聞いただけだが、全員に詳細な説明をしておこう。まず落下する際だが、必ず着地を意識して飛び込むことだ。風属性術でも使えなければ、落下中の姿勢制御は困難を極める。だが、落下そのものの衝撃はあまり気にしなくても良い。途中で減速するポイントがあるそうだ。しかし、それも後から消失し、通常の落下に戻る。だから相応の高さになるだろうが……衝撃は覚悟はしておくように」


 おう、さすがクラインだ。私だったら結構長くなりそうな説明をちゃんとやってくれてる。

 教えるの上手いよな本当。


「最初に気術を……身体強化が使える者が先に降りる。いざという時に後続を受け止められるようにな。次は風魔道士だ。強化ができなくとも一番安全ではある。次が水魔道士。理由は語るまでもないだろう。……ああ、当然だがそこにいる“日陰者のリュミネ”のように、影魔術を扱える者も先だ。減速が最も安定しているからな」

「質問があるのですが」

「“日陰者のリュミネ”。なんだ」

「私はスカートなのですが、その配慮はしていただけますか」

「知らん。他に意義のある質問はないか」

「流された」

『私からも』

「……“閉ざされた氷室のメイボルド”。なんだ」

『落下中、下の空間にいる魔道士を、いくらかは……上空から見渡せるかと思います。これを有効活用できないでしょうか』

「ふむ。価値のある質問をしてくれた」

「私の質問は価値がなかったんですか」

「無い」


 よっし、開通した!

 慎重に大きく掘り進めていたから落ちることはない。

 今回はしっかりと、穴の向こうに奈落が広がっているのを確認できた。


 ……うん、見通せねえな。相変わらず真っ暗だ。

 こっからどこに誰がいるか見れたら、一番楽だったんだけどな。


「おーいみんなー、できたよー」

「早いな……うわ、あんな大穴をこんな短時間で……」

「それ本当にメイスなの……?」

「お疲れ様。重労働だろうに、ありがとうございます」

「ありがとう! ロッカさん!」


 おうおう、反応が十人十色だ。賑やかだな。


「まあ、私はこっちが本職だからね。誰にも負けない自信はあるよ」

「ロッカ、その技術で君と張り合おうとする者はここにはいない」


 おう、クラインからも褒められちゃったよ。

 魔術以外も褒めてくれるのはなんか、くすぐったいな。


「すごいね。ロッカは“褒められた”って顔してるし、クラインは“褒めてないぞなんだこいつ”って顔してるよ」

「ヒューゴよくわかるなぁ」

『ハハハ。ま、とにかく準備が整ったのなら何よりだ。早速下に向かうとしよう』




 開けた穴はかなりでかい。直径は三メートル近くあるだろう。下手な飛び込み方をしても身体がぶつかることはないし、姿勢も崩れにくい……はずだ。

 穴の下に広がるのは完全な暗闇である。


 夜の海ってわけでもない。高い場所だ。高い高いところから落下していくことが確定している、謎の暗闇。当然、誰だって恐ろしいに決まっている。


「……ど、どうしよう。足が震えてきたわ……」

「本当にこの下に、煉瓦造りの空間なんてあるのかよ……?」


 まあこうなる。気持ちはわからないでもない。一度飛び込んだ私でもちょっと勇気がいるからな。


『じゃあ早速、俺から行かせてもらおう。身体強化は俺が一番だろうからな』


 先陣はライカンだ。私ではない。

 というのも、彼が先に向かった方が何かと安全だからである。


「じゃああたしもいくー」

『後から来なさい。一人ずつだ』

「ぶー」


 しかしボウマは恐れないな。結構わからないものだらけで怖い場所だってのに。


『では、参る』


 そう言って、ライカンが奈落へと突入していった。

 気楽なものである。彼が穴に飛び込んでいった時、パブの面々から短い悲鳴があがった。


「……行ったけど」

「安全? なの? 大丈夫?」

『行ってみなければわからないということでしょう』

「ええっ……」


 ま、そんなもんだ。


「おい、お前達。落下の心配よりも落下中の観察作業の心配をしてくれたまえ。降下する者はそれぞれ向きを四方に決め、その方角に見える人影を観察し、記憶する。人数分しかできない重要な作業だ。怠るなよ。オレの後からの作業に響く」

「わ、わかっていますよ!」

「感じ悪い奴だな……」


 少し待ってから、続々と飛び込んでゆく。

 ボウマが、クラインが、ガルハートが。身体強化が使える者は後から落下してくる人のカバーもできるので優先だ。中には態勢を崩してやってくる人もいるかもしれない。


「スカートが……」

「諦めなよ、リュミネ」


 広く柔らかな生地を使ったリュミネのロングスカートは、まぁ確かに大きく広がってしまうだろう。確かに、落下中はバタバタとはためいて邪魔になるかもしれない。抑えるだけじゃどうにもならないかもな。


「そうですね、諦めます」


 引きずっていたわりに、彼女は行くときは一瞬で飛び込んでいた。

 ……大会で当たった時からずっとだけど、本当によくわからない魔道士だよな。


 ああ、ちなみに私は最後になる。

 この穴がひょっとすると閉じるかもしれないしね。何か不測の事態が起きた時のために、ってやつだ。



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