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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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砥025 異なる田畑


 大会議室が魔光に包まれ、それが収まった。


「……消えた」


 人数が減った。五十八人全員ではない。およそ半分ほどに減じているのみだ。

 そのほとんどが年若い学徒らであることは、誰もがすぐに思い至っただろう。

 突入は叶ったが、中途半端な作戦の成功に安堵していいものか、戦慄すればいいものか、誰もが判断に迷っている。


「そんな」


 マビヒョン=シュネッケーレは、かつて理総校の導師であった。

 暗殺者達によって多くの教え子を喪って以来、彼女は事件の実行者を追うために傭兵に身を窶している。今回の“横たわる永遠の聖櫃”突入作戦も、囚われた学徒達を救うための献身だった。

 だが、彼女は結果としてこの場に置き去りにされた。多くの大人たちと同じように、蚊帳の外へと。


「……学徒ではないから、私も駄目だったのね」


 ロッカらと近い世代のレティー=フランクスも同行は許されなかった。

 しかし、この場にいたライカンなど年嵩のある学徒は消失している。信じがたいことであったが、スキラー・ブライオンは一見しただけで学徒かそうでないかを判別したのだろう。


 計画は僅かに狂った。

 戦闘に秀でた成人魔道士の多くが突入を拒まれ、飲み込まれたのはいずれも学徒ばかり。

 幸いだったのは、そのほとんどが大会に出場できる程度の力量を持っていたことだろうか。それでも不安は否めない。


「さあ、落ち込んでいる暇はありません」


 ネルベレヒトが手を叩き、負の方向に弛緩した空気を張り詰める。


「現実と、かの世界の時間は異なっています。これからわずか数分後に誰かが戻ってきたとしても不思議ではありません。我々は帰還した作戦参加者を救護・保護しなければなりませんし、不測の事態に備え続ける必要があります」


 悲嘆に暮れかけたマビヒョン元導師の目に、再び意志が宿る。

 そう、感情に飲まれる時間など無い。まして、残された自分たちは時のわずかな安全圏にいる。


「我々にできることに最大限、当たっていきましょう。水国魔道士の誇りにかけて、決して学徒らに遅れを取らぬように」


 大人たちが一斉に唱和し、そして彼らは素早く行動を開始した。


 できることで最善を尽くす。

 魔道士として、その一点においては学徒に遅れを取るわけにはいかないのだ。





「んぁ……?」


 息苦しさで目を覚ました。

 というか、息苦し……違う、痛、いてててて。


「あ、おきた」

「いでー」


 ボウマに鼻摘まれてるんだけど。やめろって、起きてるから。


『起きたか、ロッカ』

「お、おお……?」

「おはようロッカ。いや、おそようかな? とはいえ、それほど時間差もないけどね。とにかく、君が最後だぞ。起きてくれ。僕にこういうこと、言われたくないだろ?」


 目を覚ますと、暗い空が天を覆っていた。

 そして視界にはライカンやヒューゴの姿も。


 ……そうだ、起きなきゃ。寝てる暇はねえ。


「着いたか」

「全員、気がつけばこの空間に倒れていた。離れた場所に個別で送られているのでなければ、二十四名が今回の参加者の総数となるだろう」


 傍らにはクラインも立っている。彼はいつも以上に目を細め、真っ暗闇な空や、果てしなく遠くまで広がる空間を睨んでいた。


「ここが聖櫃……」

「魔力で作った空間か……信じられねえ……現実と同じじゃないか」

「息苦しくはないわよね? 気のせい……?」

「落ち着きましょ。まだここは安全……なはずだから」


 そして、パブで知り合った学徒も一緒にいる。

 彼らは仲の良いメンバーと顔を見合わせ、現状の確認を行っているようだ。


 ……やっぱり、まんまと学徒だけがここに送られたみたいだな。

 ちょっと計画が狂ったけど、最初に考えてた作戦よりはずっと人数が多いし、大丈夫。心強い限りだ。


「ロッカ。ここでの指揮は君が執ることになっているのだろう。連中とは面識もあるならば、まとめたらどうだ。もちろん、自信がなければ他の得意な者に譲るべきだろうが」

「……いーや、私は大丈夫。人をまとめるのはまぁ、そこそこ慣れてるから」

「ほう?」


 クラインが意外そうに眉を上げている。そんなに不思議がるか?

 そういう顔はもうちょっとこう、私の活躍とか大会とか、そういうので見せてほしかったな。


 ……いや、クラインの顔が見たいってなんだ? 別に見なくてもいいけどよ。


「ロッカぁ、これからどうするん?」

『何かあれば頼ってくれていいぞ』

「うん。まぁとりあえず、私の言うこと聞いてくれればいいから。駄目そうだと思ったら何か言って」


 さて、ともあれ作戦は開始ってことだ。

 私は前回ここにきた人間として、そして転送の鍵になった重要人物として、ここにいる魔道士達をまとめなくちゃいけない。


 なに、難しく考えることはない。

 人をまとめるのは、デムハムドで何度もやったさ。


「うぃー、おはようございまーす」


 私が手を後ろに回し、少しだけ張るように声を上げると、ざわめいていた人たちが一斉に静かになった。

 皆が聞く姿勢……かはともかく、こっちに注目してくれた。よしよし。これだ、これ。


「今回の作業の目的は、閉じ込められた六十六人の魔道士を救出することー。作業人数は総勢二十四名。監督は私、ロッカ=ウィルコークスが務めまーす」


 “うぃー”とか“おー”って、いつもなら声が返ってくるんだけどな。デムハムドなら。返事はこないのか。

 ……なんかクライン達もちょっと変な顔してるんだけど、オイ。なにその顔。変なことはしてないぞ。


「まぁ、今回はさすがに私も勝手のわからない部分が多いンで、その都度慣れた人の協力や相談があれば助かるんでー……とりあえず、持ち物と作業の確認からやっていきまーす」


 声はいつも通り張ってるけど……聞こえてるよな?


「ご安全にー」


 沈黙。


 ……誰も復唱してくれないんだけど。



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