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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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糲024 聖別する権利者


 スキラー・ブライオンの喚び出し。これが成功するかどうかは実際のところ、やってみないとわからない。ひょっとするともう既に誰かが喚んでいて、出てこないことだってあり得るわけだ。そうなったらこの大部屋に集まった人たちにとって、肩透かしも良いところだろう。

 しかし、今ここにいる皆の顔にそんな油断は微塵もない。部屋の奥で控えている警備の人たちにも。

 水国の首都を混沌に陥れた首魁が現れ、何をするかわからないのだ。そりゃ、呑気にはしてられないだろうな。


「……ふぅ」


 精神集中。まぁ、してもしなくても変わらないだろうけど。

 さて、スキラー・ブライオン。アンタ自身が言ってたように、もう一度ここに来てもらうぞ。


「……スキラー・ブライオン。来てください。お願いします……」


 こう、頭を下げるように頼むなんてまっぴらな相手だけど、前はこうしなきゃ来なかった。だから同じようにやってみた。


「うわっ」

「ひっ」

「出た……」

「くそ、あいつが……」

「やめろッ、手を出すな……」


 ……私の背後を見て、集まった全員が目をむいている。中には震える手で杖を構える者までいた。

 ああ……わかりやすい。お出ましってわけだな? 畜生め。待ってたぜ。


「――若者よ、知識は常にそこにある」


 前も聞いた言葉。いつ現れても同じ調子だ。

 薄々、私はこいつの性質……みたいなものを理解しつつある。


 こいつはゴーレムのようなものだ。特定のことに、特定のことでしか返せない。

 現れるたびに記憶は曖昧になり、私のこともまともに覚えていない。一日や二日会ってないだけでも、グリモアってやつを読まないと人の名前を照合できないし、今もこうして大勢の人に囲まれているのに慌てた素振りもなく、罠にかけられたなんて思ってもいなさそうだ。


 ゴースト。化け物だ、こいつは。


「昨日ぶり、スキラー・ブライオン」

「受け入れるならば手を取るが良い」


 こいつに人間らしいまともな意志は無い。

 怒る必要なんて無い。私がやるべきことは、打ち合わせ通りの話運びだけだ。


「……前に、私に話してくれたよね。“横たわる永遠の聖櫃”に連れて行ってくれる喚び出しは、これで最後だって」

「いかにも。この機会を最後に学徒の招待を打ち止めとする。既に必要な智慧は集まった」


 私とブライオンの会話に、誰も付け入ろうとはしない。

 人によっては仇同然ってこともあるだろうに。それだけ、皆が今回の作戦を理解してるってことだろう。


「だったら、私が前に居た場所に連れて行ってもらえるのかな。アンタに連れ去られた場所に、そっくりそのまま」

「聖堂を目指すつもりか? 善いことだ」

「できるの? 教えてよ」

「可能だ、半機人(ハーフノイド)の若者よ。お前の右腕の中に眠る“縁”の記録は、再びその場所へと導くだろう」


 右腕。……私の義腕に格納されてる、デムピックのことか。

 なにが縁だ。私と家族の品に、余計なもん括り付けやがって。


「求めるならば、手を伸ばせ。お前が聖堂の守り人を目指すならば、聖櫃への門戸は開かれるだろう」

「へえ……だったらよ。私の後ろにいるこの五十七人も、一緒に連れて行ってもらえるかな?」


 私は親指を後ろに向け、にやりと笑ってやった。

 さあ、どう出るよ。


「五十七人。そこにいる全ての者か」

「ああ。私と同じ場所に連れて行ってやりたいんだ。アンタの作った広い空間は、魔術の練習をするにはぴったりでね」

「ほう」

「私は座学よりも実践が好きなんだ。……良いだろ?」


 アンドルギンの柄で肩を叩き、スキラー・ブライオンを睨む。

 布に覆われた奴の表情は見えない。だが、沈黙は何かを考えているようではあった。


 筋骨隆々の魔導師。その立ち姿は、はっきり言って恐ろしい。あの巨大な杖を思い切り振り抜いたら、私は耐えられるのだろうか? 相手が身体強化を使えるなら、かなり怪しいところだ。

 ……杖。あの杖が確か……アックス将軍が言うには、“至宝の杖”……かもしれないんだっけか。


 ……仮に今強奪できたとしても、あの杖をぶっ壊せたとしても、無理だ。まだ人質がいる。我慢だ……。


「よかろう」

「!」


 返事が来た。答えは“可”。


「ただし」


 畜生、条件あるのかよ。


「後ろの者らの同行については二十三人までとする。」


 ……うん……えっと。

 二十三人……え? んーと……どういうことだ。人数が減ったのはわかる。五十七人から二十三人だよな。結構減った。

 けどどうしてそんな中途半端な人数になる?


 私が背後へ振り向いてみると、案の定皆も顔を見合わせてざわついていた。

 相手の意図が読めないからだろう。


「“横たわる永遠の聖櫃”に必要な守り人は、学ぶ者でなくてはならぬ。学ばぬ者を招待する意義はない。学びの轍が魂に見えぬ者は、ここに残るが良い」


 学ぶ者。学ばぬ者……そうか、学徒か!? 人数も多分だいたいそのくらいだ。

 ってことは他の人は誰も……?


「願いは聞き届けた。よって、これより最後の招致が執り行われる」

「ッ、まじか……」


 スキラー・ブライオンが大きな杖を高く掲げた。巨大な水晶のような先石から輝きが溢れ、大部屋の中が妖しく照らされてゆく。

 ……人数を調整する時間もないってわけか!


「みんな、姿勢を整えて……! 覚悟を決めろ!」

「来るぞ……!」

「始まるのか、もう」

「なんて魔術だこれは……!?」


 輝きが生まれ、風が生まれ、振動がやってくる。

 光は太陽よりも強く私達を照らし、次第に五感を曖昧なものへと変えてゆく。


「皆さん!? どうか、ご無事で……!」


 マコ導師の声が聞こえる。


「私も、行かなくては……!」

「危険だ、接触すべきではない!」


 誰かの必死な声が聞こえる。

 きっと張り上げているであろうそれすらも、段々と遠く、薄れてゆく。


「“ジック(来たれ)ヴァール(至宝の)ダート(叡智よ)”!」


 いつか聞いたことのある詠唱と共に、強いめまいが私を襲った。

 意識を保てたのは、そこまでだった。



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