砥022 引き連れる家来
“念の為にラリマ内の施設のどこかで、監視の下で行え。許可は俺が出したことにして構わん”。
アックス将軍はそう許可を出してくれた。相談から許可まで一直線だ。一番強い権力を持つ人を頼るのって、結構気持ちいいもんだな。
「アックス将軍直筆の許可証は手に入れた。後は監視役と、場所の確保だな」
「ありがとう、レティー。僕らだけじゃこうまで早く話を進められなかったよ」
「気にしなくても良い」
『捜査担当の者に許可証を見せればすぐに整えてくれるだろう。ゴタゴタはあるだろうが、急ぎの用ならそうたらい回しにはされまい』
実際それからの手続きは簡単だった。
クラインやレティーは偉い人を見つけるのが上手いようで、すぐに話が通る。
“自分じゃ手に負えない話だ”と尻込みする人もいたけど、上の人の引き継ぎを求めれば早かった。
係員の人たちが大急ぎで場所の決定と確保を進め、すぐに突入計画の監視を担当する人たちも集まってくる。
今回の事件にかかりっきりになっている捜査員たちが何人もいるのだ。志願する人も多かったようだ。
魔道士部隊、警官、役人、様々な役職の人が集まってくる。その中には、マコ導師もいた。
「本当は止めたいですし、怒りたいです。こんな危ないことに、皆さんが行くだなんて」
「うっ……ご、ごめんなさい」
マコ導師は、いつかライカンとの演習で見た時と同じ衣装に身を包んでいた。
身軽で、いつでも杖を抜き放てる。先生ではなく魔道士としての、臨戦態勢の格好だ。
そんな彼にじっとりと睨まれると、別に怖くはないんだけど凄みはある。横を見ればライカンが縮こまっていた。
「けど……いえ。私のこれは、少し違いますね。むしろ私も……許せないんでしょう。理学を学ぶ子どもたちが連れ去られ、良いように利用されて……行けるものなら、私も行きたいです」
マコ導師は寂しそうな、辛い顔をした。
……そうだよな。学徒の担任やってるんだから、その辛さは感じ取れるんだよな。
「じゃあ先生、私達と一緒に行きませんか」
「えっ」
だから誘ってみることにした。マコ導師めっちゃ強いし。
「えっえっ、えー……で、でも良いんですか? 大丈夫なんですか? 私、その……大人ですし……」
『む、それを言ったらマコ先生。俺などは貴方よりも年上ですよ』
それもそうだ。確か八歳くらいライカンのが年上だったはずだ。
「アックス将軍が言うには、個人の署名を書き残しておけばいいとのことでしたよ。ほら、僕たちのもここに書いてありますし」
ヒューゴがひらひらと揺らしてみせたのは、私達の名前が書かれた証書だ。
私とボウマの文字だけがやたらと汚い。ライカンの文字が意外なほど綺麗なのはいつ見ても驚かされる。
「……えっと……じゃ、じゃあ私も名前書いちゃいます。一緒に行って、学徒さんたちを救出します」
「お、マコちゃんも来るの! やったー」
「ええ……良いんですか先生。その、危険ですよ」
「皆さんだけで行かせるのはもっと危険です。それに……危険なことが起こったとして、私のクラスが無くなったら失業しちゃうじゃないですか。私、もう導師としてやっていくしかないんですよ? だから……皆さんが危ないことをするなら、私も一緒です」
マコ導師はむくれた顔で、書面に綺麗な文字を書き連ねた。
マコ=セドミスト。……わーお、先生もきちゃったよ。
『……あの』
しかしそこに声をかけてきたのは、機人警官の一人。
さすがにマコ導師を連れて行くのはまずかっただろうか。
『私の名も書かせていただけますか?』
「え?」
『行けるというのならば、是非。強化ばかりで、魔術の心得などはありませんが……』
「え、え、まぁ、いい……と思いますけど」
『では、同行させていただきます。よろしくおねがいします』
止めるかと思いきや、まさかの増援だった。
「おい、じゃあ俺も行かせてくれ。初心者のガキばかりにやらせるものじゃない」
「待ってちょうだいよ。私も行くわ。母校の後輩が囚われてるの。黙って見てられるもんですか」
『行かせてもらえるんです? じゃあ私も』
「俺も俺も。報告書にあった通り、気絶させて石碑にぶん投げれば良いんだろ? 余裕だね」
「えっ、ちょっ、待って待って。そんなに!?」
気がつけば、部屋に詰めていた人たちのほとんどが書面にサインしようと群がっている。
私達だけだった書類には次々に知らない名前が書き込まれ、ついには勝手に二枚目の紙が補充される勢いだ。
「……大変なことになってきたな」
クラインがそう漏らすのも無理はない。
もはやこの部屋だけで済む話ではなく、廊下にまで人が大勢押しかけているような状態だった。
どう見ても外にまで話が広まってやがる。
「むぅ、これは……皆さん。部屋を移すことにしましょう。突入計画の拠点を臨時大会議室に変更とします」
異議なし。血気盛んな大人たちが、どこか嬉しそうな顔で一斉に唱和した。
「……私もついていく」
「アンタもか、レティー」
護衛さんも端っこに名前を書き入れ、パーティーに飛び入り参加だ。
「そうまでしてオレの護衛をする必要はないが」
「私が好きでやることだから」
「フッ」
帰ってこれるかどうかもわからない異空間だっていうのに……物好きな人たちばかりが集まったな。
部屋を大会議室に移す。どんどん人が集まってきて、さっきまでいた場所ではどうしようもなかったからだ。
なので全員が廊下に出て、移動を開始したわけだけど……案の定、酷い人混みである。
それぞれが自前の杖を手にした状態で、意気揚々と列を成して歩いてるわけだ。当然、そんな物々しい行進は目立ってしまう。
周囲の人がそれを見て何事だと騒ぐのは当然のことだろう。
「おい、おい! ロッカ!」
「あ」
遠目からでも目立つ行進だ。知り合いに見つかる確率は低くなかった。
「おいおいなんだよこの列は。今から戦争でも仕掛けにいくのか?」
話しかけてきたのは昨日のパブに誘ってくれた男、雷国から留学にきている独性科のガルハート=レンドベックだった。
「あーうん、ちょっとこれから……スキラー・ブライオンのいる空間に殴り込みにいこうと思ってさ」
「はあ!?」
まぁいきなりそう言われてもよくわからないよな。
だから私がかいつまんで、向こう行って皆を引きずりあげるってことを説明してやると。
「おし、じゃあ俺も行くわ」
なんかやたらと嬉しそうな顔で一人が追加されることになってしまった。
「いや、俺だけじゃねえな……おいロッカ、大会議室っつったよな? 多分、あいつらも喜んでいくぜ。自分で他の仲間を助け出せるチャンスだ……首を横に振るはずもねえ。よし、すぐ向かう! 待ってろよ!」
「あ、ちょっ……」
行っちゃった。
いや、多分一人だけじゃないんだろうな、これは……あいつ、何人連れてくるつもりだ?
……あの日パブにいた人たちを集めてくるつもり? ……大会議室までパンクさせないでくれよ……。
「話が早く進むのはいいが、前向きすぎるのも問題だな……」
「……そうだね」
私は廊下の行列の中で、クラインの言葉に頷くことしかできなかった。




