針006 勝ち抜く組分け表
式典終了と同時に、本戦一回戦目の組み合わせが発表された。
本戦も勝ち抜き形式なので、一度でも敗退すれば即終了だ。しかも休息日は設けず、毎日毎日大会が終わるまでずっと連戦続きである。
まあ、今までの準備や事前の特訓なんかも付け焼き刃でしかなかったかもしれないし、今更数日足掻くよりかは前日ぐっすり眠ってやるほうがより万全な対策になりそうだし……トントン拍子で進む分には気持ちいいもんだと思っておこう。
「あー……こうなったか」
「ふむ」
ラリマ競技場のデカい掲示板に張り出されているという本戦の組み合わせ表を見て、私とクラインはそれぞれ異なる感情を抱いた。
私の方は“そうくるか”という想い。対するクラインの方は、多分誰が相手でも変わらなかったのだと思う。
“クランブル・ロッカ 対 天罰のエンドリック”
“深海のホレイシオ 対 名誉司書クライン”
……天罰のエンドリックといえば、さっきクラインに対して“当たったらよろしくな”みたいなこと言っていた男だったはずだ。そして、前の試合でレドリアを倒した魔道士でもある。
なんというか、ナタリーやクラインと戦うなら因縁もありそうなもんだけど……私ときたか。
悪いね、エンドリックさん。いまいち縁の無い相手で。しかも結構あとの方だ。やきもきするやつだ。
そしてクラインの方はといえば、それもさっき宣戦布告をぶちかましてた旧貴族の男である。
感じの良い奴かっていうとそうでもなかったし、クラインには是非とも頑張って倒して欲しい相手である。今の所ほとんど他人同然なので、それ以上の感想はなかった。
「君の相手は“天罰のエンドリック”か。……厳しい戦いになりそうだな」
「え、そうなの」
いや、もちろんこの本戦で当たる相手が簡単に勝てるとは思っちゃいないけど。
「ロッカ。奴は君がこの大会で当たった誰よりも強いぞ」
「……雷魔術使いだよね」
「ああ。理総校出身だから情報は少ないが、前の試合で力量ははっきりと示されている」
試合内容を覚えてはいる。
遠距離攻撃を得意とするレドリアに対してあっという間に近づいていき、落雷のような巨大な魔術を見舞った男だ。
風魔法で加速もするし、強化せずに投擲を避けもする。なかなか器用だし、攻撃魔術はそこそこ強力なように見えた。
「でもあれ、クラインより弱いでしょ」
しかし、それもクラインと比べてしまえばまだまだと言える。
“切り込みのガルハート”と闘った時のクラインの動きや魔術と比較すれば、その差は歴然であるように思えてしまうのだ。
「オレと比べてもな」
だがクラインはなんとも言えないような顔で、ちょっと考え込んでいる。
まぁ、私はアンタに瞬殺されたからな。比べるのも烏滸がましいかもしれないけどさ。
「エンドリックって、強化は使えないんでしょ。だったらまだ平気だよ」
「……君のその自信は、一体どこから来るのだかな」
「わからない。けどなんか、水とか炎を使う相手よりはいけそうな気がする」
これは勘だ。具体的なところは何もない。
それでもなんというか、ミスイを相手にした時のように苦戦するとは思えなかったのだ。
雷魔術なんて、全然相手にしたこともないのにね。不思議なもんである。
……ひょっとして、本戦出場が決定したから気が緩んでたりするのかな。
もういけるところまでいった感じがするし、ここらで終わっても、なんて考えているのだろうか。
……わかんね。なんだろうな、この意味のない余裕は……。
ま、いいさ。雷魔術の対策は影魔術と似ているって話だし、それに即した動きで……つまりリュミネと闘う時の心構えで挑めば良いんだからな。
「クラインこそ、負けるなよ」
「負ける要素が無い」
「さすが」
相変わらずの余裕っぷりだ。こいつはマルタ杯のどこで壁にぶち当たるんだか。
私なんか最初の方からガンガン頭ぶつけてる気分なんだけど。
「あ。ナタリーの対戦相手も見つけた。あれは……聞いたことない名前だな」
「“情熱のモルト”か」
「誰それ、覚えてないや。強いのかな」
「“パイク・ナタリー”が負けたときは眼の前で笑ってやれば良い相手だ」
「そうでもないんだな……」
他にもジキルの対戦相手がスズメで最初の方だったり、クライン曰くこの大会で最も注目すべき水魔道士をちらほら教えてもらったりと、私達は組み合わせを見て色々なことを確認した。
勝ち抜き戦。トーナメント。それは今までとは違い、二回戦目の相手も可視化されている組み合わせだ。
なので私達は初戦の相手を確認すると同時に、次の試合に当たるかも知れない相手の確認も行っていた。
「……私の二回戦、ベロウズかルウナになるかもしれない」
「ふむ」
それでわかったことが、二回戦目だ。
私が一回戦目を勝ち抜くというおめでたい結果を前提としているが、もしも勝ち抜いた後にはベロウズかルウナと闘うとこになる。
つまり一回戦目は、ベロウズとルウナがぶつかるというわけだった。
「クラインから見て、ベロウズとルウナはどっちが勝つと思う?」
「忌々しいことに“ストーミィ・ルウナ”だろうな。水魔術は有利だ」
忌々しいのか。顔も嘘はついてないな。本気で言ってるのなそれ。
「だが、実のところこの試合はオレにもわからん」
「……ベロウズが?」
「ああ。奴は未知数なところがあまりにも多い」
クラインは前髪をくるくるといじりながら、考え込む。
「……ここで考えていても、仕方のないことだな。人が多い。さっさと離れよう」
「うん、すごい混みようだしね」
対戦はだいたい見たし、あとは後ろでごちゃごちゃしてる人たちに譲ってあげようか。
私とクラインは来たときと同じように人混みをぐいぐいと掻き分けながら、その場を離れるのだった。
「しかし、ロッカ。本当にあのサナドルの食事会とやらに出席するのか」
人も疎らになった広場あたりで、クラインは心底後ろ向きな声色でそう訊ねて来た。
「あーうん。そう返事しちゃった。なんか案内の手紙? みたいなのも受け取ったし」
「正気か」
「いや正気だけどさ。別にルウナは家もちゃんとしてるし、食事に何か混ぜることもないだろうし……それに悪いって奴でもないじゃん」
「どうだかな」
彼の言う通り、クラインは来ないそうである。
せっかくタダで(多分)飯が食えるんだから来れば良いじゃんって思うんだけど、多分こいつは逆に金を積まれても来ないんだろうな。そのくらい頑固な人嫌いさを感じる。
「クラインって旧貴族が嫌いなの?」
「何故」
「いや、今までほとんどの旧貴族の人とあまりうまくいってないみたいだからさ」
「……そういうわけではないが」
“そうかもしれない”その言葉は口を覆う手に遮られて小さくなっていたが、はっきりと聞こえた。
「……いや、オレは不合理な伝統を嫌悪しているだけだ」
「不合理な伝統ねえ」
「ふん。君はまだ形式張った世界になれていないからこそ、地獄のような夜会を前にそう釈然としない面持ちでいられるのだ」
……その馬鹿を見るような顔はともかく、地獄のような夜会ってどんな夜会だよ。
「そうだな。わかりやすく言えば、旧貴族の夜会は……今日の式典前に行うあの行進。あれが延々と続くようなものだと言える」
「うわぁ……」
「嫌だろう」
「嫌だ……」
そいつは確かにちょっと、知ってたら“忙しいから”とか何とか言って前もって断りたかったな……。
旧貴族の集まりか……一体どうなるんだろう。不安になってきた。




