旋004 追加された油
ボウマは不真面目だ。勉強は苦手だし、嫌いでもある。
彼女は学園に席を置くべき精神を何一つ持っていない。
しかし子供の興味や好みというものは、大人のそれほど確立されているわけではない。
ちょっと好奇心を刺激してやれば、その気になる事だってある。
もちろん、学園にそうしろだなんてもちろん言わないし、初等学校に強要するつもりだってない。
ただ、周りがちょっとした力を添えてやるだけで、子供の舵取りはできるというだけのことだ。
そういう点で言えば、マコ導師はあまり子供の扱いが上手くはなかった。
非常に温厚で怒鳴り散らすことが無いというのは、向かい合っている身としてありがたいことではあるが、あまりにも人を叱らなさすぎるのは、騒ぎ散らすボウマは逆効果だ。
しかし先程も言ったが、それはマコ導師の義務というわけではない。学園は自ら学ぶ場所。その意欲は学徒が持ちあわせているべきものなのだから。
……じゃあ僕がボウマにテコ入れするのは何かっていうと……さあ、何だろう。
「爆発に方向を持たせれば、簡単に威力が上がる。変なところに破片も行かないしね」
「えー……」
「まぁ簡単さ。ボウマが無意識的にやってるのはこの初等術、イアノスで、この魔術は……」
とにかく、僕はボウマとよく話すようになった。
内容は軽めのものが多いが、なるべく魔術の話ばかりにならないように気を使ってはいる。
勉強勉強ばかりでは、僕だって参ってしまう。着実に、少しずつ興味を引き出してゆくのが、子供を操る時のコツだ。
『ふむふむ、初等術か……』
なんてことをしている間に、ボウマの監視役であるライカンも加わるようになった。
彼がここへ来た主目的は理学ではなかったのだろうが、どうもその気になったらしい。
ライカンの得意とする魔術は雷属性だが、特異性としてそれが磁力に変わってしまうのだという。彼が魔術を応用するとなると、既存の雷魔術の効力はあてにならなくなるだろう。
……まぁ、彼はずっと、おそらく卒業まで真面目に取り組むんじゃないかと、僕は思っている。
マコ導師が異動になるなんて話は、未だ耳にしていないからね。
三人で過ごしていると、自然とボウマの雰囲気は和らいでいった。
僕の常識人としての常識人らしい振る舞いを真似ているところもあるのだろう。一緒に居て、かなり奇行が減っていったように思う。
同じくライカンも最初の頃の刺々しさが抜けてゆき、ボウマを叱る時もむやみに手を出さなくなった。
個人的にありがたいのはボウマの悪戯の危険度が下がったことである。
……が、悪戯の回数自体は、あまり減っていない。
しかし、ここまできて悪戯まで封じてしまうと、今度はボウマが内圧に耐え切れずにぼかーんと行ってしまう可能性もある。
後頭部にリボンなどを付けられた時にはかなりイラッとしたが、この程度ならば可愛いものだと受け入れようと思う。
勉強し、学友と話し、放課後には街へ出て遊ぶ。
ボウマとライカン。僕は二人の友人を得て、とても楽しい時間を過ごしていった。
楽しく、そして何より穏やかだ。このままの調子でいけば、ボウマが癇癪を捨て、一般人的な感性を獲得するのも、そう遠い話でもないだろう。
平穏に、充実した日々を過ごす。全く、これ以上のことはない。
けど、まだまだここは出発点でしかない。ボウマを落ち着かせて、ようやくスタートラインを踏み越えたのだ。
僕の魔道士としての平和な修行の日々は、これから始まってゆくのである。
「それでは、新たなお友達を紹介します! 今日から特異科に編入されることとなりました、クライン=ユノボイド君です!」
希望の日々の幕開けだ。
「ふん。流石、頭の足りてなさそうな顔ぶれだな」
「えっ、あの、ユノボイド君……」
幕開け……。
「ぁんだとこのもじゃもじゃ頭ぁーっ!」
……。
やれやれ。
また、忙しくも楽しい毎日が戻ってきそうだ……。
おわり




