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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 9

「…ど、どうすればいい?…」


 私は、聞いた…


 「…どうすれば、いい…葉問?…」


 「…別に、今まで通りで、いいんじゃないですか?…」


 葉問が、答える…


 「…今まで通り?…」


 「…変に態度を変えれば、殿下も、なにか、あったと、思います…だから、今まで通り…」


 「…」


 「…殿下は、さっきも例えたライオンと同じです…」


 「…ライオンと同じ…」


 「…仮にお姉さんが、ライオンをペットとして、飼っているとします…そのライオンを、お姉さんが、いつも、可愛がっていたのに、ある日、突然、怖くなって、可愛がらなくなる…そんなことをすれば、ライオンも怒ります…それと、同じです…」


 「…」


 「…まあ、殿下は、人間ですから、ライオンと違います…話せば、わかりますし、なにより、殿下を、ライオンに例えたのは、万が一のためです…」


 「…万が一…」


 「…ですから、その万が一にならないように、お姉さんの健闘を祈ります…」


 そう言うと、葉問が、消えた…


 あっけなく、消えた…


 そして、葉尊になった…


 私の夫の葉尊に、戻った…

 

 葉尊は、


 「…どうしました? …お姉さん?…」


 と、聞いた…


 私は、いつもの癖で、


 「…なんでもない…なんでもないさ…」


 と、言ってしまった…


 つい、言ってしまった…


 葉尊は、不満そうな顔をしたが、なにも言わんかった…


 自分の不満を私にぶつけなかった…


 これは、いつものこと…


 いつものことだ…


 葉尊は、思ったことを言わない…


 また、私も、葉尊に言わない…


 が、


 葉問には、言う…


 そういうことだ…


 理由は、よくわからない…


 ただ、葉問の方が、話しやすく、葉尊の方が、話しにくいというのが、本音だ…


 葉問は、元ヤン…


 ヤンキー上がりだ…


 にもかかわらず、ヤンキーが苦手なこの矢田が、葉問の方が、話しやすい…


 真面目な葉尊よりも、話しやすい…


 だから、考えてみれば、不思議…


 実に、不思議だった…


 が、真実でもあった…


 真実でも、あったのだ…


 葉尊は、なにがあっても、私に不満をぶつけることがない…


 だから、こちらも、葉尊に不満は、ぶつけない…


 つまり、これは、一種の仮面夫婦…


 いっしょに、住んでいるのだが、心は、繋がっていない…


 心は、通じていない…


 しかしながら、どこの家庭にもあることかも、しれん…


 日本、いや、世界中、どこの家庭でも、あることかも、しれん…


 私は、そう、思った…


 そう、思ったのだ…



 そして、


 そして、だ…


 私は、あの後、アムンゼンのことを、考えたが、どうして、いいか、わからんかった…


 正直、アムンゼンが、そんな危険な人間だとは、思わんかったのだ…


 なにしろ、あの外見だ…


 3歳の幼児にしか、見えない外見だ…


 だから、侮るというか…


 どうしても、下に見る…


 当たり前のことだ…


 ひとは、どうしても、外見で、判断してしまう…


 例えば、いくら、背が高く、いかついカラダをしていても、気弱そうに、見えると、弱いと、思ってしまう…


 そういうことだ…


 これは、例えば、上場企業のお偉いさんでも、同じ…


 同じだ…


 会社で、偉い地位にいるから、偉く見えるが、街中で、会えば、風采の上がらない、ただのオジサンにしか、見えない人間も、多い(苦笑)…


 そういうことだ…


 私は、あの葉問に、アムンゼンの正体を告げられて以来、どうして、いいか、わからんかった…


 正直、二度とアムンゼンと関わりたくなかった…


 なにしろ、この矢田トモコは、実は気が小さい…


 だから、危ないものには、関わりたくなかった…


 私が、ヤンキーが苦手なのも、怖いからだ…


 だから、関わらない…


 最初、葉問から、リンのことを、告げられたとき、正直、金になると、思った…


 その来日したリンの面倒を見て、そのときに、リンのファンだというアムンゼンに、リンを会わせれば、なにがしかのお礼を、アムンゼンから、もらえると、思った…


 が、


 しかし、だ…


 アムンゼンの真の姿を聞いて、気が変わった…


 正直、アムンゼンと関わりたくなかった…


 二度と関わりたくなかった…


 あのアムンゼンは、葉問が言うには、ライオンと同じ…


 こちらが、可愛がっていても、突然、なにかの拍子で、私に牙を剥いても、おかしくはない…


 なにしろ、あのアムンゼンは、大金持ちだ…


 サウジの王族だ…


 生まれたときから、贅沢にまみれ、わがまま放題に育ったに違いない…


 だから、気まぐれだ…


 昨日まで、好きだったことが、今日になって、突然、嫌いになっても、おかしくはない…


 昨日まで、カツ丼が、死ぬほど好きだったのに、今日になって、二度とカツ丼は、食べないと、宣言しても、おかしくはない…


 そういうことだ…


 そして、私は、そんなことを、考えながら、朝っぱらから、あのラーメン屋に並んだ…


 あの特製ラーメンを食べながら、しばし、考えてみようと、思ったのだ…


 きっと、あの特製ラーメンは、うまいに決まっている…


 そんなうまいラーメンを腹いっぱいに食べれば、なにか、いい考えが、思い浮かぶに決まっている…


 この矢田の優秀な頭脳に、思い浮かぶに決まっている…


 だから、並んだ…


 またも、朝っぱらから、あの行列に並んだのだ…


 すると、だ…


 思いがけないことが、起こった…


 「…あ、矢田さん…おはようございます…」


 と、言う声が、近くで、聞こえてきた…


 私は、その声に聞き覚えがあった…


 聞き覚えがあったのだ…


 迷わず、


 「…アムンゼン…」


 と、言うところを、なぜか、


 「…ライオン!…」


 と、叫んでしまった…


 あの葉問が、このアムンゼンのことを、ライオン呼ばわりするからだ…


 だから、つい、言ってしまった…


 だから、つい、叫んでしまった…


 当然のことながら、アムンゼンは、呆気に取られた表情で、私を見た…


 「…なにが、ライオンですか? 矢田さん?…朝っぱらから、なにか、悪いものでも、食べたんじゃ、ないですか?…」


 散々な言われようだった…


 が、


 相手は、ライオン…


 逆らっては、まずい…


 この矢田など、簡単に食べられてしまうかも、しれん…


 なにしろ、相手は、ライオンだ…


 下手に逆らっては、まずい…


 まずいのだ…


 だから、私は、とっさに、下手に出るのが、一番だと思った…

 

 とっさに詫びるのが、一番だと、悟った…


 「…すまんかったさ…アムンゼン…」


 私は、言った…


 「…これまでの数々の非礼…許してやってくれさ…」


 「…なんですか? 矢田さん、いきなり?…」


 「…いきなりも、なにも、ないさ…ただ、許してやってくれと、詫びているのさ…」


 私が言うと、アムンゼンが、連れのオスマンと顔を見合わせた…


 「…やっぱり、矢田さん…朝から、なにか、悪いものでも、食べましたね…」


 アムンゼンが、繰り返す…


 「…まだ、食べてないさ…」


 「…エッ? …食べてない?…」


 「…そうさ…だから、ここに並んでいるんだろ?…」


 私が、言うと、


 「…それも、そうですね…」


 と、納得した…


 「…だったら、悪いものを食べてないと、なると、なにか、悪いものでも、飲みました?…賞味期限切れの牛乳とか?…」


 「…そんなもの、飲んでないさ…」


 「…飲んでない?…」


 「…そうさ…」


 「…だったら、余計まずいですよ…」


 「…なにが、まずいんだ?…」


 「…なにか、悪いものを、飲んでもないし、食べてもないのに、その態度、まずいです…」


 「…なんだと?…」


 い、いかん…


 つい、いつもの調子に戻ってしまった…


 つい、いつもの調子で、アムンゼンに接して、しまった…


 これでは、いつものと、同じ…


 なにも、変わらない…


 いつもと、同じになってしまう…


 私は、焦った…


 心の中で、どうしようもなく、焦った…


 すると、だ…


 「…矢田さん、こんなところで、どうするんですか?…」


 と、アムンゼンが、聞いた…


 「…どうするって? どういう意味だ?…」


 「…だって、矢田さん…どう見ても、十人以内に、入ってませんよ…この店の特製ラーメンを食べれるのは、先着十名なんでしょ?…」


 私は、アムンゼンの指摘で、慌てて、列に並んでいる人数を見ると、その通りだった…


 アムンゼンの言う通りだった…


 これまで、散々、アムンゼンのことばかり、考えていたので、気付かんかった…


 すでに、この矢田の前に、十人以上の人間が、並んでいるのに、気付かんかった…


 不覚…


 実に、不覚だった…


 この矢田トモコに、とって、あっては、ならない不覚だった…


 この常に、完璧を目指す矢田トモコにとって、あっては、ならない不覚だったのだ…


 私は、唖然としたが、それほど、葉問の言葉の衝撃は、大きかったということだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 この目の前の3歳にしか、見えんガキが、そんな恐ろしい権力を持っている…


 ライオンに例えられる権力を持っている…


 それが、恐ろしかったのだ…


 だから、混乱した…


 行列に並びながらも、自分が、今、先頭から、何番目で、並んでいるか、確かめんかった…


 そういうことだ…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 だから、私は、つい、アムンゼンに、


 「…別にいいさ…」


 と、答えた…


 「…なにが、いいんですか? 矢田さん?…」


 「…別に、特製ラーメンを食べなくても、いいさ…普通のラーメンでも、いいさ…それなら、先着十人に入らなくても、食べれるだろ?…」


 と、答えた…


 すると、だ…


 アムンゼンが、嘆息した…


 わざと、大きくため息をついて、見せた…


 「…相変わらず、負けず嫌いというか…自分の過ちを認めない性格ですね?…」


 「…なんだと?…」


 「…きっと、なにか、大きな悩みごとを抱えていて、そのために、今、自分が、何番目にいるか、忘れたのでしょう…」


 アムンゼンが、私の心の中を、見抜いた…


 ずばり、見抜いた…


 「…よろしい…これから、矢田さん、ボクの家に来てください…矢田さんの悩みを聞きながら、いっしょに、朝食を食べましょう…」


 と、アムンゼンが、言った…


 この矢田の悩みの種である、当人が、言った…


 正直、ありえん…


 ありえん展開だった(笑)…


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