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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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8/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 8

このチャンス…


 逃すわけには、いかん…


 断じて、いかん…


 このチャンスは、一攫千金のチャンス…


 得難いチャンスだ…


 私はそれに、気付くと、


 「…私に任せて、おけば、いいさ…」


 と、言って、つい、私の大きな胸を叩いた…


 「…私に任せて、おけば、間違いは、ないさ…」


 と、言って、私の大きな胸を叩いた…


 「…安心すれば、いいさ…大船に乗ったつもりで、いれば、いいさ…」


 と、続けた…


 この矢田トモコ、35歳…


 ついに、私にも、チャンスが来た…


 一攫千金のチャンスが来た…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 このチャンスを逃しては、いかん…


 いかんのだ!…


 だから、言葉にも、力が入った…


 いつもにもまして、力が入った…


 すると、だ…


 「…信じて、いいんですか? お姉さん?…」


 と、葉問が、聞いた…


 「…もちろんさ…」


 私は、もう何度目か、自分の胸を叩いた…


 この矢田トモコの大きな胸を叩いたのだ…


 「…安心すれば、いいさ…」


 「…私に任せておけば、いいさ…」


 と、繰り返した…


 何度でも、繰り返したのだ…


 葉問は、私の態度に満足したようだ…


 が、


 しかしながら、具体的に、なにをするのか?


 わからんかった…


 まさか、この矢田が、葉問の当初の言葉通り、リンのボディーガードをするわけがない…


 なにしろ、この矢田トモコ…


 実は、暴力が、苦手…


 大の苦手だ…


 なぜなら、昔から、腕っぷしには、自信がなかった(涙)…


 だから、ヤンキーが、苦手…


 ヤンキー=暴力だからだ…


 だから、苦手だった…


 だから、バニラが、嫌い…


 嫌い=苦手だった…


 なぜなら、バニラは、元ヤンだったからだ…


 だから、バニラと仲が悪い…


 と、そこまで、考えて、なぜか、話が、バニラの話になった…


 これは、自分でも、笑ってしまった…


 なぜか、大嫌いなバニラの話になったことが、自分でも、おかしかったからだ…


 そして、そんな私の思いが、表情に出たのだろう…


 「…お姉さん…なにやら、楽しそうですね…」


 と、葉問が、言った…


 私は、


 「…」


 と、黙った…


 ここで、いちいち、バニラのことを、説明するのも、面倒だからだ…


 だから、なにも言わんかった…


 言わんかったのだ…


 「…それよりも、葉問…」


 「…なんですか? …お姉さん?…」


 「…具体的に、私になにをさせたいんだ?…」


 私は、聞いて、やった…


 「…それは、簡単です…」


 「…簡単?…」


 「…そう、簡単です…リンが、まもなく来日します…そのリンの面倒をみて、もらいたいのです…」


 「…面倒を見る? …私が?…」


 「…なに、難しい話でも、なんでも、ありません…来日したリンと、いっしょに、いてもらいたいだけです…」


 「…いっしょに?…」


 「…そう、いっしょに、です…」


 葉問が、力を込める…


 「…ただ、いっしょにいれば、いいのか?…」


 「…そうです…」


 うーむ…


 ただ、いっしょにいるだけで、金をもらえるかも、しれんとは?


 こんな、いい話は、ない…


 めったにない…


 いや、


 あるはずがない…


 まるで、宝くじで、一億円が当たったようなものだ…


 あのアムンゼンに、そのリンを紹介すれば、一億円どころか、もっと大金をくれるかも、しれん…


 なにしろ、あのアムンゼンは、アラブの王族…


 現国王の弟…


 アラブの至宝だ…


 この矢田にも、一億どころか、十億…


 いや、


 もしかしたら、それ以上の大金をくれるかも、しれん…


 私は、それを、思うと、思わず、頬が、緩んだ…


 この矢田トモコの頬が、緩んだ…


 それを、見て、葉問が、


 「…お姉さん…なんだか、嬉しそうですね?…」


 と、言った…


 だから、私は、思わず、


 「…金を得るチャンスだからな…」


 と、言いそうになったが、慌てて、


 「…いや、人助けが、できるのが、嬉しくてな…」


 と、言った…


 我ながら、うまい言葉が、思い浮かんだと、思った…


 もちろん、口から、でまかせだ(笑)…


 「…人助け?…」


 目の前の葉問が、キョトンとした表情で、言う…


 「…だって、アムンゼンは、そのリンのファンなんだろ?…」


 「…ハイ…」


 「…私が、面倒を見るということは、そのリンをアムンゼンに会わせることが、できるだろ? そうすれば、アムンゼンは、喜ぶさ…これを、人助けと、呼ばずして、なんと、呼ぶのさ…」


 私が、説明すると、


 「…そうですね…」


 と、葉問が、頷いた…


 「…たしかに、リンを好きだという、アムンゼン殿下に、リンを会わせれば、殿下も、喜ぶでしょう…」


 葉問が、真顔で、言う…


 「…ですが…」


 「…ですが、なんだ?…」


 「…殿下は、本来、気難しい性格だと、聞いています…」


 「…あのアムンゼンが、気難しい性格? …私には、全然、そうは、見えんさ…」


 「…それは、お姉さんだからです…」


 「…私だから?…」


 「…例えば、殿下は、ライオンと同じです…」


 「…ライオン? …だって、アムンゼンは、あの通り、3歳のガキ並みのカラダしか、持ってないゾ…」


 「…ライオンというのは、殿下の持つ権力に例えているのです…」


 「…権力?…」


 「…お姉さんは、知らないでしょうが、殿下は、前国王のお気に入りです…」


 「…あのアムンゼンが、か?…」


 「…そうです…」


 「…どうして、オマエにそれが、わかる?…」


 「…考えてみてください…お姉さん?…」


 「…なにを、考えてみるんだ?…」


 「…殿下は、以前、サウジアラビアで、クーデターを起こしました…」


 「…知ってるさ…自分が、事実上の国王にならんとしたんだろ? あのオスマンを国王にして、自分が、陰から操ろうとしたんだろ?…」


 「…そうです…」


 「…それが、どうかしたのか?…」


 「…普通に考えれば、そんなことを、すれば、死刑でしょ?…」


 「…死刑?…」


 「…それが、日本に追放で、済んでいる…いかに、前国王に愛されているかです…」


 「…そうなのか?…」


 「…そうです…だから、殿下の力は、絶大です…」


 「…絶大?…」


 「…それは、例えれば、獅子に例えられます…ライオンに例えられます…」


 「…ウソ?…」


 「…ウソでは、ありません…ホントのことです…」


 「…ホントのこと?…」


 「…殿下は、お姉さんには、甘いのです…だから、そんな素顔は、お姉さんには、一切、見せません…」


 うーむ…


 そうなのか?


 知らんかった…


 まったく、知らんかった…


 「…だから、リンに会っても、思いがけない行動をするかも、しれません…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…殿下は、リンのファンだと、聞いています…ですが…」


 「…ですが、なんだ?…」


 「…仮に、リンに会って、リンが、殿下の思うような人物でなかった場合…」


 「…どうなるんだ?…」


 「…殿下の怒りが爆発しかねません…」


 「…どういう意味だ? …だって、ファンなんだろ?…」


 「…ファンだから、こそです…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…テレビやネットで見るのと、実際に接するのとは、違います…まして、長時間でも、接すれば、素の姿が、見えてしまう…」


 「…素の姿?…」


 「…例えば、テレビでは、いつも、いいひとを演じていても、実際に会えば、他人の悪口ばかり言っているのを、見れば、幻滅でしょ?…」


 「…それは…」


 「…そして、もし、そんな事態になれば、殿下の怒りが、爆発しかねません…」


 「…怒り…」


 「…そう、怒りです…そして、その結末は…」


 「…結末は、どうなるんだ?…」


 「…わかりません…ただ…」


 「…ただ、なんだ?…」


 「…殿下が、アラブの至宝と呼ばれているのは、その優れた頭脳のみならず、王族としての、権力にあります…」


 「…」


 「…殿下の怒りを買って、サウジアラビアで、それなりの、犠牲者が、出たとも、聞き及んでいます…」


 「…犠牲者?…」


 「…国内で、職を失いホームレスになったとか…刑務所に収監されたとか、そんな話です…」


 「…ウソ?…」


 「…ウソでは、ありません…権力者のやることは、古今東西、同じです…」


 「…」


 「…とりたてて、殿下が、残虐なわけでは、ありません…権力者とは、そういうものなのです…」


 葉問が、したり顔で、言う…


 「…だから、お姉さんも、気を付けて下さい…」


 「…どういうことだ?…」


 「…殿下と接するということです…権力者は、気まぐれです…今は、お姉さんを気に入っているかも、しれませんが、じきに、嫌いになるかも、しれません…いわば、子供と同じ…」


 「…同じ?…」


 「…殿下を、危険物と考えれば、いい…」


 「…危険物?…」


 「…さっき、例に出したライオンと同じです…ライオンでも、自分になついているときは、かわいい…でも、もしかしたら、自分に牙を剥くかもしれない…そのときは、終わりです…」


 「…終わり?…」


 「…そう、終わりです…」


 葉問が、笑った…


 私は、その言葉を、聞いて、背筋が寒くなった…


 私は、いつも、ライオンといたのか?


 と、思ったのだ…


 今さらながら、思ったのだ…


 だから、それに、気付くと、ビビった…


 この上なく、ビビった…


 どうしていいか、わからないほど、ビビった(涙)…


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