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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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83/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 83

諸行無常…


 盛者必衰…


 なぜか、わからんが、そんな平家物語の冒頭の言葉が、この矢田の頭の中に、突然、浮かんだ…


 目の前で、リンの偽者が、撃たれ、片や、今、目の前で、葉敬が、駐日サウジアラビア大使と、知己を得たことで、喜んでる…


 まさに、真逆…


 真逆の出来事だからだ…


 だから、つい、脳裏に、そんな言葉が、浮かんだのかも、しれんかった…


 あまりにも、リンの偽者と、葉敬の姿が、対照的だからだ…


 だから、思った…


 だから、考えた…


 平家物語の冒頭の言葉が、脳裏に浮かんだと、思ったのだ…


 そして、そんなことを、考えていると、


 「…帰りましょう…」


 と、突然、アムンゼンが、言った…


 「…用事は、済みました…」


 「…用事って、まさか、アムンゼン君…このサウジアラビア大使館で、トイレに行くことが用事じゃ、ないだろうね…」


 と、葉敬が、聞く…


 アムンゼンは、照れ笑い浮かべながら、


 「…実はその通りです…」


 と、言った…


 「…エッ? …その通り?…」


 「…ここの大使館は、以前、何度か、来たことがあるから、トイレの場所が、わかっていたんです…だから…」


 アムンゼンの告白に、葉敬が、目を白黒させた…


 それほどの驚きだったようだ…


 「…アムンゼン君…失礼ながら、キミは、子供にもかかわらず、大人のように、しゃべるが、やっぱり、中身は、子供なんだね…」


 と、しみじみと、葉敬が、言う…


 「…ボクは、この通り、子供です…」


 と、アムンゼンが、返す…


 「…そうか…」


 と、葉敬…


 「…でも、安心したよ…」


 「…安心ですか?…」


 「…そうだよ…安心だよ…なぜって、マリアと同じ3歳の子供が、大人のように、話すのを見るのは、なんだか、気持ち悪いじゃないか?…」


 「…」


 「…だから、安心したよ…」


 葉敬が、言う…


 おそらく、心の底から、言う…


 私は、それを、見て、もっともだと、思った…


 葉敬の言うことに、おかしいところは、なにもない…


 たしかに、このアムンゼンは、おかしい…


 3歳の子供にしか、見えないにも、かかわらず、いつも、大人のような口ぶり…


 しかしながら、アムンゼンが、ホントは、30歳だとわかれば、誰もが、納得する…


 30歳と知らないから、誰もが、


 …変だ!…


 とか、


 …おかしい!…


 と、感じるのだ…


 ホントは、30歳とわかれば、まったく違和感がない…

 


 そういうことだ(笑)…


 私は、目の前の葉敬とアムンゼンのやり取りを、見ながら、そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、私が、そう思っていると、


 「…では、帰りましょう…」


 と、アムンゼンが、繰り返した…


 私は、内心、


 「…エッ?…」


 と、思ったが、アムンゼンが、なぜ、そう言ったのか、わかった…


 アムンゼンが、この駐日のサウジアラビア大使館にやって来たのは、あのリンの偽者を、捕まえるためだからだ…


 だから、すでに、その目的は、果たした…


 それゆえ、アムンゼンが、


 「…帰る…」


 と、言うのは、当たり前だった…


 当たり前だったのだ…


 アムンゼンの言葉を受けて、


 「…そうだね…じゃあ、帰ろうか…」


 と、葉敬が、言い、皆も、その通りにした…


 「…とにかく、今日は、駐日サウジアラビア大使に、お目にかかる、奇遇を得た…実に、いい日だ…」


 葉敬が、言う…


 「…これも、すべて、アムンゼン君のおかげだ…感謝するよ…」


 「…いえ、偶然、知り合いが、いただけですから…」


 「…偶然…そう言えば、まだ私は、オスマンさんと、会ってない…今度、ぜひ会いたいと、思う…アムンゼン君…よろしく頼むよ…」


 葉敬は、つい、今、アムンゼンが、子供のくせに、大人のような口を利くのは、気持ち悪いと、言いながらも、またも、アムンゼンを大人のように、扱った…


 まるで、大人に頼むように、


 「…今度、ぜひ、オスマンさんと、会わせてくれ…」


 と、アムンゼンに言った…


 私は、それを、見て、思わず、


 「…プッ!…」


 と、吹き出す寸前だった…


 が、


 我慢した…


 まさか、この場で、吹き出すわけには、いかんからだ…


 それから、私は、またも、バニラの顔を見た…


 バニラが、どんな表情をしているのか、知りたかったからだ…


 バニラを見ると、やはり、私のように、吹き出す寸前とまでは、言わんが、笑い出す寸前だった…


 誰が、見ても、無理やり、笑いを嚙み殺している表情だった…


 その後、私たちは、葉敬のロールスロイスで、私の住む、マンションまで、戻った…


 私の住む、マンションまで、葉敬に送り届けて、もらった…


 「…では、お姉さん…今日はこれで…」


 葉敬が、言う…


 「…ディズニーランドには、行けませんでしたが、実に、有意義な一日でした…」


 葉敬が、感慨深げに言う…


 私は、


 「…そうでしたか…」


 と、ただ、相槌を打った…


 他に、言う言葉が、見つからんかったからだ…


 私が、ロールスロイスを降りると、アムンゼンも、またロールスロイスから、降りた…


 「…キミも、ここで、降りるの?…」


 葉敬が、驚いた…


 「…ハイ…ここが、家から、近いので…」


 アムンゼンが、言う…


 しかしながら、私は、アムンゼンの自宅が、私が、住む、マンションと全然違う場所にあるのを、知っていた…


 そして、それは、バニラもまた、同じだった…


 だから、怪訝な表情で、アムンゼンを見ていた…


 が、


 さすがに、それを、口に出すことは、できん…


 だから、バニラは、なにも、言わんかった…


 代わりに、私を見た…


 今、ロールスロイスから、降りたばかりの私を見た…


 葉敬は、私には、目もくれず、アムンゼンに、


 「…今日は、どうもありがとう…今度、ぜひ、オスマンさんと、会わせてくれ…」


 と、しつこく言った…


 「…ハイ…わかりました…」


 と、アムンゼン…


 「…ぜひ、頼むよ…」


 葉敬は、傍から見ても、しつこいほど、繰り返し…それから、私に、


 「…お姉さん…また、今度…」


 と、いつものように、愛想よく言った…


 「…ハイ…わかりました…ぜひ…」


 そう言って、私たちは、別れた…


 葉敬とバニラ、マリアの親子を乗せたロールスロイスは、去って行った…


 私はそのロールスロイスの後ろ姿を見ながら、


 「…アムンゼン…オマエ、どうして、ここで、降りた?…」


 と、聞いた…


 「…オマエの家は、こことは、全然、違う場所だろ…」


 私が、言うと、


 「…矢田さんに、お別れを言うためです…」


 と、アムンゼンが、返した…


 「…私にお別れを言うため?…」


 「…そうです…」


 「…なんでだ? …なんで、いきなり、そんなことを、言うんだ?…」


 「…矢田さんを、これ以上、危険に遭わせないためです…」


 「…なんだと?…」


 「…今日が、いい例です…」


 「…」


 「…矢田さんも、怖かったでしょ?…」


 「…それは、怖かったさ…」


 「…ボクが、矢田さんと、親しくしていれば、これからも、今日のようなことが、何度も起こります…」


 「…」


 「…矢田さんに、それが、耐えられますか?…」


 アムンゼンが、直球で、聞く…


 が、


 私は、答えれんかった…


 答えれんかったのだ…


 たしかに、アムンゼンの言うことは、わかる…


 これ以上、危険な目には、遭いたくなかったからだ…


 なにより、そんな危険な目に遭って、この矢田が、耐えられるとは、思えんかった…


 この矢田トモコ…


 実は、気が弱い…


 おまけに、気も小っちゃい…


 そんな矢田が、これ以上、危険な目に遭って、耐えられるはずがなかったのだ…

 

 だから、私が、黙っていると、


 「…やはり、耐えられませんね…」


 アムンゼンが、決めつけた…


 私は、それを、聞いて、ふと、思い出した…


 本物のリンのことを、思い出した…


 だから、


 「…オマエ…最初から、あのリンが、偽者だって、知っていたのか?…」


 と、アムンゼンに聞いた…


 直球で、聞いた…


 「…知ってました…」


 と、ぶっきらぼうに、アムンゼンが、答える…


 「…さっきも、言ったように、あらかじめ、情報は、得てました…」


 「…そうか…」


 「…ボクの日常は、いつも、こんなふうです…」


 「…こんなふう?…」


 「…危険と隣り合わせの毎日です…」


 「…」


 「…矢田さんに、そんな毎日が、耐えられますか?…」


 「…耐えられんさ…無理さ…」


 「…ですよね…」


 「…」


 「…だから、お別れです…今日で、お別れです…」


 アムンゼンが、言う…


 きっぱりと、言う…


 私は、それを、聞いて、このアムンゼンと、会うのも、今日が、最後だと、気付いた…


 この言い方は、本気…


 誰が、見ても、本気だからだ…


 だから、もう二度と会えない…


 だから、もう二度と会うことはない…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


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