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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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82/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 82

「…オマエ、怖くはなかったのか?…」


 私は、聞いた…


 つい、聞いてしまった…


 場違いな発言かも、しれんが、つい、聞いてしまった…


 「…それは、怖いですよ…」


 アムンゼンが、あっさりと、言った…


 目の前に、リンの偽者が、倒れているのを、見ながら、呟いた…


 「…何度、同じ目に遭っても、慣れることは、ないですよ…当たり前ですよ…」


 「…当たり前?…」


 「…これは、お芝居でも、映画の撮影でも、なんでもありません…ボクが、殺されても、なんの不思議でも、ありません…」


 「…」


 「…事前に対策を練り、どうすれば、よいか、あらかじめ、何度もシュミレーションを試みても、その通りになるか、やってみなければ、わかりません…」


 「…」


 「…だから、何度、やっても、緊張します…当たり前です…」


 「…オマエ、こうなることが、わかっていたのか?…」


 「…それは、当然…」


 「…当然、なんだ?…」


 「…わかってました…」


 「…」


 「…ありきたりですよ…矢田さん…」


 「…なんだと? …ありきたりだと?…」


 「…そうです…矢田さん…中東では、幾度となく、こんな経験をしました…平和なのは、この日本ぐらいです…」


 「…」


 「…だから、ボクは、いつのまにか、人前に姿を見せなくなりました…暗殺される危険が、増えたからです…それゆえ、人前に出なくなったことで、いつのまにか、世間が、ボクを神格化したのです…」


 「…なんだと?…」


 「…実は、それ以前にも、アラブの至宝と呼ばれていました…アラブの至宝と呼ばれたのは、割と単純な経緯です…要するに、ボクは、このカラダですから、ボクの実年齢を知らないひとたちが、ボクのことを、とんでもなく、頭のいい、子供だと、思ったからです…そんな声が、サウジアラビアのみならず、アラブ世界で、徐々に広まり、いつのまにか、ボクのことを、アラブの至宝と呼ぶようになったのです…」


 「…」


 「…そして、今も、矢田さんに言ったように、ボクは、暗殺の危険が増えたせいもあって、公に姿を見せなくなった…それゆえ、世間は、よりボクを神格化した…まあ、公に姿を、見せなくなったのは、ボクは、小人症だから、何年経っても、カラダの大きさは、そのまま…それが、世間にバレるのが、困るのも、一因にありました…」


 「…」


 「…いずれにしろ、世の中の伝説とか、神話なんて、元を辿れば、同じようなものです…ボクが、アラブの至宝と呼ばれるようになったのと、それと同じ、単純なものです…」


 「…」


 「…では、今日は、これで…」


 アムンゼンが、突然、頭を下げた…


 そして、私に頭を下げた後、武装した集団にも、ペコリと頭を下げた…


 それから、


 「…行くゾ…」


 と、一言、声をかけた…


 すると、すぐ、その声に呼応して、オスマンが、


 「…ハイ…叔父さん…」


 と、言って、アムンゼンの後を追って、歩き出した…


 目の前のサウジアラビア大使館に向けて、二人で、歩き出した…


 私とバニラは、その場に置いてきぼり…


 どうして、いいか、わからんかった…


 だから、残された二人で、顔を見合わせて、


 「…どうする?…」


 と、聞いた…


 二人とも、どうして、いいか、わからんかったからだ…


 が、


 しばらくすると、サウジアラビア大使館の職員らしきひとが、来て、


 「…こちらへ…」


 と、残された、私とバニラを、大使館内に、案内してくれた…


 大使館内の応接室に案内してくれた…


 そして、その応接室で、しばらく二人きりで、待っていると、今度は、サウジアラビア大使に連れられて、葉敬と、マリアが、戻って来た…


 「…今日は、有意義な時間を過ごせました…」


 と、葉敬…


 「…いえ、それは、こちらこそ…」


 と、サウジアラビア大使…


 二人とも、応接室のソファに座る、私とバニラの前で、握手して、別れた…


 そして、別れ際に、サウジアラビア大使は、私とバニラに向けて、片目をつぶって、ウィンクをした…


 きっと、葉敬とマリアの前では、あのリンの偽者を処刑するところを、見せたくなかったのだろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、葉敬が、


 「…実に、有意義な時間だった…」


 と、声を弾ませて、言った…


 「…これで、わが社も、サウジアラビアで、製品を販売するお墨付けを得たというと、おおげさだが、駐日サウジアラビア大使に知己を得たというのは、悪い話でも、なんでもない…あのアムンゼン君に感謝しなければ…」


 と、続けて言う…


 私とバニラは、お互い顔を見合わせ、どう答えて、いいか、わからんかった…


 だから、気を利かせたバニラが、


 「…そう、それは、良かったわね…葉敬…」


 と、相槌を打つと、葉敬が、


 「…良かったどころじゃないよ…とんでもなく、良かった…まさに、大収穫だ!…」


 と、喜びを爆発させた…


 そんな葉敬の様子を見て、私とバニラは、またも、互いに、顔を見合わせた…


 どう言っていいか、わからんかったからだ…


 だから、その話題から離れるために、機転を利かせたバニラが、今度は、娘のマリアに、


 「…どうだった?…」


 と、声をかけた…


 すると、マリアが、


 「…うん…美味しかった…」


 と、バニラに返した…


 「…美味しかった?…」


 と、バニラ…


 あまりにも、意外なマリアの返答だったからだ…


 マリアの返答を補完するように、葉敬が、


 「…サウジアラビア大使の方が、マリアに気を使って、ショートケーキを出して、くれたんだ…それを、マリアが、二個もたいらげてね…」


 と、嬉しそうに言う…


 六十歳近い葉敬にとっては、3歳のマリアは、孫に近い年齢…


 その年齢の娘だから、葉敬にとっては、可愛くて、仕方がないのだろう…


 まさに、目の中に入れても、痛くない…


 それほどの溺愛ぶりだからだ…


 「…それは、そうと、アムンゼン君は…」


 と、葉敬…


 私とバニラは、その葉敬の問いかけに、どう答えていいか、わからんかった…


 「…ぜひ、アムンゼン君に会って、礼を言いたいのだが…」


 と、葉敬は、呟く…


 「…アムンゼン君は、どこかな?…」


 と、さらに、葉敬が、続ける…


 私とバニラは、もう何度目か、わからないくらい、顔を見合わせた…


 どうして、いいか、わからんかったからだ…


 アムンゼンが、戻って来るか、どうかも、わからんかったからだ…


 だから、葉敬に、どう答えて、いいか、わからんかった…


 わからんかったのだ…


 が、


 私とバニラが、そんなふうに、当惑して困っていると、あろうことか、アムンゼンが、戻って来た…


 何事もなく、戻って来て、私たちの前に姿を現した…


 アムンゼンの姿を見るなり、葉敬が、


 「…どうしたんだね? …アムンゼン君?…」


 と、声をかけた…


 「…どこに行っていたんだね?…」


 葉敬の問いかけに、


 「…トイレです…」


 と、アムンゼンが、即答した…


 「…トイレ?…」


 と、葉敬…


 「…ボクは、子供だから、子供のボクには、この建物が、大きすぎて、どこにトイレがあるのか、わからなくて…」


 アムンゼンが、説明する…


 すると、その説明を聞いたマリアが、


 「…トイレの場所が、わからないなんて、バカみたい…アムンゼン…アンタ、ホントのお子ちゃまね…」


 と、アムンゼンを非難した…


 が、


 アムンゼンは、


 「…マリア…そんなこと、言うなよ…」


 と、言うだけだった…


 アムンゼンは、マリアの前では、頭が上がらない…


 マリアに惚れてるからだ…


 マリアに首ったけだからだ…


 外見が、3歳にしか、見えんから、子供に見えるが、ホントは、30歳のアムンゼンが、正真正銘の3歳のマリアに首ったけなのは、まさに、ロリコンそのものだが、嫌な感じは、まったくしない…


 なぜなら、それは、ピュアな愛情だから…


 ただ、アムンゼンが、マリアを好いている…


 それだけだからだ…


 30歳のアムンゼンが、ただ、3歳のマリアを好いている…


 それだけだからだ…


 そこにあるのは、愛情のみ…


 他になんの感情もないからだ…


 が、


 マリアは、


 「…だから、アムンゼン…アンタは、ダメなのよ…」


 と、容赦がなかった…


 「…ダメ? …なにが、ダメなの?…」


 「…さっき、ここの大使さんから、すごく、美味しいケーキをもらったの…でも、アムンゼン…アンタ…いなかったでしょ…」


 「…」


 「…だから、ダメなの …アンタ、いつも、肝心のときに、いないから、ダメなの!…」


 マリアが、容赦なく言った…


 容赦なく、アムンゼンを叱った…


 それを、見かねたバニラが、


 「…マリア、そんなことを、言うものじゃ、ありません!…」


 と、マリアを叱った…


 娘を叱った…


 「…でも、ママ…」


 と、マリア…


 「…いいんです…マリアさん…トイレを探していたボクが、悪いんです…」


 と、アムンゼン…


 アムンゼンが、そう言うと、バニラは、


 「…」


 と、なにも、言えんかった…


 「…」


 と、なにも、言えんかったのだ…


 アムンゼンの正体を知っているバニラだから、なにも、言えんかったのだ…


 そして、アムンゼンの正体を知らない葉敬が、能天気に、


 「…これでは、将来、アムンゼン君が、マリアと結婚したら、間違いなく尻に敷かれるゾ…」


 と、言い、陽気に笑った…


 私とバニラは、そんな葉敬の姿を見て、どう言っていいか、わからんかった…


 わからんかったのだ…


 だから、ただ、お互い、顔を見合わせて、黙った…


 どうして、いいか、わからんから、黙った…


 私にとって、天敵のバニラと、これほど、顔を見合わせるのは、これが、初めての体験だった(笑)…


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