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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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81/84

タイトル未定2026/08/24 03:43

私が、言うと、リンの偽者が、呆気に取られた表情をして、それから、すぐに、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 「…35歳のシンデレラ…オマエは、ホントに、天然と言うか…どこまでも、笑わせてくれる…」


 「…なんだと?…」


 「…自分の置かれた状況が、わかっているのか?…」


 リンの偽者が、笑いながら、言う…


 すると、だ…


 「…それを、言えば、アナタもですよ…」


 と、アムンゼンが、言った…


 アラブの至宝が、言った…


 「…なに?…どういう意味だ?…」


 「…周りを見て、御覧なさい…」


 アムンゼンが言う…


 私は、アムンゼンの言葉通り、周りを見た…


 すると、いつのまにか、私たちは、囲まれていた…


 武装した集団に囲まれていた…


 それを、見て、リンの偽者が、驚いた…


 私同様、驚いた…


 「…いつのまに?…」


 と、言って、驚いた…


 「…アナタが、闘っている間にですよ…」


 と、アムンゼン…


 「…闘っている最中だから、気付かなかっただけです…」


 そう言われると、リンの偽者は、


 「…」


 と、黙るしか、なかった…


 なにしろ、自分が、闘っている最中だ…


 周囲を見ている余裕なんて、あるはずが、なかったからだ…


 「…なんのために、ボクが、このサウジアラビア大使館に来たと思っているんですか?

 アナタを生け捕りにするためですよ…」


 「…私を生け捕り?…」


 「…そうです…そのために、サウジアラビア大使館に来ました…あらかじめ、この武装した連中の前にアナタを追い込むために…」


 アムンゼンが、説明すると、リンの偽者が、


 「…」


 と、黙った…


 一言も発しなかった…


 それから、だいぶ置いて、


 「…すべて、お見通しだってことか?…」


 と、笑った…


 自虐的に笑った…


 「…その通りです…」


 アラブの至宝が、言う…


 「…アナタが、私の命を狙いに来るのは、あらかじめ、わかっていました…」


 「…なに?…」


 「…どんなところにも、穴があります…」


 「…穴?…」


 「…裏切りですよ…アナタにボクを殺すように、命じた仲間にも、ボクに、その情報を教える人間が、いると、いうことです…」


 「…なに?…」


 「…つまりは、絶対的な安心感ですよ…」


 「…なんだと、安心感? どういう意味だ?…」


 「…アラブの至宝の名前は、アラブ世界で、有名です…アラブ世界で、絶対です…それが、安心感です…誰もが、仰ぎ見る存在です…仮に、そのアラブの至宝を殺しでも、したら、どうなると、思います…」


 「…どうなると、言うんだ?…」


 「…一族郎党、皆殺しです…」


 「…なに?…」


 「…アラブの至宝を手にかけた人間の血が繋がった縁者、すべて、殺されるでしょう…」


 「…」


 「…だから、アナタを選んだ…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…アナタは、イスラム教徒ではない…アラブ世界の住人では、ない…」


 「…」


 「…だから、アナタを選んだ…言葉は、悪いが、最初から、アナタは、捨て駒です…」


 「…捨て駒?…」


 「…いわば、最初から、捨てられた存在…アラブの至宝の暗殺を成功しようが、失敗しようが、関係ない…最初から、ゴミ同然に、捨てられた存在だからです…」


 「…」


 「…アナタに、ボクの暗殺を命じた存在は、安全圏で、今も、ぬくぬくと、しているでしょう…しかも、その人間は、アナタと、接触していない…」


 「…どういうことだ?…」


 「…アナタにボクの暗殺を命じた人間もまた、誰かに、ボクの暗殺を、命じられたに過ぎないということです…だから、自分は、絶対的な安全圏にいる…」


 「…」


 「…世の中、そういうものです…」


 アラブの至宝が、断言する…


 アムンゼンが、断言する…


 が、


 私は、ここに残った私たち3人を、見て、今さらながら、気付いた…


 ここに残った、私とバニラと、アムンゼンを見て、今さらながら、気付いた…


 アムンゼンの狙いに気付いた…


 葉敬とマリアを、ここから、立ち去らせた理由に、気付いた…


 きっと、葉敬には、自分の正体を知られたくないのだろう…


 だから、サウジアラビア大使に、命じて、サウジアラビア大使と、いっしょに、葉敬をここから、立ち去らせた…


 そして、マリア…


 マリアは、足手まといに、なると、思ったに違いなかった…


 マリアは、まだ3歳…


 このリンの偽者が、容易に人質に取れるからだ…


 だから、葉敬といっしょに、ここから、立ち去らせた…


 そういうことだろう…


 私は、あらためて、このアムンゼンの狙いに、気付いた…


 気付いたのだ…


 そして、そんなことを、考えていると、


 「…さあ、どうします?…」


 と、アムンゼンが、リンの偽者に、言った…


 「…仮に、今、アナタが、その拳銃で、ボクを撃っても、アナタが、拳銃で、ボクを撃った瞬間、この武装した連中が、アナタをハチの巣にします…アナタを殺します…」


 アムンゼンが、断言する…


 アラブの至宝が、断言する…


 そう言われると、リンの偽者も、困った様子だった…


 私たちに向けて、拳銃を構えては、いるが、発砲する気配がない…


 自分でも、どうして、いいか、わからない様子だった…


 おそらく、アラブの至宝の暗殺を請け負うぐらいだから、それなりのプロフェッショナルに違いない…


 だから、逃走経路を含め、あらかじめ、どう行動するか、考えていたに違いない…


 いわゆる、事前にシュミレーションをしたに違いない…


 しかしながら、今回のことは、想定外…


 あまりにも、呆気なく、自分の正体が、バレたものだから、どうして、いいか、わからんかったに違いない…


 シュミレーションというのは、あらかじめ、相手が、こう来たら、自分は、どうするか、考えることだからだ…


 あらかじめ、相手の動きを予測して、そのときどきの自分の対応策を考える…


 幾十もの対応策を考える…


 が、


 しかしながら、そのシュミレーションにない、行動を相手が、取った場合、自分が、どう行動すれば、よいのか、わからなくなる…


 それが、問題…


 一番の問題だからだ…


 だから、このリンの偽者は、悩んで、いるに、違いないからだ…


 すると、だ…


 アムンゼンが、


 「…さあ、どうします…」


 と、再度、リンの偽者に、迫った…


 「…ボクを撃ちますか? そして、彼らにハチの巣にされますか?…それとも、その銃を捨てて、投降しますか?…」


 アムンゼンが、選択を迫る…


 すると、だ…


 「…降参…」


 と、リンの偽者があっさり言って、銃を捨てた…


 「…私の負けだ…」


 リンの偽者が、言う…


 「…そうですか…」


 アムンゼンが、言って、リンの偽者を、今まさに撃たんとする、武装した連中に、目くばせした…


 「…では、ゆっくりと、こちらに歩いて来て、下さい…」


 アムンゼンが、指示する…


 リンの偽者は、その通りにした…


 ゆっくりと、私たちに、向かって歩いてきた…



 両手を挙げて、歩いてきた…


 私たちは、黙って、その様子を見守った…


 ジッと、黙って見守っていた…


 そして、直前にやって来た…


 と、同時に、リンの偽者が、素早く、動いた…


 小柄なアムンゼンに、覆いかぶさるように、襲いかかった…


 それは、一瞬…


 まさに、一周の出来事だった…


 私は、呆気に取られた…


 「…あっ!…」


 と、声を出す間もなかった…


 が、


 リンが、襲いかかると、同時に、銃声が、鳴った…


 リンの偽者が、銃殺されたのだ…


 アムンゼンの命令で、武装する軍団は、銃を下した者が、大半だったが、中には、降ろさない者も、いた…


 数人いた…


 その中の何人かが、リンの偽者を撃った…


 撃ったのだ…


 リンの偽者は、呆気なく、その場日に倒れた…


 まるで、お芝居を見ているように、あっさりと、倒れた…


 その様子を見た、アムンゼンが、一言…


 「…ありきたりですよ…」


 と、呟いた…


 「…投降するフリをして、ボクに、襲いかかるなんて、ありきたりすぎます…」


 が、


 アムンゼンが、感想を述べた相手は、なにも、言わんかった…


 すでに、生きているか、死んでいるのか、わからんかった…


 わからんかったのだ…


 私は、驚いて、声も出んかった…


 驚きすぎて、声も、出んかった…


 「…いつものことです…」


 ポツリとアムンゼンが、呟いた…


 悲しげに呟いた…


 「…こうなることは、わかっているのに、バカなことです…」


 アムンゼンが、続ける…


 私は、そんなアムンゼンの表情を見た…


 アラブの至宝の表情を見た…


 その顔に、恐怖は、なかった…


 ただ、あるのは、悲しみだけだった…


 ただただ、悲しみだけだった…


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