タイトル未定2026/08/24 03:43
私が、言うと、リンの偽者が、呆気に取られた表情をして、それから、すぐに、
「…プッ!…」
と、吹き出した…
「…35歳のシンデレラ…オマエは、ホントに、天然と言うか…どこまでも、笑わせてくれる…」
「…なんだと?…」
「…自分の置かれた状況が、わかっているのか?…」
リンの偽者が、笑いながら、言う…
すると、だ…
「…それを、言えば、アナタもですよ…」
と、アムンゼンが、言った…
アラブの至宝が、言った…
「…なに?…どういう意味だ?…」
「…周りを見て、御覧なさい…」
アムンゼンが言う…
私は、アムンゼンの言葉通り、周りを見た…
すると、いつのまにか、私たちは、囲まれていた…
武装した集団に囲まれていた…
それを、見て、リンの偽者が、驚いた…
私同様、驚いた…
「…いつのまに?…」
と、言って、驚いた…
「…アナタが、闘っている間にですよ…」
と、アムンゼン…
「…闘っている最中だから、気付かなかっただけです…」
そう言われると、リンの偽者は、
「…」
と、黙るしか、なかった…
なにしろ、自分が、闘っている最中だ…
周囲を見ている余裕なんて、あるはずが、なかったからだ…
「…なんのために、ボクが、このサウジアラビア大使館に来たと思っているんですか?
アナタを生け捕りにするためですよ…」
「…私を生け捕り?…」
「…そうです…そのために、サウジアラビア大使館に来ました…あらかじめ、この武装した連中の前にアナタを追い込むために…」
アムンゼンが、説明すると、リンの偽者が、
「…」
と、黙った…
一言も発しなかった…
それから、だいぶ置いて、
「…すべて、お見通しだってことか?…」
と、笑った…
自虐的に笑った…
「…その通りです…」
アラブの至宝が、言う…
「…アナタが、私の命を狙いに来るのは、あらかじめ、わかっていました…」
「…なに?…」
「…どんなところにも、穴があります…」
「…穴?…」
「…裏切りですよ…アナタにボクを殺すように、命じた仲間にも、ボクに、その情報を教える人間が、いると、いうことです…」
「…なに?…」
「…つまりは、絶対的な安心感ですよ…」
「…なんだと、安心感? どういう意味だ?…」
「…アラブの至宝の名前は、アラブ世界で、有名です…アラブ世界で、絶対です…それが、安心感です…誰もが、仰ぎ見る存在です…仮に、そのアラブの至宝を殺しでも、したら、どうなると、思います…」
「…どうなると、言うんだ?…」
「…一族郎党、皆殺しです…」
「…なに?…」
「…アラブの至宝を手にかけた人間の血が繋がった縁者、すべて、殺されるでしょう…」
「…」
「…だから、アナタを選んだ…」
「…どういう意味だ?…」
「…アナタは、イスラム教徒ではない…アラブ世界の住人では、ない…」
「…」
「…だから、アナタを選んだ…言葉は、悪いが、最初から、アナタは、捨て駒です…」
「…捨て駒?…」
「…いわば、最初から、捨てられた存在…アラブの至宝の暗殺を成功しようが、失敗しようが、関係ない…最初から、ゴミ同然に、捨てられた存在だからです…」
「…」
「…アナタに、ボクの暗殺を命じた存在は、安全圏で、今も、ぬくぬくと、しているでしょう…しかも、その人間は、アナタと、接触していない…」
「…どういうことだ?…」
「…アナタにボクの暗殺を命じた人間もまた、誰かに、ボクの暗殺を、命じられたに過ぎないということです…だから、自分は、絶対的な安全圏にいる…」
「…」
「…世の中、そういうものです…」
アラブの至宝が、断言する…
アムンゼンが、断言する…
が、
私は、ここに残った私たち3人を、見て、今さらながら、気付いた…
ここに残った、私とバニラと、アムンゼンを見て、今さらながら、気付いた…
アムンゼンの狙いに気付いた…
葉敬とマリアを、ここから、立ち去らせた理由に、気付いた…
きっと、葉敬には、自分の正体を知られたくないのだろう…
だから、サウジアラビア大使に、命じて、サウジアラビア大使と、いっしょに、葉敬をここから、立ち去らせた…
そして、マリア…
マリアは、足手まといに、なると、思ったに違いなかった…
マリアは、まだ3歳…
このリンの偽者が、容易に人質に取れるからだ…
だから、葉敬といっしょに、ここから、立ち去らせた…
そういうことだろう…
私は、あらためて、このアムンゼンの狙いに、気付いた…
気付いたのだ…
そして、そんなことを、考えていると、
「…さあ、どうします?…」
と、アムンゼンが、リンの偽者に、言った…
「…仮に、今、アナタが、その拳銃で、ボクを撃っても、アナタが、拳銃で、ボクを撃った瞬間、この武装した連中が、アナタをハチの巣にします…アナタを殺します…」
アムンゼンが、断言する…
アラブの至宝が、断言する…
そう言われると、リンの偽者も、困った様子だった…
私たちに向けて、拳銃を構えては、いるが、発砲する気配がない…
自分でも、どうして、いいか、わからない様子だった…
おそらく、アラブの至宝の暗殺を請け負うぐらいだから、それなりのプロフェッショナルに違いない…
だから、逃走経路を含め、あらかじめ、どう行動するか、考えていたに違いない…
いわゆる、事前にシュミレーションをしたに違いない…
しかしながら、今回のことは、想定外…
あまりにも、呆気なく、自分の正体が、バレたものだから、どうして、いいか、わからんかったに違いない…
シュミレーションというのは、あらかじめ、相手が、こう来たら、自分は、どうするか、考えることだからだ…
あらかじめ、相手の動きを予測して、そのときどきの自分の対応策を考える…
幾十もの対応策を考える…
が、
しかしながら、そのシュミレーションにない、行動を相手が、取った場合、自分が、どう行動すれば、よいのか、わからなくなる…
それが、問題…
一番の問題だからだ…
だから、このリンの偽者は、悩んで、いるに、違いないからだ…
すると、だ…
アムンゼンが、
「…さあ、どうします…」
と、再度、リンの偽者に、迫った…
「…ボクを撃ちますか? そして、彼らにハチの巣にされますか?…それとも、その銃を捨てて、投降しますか?…」
アムンゼンが、選択を迫る…
すると、だ…
「…降参…」
と、リンの偽者があっさり言って、銃を捨てた…
「…私の負けだ…」
リンの偽者が、言う…
「…そうですか…」
アムンゼンが、言って、リンの偽者を、今まさに撃たんとする、武装した連中に、目くばせした…
「…では、ゆっくりと、こちらに歩いて来て、下さい…」
アムンゼンが、指示する…
リンの偽者は、その通りにした…
ゆっくりと、私たちに、向かって歩いてきた…
両手を挙げて、歩いてきた…
私たちは、黙って、その様子を見守った…
ジッと、黙って見守っていた…
そして、直前にやって来た…
と、同時に、リンの偽者が、素早く、動いた…
小柄なアムンゼンに、覆いかぶさるように、襲いかかった…
それは、一瞬…
まさに、一周の出来事だった…
私は、呆気に取られた…
「…あっ!…」
と、声を出す間もなかった…
が、
リンが、襲いかかると、同時に、銃声が、鳴った…
リンの偽者が、銃殺されたのだ…
アムンゼンの命令で、武装する軍団は、銃を下した者が、大半だったが、中には、降ろさない者も、いた…
数人いた…
その中の何人かが、リンの偽者を撃った…
撃ったのだ…
リンの偽者は、呆気なく、その場日に倒れた…
まるで、お芝居を見ているように、あっさりと、倒れた…
その様子を見た、アムンゼンが、一言…
「…ありきたりですよ…」
と、呟いた…
「…投降するフリをして、ボクに、襲いかかるなんて、ありきたりすぎます…」
が、
アムンゼンが、感想を述べた相手は、なにも、言わんかった…
すでに、生きているか、死んでいるのか、わからんかった…
わからんかったのだ…
私は、驚いて、声も出んかった…
驚きすぎて、声も、出んかった…
「…いつものことです…」
ポツリとアムンゼンが、呟いた…
悲しげに呟いた…
「…こうなることは、わかっているのに、バカなことです…」
アムンゼンが、続ける…
私は、そんなアムンゼンの表情を見た…
アラブの至宝の表情を見た…
その顔に、恐怖は、なかった…
ただ、あるのは、悲しみだけだった…
ただただ、悲しみだけだった…




