35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 80
「…アラブの至宝?…オマエが?…」
執拗に、オスマンを攻撃する、リンが、攻撃を止め、絶句した…
絶句して、驚愕した表情で、アムンゼンを見た…
アラブの至宝を見た…
そして、笑った…
実に、愉快そうに、笑った…
爆笑した…
それから、
「…たしかに、バレないはずだ…アラブの至宝と呼ばれるほどの、大物の正体が、この子供とは?…」
と、言って、笑った…
「…まさに、笑い話だ…」
と、言って、愉快そうに、笑った…
すると、アムンゼンが、
「…子供では、ありませんよ…」
と、ゆっくりと、言った…
「…なに?…」
「…子供では、ありません…30歳の大人です…」
「…なんだと?…」
「…小人症なんです…だから、生まれつき、カラダが、大きくなれない…」
「…」
「…でも、アナタが、本物のリンでないことは、すぐにわかりました…」
「…なんだと? …どうして、だ?…」
「…言葉に深みがない…」
「…どういう意味だ?…」
「…アナタが、ボクらにした苦労話…全然、ボクに響かないんですよ…」
「…なに?…」
「…まるで、素人のお芝居です…」
「…なんで、オマエにそれが、わかる?…」
「…ボクは、このカラダです…人一倍、苦労して、この三十年間、生きてきました…そのおかげで、他人の悲しみは、簡単にわかる…それが、ウソか、ホントか、簡単に見抜くことが、できる…」
「…」
「…アナタの言葉に、重みはありません…ホントに、苦労したものが、語る重みがありません…だから、ウソだと、わかりました…」
「…」
「…アナタが、どうしても、アラブの至宝に会いたかった理由…それは、アラブの至宝を暗殺するためでしょ?…」
「…」
「…ボクには、敵が多い…アラブ世界の至る所に、敵がいます…ボクが、今、日本に逃れているのも、それが、理由の一つ…」
「…」
「…でも、まさか、アラブ世界から、わざわざ、この日本まで、ボクを殺しにやって来るとは、思いませんでした…ボクの誤算でした…」
アラブの至宝が言う…
厳かに、言う…
それは、まるで、ローマ法王が、民衆の前で、話すように、威厳があった…
いつも、見ている、アムンゼンとは、違って、威厳があった…
だから、私は、言ってやった…
アムンゼンに向かって言ってやった…
「…アムンゼン…オマエ、偉いんだな…」
と、言ってやった…
が、
反応が、なかった…
アムンゼンが、なにも、言わんかったからだ…
「…おい…アムンゼン…どうして、なにも、言わんのさ…」
私が、言うや、いなや、リンが、短刀を持って、私に近寄った…
いや、
近寄ったのでは、ない…
私を短刀で、刺そうとしたのだ…
が、
この矢田トモコは、運動神経が、抜群…
なんでも、できる女だ…
リンの攻撃をスラリと、交わした…
と、言いたいところだが、実は、違う…
実際には、慌てて、逃げ出したのだ(笑)…
身長180㎝と、大柄なバニラの背後に、逃げ出したのだ…
大柄なバニラを盾にしたのだ…
「…ウソ?…」
リンが、驚いた…
私の動きが、あまりにも、速いので、驚いたのだろう…
だから、私は、言ってやった…
リンに言ってやった…
「…私は、逃げ足だけは、速いのさ…」
と、言ってやった…
「…逃げ足だけは、誰にも、負けないのさ…」
と、さらに、付け足して、言ってやった…
すると、どうだ?
リンが、絶句した…
「…」
と、絶句して、私を見た…
いや、
リンだけでは、ない…
リンと闘っている、オスマンも、アムンゼンも、呆れた表情で、私を見た…
そして、私が、盾にしている、大柄なバニラが、私を振り返って、
「…お姉さん…今は、冗談を言うときじゃ…」
と、私に言った…
23歳のバニラが、35歳の、この矢田をたしなめるように、言ったのだ…
私は、頭に来た…
「…冗談なんかじゃないさ!…」
と、激怒して、言ってやった…
「…事実さ…真実さ…」
と、言ってやった…
すると、だ…
呆気に取られた表情をしていたリンが、突然、笑い出した…
いかにも、愉快そうに、笑い出した…
「…なんだ? …リン…その笑いは?…」
私は、怒った…
怒ったのだ…
「…35歳のシンデレラ…オマエが、ひとに好かれるのは、わかる…実に、わかる…」
と、笑い出した…
「…平民のオマエが、大富豪の跡取り息子と結婚できたのも、わかる…」
と、言った…
それから、
「…どうして、私が、偽者だと、わかった…」
と、リンが、あらためて、アムンゼンに聞いた…
アラブの至宝に聞いた…
すると、アラブの至宝が、呆気なく、言った…
「…リンは、真似しやすいんですよ…」
と、あっさりと、言った…
「…真似しやすい?…」
「…そうです…リンは、派手なメイクをして、派手な、チアガールの姿で、踊る…でも、素顔は、地味な女です…」
「…素顔は、地味な女…本物のリンを知っているのか?…」
「…ボクを誰だと、思っているんです…」
アムンゼンが、胸を張る…
「…アラブの至宝ですよ…当然、面識があります…」
「…」
「…そして、アナタの背後にいる人物たちが、すでに、リンをこの世から、抹殺したこともね…」
「…なんだと? …抹殺?…」
私は、思わず、叫んだ…
ホントは、叫んでは、いかんところだったかも、しれんが、思わず、叫んだ…
すると、アムンゼンが、私を見た…
この矢田を見た…
「…矢田さんが、ボクの家で、リンをモチーフにした絵を見たでしょ? …あれは、リンが、殺されたのを、知ったので、亡くなったリンをモチーフにして、天女の絵を描いたんです…」
「…なんだと?…」
私は、言いながら、アムンゼンの豪邸を訪れたとき、リンを天女に見立てた絵を見たことを、思い出した…
「…リンを天女に描くことで、リンが、あの世でも、幸せになることを、祈ったんです…」
アムンゼンが、言う…
アラブの至宝が、言う…
アムンゼンの、その言葉を聞いて、
「…知ってた?…」
と、リンが、呟いた…
いや、
リンに変装した刺客が、呟いた…
その声に呼応するように、
「…知ってました…」
と、アムンゼンが、冷静に告げた…
「…ですから、誰が、リンになりすまして、ボクに近づくか、考えてました…」
「…」
「…しかし、考えましたね…最初は、派手なメイクで現れる…そして、次は、一転して、地味なオタクファッション…でも、共通点があります…」
「…共通点?…」
と、リン…
「…そうです…派手なメイクも、地味なオタクファッションも、同じ…」
「…なにが、同じなんだ?…」
「…素顔を隠しやすいことが、同じだと、言いたいんですよ…」
アラブの至宝が、断言する…
「…つまり、変装しやすい…リンになりすましやすい…」
「…」
「…本物のリンは、苦労人ですよ…リンが、台湾の政界や、財界の枕と呼ばれたことも、あながち的外れのことじゃない…」
「…」
「…でも、ボクは、好きでした…苦労の末に成功する人間が、好きでした…」
「…どうしてだ? …アラブの至宝と呼ばれるほどの、オマエが、どうして?…」
リンが、聞く…
「…このカラダだからですよ…同病相憐れむでは、ないですが、ボクは、カラダが、劣っています…だから、どこか、恵まれない境遇の人間に心が、惹かれます…ネットで、リンを知り、知り合ったのも、それが、きっかけです…」
「…」
「…このオスマンが、ラーメン屋で、チャーシューを食べている動画がアップされ、主に、アラブ世界で、見られました…アラブ世界で、再生回数が、ダントツです…それは、そうでしょう…サウジアラビアの王族で、庶民の女性から、圧倒的な人気がある、オスマンが、ラーメン屋で、チャーシューを食べているんです…イスラム教徒が、禁止する肉食を食べているんです…アラブ世界で、話題になって、当然です…」
「…」
「…でも、迂闊でしたね…その動画が、話題になり過ぎた…アナタ方としては、ボクから、ボディーガードのオスマンを遠ざけるために、あの動画を、アップしたのかも、しれませんが、あの動画が、話題になり過ぎたことで、誰が、あの動画をアップしたのか、ボクは、疑問を持った…」
アムンゼンが、ゆっくりと、説明する…
リンの偽者に、説明する…
そして、アムンゼンの説明を聞きながら、突然、リンの偽者が、
「…サウジアラビアの王族のオスマンをボディーガードに? …だとすれば、ひょっとして、アラブの至宝…オマエの正体は、サウジアラビアの王族?…」
と、言った…
驚愕の表情で、言った…
「…アナタにそれを、知る必要は、ありません…」
アムンゼンが、冷徹に告げる…
そのときだ…
リンの偽者が、今度は、拳銃を取り出した…
私は、ビックリした…
ビックリしたのだ…
「…オマエ…それは…」
と、私は、言ってやった…
「…それは、反則さ…」
と、言って、やった…
「…反則?…」
と、リン…
「…そうさ…それは、しちゃ、いかんことさ…」
私は、言ってやった…
すると、だ…
「…こんなときに、反則もなにも、ありはしないさ…」
と、リンの偽者が、私の口調を真似て、言った…
語尾の最後に、
…さ…
を、つけて、私の口調を真似たのだ(怒)…
…万事休す!…
私の頭の中に、そんな言葉が、浮かんだ…




