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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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79/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 79

これは、驚いた…


 驚いたのだ…


 が、


 驚いたのは、私だけではない…


 葉敬も、バニラもまた、同じだった…


 驚かないのは、アムンゼンだけ…


 アラブの至宝だけだった…


 「…これで、もう逃れることは、できません…」


 と、アラブの至宝が、意味深に言う…


 「…袋のネズミです…」


 と、アムンゼンが、続ける…


 「…袋のネズミって?…」


 と、葉敬…


 「…それは、どういう意味だい?…」


 と、聞いた…


 すると、アムンゼンが、


 「…ここは、サウジアラビア大使館の敷地内…治外法権です…日本の法律は、及びません…」


 「…」


 「…だから、袋のネズミ…ひとたび、他国の大使館の敷地内に入れば、日本の法律は、及ばない…日本人もまた同じ…日本にいても、各国の大使館の敷地内に入れば、そこは、日本ではない…日本人もまた、外国にいるのと、同じ…だから、各国の大使館の中にいる人間から、見れば、袋のネズミです…」


 「…でも、それは、大使館の中から、見れば、だろ?…」


 葉敬が、疑問を呈す…


 「…それに、それは、まるで、犯罪者に言うようなセリフだ…この中に、犯罪者はいないよ…アムンゼン君…」


 葉敬が、アムンゼンをたしなめるように、言う…


 すると、アムンゼンが、


 「…そうでした…袋のネズミとは、言い過ぎでした…」


 と、言って、頭を下げた…


 が、


 一人だけ、そのアムンゼンの言葉に動揺したものが、いる…


 他でも、ない、リンだった…


 明らかに、緊張した様子だった…


 私は、その様子を、見て、


 「…どうした? …リン?…」


 と、言って、やった…


 すると、すぐに、


 「…なんでも、ありません…」


 と、リンが返した…


 「…なんでもない?…」


 「…そう、なんでも、ありません…」


 リンが繰り返す…


 が、


 この


 「…なんでもない…」


 という言葉は、この矢田の十八番…


 この矢田が、困ったときや、しらを切るときに、使う十八番だった(笑)…


 それを、このリンに使われた…


 この十八番をリンに盗られた…


 …うーむ…


 私としても、なんと言っていいか、わからんかった…


 わからんかったのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、私たちの乗るロールスロイスのドアをコンコンと、叩く音がした…


 私は、驚いた…


 まさか、このロールスロイスのドアを叩くものが、いるとは、思わんかったからだ…


 そして、それは、車内の誰もが、同じだった…


 私のみならず、葉敬もバニラも同じだった…


 私と同じように、驚いた顔をしていた…


 「…一体、誰が?…」


 葉敬が、口を出した…


 たしかに、コンコンとドアを叩く音がする方の窓の外を見ると、誰かいる…


 葉敬は、迷わず、ドアを開けて、ロールスロイスの中から、外へ出た…


 すると、外には、大きな男が立っていた…


 私は、ロールスロイスの中から、その男を見た…


 そして、その男の傍らには、見慣れた顔の男もいた…


 オスマンだった…


 さっきから、何度も、話題になっていた、オスマンだった…


 外に出た葉敬に対して、大柄な男が、


 「…サウジアラビア王国駐日大使を拝命しているアブドルと申します…」


 と、日本語で、挨拶をした…


 しかも、流暢…


 流暢な日本語だった…


 「…これは、これは、丁寧なご挨拶…痛み入ります…」


 と、今度は、葉敬が、頭を下げる…


 そして、サウジアラビア大使に頭を下げながらも、傍らにいる、オスマンの存在に気付いた様子だった…


 顔を上げた葉敬が、


 「…アナタは…」


 と、言って、オスマンを見たからだ…


 その様子をロールスロイスの中から、見ていた私たちだったが、ふいに、アムンゼンが、


 「…さあ、外に出ましょう…」


 と、言った…


 「…外へ?…」


 と、私。


 「…だって、目的のサウジアラビア大使館に着いたでしょ?…」


 アムンゼンが、言う…


 そう言われると、言葉もなかった…


 私たちは、アムンゼンの言う通り、全員、ロールスロイスの中から、降りた…


 全員というのは、私、バニラ、マリア、リンの4人…


 ロールスロイスを運転する運転手には、


 「…守衛の方に、聞いて、このロールスロイスを停める場所を聞いて下さい…」


 と、アムンゼンが、告げた…


 そして、アムンゼンが、戻ると、大使に、


 「…葉敬さんと、大使閣下は、お茶でも、飲んで、ゆっくりしたら、どうですか? マリアも連れて行って下さい…」


 と、突然、言った…


 言われた、大使は、キョトンとした顔になった…


 が、


 すぐに、大使の傍らに立つ、オスマンが、


 「…大使閣下…あの坊やの言う通りに…」


 と、大使の耳元で、囁くように、言った…


 途端に、大使が、


 「…承知しました…」


 と、恭しく、オスマンに頭を下げた…


 そして、すぐに、


 「…葉敬さん…さあ、行きましょう…」


 と、大使が、葉敬を促した…


 すると、オスマンが、


 「…マリアさんも…」


 と、葉敬に告げる…


 「…おお…そうだった…」


 葉敬は、言う…


 そして、葉敬とマリア、駐日サウジアラビア大使の3人が、サウジアラビア大使館の建物に向かって、歩き出した…


 残された、私とバニラ、リンの3人は、その後ろ姿を、見ていた…


 いや、


 3人では、ない…


 アムンゼンとオスマンを含めた5人だ…


 この5人が、揃って、在駐日大使と葉敬、マリアの3人が、歩いていく、後ろ姿を、見ていた…


 その3人の後ろ姿を見ながら、これから、どうするのか?


 私は、考えた…


 私は、思った…


 そして、それは、バニラも、同じだった…


 明らかに、戸惑った顔をしていた…


 傍らに、歩いてきた、オスマンに向かって、バニラが、


 「…これは、一体、どういう?…」


 と、聞いた…


 明らかに、戸惑った表情で、聞いた…


 そのバニラのカラダをオスマンが、いきなり、掴んだ…


 バニラの両肩を掴んだのだ…


 「…下がってろ!…」


 と、強く短い口調で、言って、まるで、バニラを突き飛ばすように、カラダを動かした…


 「…オスマン…なにを?…」


 バニラが、言い終えるか、否や、リンが、オスマン目掛けて、突っ込んだ…


 私は、一瞬、なにが、起こったか、わからんかった…


 それほど、一瞬のことだったからだ…


 が、


 ふと、見ると、リンは、短刀を持っていた…


 手に、ナイフのようなものを、持っていた…


 …なんだ?…


 …これは?…


 私は、思ったが、声が出んかった…


 あまりにも、一瞬のことだったからだ…


 だから、声も出んかった…


 が、


 オスマンは、リンの持つ短刀から、あっさり、身をかわした…


 さすがは、オスマン!…


 私は、心の中で、拍手する気分だったが、リンの攻撃は、それで、おしまいでは、なかった…


 当然、次の攻撃があった…


 オスマンが、あっさりと、短刀を、かわすと、次に、すぐに、蹴りを入れた…


 それも、見るからに、格闘技の心得のある、蹴りだった…


 誰が、見ても、素人ではない…


 それは、素人の私の目にも、明らかだった…


 が、


 その蹴りも、オスマンに通じなかった…


 あっさりと、かわされた…


 その様子を、驚きの目で、私とバニラが、見ていると、


 「…離れて下さい…」


 と、いう声がした…


 声の主は、アムンゼンだった…


 「…あの女は、危険です…」


 アムンゼンが、告げる…


 すると、間を置かず、


 「…あの女の正体は、なに?…」


 と、バニラが、聞く…


 「…ボクを殺す刺客ですよ…」


 アムンゼンが、あっさりと、言う…


 「…ボクには、敵が多い…至る所、敵だらけと、言っても、過言ではありません…」


 アムンゼンの言葉にバニラが、絶句した…


 「…」


 と、言葉もなかった…


 「…どうして、わかったんだ?…」


 私は、聞いてやった…


 「…それは、オスマンの動画です…」


 「…オスマンの動画?…」


 「…そうです…オスマンが、ボクと矢田さんと3人で、ラーメンを食べたでしょ?…」


 「…食べたさ…」


 「…それを、誰かが、動画にアップした…」


 「…それが、どうした?…」


 「…矢田さんは、ご存じないと、思いますが、オスマンは、サウジアラビアで、結構、有名なんです…」


 「…オスマンが?…」


 「…長身で、イケメン…おまけに、王族です…だから、サウジアラビアで、人気がある…とりわけ、女性の間で、日本のアイドル並みの人気がある…」


 私は、それを、聞いて、思い出した…


 このアムンゼンが、かつて、国王にならんと、欲して、クーデターを企てたとき、このオスマンを国王にして、自らは、陰で、このオスマンを操ろうとしたことを、思い出したのだ…


 それは、このオスマンが、サウジアラビアの女性の間で、日本で、言えば、アイドル並みの人気があるからだと、今さらながら、気付いた…


 だから、このオスマンを国王にすれば、人気が出て、国民から、支持されると、このアムンゼンは、思ったに違いなかった…


 「…それで、このオスマンを陥れるために、何者かが、あの動画をネットにアップした…」


 「…なんだと?…」


 「…肉食は、サウジアラビア…いえ、イスラム教では、禁止です…でも、あの動画では、オスマンは、うまそうに、分厚いチャーシューを食べていた…あの動画を見れば、オスマンに批判が、出るのは、当然です…」


 「…でも、なぜ、オスマンに? オスマンに、そんな真似を?…」


 バニラが、口を挟む…


 「…おそらくは、オスマンの動きを封じるため…」


 「…オスマンの動きを封じるって?…どういうこと?…」


 「…オスマンが、普段は、誰かの護衛をしているのを、かぎつけた連中が、いるんです…」


 「…誰かの護衛って、誰の?…」


 「…アラブの至宝と呼ばれる、アラブ世界の陰の実力者…すなわち、ボクの護衛であることを、見抜いた連中が、いるんです…」


 アムンゼンが、言った…


 アラブの至宝、そのひとが、言った…


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