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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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78/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 78

すると、だ…


 この様子を見た葉敬が、


 「…どうしたの? …リンさんは、イケメンが、嫌いなの?…」


 と、優しく、聞いた…


 「…それとも、頭がいい男の方が、いいかな? あるいは、金持ちの男の方が、いいかな?…」


 葉敬が、笑って、聞く…


 もちろん、冗談だ…


 が、


 葉敬が、冗談を言っても、リンは、なにも、言わんかった…


 だから、ますます、皆の疑念が、深まった…


 深まったのだ…


 すると、ようやく、リンが、口を開いた…


 「…イケメンは、嫌いじゃない…でも、どんなイケメンかに、よる…」


 と、ポツリと呟いた…


 「…どんなイケメンかに、よるって?…」


 葉敬が、聞く…


 「…イケメンでも、色々タイプが、あるでしょ? これは、美人も同じ…可愛かったり、バニラさんのように、完璧な美人だったり…」


 いきなり、名前を出されたバニラは、驚いた…


 そして、すぐに、はにかんだ表情で、


 「…ありがとう…」


 と、言った…


 このバニラは、たしかに、美人…


 完璧な美人だからだ…


 おまけに、若い…


 23歳と若い…


 だから、若さがある…


 この35歳の矢田と違って、若さが、ある…


 そして、それは、このリンも同じ…


 同じだ…


 なぜなら、このリンもまた三十代前半だからだ…


 だから、バニラが、羨ましいのかも、しれん…


 バニラの若さが、羨ましいのかも、しれん…


 それに、バニラは白人…


 私やリンのように、アジア人ではない…


 だから、顔の彫りが、深い…


 まるで、彫刻で、顔を刻んだように、彫りが、深い…


 だから、余計に完璧に見える…


 完璧な美人に見える…


 が、


 バニラは、バカだ(笑)…


 中身は、空っぽだ…


 バカ、バニラだ…


 顔は、いいが、中身は、なにもない…


 完璧なまでに、なにもない…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…オスマンさんって。どんなひと?…」


 と、リンが、聞いた…


 直球で、聞いた…


 「…どんなひとって?…」


 と、バニラ…


 「…女のひとでも、色々なタイプの美人が、いるように、イケメンでも、色々なタイプのイケメンが、いるでしょ?…」


 リンが言うと、バニラが、


 「…それも、そうね…」


 と、言ってから、少し考えて、自分のスマホを取り出した…


 「…これが、オスマン…」


 と、言って、オスマンの写ったスマホの画面を見せた…


 「…これが、オスマンさん?…」


 リンは、言うなり、ジッと、スマホの画面を食い入るように見た…


 まるで、親の仇か、あるいは、かつての、恋人か…


 とにかく傍から見ても、熱心に、オスマンの写真を見た…


 だから、私も、細い目を、さらに細くして、その写真を見た(笑)…


 スマホに映ったオスマンの写真を見た…


 それは、まるで、スターか、なにかのようだった…


 長身で、イケメン…


 サウジアラビア出身だから、肌は、浅黒いが、それが、かえって、精悍な雰囲気を醸し出した…


 余計に男らしい雰囲気を出した…


 ルックスもいい…


 だから、このリンが、見とれるのが、わかった…


 リンが、ジロジロと穴の空くほど、この写真のオスマンを見るのが、わかった…


 だから、


 「…どうだ? いい男だろ?…」


 と、私は、言ってやった…


 「…いい男?…」


 と、リン…


 「…そうさ…このオスマンは、背が高く、顔もいい…きっと、サウジアラビアの王族でも、一、二を争うイケメンに違いないさ…」


 私が、言うと、リンが、


 「…お姉さん…オスマンさん以外に、サウジアラビアの王族のひとを知っているの?…」


 と、聞いた…


 「…知らんさ…」


 「…だったら、どうして?…」


 「…簡単さ…」


 「…簡単?…」


 「…そうさ…オスマンは、イケメンさ…おまけに、背も高い…そんな男が、どこの世界でも、ウジャウジャいるはずがないさ…サウジアラビアの王族だって、同じだろ?…」


 私は、言ってやった…


 自信を持って、言ってやった…


 すると、だ…


 それに、追い打ちをかけるとでも、言えば、いいのか、アムンゼンが、


 「…それは、矢田さんの言う通りですよ…」


 と、口を挟んだ…


 「…エッ?…」


 と、リン…


 「…オスマンさんは、きっと、サウジアラビアの王族の中でも、一、二を争うイケメンだと、思います…」


 「…どうして、坊やが、知っているの?…」


 「…ボクの両親は、オスマンさんと親しくさせていただいていて、オスマンさん繋がりで、他の王族の方とも、面識があるんです…だから、他の王族の方に、そう言われたみたいです…」


 「…ありがとう…坊やは、なんでも、知っているのね…」


 「…」


 「…きっと、坊やも、後二十年も経てば、この写真のオスマンさんのように、イケメンになると、思うわ…」


 「…ありがとうございます…」


 アムンゼンが、礼を言った…


 そして、そんなやり取りを続けている間に、クルマが、サウジアラビア大使館に到着した…


 到着したのだ…


 私は、どうして、いいか、わからんかった…


 これは、車内の誰もが、同じ…


 同じだった…


 葉敬ですら、どうして、いいか、わからんかった…


 いかに、葉敬でも、サウジアラビア大使館に顔が、利くわけでは、ないからだ…


 葉敬は、何度も言うように、台湾では、教科書に載るほどの立志伝中の人物…


 一代で、台湾を代表する企業、台北筆頭を創業した、成功者だ…


 しかしながら、いかに、台湾で、知る人のいないくらい成功した有名人の葉敬でも、サウジアラビア大使館で、顔が、利くはずがない…


 いかに、葉敬でも、サウジアラビア大使館に顔パスで、入れるわけがなかった…


 だから、どうするのか?


 悩んだ…


 ここから、どうするのか?


 悩んだのだ…


 すると、だ…


 アムンゼンが、いきなり、


 「…ちょっと、行ってきます…」


 と、言って、クルマから、降りようとした…


 「…アムンゼン君…どうするつもりだい?…」


 葉敬が、聞く…


 当たり前だった…


 ただ、アムンゼンは、


 「…ボクに任せて下さい…」


 と、だけ、言って、ロールスロイスから、降りた…


 そして、ひとりだけ、サウジアラビア大使館の守衛所に向かって、歩いて行った…


 私は、それを、ロールスロイスの中から、見ていた…


 いや、


 私だけではない…


 車内の誰もが、どうするのか、と、気になって、窓の中から、アムンゼンを見ていた…


 3歳のガキにしか、見えん、アムンゼンを見ていた…


 やがて、アムンゼンが、守衛になにか、言い、守衛所の中に入った…


 それから、待つこと、五分…


 いや、


 十分以上は、優に経って、アムンゼンが、戻って来た…


 そして、ロールスロイスの中に、戻り、


 「…大丈夫です…中に入れます…」


 と、告げた…


 「…どういうことだね?…アムンゼン君?…」


 葉敬が、聞く…


 「…オスマンさんの写真を見せたら、顔パスでした…大使館にも、オスマンさんの威光は、あるようです…」


 「…大使館にオスマンさんの威光が?…」


 葉敬が、驚く…


 「…オスマンさんと、いうのは、それほど、偉い方なのか?…」


 葉敬が、感動するように、言う…


 私は、半信半疑だった…


 このアムンゼンが、どこまで、本当のことを言ったのか?


 半信半疑だった…


 そして、それは、アムンゼンの正体を知っている、バニラも、また同じだった…


 怪訝そうな表情で、アムンゼンを見ていた…


 が、


 葉敬は、そんなことは、少しも考えん様子だった…


 その証拠に、運転手に、


 「…このまま、サウジアラビア大使館に入ってくれ…」


 と、命じた…


 正直、運転手も、


 …ホントに、大丈夫か?…


 と、内心、疑問に感じたに違いないが、葉敬に言われた通り、クルマを前に進めた…


 そして、クルマが、ロールスロイスだったからだろうか?


 サウジアラビア大使館の前に行っても、守衛が、どいて、すんなり、中に入れた…


 私は、唖然とした…


 正直、ビックリした…


 このアムンゼンが、顔を出しただけで、サウジアラビア大使館に入れるとは、思わんかったからだ…


 このアムンゼンが、アラブの至宝と呼ばれる、お偉いさんであることは、十分、承知している…


 が、


 それは、わかっているが、このアムンゼンの権威を見たのは、アムンゼンが、住む、あの豪邸や、以前、このアムンゼンと、マリアの通うセレブの保育園で、大勢の部下に、このアムンゼンが、指示を出した姿を見たときだけだった…


 だから、このアムンゼンが、日本のサウジアラビア大使館に、簡単に顔パスで、入れることは、驚きだった…


 わかってはいるが、驚きだった…


 これは、父親が、大きな会社で、部長や、本部長など、お偉いさんであるときも、また同じ…


 同じだ…


 子供は、父親が、会社で、偉いことは、知っているが、実際に会社に行ってみて、大勢の部下が、いるのを、見て、初めて、父親が、偉いと思うのと、同じだ…


 父親が、会社で、偉いのは、わかっているが、実際に、見てみないと、イマイチ、ピンと来ないものだからだ…


 それと、同じだ…


 私たちの乗ったロールスロイスは、ゆっくりと、サウジアラビア大使館の敷地の中に入った…


 そして、サウジアラビア大使館の敷地の中に入るということは、ここは、日本ではない…


 ここは、サウジアラビア王国だ…


 日本にある、各国の大使館の敷地内は、皆、その国と同じ…


 アメリカ大使館の敷地内は、アメリカの国土…


 日本ではない…


 それと、同じだ…


 私が、そんなことを、考えていると、私たちの乗るロールスロイスが、サウジアラビア大使館の敷地内に入った途端、


 …ガシャン…


 と、いう音がして、門が、閉まった…


 それまで、開いていた門が、閉まった…


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