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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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70/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 70

「…それは…」


 と、アムンゼン…


 「…それは、どうしたのかね?…」


 葉敬が、聞く…


 子供をからかうように、聞く…


 よく大人が、子供にやる手だ…


 例えば、誰が見ても、ある男の子が、ある女の子を好きなのを、見て、


 「…○○君は、○○さんが、好きなの? …将来は、結婚したい?…」


 と、聞く…


 実にありがちなことだ…


 葉敬も、それをしたに過ぎない…


 しかしながら、アムンゼンもそれが、わかっているだろうに、答えなかった…


 なにも、言わんかった…


 どうして、なにも、言わないのか?


 私は、謎だった…


 いや、


 私だけでは、ない…


 葉敬も、バニラも、謎だったに違いない…


 アムンゼンが、葉敬の質問に、ずっと、黙っていると、


 「…どうなの? …アムンゼン? …さっさと、答えなさいよ…」


 と、いきなり、マリアが怒鳴った…


 小さなカラダから、こんな大きな声が出るのかと、思うほど、大きな声で、怒鳴った…


 私は、それを見て、


 …マリアが、いるから、答えなかったのか!…


 と、気付いた…


 そして、それに、気付いたのは、私だけでは、なかった…


 マリアの母親のバニラも、また気付いた…


 だから、私とバニラは、互いに顔を見合わせて、笑った…


 ニヤリとした…


 が、


 葉敬とマリアは、違った…


 とりわけ、マリアは、違った…


 怒髪天を衝く、怒りの表情で、


 「 さっさと、答えなさいよ…アムンゼン!…」


 と、質問を繰り返した…


 正直、アムンゼンが、可哀そうなほどのマリアの怒り方だった…


 それを、見て、葉敬が、


 「…これは、アムンゼン君にすまない質問をしたね…許してくれ…」


 と、笑いながら、言った…


 マリアが、アムンゼンを好きなことを、今さらながら、気付いたからだ…


 だから、葉敬が、片目をつぶって、茶目っ気たっぷりに、


 「…では、今の質問の回答は、私とアムンゼン君が、二人だけのときに、してくれ…」


 と、言って、笑った…


 実に、愉快そうに、笑った…


 が、


 アムンゼンは、違ったらしい…


 葉敬の質問に、真面目に、答えた…


 「…リンが、もし、矢田さんの言うように、横柄な性格なら、幻滅です…」


 と、答えた…


 「…あんなに、苦労して、やっと成功を掴んだリンが、そんなに横柄で、わがままな性格なら、幻滅です…」


 と、呟いた…


 私は、それを、聞いて、


 …このアムンゼンは、ホントに、あのリンを好きなのか?…


 と、思った…


 …このアラブの至宝は、ホントに、あのリンを好きなのか?…


 と、考えた…


 たしかに、このアムンゼンの住む豪邸に飾られたリンをモチーフとした絵画を見れば、一目瞭然…


 このアムンゼンが、リンを好きなのは、一目瞭然だ…


 が、


 このアムンゼンは、アラブの至宝…


 アラブの至宝と呼ばれるほどの、頭脳の持ち主…


 だから、一筋縄では、いかないというか…


 なにか、裏がある?


 と、思ってしまう…


 私にわざと、あのリンをモチーフとした絵画を見せて、私に、自分が、リンのファンだと、思わせる…


 そんな裏があると、思ってしまう…


 つまり、目的は、別にある…


 そう、思ってしまう…


 つい、深読みしてしまう…


 どうしても、深読みしてしまう…


 そういうことだ…


 が、


 私が、そんなことを、考えていると、マリアが、


 「…そんなことより、アンタが、リンを好きなのか、どうかでしょ? 答えなさいよ…」


 と、怒鳴った…


 猛烈な勢いで、怒鳴った…


 私とバニラは、それを見て、思わず、笑ってしまうところだが、マリア本人にとっては、笑うどころでは、ないのかも、しれない…


 マリア本人にとっては、それほど重要なことなのかも、しれない…


 なにしろ、普段、このアムンゼンは、マリアにデレデレ…


 デレデレだ(笑)…


 そのアムンゼンが、自分以外の女に夢中なのが、許せんのかも、しれんかった…


 これは、誰もが、同じ…


 同じだ…


 自分が、さして、好きでもない相手でも、相手が、自分を好きだと、言ってくれれば、誰もが、嬉しいものだからだ…


 例えば、付き合うとか、結婚するとか、そこまで、いかなくても、自分を好きだと、言われれば、誰でも、嬉しいものだからだ…


 これは、男も女も、同じ…


 同じだ…


 老いも若きも、ない…


 皆、同じだ…


 だから、このマリアも、どれだけ、アムンゼンを好きなのか、どうかは、わからないが、普段、自分を好きだと、公言している、アムンゼンが、自分以外の女を好きだと、言うのが、許せんのだろう…


 当たり前のことだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…好きなことは、好き…」


 と、ポツリと、呟いた…


 「…でも、それは、苦労の末に、成功したから…その過程が、好き…」


 と、続けた…


 「…どういうこと?…」


 と、マリアが、聞く。


 「…いいなさいよ、アムンゼン…」


 「…苦労をしているのが、いいんですよ…長年の苦労の末に成功を掴む…だから、いいんです…」


 「…どうしてよ…」


 「…だって、生まれながらに、美人に生まれ、家も金持ち…そんな人間が、成功しても、別に、誰も憧れませんよ…」


 アムンゼンが、呟く…


 私は、それを、聞いて、


 …そういうことか!…


 と、気付いた…


 このアムンゼンは、リンに自分を投影しているんだ!…


 リンに自分の姿を見ているんだ!


 と、気付いた…


 このアムンゼンは、生まれながらの金持ち…


 サウジアラビアの王族だからだ…


 おまけに、王族の中でも、国王に近い存在…


 父親が、前国王で、兄が、現国王…


 だから、いわゆる、王族の中でも、主流というか…


 傍流ではない…


 つまりは、ピカピカの血筋の持ち主…


 サラブレッドだ…


 そして、頭もいい…


 頭も切れる…


 アラブの至宝と呼ばれるほど、切れる…


 しかしながら、小人症…


 大人になれない、カラダの持ち主だ…


 その優れた血筋と頭脳の真逆の、劣ったカラダの持ち主だ…


 だからこそ、他人の痛みがわかるのだろう…


 他人の苦しみが、誰よりも、わかるのだろう…


 本来、このアムンゼンほどの、血筋と、頭脳の持ち主では、他人の苦しみは、わからない…


 いや、


 わからないのではなく、実感できないのだ…


 なぜなら、自分の血筋と、優れた頭脳の前には、そんな人間は、いないからだ…


 だから、余計に、実感できない…


 見たことが、ないから、実感が、できない…


 想像は、できるが、実感は、できない…


 そういうことだ…


 が、


 アムンゼンは、おそらく、リンの経歴を見て、好きになったのだろう…


 リンは、美人だが、苦労人…


 三十路を過ぎて、成功した苦労人だからだ…


 それが、このアムンゼンが、リンに惹かれる理由かも、しれない…


 このアムンゼンは、完璧ではない…


 何度も言うが、小人症だからだ…


 金も頭もあるのに、カラダがない…


 だから、もしかしたら、完璧な肉体を持つ、苦労人のリンに惹かれたのかも、しれない…


 なぜなら、リンも完璧では、ないからだ…


 当たり前だが、普通に考えれば、金持ちの家に生まれたり、頭が、極端に良いということは、ないだろう…


 つまりは、劣った部分がある…


 そこに、このアムンゼンが、共感したのかも、しれない…


 劣った人間が、成功する…


 そのことに、共感したのかも、しれない…


 二人は、真逆…


 まさに、真逆だ…


 リンは、美しい顔とカラダを持っている…


 が、


 アムンゼンには、子供のカラダしかない…


 また、


 リンは、おそらく、平凡な家庭や頭脳の持ち主だろう…


 片や、アムンゼンは、大金持ちで、おまけに優秀な頭脳の持ち主…


 つまりは、リンが、持つものは、アムンゼンになく、アムンゼンが、持つものは、リンにない…


 正真正銘の真逆…


 まさに、真逆だ…


 だから、惹かれるのだろう…


 そして、苦労人のリンが、成功した…


 それを知って、アムンゼンは、喜んだに違いない…


 自分のことのように、喜んだに違いない…


 しかしながら、いざ、成功すると、それまでの苦労を忘れ、途端に横柄になる…


 自分勝手なわがままな人間になる…


 それを、聞いて、落胆したのかも、しれない…


 苦労をしたことで、他人の痛みを知る…


 それが、わかっているにも、かかわらず、横柄な態度を取る…


 それを、聞いて、落胆したのかも、しれない…


 なまじ、苦労の末に成功を掴んだのだから、他人にも、優しく接してもらいたい…


 そう考えたのかも、しれんかった…


 大金持ちの子供に生まれ、頭脳も優秀なアムンゼンだが、子供のカラダしかない…


 それゆえ、他人の痛みを知る…


 だから、リンも、自分と同じように、他人の痛みが、わかってほしかったのかも、しれない…


 私が、そう考えていると、リンが戻って来た…


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