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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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71/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 71

リンが、戻って来た…


 いや、


 リンでは、なかった…


 別の女だった…


 近くにやって来た女は、黒縁の分厚そうなメガネをかけた、インテリというより、オタクっぽい女だったからだ…


 一言で、言うと、地味な女だったからだ…


 リンと真逆の地味な女だったからだ…


 が、


 その女が、まっすぐに、私たちの元に、やって来た…


 …一体、なんの用事だろう?…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、それは、私だけではなかった…


 バニラもアムンゼンも、狐につままれたような表情で、その地味な女を見ていた…


 一体、なんで、ここにやって来たんだろ?


 という表情で、見ていた…


 が、


 葉敬は、驚かんかった…


 「…リン…戻って来たのか?…」


 と、嬉しそうに、声をかけたからだ…


 その地味な女は、恥ずかしそうに、コクンと、首を縦に振って、頷いた…


 いかにも、オタク…


 オタクみたいな女だった…


 「…エーッ…コレが、リン!…」


 と、私は、私は、大声で叫び出したかった…


 それほどの衝撃だった…


 そして、それは、バニラもアムンゼンも同じだった…


 仰天した表情で、リンを見ていた…


 すると、リンが、


 「…ご迷惑をかけて、申し訳ありません…」


 と、頭を下げて、私たちに詫びた…


 が、


 葉敬は、リンをとがめることなく、


 「…なにか、用事があったの?…」


 と、優しく聞いた…


 すると、リンは、ボソッと、


 「…日本のコンビニに、台湾では、売っていない商品が、売っていると、ネットで、見たので…」


 と、呟いた…


 「…台湾では、売ってない商品って?…」


 と、葉敬…


 しかしながら、リンは、答えんかった…


 恥ずかしそうに、黙ったままだった…


 「…いや、答えたくないなら、答えなくて、いい…」


 と、葉敬は、陽気に、言った…


 「…無理には、聞かないよ…」


 と、優しく、聞く…


 リンは、それを、聞いて、ホッとした様子だった…


 が、


 リンの持つ、大きなコンビニのビニール袋から、なにかが、見えたらしく、それを、見て、マリアが、


 「…あー、ガンダムのプラモデル…」


 と、大声で、叫んだ…


 その声を受けて、リンが、一層、恥ずかしがった…


 その証拠に、以前より、顔が赤くなった…


 「…好きなんです…」


 と、恥ずかしそうに、呟く…


 「…このプラモデルを作っていると、ホッとするんです…」


 「…ホッとするって、どういう意味ですか?…」


 アムンゼンが、聞いた…


 「…集中できると、いうか…時間を忘れて、夢中になることが、できるんです…」


 リンが、真っ赤の顔のまま、呟く…


 「…でも、リンさんは、チアガールで、みんなの前で、一生懸命踊っているじゃないですか? …ダンスでも、集中できるんじゃ?…」


 と、アムンゼン…


 「…でも、大勢のひとの前で、踊るのは、私、恥ずかしくて…」


 「…だって、リンさんは、いつも、それをやっているでしょ? そのおかげで、有名になったんだし…」


 「…アレは、仕事…」


 「…仕事?…」


 「…私は、ホントは、一人が、好き…一人で、本を読んだり、ゲームをしたりするのが、好き…」


 「…」


 「…でも、それでは、稼げない…だから…」


 と、言った…


 「…ホントは、部屋の中で、一人でする仕事…小説を書いたり、イラストを描いたり、する仕事が、したかった…マンガは、別ね…」


 「…どうして、別なんですか?…」


 「…マンガは、一人では、描けない…大勢のスタッフを雇わなければ、ならない…プロになる前は、一人で、描くけれども、プロになれば、一週間や一か月単位で、作品を発表しなければ、ならない…だから、一人では、無理…できない…」


 「…」


 「…ホントは、人前に出るのが、苦手…だから、このメガネも外して、コンタクトもしないで、わざと、周囲が、見えないぼやけた状態で、踊る…そうすると、恥ずかしさが、なくなるというか、極端に減る…周りは、見えないから…」


 リンが、恥ずかしそうに、言った…


 私は、それを聞いて、絶句した…


 「…」


 と、絶句した…


 と、同時に、気付いた…


 今、リンが、言った仕事という言葉に気付いた…


 要するに、


 仕事=稼ぐ、だ…


 今、リンが、言った小説家や、イラストレーター、マンガ家は、どれも、他人様よりも、稼ぐ力が、大きい…


 ずばり、儲かるイメージだ…


 もちろん、平均を取れば、違うが、てっぺんは、とんでもなく、稼ぐ…


 だから、リンは、憧れたのだろう…


 自分の力で稼ぐ…


 就職せずに、自分の力だけで、稼ぐ…


 そう、したかったんではないか?


 私は、そう見た…


 私は、そう睨んだ…


 そして、


 そして、だ…


 ふと、見ると、アムンゼンの顔が、明らかに、くつろいだというか…


 ホッとした顔になった…


 おそらく、自分が好きだったリンが、横柄でもなく、威張ってもない姿を見て、ホッとしたのだろう…


 安心したのだろう…


 これは、誰でも、同じ…


 同じだ…


 一般人を例に取れば、ルックスが、良かったり、人柄が、良いと、思った相手と、いざ、付き合ってみたら、中身が、全然違った(爆笑)…


 そんな例と同じだ…


 ルックスが、良くても、いざ、付き合ってみると、性格が悪く、しょっちゅうひとの悪口ばかり…


そんな姿を見れば、誰でも、幻滅する(苦笑)…


 とりわけ、人柄が、良いと、思って、その人柄に、惹かれて、付き合ってみれば、それは、学校や会社だから、いいひとを、演じていただけ…


 ごく親しい友人、知人の前では、真逆の素顔を出す…


 良い人柄と、真逆の性格の悪い素顔を出す…


 そして、そんな素顔を知れば、それこそ、ルックスに憧れて、付き合った相手以上の衝撃を受ける…


 いいひとだと思っていたのに、実は、性格が悪かった…


 それを、知れば、誰でも、幻滅するからだ…


 だから、このアムンゼンも、リンの素顔を知って、ホッとしたのだろう…


 少なくとも、悪い人間でなくて、ホッとしたのだろう…


 だから、それに、気付いた私は、アムンゼンに向かって、


 「…オマエ…ホッとしたようだな…」


 と、言ってやった…


 「…なんですか? …矢田さん…そのホッとしたというのは…」


 「…隠すんじゃ、ないさ…」


 「…隠す? なにをです?…」


 「…しらばっくれんじゃ、ないさ…」


 私は、言った…


 そして、そのやりとりを見た、お義父さんが、


 「…お姉さん…どうかしたんですか?…」


 と、私に聞いた…


 私は、迷うことなく、


 「…このアムンゼン…リンさんのファンなんです…」


 と、言って、やった…


 「…ファン? それは、知ってます…さっき、言ったじゃ、ないですか?…」


 「…だから、アムンゼンは、リンさんが、横柄でもなく、威張ってもない姿を見て、嬉しかったのだと、思います…」


 私の言葉を聞いて、葉敬は、アムンゼンを見た…


 そして、


 「…それは、よかった…」


 と、一言。


 その言葉を聞いて、今度は、


 「…良かった?…」


 と、リン当人が、口にした…


 「…なにが、良かったんですか?…」


 「…リンさんが、思っていた通りの人間で、良かったと、言っているんです…」


 と、私。


 「…私が、思った通りの人間って?…」


 「…明るく、元気で、人柄がいい…」


 私は、言ってやった…


 適当に、言ってやった…


 実は、この矢田は、リンのことは、わからん…


 よく知らん(笑)…


 しかしながら、チオガールをしているから、

言ったのだ…


 だから、こう言ってやったのだ…


 チアガールをしているから、

 

 「…明るく、元気で、人柄がいい…」


 と、言ってやったのだ…


 チアガールに限らず、運動をしている体育会系の人間には、誰にも、当てはまる言葉だからだ…


 これが、図書館に通うような、おとなしめの人間には、言わん…


 いや、


 今、リンは、自分の素顔は、文系の人間というか、おとなしめの人間だと、告白したではないか?


 小説や、マンガを描くような人間になりたかったと、告白したではないか?


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…明るく、元気で、人柄がいい…私も、そんなふうになりたい…」


 と、リンが、ポツリと言った…


 「…でも、無理…」


 リンが、呟くと、アムンゼンが、


 「…でも、リンさんは、いつも、それをやっているでしょ?…」


 と、口を挟んだ…


 当然のことを、言った…


 「…だから、わざと、このメガネを外す…外して、周りを見えなくする…そうすると、別人になりきれると、いうか…本来の自分以外の人間を演じることができる…」


 リンが、告白した…


 「…別人になるというより、別人になりきる…」


 「…」


 「…ここにいるのは、普段の私じゃないと、強く自分に言い聞かせる…」


 「…」


 「…すると、怖くなくなる…恥ずかしくなくなる…」


 リンが呟いた…


 恥ずかしそうに、呟いた…


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