35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 69
そんなやりとりを続けながら、地下駐車場に向かった私たちだが、やがて、目的の地下駐車場に着いた…
そこには、大型のクルマが、留まっていた…
そのクルマを見て、
「…ロールスロイスですか?…」
と、アムンゼンが、口を開いた…
「…よく、わかったね…」
葉敬が、驚愕する…
「…いえ、ボクも持っていますから…」
「…キミも持っているって?…」
「…いえ、厳密には、父が、所有しているんですが…」
その言葉に、さすがに、葉敬は、驚愕したというか…
尋常ではない、驚きを示した…
そんな葉敬の姿を見た、バニラが、
「…この子の父親は、大金持ちらしいです…」
と、遠慮がちに、告げた…
「…大金持ちらしい?…どうして、わかる?…」
「…この子は、マリアと同じ保育園に通ってます…あの保育園は、この日本に滞在する世界中のセレブの子弟が、集まる保育園…だから…」
と、言って、後は、言わんかった…
このアムンゼンが、ホントは、30歳で、サウジアラビアの王族だとは、言わんかった…
アムンゼンに口止めされているから、言わんかった…
が、
そんなバニラの説明を聞いて、葉敬は、
「…なるほど…」
と、納得した…
呆れるほど、簡単に納得した…
「…たしかに、あの保育園に通っているのなら、驚くほどの、ことでは、ないかも、しれないな…あの保育園に通う園児たちは、この日本に滞在する、世界中のセレブの子弟が、通う保育園…世界的な企業の創業者の子弟や、世界中の王族の子弟が、集う保育園だ…」
葉敬が、納得する…
「…では、アムンゼン君とか、言ったね…キミのお父さんは、なにをしているの? 大きな会社の社長さんをしているの?…」
「…いえ、父は、石油関連の仕事をしています…」
「…石油関連? …そういえば、キミの肌の色は、浅黒い…出身は、中東かな?…」
「…ハイ…そうです…」
「…そうか…」
葉敬は、納得した…
簡単に納得した…
「…石油関連か…たしかに、金持ちだろうね…」
と、言って、納得した…
そして、それ以上、その話は、しなかった…
3歳の子供相手に、いつまでも、親の職業を聞いても、仕方がないと、思ったのかも、しれんかった…
当たり前のことだった…
いかに、アムンゼンが、頭が良くても、3歳の子供だと、思っている葉敬が、これ以上、親のことを、聞いても、仕方がないと、思うのが、当たり前だった…
そして、葉敬が、ロールスロイスに歩み寄り、ドアを開けた…
が、
中には、誰も、いなかった…
いや、
正確には、いたが、それは、運転手だった…
このロールスロイスを運転する運転手だけだった…
葉敬は、驚いた…
そして、すぐさま、運転手を詰問した…
「…このクルマに乗っていた女は、どうした?…」
と、詰問した…
正直、少々厳しい、言い方だった…
いや、
きつすぎる言い方だった(笑)…
つまりは、葉敬は、それほど、驚いたに違いなかった…
「…キミは、それを止めなかったのか?…」
と、続けて、言った、口調もまた、厳しかった…
葉敬の怒りが、現れていた…
しかしながら、その怒りは、空回りというか…
運転手が、
「…いえ、お止めしたのですが、制しを振り切って…」
と、言うと、すぐに、葉敬も諦めた…
「…そうか…」
と、だけ、言って、諦めた…
おそらく、この運転手が、制しても、それを、振り切って、行ってしまったと、気付いたに違いない…
また、私もそれを、聞いて、驚かんかった…
昨日、初対面で、初めて、会っただけだが、その印象は、正直、最悪だった…
ハッキリ言えば、
…わがままな女…
と、言うのが、正しいというか…
それが、リンの評価だった…
なにしろ、昨日、初めて会っただけだが、ド派手な衣装を着て、態度も、横柄というか、生意気と、いうか…
とにかく、最悪だった(苦笑)…
だから、いかに、運転手が、何を、言おうと、いうことを、聞かなかったと、言われても、納得する…
そういうことだ…
きっと、台湾で、チヤホヤされ、調子に乗っているのだろう…
天狗になっているのだろう…
まあ、台湾で、一番の人気があれば、仕方がない…
私は、思った…
思ったのだ…
しかしながら、同時に、気付いた…
なにに、気付いたかと、言われれば、リンの人気に気付いたのだ…
なぜなら、リンは今、台湾でナンバーワンの人気のチアガールと言ったが、それを、言えば、このバニラも、有名なモデル…
世界中で、人気がある…
そして、もう一人…
リンダだ…
リンダ・ヘイワースだ…
リンダもまた、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれ、圧倒的な人気がある…
しかしながら、二人とも、驕り高ぶった態度を取ったことを、見たことがない…
それは、なぜか?
それは、きっと、二人とも、人気が出たのが、昨日、今日ではないからだ…
人気が出たのが、ずっと前だからだ…
だから、横柄ではない…
調子に乗ってない…
いわば、数年前から、人気が出たから、すでに、自分に、人気があるのが、当たり前になっているからだ…
だから、調子に乗ってない…
誰もが、いきなり、人気が出れば、調子に乗るものだ…
いわば、それまで無名の一般人だった人間が、いきなり有名になる…
そうなれば、調子に乗るなという方が、難しいからだ…
すでに、このバニラやリンダは、数年前から、人気が出ている…
だから、それに慣れているというか…
とりわけ、リンダは、もうずっと前から、人気がある…
最初は、モデルで、人気が出て、それから、女優に転身した…
だから、キャリアが、長い…
そして、人気があるのが、当たり前になったから、調子に乗らない…
すでに、昨日、今日、人気が出たのでは、ないからだ…
また、このバニラも、そこまで、調子に乗ってないのには、おそらく、マリアの存在がある…
マリアは、バニラの娘…
バニラは、リンダには、遠く及ばないが、スーパーモデルとして、人気がある…
が、
公には、知られていないが、このマリアがいる…
マリアという娘がいる…
バニラは、まだ23歳だが、3歳の娘がいる…
そして、それは、いうなれば、バニラの弱点…
いかに、バニラが、若く、キレイでも、3歳の娘がいることが、わかれば、興ざめするファンが、いるからだ…
当たり前のことだ…
日本で言えば、子連れで、アイドルをやれと、いうようなものだからだ(笑)…
アイドル=架空の恋人というか…
アイドル=理想の恋人だからだ…
その恋人が、子持ちでは、幻滅するからだ…
これは、男も女も同じ…
同じだ…
子持ちであるのが、バレれば、人気は、失墜する…
当たり前のことだ…
そして、それを、バニラ自身が、よくわかっている…
だから、バニラは、調子に乗らない…
まだ、23歳と、若くても、調子に乗らない…
そういうことだ…
だから、それに、気付いた私は、
「…お義父さん?…」
と、いきなり、葉敬に、言った…
「…なんですか? …お姉さん?…」
「…リンさんが、人気が出たのは、いつですか?…」
「…なんですか? …お姉さん、いきなり、そんなことを?…」
「…いえ、リンさんが、台湾で、人気のチアガールというのは、わかりましたが、それを言えば、このバニラも、有名人だし、リンダも同じ有名人です…」
「…なにが、言いたいのですか? …お姉さん?…」
「…いえ、昨日、リンさんと、初めて、お会いしましたが、態度が、横柄というか、わがままというか…同じ有名人でも、このバニラや、あのリンダは、リンさんのような態度は、取りません…それは、もうずっと前から、人気があるから、その環境に慣れているからです…でも、あのリンさんの態度は、急に人気が出たから、じゃないかと、思って…」
私が、言うと、葉敬が、考え込んだ…
腕を組んで、考え込んだ…
「…たしかに、お姉さんの言う通りかも、しれない…私が、リンの存在を知ったのも、最近だし…そんなに前から、人気が、あれば、いかに、私のようなオジサンでも、知っていたはずだ…」
葉敬が、言うと、
「…人気が出たのは、つい最近ですよ…」
と、誰かが、言った…
その声の主は、他でも、ない、アムンゼンだった…
「…それまでは、ずっと泣かず飛ばす…なにをやっても、うまくいかなかった…それが、三十歳を超えて、ようやく、ブレイクして…なまじ、それまで、売れるようになるまで、苦労したんだから、余計に謙虚にならなければ、いけないのに…」
アムンゼンが、言う…
アラブの至宝が、言う…
私は、それを、聞いて、驚いたが、それは、一瞬…
ほんの一瞬だった…
なぜなら、アムンゼンは、リンのファンだからだ…
まぎれもない、ファンだからだ…
だから、リンのことを、知っていて、当然だった…
リンの過去を知っていて、当然だった…
が、
それは、私だけ…
葉敬も、バニラも、知らない…
まして、バニラの娘のマリアは、まだ3歳と幼いから、知らない…
だから、驚いた…
とりわけ、アムンゼンの正体を知らない葉敬は、驚いて、アムンゼンを見た…
そして、
「…まったく…キミには、驚かせられる…まるで、大人のようだ…」
と、感想を述べた…
率直な感想を述べた…
「…いえ、偶然知っただけです…」
と、アムンゼン…
「…偶然、知っただけ?…」
「…そうです…」
「…で、キミは、どうなんだ?…」
葉敬が、言った…
いきなり、言った…
「…どうと、言うと?…」
「…リンのファンなのかね? …将来、キミも、大人になったら、リンと結婚したいかね?…」
と、葉敬が、聞いた…
直球で、聞いた…




