35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 67
そして、それは、私だけではない…
バニラもまた、同じだったようだ…
だから、葉敬と、アムンゼンの会話を見守っていたバニラが、
「…葉敬…ここで、いつまでも、立ち話もなんだから…」
と、言った…
葉敬とアムンゼンの会話を遮るように、言った…
途端に、葉敬が、
「…そうだ…今日は、これから、ディズニーランドに行く予定だったんだ…」
と、言った…
思いもかけないことを、言った…
が、
それは、知らぬのは、私ばかり…
バニラも、アムンゼンも驚いた様子は、なかった…
微塵もなかった…
二人とも、すでに、知っていたのだろう…
なにしろ、葉敬は、マリアの父親…
すでに、六十歳を超えているが、マリアの父親だった…
だから、台湾から、来日した葉敬が、愛人のバニラと娘のマリアといっしょに、ディズニーランドに行くのは、至極当然というか…
一家で、ディズニーランドに行って、楽しむのは、当然のことだと、思った…
が、
その情報を、このアムンゼンが、入手していたとは?
一体、どこから?
それが、疑問だった…
が、
それは、すぐに、わかった…
マリアが、
「…そう…今日は、パパといっしょに、ディズニーランドに行くから、マリア…楽しみにしていたんだよ…」
と、言ったからだ…
だから、わかった…
「…それを、保育園で、言ったら、アムンゼンもぜひ、いっしょに行きたいって言うから…」
マリアが、言う…
マリアが、説明する…
…そうか?…
…そういうことか!…
私は、合点が、いった…
ようやく、合点が、いった…
このアムンゼンは、マリアが、ディズニーランドに行くと、聞いて、やって来たわけだ…
なにが、目的か、知らんが、そういうことだった…
そういうことだったのだ…
私は、それに気付くと、アムンゼンを見た…
私の細い目で、睨んだ…
すると、
「…なんですか? 矢田さん…その目は?…」
と、アムンゼンが、聞いた…
「…いや、別に…」
「…別になんですか?…」
「…なんでもないさ…」
私は、しらばっくれた…
「…だが、オマエもなかなか、やるなと、思ってな…」
「…なんですか? …矢田さん…そのなかなかやるなと言うのは?…どういう意味ですか?…」
「…さあな…」
と、私は、言ってやった…
が、
そのやりとりを見て、葉敬が、
「…お姉さんは、誰とでも、仲良くできますね…」
と、突然、言った…
「…エッ? …なに、突然?…」
と、バニラ…
「…だって、お姉さんは、このアムンゼンという子とも、仲良く話している…さすがは、お姉さん…こんな子供とも、すぐに、仲良くなれるなんて…」
と、私を持ち上げた…
私を褒めた…
私は、どう言って、いいか、わからんかった…
どう返答していいか、わからんかった…
なぜなら、アムンゼンは、子供ではないからだ…
30歳のれっきとした大人だからだ…
ただ、小人症だから、小さいだけだ…
が、
それを、今、葉敬に言うわけには、いかない…
なぜなら、ついさっき、バニラが、葉敬に、アムンゼンの正体を告げようとすると、アムンゼンが、バニラに対して、首を横に振ったからだ…
正体をバラしては、ダメだと言ったからだ…
だから、言えん…
正体を言えんかった…
きっと、アムンゼンには、アムンゼンの考えがあるのだろう…
今、自分の正体を葉敬に知られては、困ると、考えたのだろう…
だから、バニラは、葉敬にアムンゼンの正体を告げることは、できんかった…
まさか、アムンゼンに逆らうことは、できんからだ…
アラブ世界の実力者に逆らうことは、できんからだ…
そして、それは、同じ…
この矢田も同じだった…
このアムンゼンと、私は、一見、対等に話しているように、見えるが、実は、この私なりに、距離を置いていた…
距離を取っていた…
なにしろ、この矢田とアムンゼンとは、立場が、違い過ぎる…
立場=地位が、違い過ぎるからだ…
この矢田とて、お子様ではない…
3歳のマリアとは、違う…
3歳のお子様では、ないからだ…
だから、立場の違いを理解しているからだ…
つまりは、そういうことだったのだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、葉敬が、
「…では、アムンゼン君と言ったね…キミは、今日、マリアたちと、いっしょに、ココにやって来たのは、私たちと、いっしょに、ディズニーランドに行きたかったからなのかね?…」
と、アムンゼンに聞いた…
至極、真っ当なことを、聞いた…
が、
私には、その発想がなかった…
葉敬が、今、告げた発想が、なかった…
少し考えてみれば、葉敬が、今、言ったことは、当たり前…
当たり前のことだった…
しかしながら、アムンゼンの正体を知っている私から、してみれば、そんな発想はなかった…
そんなありきたりな発想は、なかったからだ…
アムンゼンは、何度も言うように、アラブの至宝…
とてつもなく、頭がいい…
だから、なにか、裏があると、思ってしまう…
今日、ここに突然、やって来たことにも、なにか、とてつもない、目的があるのかも、しれないと、考えてしまう…
いわば、裏読みして、しまうのだ…
だから、今、葉敬が、言ったように、素直に考えられない…
素直に考えれば、今日、アムンゼンが、やって来た目的は、マリアとどこかに、行くことだろう…
なにしろ、アムンゼンは、マリアが好きだからだ…
だから、マリアといっしょに、いたい…
休日も、いっしょにいたい…
そう、素直に考えることが、できない…
なまじ、相手が、頭が、良すぎるから、なにか、この行動には、裏がある…
なにか、別の目的があるに違いないと、勝手に、思いこんでしまう…
そういうことだ…
そういうことだったのだ(笑)…
私が、そんなことを、考えていると、アムンゼンが、
「…ハイ…その通りです…」
と、答えた…
葉敬の質問に答えた…
「…ボクもまだディズニーランドに行ったことがなくて…」
と、続けた…
「…ディズニーランドに行ったことがない? お父さんは、お金持ちでは、なかったのかね?…」
「…いえ、父は、忙しくて…」
アムンゼンが、答える…
アラブの至宝が、答える…
「…お義父さんが、忙しい? それは、仕方ないね…わかった…今日、私たちと、いっしょに、ディズニーランドに行こう…」
葉敬が、言った…
すると、アムンゼンは、
「…ありがとうございます…」
と、言って、丁寧に頭を下げた…
「…感謝します…」
と、続けた…
さすがに、このアムンゼンの対応に葉敬も、戸惑ったようだ…
「…いや、キミに頭を下げられると、まるで、大人と接しているようだ…」
と、言って苦笑した…
が、
それに、対して、アムンゼンは、驚くことなく、
「…よく言われます…」
と、平然と答えた…
「…よく言われる?…」
「…ハイ…さっきも言ったように、周囲が、大人たちの中で、育ったからだと、思います…」
アムンゼンが、言うと、葉敬は、
「…そうか…」
と、一言言って、納得した…
私とバニラは、その様子をヒヤヒヤしながら、見ていた…
そして、何事もなく、二人のやりとりが、終了すると、私とバニラは、思わず、顔を見合わせた…
顔を見合わせて、思わず、微笑んだ…
ホッとしたのだ…
二人が、何事もなく、すんでホッとしたのだ…
こう言っては、なんだが、葉敬もアムンゼンも個性が強い…
二人とも、偉いから、当たり前かも、しれないが、それでは、ぶつかってしまう…
だから、困る…
困るのだ…
まさに、両雄並び立たずになってしまうからだ…
だから、私も、バニラも、葉敬とアムンゼンのやりとりを、見て、ヒヤヒヤしていたのだ…
互いに個性の塊だから、ぶつからないかと、ヒヤヒヤしていのだ…
が、
それは、杞憂だった…
それは、考え過ぎに過ぎなかった…
それは、アムンゼンが、葉敬に遠慮したからだ…
うまく、葉敬を持ち上げたからだ…
葉敬は、アムンゼンの正体を知らない…
しかしながら、アムンゼンは、葉敬が、何者か、知っている…
葉敬が、台湾の大実業家だと、知っている…
だから、葉敬の自尊心をくすぐるように、うまく接して、葉敬を気持ちよくさせた…
そういうことだ…
そして、それに、気付くと、このアムンゼン、なかなかやるなと、気付いた…
いわば、この矢田が、アムンゼンを認めたのだ…
そして、それを言葉には、せんかったが、つい、アムンゼンを見た…
…コイツ、なかなか、やるな…
と、いう目で、アムンゼンを見た…
すると、私の視線に気付いた、アムンゼンが、
「…また…矢田さん…そんな細い目で、ボクを見て…」
と、言った…
「…なにか、言いたいことでも、あるんですか?…」
「…いや、オマエもなかなか、やるなと、思ってな…」
「…矢田さんに、言われることは、ないですよ…」
「…なんだと?…」
私が、言うと、葉敬が、私とアムンゼンのやり取りを見て、微笑んだ…
「…まったく、お姉さんは、凄い…どんな人間とも、対等に接する…年齢に関係なく、対等に接する…そして、仲良くできる…」
と、言って、喜んだ…
が、
さすがに、そんなふうに、言われては、私としても、どうすることも、できんかった…
なんて、言っていいか、わからんかった…
そして、それは、アムンゼンも、同じだったようだ…
「…さあ、こんなところに、グズグズしていても、仕方がありません…さあ、行きましょう…」
と、言って、自ら、玄関のドアを開けた…
それを、見て、葉敬が、
「…この子の言う通りだ…」
と、笑って、言って、アムンゼンの後を追った…
アムンゼンの後を、追って、玄関から、出た…
それを、見て、私も、バニラも、マリアも、皆、玄関から出た…




