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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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66/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 66

私は、慌てて、インターホンに出た…


 すると、やはり、お義父さんの姿が、インターホンのモニターの画面にあった…


 「…おはようございます…お姉さん…お迎えに上がりました…」


 と、丁寧な口調で、私に告げた…


 その言葉だけ、聞くと、まるで、恋人を迎えに来たかのようだった…


 それを、聞いて、私が返答する前に、


 「…まったく、葉敬は、お姉さんに甘いんだから…」


 と、バニラが呟いた…


 あるいは、嘆いた…


 文句を言ったと言っても、いい…


 インターホン越しに葉敬の声が、聞こえたのだろう…


 明らかに、葉敬の口調に不満な様子だった…


 バニラは、葉敬の愛人…


 事実上の妻だ…


 だから、葉敬が、自分以外の女に、優しく接するのは、たとえ息子の葉尊の妻である、私でも、嫌に違いなかった…


 すると、


 「…まあ、いいじゃないですか…バニラさん…」


 と、アムンゼンが、バニラに声をかけた…


 「…別に葉敬さんが、矢田さんに、なにかするわけじゃないし…」


 「…殿下、それは、そうですけれど…」


 バニラが、曖昧に返答する…


 さしものバニラも、アムンゼンの前では、形無しだった…


 いつもは、猛獣のようなバニラも形無しだった(笑)…


 バニラは、若く、美しい…


 私が、見ても、完璧に美しい…


 しかしながら、中身は、別…


 中身は、ヤンキー…


 がらっぱちのヤンキーだ!…


 つまり、外見と中身が、真逆なのだ!…


 が、


 その怖いもの知らずのヤンキーのバニラも、相手が、アムンゼンでは、形無し…


 まるで、バニラが小さな子供のようになったかのように、まるっきり歯が立たなかった…


 だから、アムンゼンが、なにか、バニラに言うと、一言も反論できんかった…


 あまりにも、立場が、違うからだ…


 あまりにも、立場=身分が違うからだ…


 だから、バニラは、アムンゼンに歯向かえんかった…


 一言も歯向かえんかった…


 が、


 それに、気付いたのは、この矢田だけでは、なかった…


 バニラの娘のマリアも、また、気付いた…


 マリアが、母親のバニラに、


 「…どうして、ママは、アムンゼンに甘いの?…」


 と、聞いた…


 直球で、聞いた…


 「…甘い? …どういうこと?…」


 「…だって、ママは、アムンゼンが、なにか、言っても、一言もアムンゼンを叱らないじゃない…」


 気が強いマリアが言う…


 実に、もっともなことを、言う…


 が、


 だからこそ、バニラは、悩んだ…


 娘のマリアをどう説得するか、悩んだのだ…


 だから、私は、助け舟を出してやった…


 「…それは、アムンゼンが、他人様の子供だからさ…マリア…」


 と、助け舟を出してやった…


 「…他人様の子?…」


 「…そうさ…マリアだって、自分の家の家族でもない人間に、あまり文句も言えないだろ…」


 「…」


 「…つまり、そういうことさ…」


 私は、言ってやった…


 バニラに助け舟を出して、やった…


 「…つまり、そういうこと?…」


 「…そうさ…マリアもいつか、母親になれば、わかるさ…」


 私が、言うと、マリアが、すがるように、バニラを見た…


 母親のバニラを見た…


 「…ママ…そうなの?…」


 「…そうよ…お姉さんの言う通り…」


 バニラが答える…


 マリアは、母親のバニラの同意を得て、納得した様子だった…


 「…そうなんだ…」


 と、一人、ブツブツと、呟いていた…


 そして、それから、


 「…でも、将来、マリアが、アムンゼンと、結婚すれば、アムンゼンも、他人じゃないよね…家族だよね…」


 と、マリアが、バニラに言う…


 これは、予想外…


 まさに、予想外の質問だった…


 予想外の質問に戸惑ったバニラは、


 「…それは。そうでしょうけど…そんな遠い将来のことは…」


 と、曖昧に呟いた…


 さすがに、このアムンゼンが、小人症で、ホントは、30歳だとは、マリアに言えんかった…


 いや、


 言っても、子供のマリアにわかるわけも、なかった…


 3歳のお子様のマリアにわかるはずも、なかった…


 なにしろ、アムンゼンは、小人症…


 仮に、20年経っても、外見は、なにも、変わらない…


 20年経てば、マリアは、今の母親のバニラと同じ23歳になる…


 だが、アムンゼンは、3歳の外見のままだろう…


 とてもではないが、結婚はできない…


 そして、それを、母親のバニラも、アムンゼンもまた、よくわかっている…


 だから、なにも、言えなかった…


 バニラは、なにも言えんかったのだ…


 すると、見かねたアムンゼンが、


 「…そのときは、そのとき…そのときが、来たら、考えましょう…」


 と、口を挟んだ…


 「…殿下…ありがとうございます…」


 と、バニラが、アムンゼンに頭を下げる…


 「…そのときって、なに?…」


 と、今度は、マリアが、聞いた…


 「…それは、マリアが、大人になったときさ…」


 私は、言ってやった…


 「…大人になったとき?…」


 「…そうさ…」


 私は、言ってやった…


 「…マリアも大人になれば、結婚するだろ? 要は、そのときに、アムンゼンと、結婚するか、どうかさ…」


 私が、言うと、マリアが、悩んだ…


 「…結婚…」


 と、呟いて、悩んだ…


 そして、


 「…そんな先のことは、わからない…」


 と、言った…


 前言を翻して、言った…


 「…マリア…そんな先のことは、わからない…」


 マリアの前言を翻した言葉を聞いて、明らかに、バニラは、ホッとした表情になった…


 が、


 私は、正直、複雑だった…


 このアムンゼンが、マリアを好きなのは、事実だったからだ…


 3歳のマリアと、30歳のアムンゼン…


 さすがに、結婚は、ありえんが、将来は、わからない…


 しかしながら、その将来の芽を摘むことは、さすがに、アムンゼンに悪かった…


 正直、アムンゼンは、あと二十年経っても、このままだろう…


 3歳の外見のままだろう…


 すると、当然のことながら、結婚は、無理…


 結婚は、難しい…


 しかしながら、それを、アムンゼンに告げることは、できん…


 可哀そう過ぎて、できんからだ…


 だから、黙った…


 私も、バニラも黙った…


 言葉が、見つからんかったからだ…


 だから、黙った…


 正直、不気味な沈黙ができた…


 気まずい空気が、流れた…


 そのときに、ちょうど、


 「…ピンポン…」


 と、ベルが、鳴った…


 お義父さんが、やって来たに違いなかった…


 お義父さんの葉敬がやって来たに違いなかった…


 私は、ホッとした…


 そして、それは、バニラも同じだった…


 話題が、変えられると、思ったからだ…


 だから、ホッとした…


 ホッとした私は、急いで、玄関に走った…


 そして、玄関のドアを開けた…


 「…お姉さん…おはようございます…」


 と、ドアを開けるなり、葉敬が、言った…


 私の顔を見るなり、言った…


 「…おはようさ…」


 と、私は、反射的に答えた…


 ホントは、葉敬は、私の義父だから、敬語を使わなければ、ならないが、なぜか、つい、いつものように、言ってしまう…


 いつも、親しい他人と接するように、接してしまう…


 が、


 葉敬は、それを、気にするどころか、むしろ嬉しそうだった…


 私が変に葉敬に壁を作らないのが、嬉しいのかも、しれない…


 誰もが、偉くなれば、本音で接して、もらえなくなる…


 葉敬は、その典型…


 台湾で、伝説の立志伝中の人物…


 台湾の教科書に載るような、お偉いさんだからだ…


 だから、誰もが、遠慮する…


 葉敬に遠慮して、接する…


 だから、飾らず、本音で、接する私が、好きなのかも、しれんかった…


 そういうことだ…


 そして、葉敬は、玄関に入って来るなり、アムンゼンに気付いた…


 アムンゼンの存在に気付いた…


 これは、当たり前…


 当たり前だった…


 なぜなら、このアムンゼンの存在は、葉敬にとって、想定外の存在に違いなかったからだ…


 ここにいるのは、私とバニラとマリアしか、想定していないに違いなかったからだ…


 いわゆる、葉敬のファミリーしか、想定していないに違いなかったからだ…


 まさか、それ以外の人間が、ここにいるとは、想定していないに、違いなかったからだ…


 だから、葉敬は、驚いて、アムンゼンを見た…


 それから、


 「…キミは?…」


 と、アムンゼンに聞いた…


 アムンゼンは、平然と、


 「…アムンゼンと言います…」


 と、言って、葉敬に頭を下げた…


 「…今日は、偶然、バニラさんとマリアに会って、それで、ごいっしょしても、いいかと、お聞きしたら、構わないと、言ったので、ごいっしょさせて、頂いて、おります…」


 と、大人顔負けの言葉を言う…


 それを、聞いて、葉敬は、驚いた…


 「…キミは、子供にもかかわらず、大人顔向けの言葉を言うね…」


 と、言って、驚いた…


 「…ハイ…ボクは、子供の頃から、ずっと、周囲の人間が、大人ばかりの中で、育ったもので…」


 「…周囲の人間が、大人ばかりの中で、育ったって、キミは、まだ子供だろ?…」


 「…そうでした…スイマセン…」


 と、言って、ペコリと葉敬に頭を下げた…


 「…キミは、たしか、以前、会ったことが、あるような…」


 「…マリアさんの通う保育園の仲間です…いっしょに、保育園に通ってます…」


 「…そうか…それで、どこかで、見たことが、あると、思ったんだ…」


 「…そうです…覚えて頂いて、光栄です…」


 アムンゼンが、言う…


 アラブの至宝が、言う…


 それを、見て、バニラが、慌てて、


 「…葉敬、この方は…」


 と、言いかけたが、アムンゼンが、軽く首を横に振った…


 正体を明かしては、ダメだと、バニラを牽制したのだ…


 「…この方は、どうした? …バニラ?…」


 葉敬が、尋ねると、バニラは、なにも言えなかった…


 アラブの至宝に、口留めされて、なにも、言えなかった…


 代わりに、アムンゼンが、


 「…きっと、バニラさんは、ボクが、お金持ちの子息だと、言いたいんだと思います…」


 「…キミが、金持ちの息子?…」


 「…マリアさんの通う保育園は、この日本に在住する世界中のセレブの子弟が、通う保育園…だから、ボクの父も、お金持ちです…」


 「…そうか…」


 「…ですが、当然、葉敬さんには、遠く及びません…」


 「…そうか…」


 葉敬が、気持ちよさそうに、言った…


 自分が、アムンゼンの父親よりも、金持ちだと言われたのが、嬉しかったのだろう…


 が、


 この二人の会話を横で、聞いていると、なんとなく、雲行きが、怪しいというか…


 なんとなく、不安になった…


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