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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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63/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 63

「…では、お姉さん…これで、いったん、失礼します…後ほど、お会いしましょう…」


 そう、言って、葉敬は、電話を切った…


 切ったのだ…


 一方の私は、電話の受話器を持ったまま、固まっていた…


 まるで、人形のように、固まっていた…


 …どうしよう?…


 …一体、どうしよう?…


 私の頭の中は、パニクった…


 大いに、パニッった…


 正直、葉敬は、嫌いではない…


 いつも、私に優しい…


 いつも、私に気を使ってくれるのが、よくわかる…


 だから、嫌いでは、ない…


 が、


 正直、疲れる…


 いっしょに、いると、気疲れするのだ…


 これは、やはり、身分違いの部分が、大きい…


 私は、日本の庶民出身…


 片や、葉敬は、台湾の大富豪…


 その差は、大きい…


 実に、大きい(涙)…


 また、年齢も親子ほど、違うのも、大きい…


 だから、葉敬の息子の葉尊では、緊張しないのに、葉敬では、緊張する…


 いや、


 年齢の問題だけでは、ないかも、しれん…


 人柄かも、しれん…


 例えば、何度も言うように、私は、葉尊よりも、葉問の方が、話しやすい…


 別に、葉尊よりも、葉問の方が、好きだと、言っているわけではない…


 ただ、話しやすいのだ…


 それと、同じで、誰もが、話しづらい人間が、いるものだ…


 正直、私にとって、葉敬が、それに当てはまった…


 いつも、私に会うたびに、


 「…お姉さん…」


 「…お姉さん…」


 と、愛想よく話しかけてくる…


 それも、うわべだけでなく、心の底から、私を気に入っているのが、わかる…


 にも、かかわらず、苦手…


 葉敬には、すまないが、苦手だった…


 これは、正直、説明が、つかない…


 葉敬が、私を好いてくれているにも、かかわらず、私は、葉敬が、苦手だった…


 相性という言葉でしか、説明がつかない…


 葉敬が、私に、本音を隠して、私を好きなフリをして、私に接しているのなら、まだ、わかる…


 私が、葉敬を苦手な説明がつく…


 しかしながら、私は、自分で言うのも、おかしいが、誰がどう見ても、葉敬に気に入られている…


 これは、当事者の私でなくても、誰もが、わかるものだ…


 仮に、好きでもない相手に、好きなフリをしても、普通は、簡単にバレるものだ…


 ひとは、誰もが、それほど、バカではない…


 自分をホントに好きか、否かは、わかるものだからだ…


 私は、そんなことを、考えた…


 考え続けた…


 が、


 いつまでも、そんなことを、考え続けても、仕方がない…


 葉敬が、やって来るからだ…


 だから、まずは、着替えねば、ならん…


 今のパジャマの姿から、着替えねば、ならん…


 夫の葉尊は、会社に出かけるから、着替えたが、私は、パジャマのままだった…


 なぜなら、私は、どこにも、行かんからだ…


 だから、夫の葉尊のように、急いで、着替える必要が、ないからだ…


 だから、パジャマのままだった…


 パジャマのままだったのだ…


 それゆえ、慌てて、着替えようとしていると、


 …ピンポン!…


 と、チャイムが、鳴った…


 …まさか? お義父さん?…


 …今、電話を切ったばかりじゃないか?…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 が、


 少し考えて、お義父さんが、今さっき、どこから、電話をくれたのか?


 わからんと、思った…


 今は、昔のように、固定電話の時代では、ないからだ…


 誰もが、ケータイやスマホで、電話をかけるのが、当たり前の時代だからだ…


 だから、今の電話は、もしかしたら、すぐ近くで、かけたのかも、しれんと、気付いた…


 この矢田の住むマンションの近くに、すでにクルマに乗った葉敬が、来ていて、そのクルマの中から、電話をかけてきたのかも、しれんと、気付いたのだ…


 それゆえ、その可能性に気付いた私は、急いで、インターホンに、向かった…


 そして、インターホンに映った人影を見た…


 大きな人影だった…


 男の人影だった…


 …やはり、お義父さん?…


 …やはり、葉敬が、もう、やって来たか?


 私は、思った…


 思ったのだ…


 だから、私は、迷わず、


 「…お義父さん…」


 と、インターホン越しに言いかけた…


 が、


 そう言おうとした、直前に、


 「…矢田ちゃん…」


 と、呼ぶ声が、した…


 この矢田の名前を呼ぶ声がした…


 可愛らしい、子供の声がした…


 女の子の声がした…


 それゆえ、私は、慌てて、モニターを、凝視した…


 私の細い目をさらに、細めて、凝視した…


 すると、大きな人影の隣に、小さな、人影があった…


 その小さな人影が、こっちを、向いた…


 モニターの方を向いた…


 その顔は、マリアだった…


 バニラの娘のマリアだったのだ…


 ということは?


 ということは、この大きな人影は?


 サングラスをしていたから、顔は、見えんが、バニラに決まっていた…


 マリアの母親のバニラに決まっていた…


 案の定、モニター越しに、サングラスを、はずした姿を見せた…


 素顔を見せた…


 整った美貌を見せた…


 バニラだった…


 バカ、バニラだった…


 この矢田の天敵のバニラだった(爆笑)…


 「…おはようございます…お姉さん…こんなに、朝早くから、伺って、申し訳ありません…」


 と、しおらしく言った…


 本心にもないことを、言った…


 が、


 この矢田は、騙されん!…


 そんな言葉には、騙されん!…


 このバニラは、天敵だった…


 この矢田の天敵だった…


 抜群の美貌を誇り、長身で、身長は、180㎝はある…


 だから、今も、男と間違えた…


 つい、男と、間違えたのだ…


 サングラスをしていなければ、男と間違われるほど、背が高かったからだ…


 だから、男と、間違えた…


 そういうことだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…すいません…こんなに朝早くから…」


 と、バニラが繰り返した…


 またも、繰り返して、詫びた…


 私は、


 「…なんで、こんなに、朝っぱらから…」


 と、聞こうとしたが、その前に、バニラが、


 「…葉敬が、お姉さんのところで、待っていろと…」


 と、続けた…


 「…お義父さんが…」


 と、つい、私は、言ってしまった…


 そして、つい、言ってしまってから、


 …そうか?…


 …そういうことか?…


 と、気付いた…


 このバニラとマリアと、いっしょに、お義父さんは、バカンスを楽しむつもりなのだ…


 なにしろ、バニラは、お義父さんの愛人…


 マリアは、お義父さんのとの間に出来た子供だからだ…


 葉敬が、来日することは、あまりない…


 いつもは、台湾に在住しているからだ…


 そして、今現在、このバニラとマリアの母子は、日本にいる…


 だから、来日した葉敬が、日本に滞在する、バニラとマリアと、いっしょに、過ごすのは、自然なこと…


 少し考えてみれば、誰にも、わかる当たり前のことだった…


 そして、この家にやって来るのも、自然だった…


 バニラとマリアは、この家によく遊びに来る…


 なにしろ、この家は、葉敬の家…


 私が、葉尊と結婚する前は、台湾在住の葉敬が、日本に来日したときに、別宅として、住んだ家だからだ…


 だから、馴染みがあった…


 この矢田よりも、馴染みがあった…


 この矢田が、この家に住み始める以前より、もっと前から、このバニラは、この家にやって来たに違いないからだ…


 だから、この矢田よりも、馴染みがあった…


 それより、なにより、葉敬の名前を出されたのが、マズい…


 葉敬は、この矢田が、頭が上がらない、数少ない人間の一人…


 その葉敬の名前を出されては、開けんわけには、いかんかった…


 この家に入れんわけには、いかんかった…


 「…今、開けるさ…」


 と、私は、言って、マンションのドアを開けた…


 これで、このマンションに二人が、入れる…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 私は、思いながら、パジャマを着替えるのを、止めた…


 パジャマを着替えている間に、バニラとマリアが、家に来ては、困るからだ…


 だから、パジャマのまま、二人を待った…


 バニラとマリアを待った…


 すると、まもなく、ベルが、鳴った…


 …ピンポン!…


 と、ベルが、鳴った…


 バニラとマリアが、やって来たのだ…


 私は、迷うことなく、玄関に走り、玄関のドアを開けた…


 すると、マリアが、飛び込んできた…


 玄関を開けたと、同時に、この矢田の元に、飛び込んできた…


 「…矢田ちゃん…」


 と、私の名前を呼びながら、飛び込んで来た…


 このマリアは、この矢田が好き…


 この矢田になついている…


 だから、母親のバニラは、嫌いだが、娘のマリアは、好きだった…


 この矢田になついているから、好きだった…


 そして、母親のバニラは、娘のマリアに弱かった…


 娘のマリアを溺愛しているからだ…


 だから、このバニラは、ホントは、この矢田が、大嫌いなくせに、娘のマリアの前では、


 「…お姉さん…」


 「…お姉さん…」


 と、私を立てた…


 ホントは、大嫌いなくせに、いつも立てた…


 娘のマリアが、私と遊んでくれなくなると、困るからだ…


 陰で、私のことを、


 「…クソ、チビ!…」


 とか、散々、悪くいうくせに、そんな素振りは、娘のマリアのいる前では、少しも出さなかった…


 そして、私の元に、嬉しそうに、飛び込んで来たマリアを見て、母親のバニラが、しおらしく、


 「…お姉さん…おはようございます…」


 と、頭を下げた…


 それから、


 「…今日は、よろしくお願いします…」


 と、続けた…


 それを、見て、


 「…コイツ、相変わらず、調子のいいヤツだ…」


 と、思った…


 娘のマリアのいる前では、態度を豹変させる…


 まるで、私と仲がいいように、演出する…


 実に、したたかなヤツだ…


 私は、あらためて、思った…


 思ったのだ…


 すると、だ…


 そのバニラの陰から、突然、小さな影が動いた…


 私は、一瞬、なんだか、わからんかった…


 この矢田の家にやって来たのは、バニラとマリアの二人だけだと、思ったからだ…


 だから、


 …なんだ?…


 と、思った…


 一瞬、思った…


 が、


 すぐに、その小さな影が、私に向かって、


 「…おはようございます…矢田さん…」


 と、挨拶した…


 小さな、浅黒い顔をした、チビが、私に挨拶した…


 私は、その顔を見て、驚いた…


 それは、アムンゼン…


 アラブの至宝だったからだ…


 だから、驚いた…


 驚いたのだ…


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