35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 62
あのチビを思い出した…
考えられんことだが、あのアムンゼンも例外では、ないかも、しれん…
凋落するかも、しれん…
そう、思ったのだ…
が、
同時に、気付いた…
あのアムンゼンの場合は、凋落といっても、お金がなくなることではない…
それは、一般人…
なぜなら、アムンゼンは、サウジアラビアの王族だからだ…
だから、凋落と言えば、サウジアラビアの王族から、追放されるとか、あるいは、暗殺されるか、どっちかに、違いない…
王家が没落する可能性もなくはない…
イランもかつて、王族が支配していたが、革命が起こり、現在の形になったからだ…
しかしながら、革命が起こる可能性は、普通に考えれば、ありえないくらい低いだろう…
が、
暗殺は、ありえる…
十分、ありえる…
なまじ、日本にいるから、暗殺ということが、実感ができない…
日本は、安全だからだ…
日本は、平和だからだ…
だから、実感ができない…
安倍晋三元首相の暗殺の例はあるが、あれは、例外中の例外と、大半のひとが、思っているからだ…
つまりは、それほど、平和だからだ…
だから、実感ができない…
暗殺の実感ができない…
が、
しかしながら、あのアムンゼンの暗殺は、ありえるかも、しれん…
アムンゼンが、サウジアラビアの王族から、追放されるより、はるかに、ありえるかも、しれん…
ありえる=可能性が高いかも、しれん…
私は、そう、思った…
そう、思ったのだ…
そういえば、以前も、似たようなことがあった…
アムンゼンが、私といっしょに、猿回しの旅を続けたときだ…
私は、当時、わけあって、猿の太郎と、いっしょに、大道芸をして、旅を続けた…
そのときに、アムンゼンが、やって来た…
もちろん、偶然ではない…
私が、猿の太郎といっしょに、大道芸を続けていることを、ネットで、見つけたのだ…
それで、私に近付き、私といっしょに、大道芸の旅を続けた…
が、
あのアムンゼンには、目的があった…
私と猿の太郎と旅を続ける目的があった…
それは、アムンゼンの政敵を油断させるためだった…
当時、アムンゼンの父親のサウジアラビアの前国王は、体調が悪く、影武者を使っていた…
重要な行事等には、その影武者が、前国王になりすまし、出席していた…
そして、いつのまにか、その影武者が、力をつけ、前国王になりすまそうとした…
本物の前国王になりすまそうとした…
しかし、それを、知りながらも、アムンゼンの兄の現国王は、どうすることもできなかった…
まだ即位して、まもないこともあり、サウジアラビアの王室で、力を得ていなかったのだ…
それゆえ、アムンゼンは、私と太郎といっしょに旅を続けた…
その姿を、知った、父の前国王の影武者が、日本にやって来る…
それを、期待したわけだ…
前国王になりすました影武者が、日本にやって来る…
そのときに、影武者を捕えようとしたのだ…
事実、アムンゼンが、頭がおかしくなったと、誤解した、来日した影武者は、あっけなく、捕えられた…
つまり、アムンゼンの目的は、達したわけだ…
もしや、今回もそれと、同じ…
前回と同じ…
わざと、あのリンに夢中になっている姿を見せている…
それで、周囲の人間を油断させ、なにかを、しようと、目論んでいる…
そう、考えるのが、自然…
実に、自然だった…
が、
当然ながら、証拠はない…
どこにも、ない…
それより、なにより、そんなことがあって、この矢田が、巻き込まれることが、なにより、嫌だった…
嫌だったのだ…
なぜなら、この矢田は、平凡…
平凡だからだ…
だから、この平凡な矢田トモコが、そんな大層なことに、巻き込まれるのが、嫌だった…
嫌だったのだ…
そして、そんなことを、考えていると、家の電話が鳴った…
朝っぱらから、鳴った…
私は、一体、誰が、家の電話に、電話をかけてきたのか?
怪しんだ…
イマドキ、家の電話に、電話をかけてくる者は、あまりいないからだ…
大抵は、誰もが、ケータイやスマホにかけてくるからだ…
だから、怪しんだ…
が、
出ないわけには、いかん…
いかんかった…
なにか、重要な電話かも、しれんからだ…
なにより、この家は、元々、葉敬が、日本に滞在したときに、住んでいたマンション…
いわば、葉敬=お義父さんが、日本に持つ別宅だったからだ…
それを、私と葉尊が、結婚したから、葉尊に譲った…
息子の葉尊の新婚祝いに譲ってくれたのだ…
だから、電話番号もそのまま…
台湾在住時の葉敬が、日本に滞在したときの別宅のまま…
なにも、変えていない…
それゆえ、もしかしたら、葉敬の知り合いから、電話があったかも、しれんからだ…
だから、私は、慌てて、出た…
電話に出たのだ…
そして、電話に、出て、
「…もしもし…」
と、私が、言うや、否や、電話の向こう側から、流れてきた声は、
「…お姉さんですか?…」
と、いう声だった…
聞き覚えのある声だった…
「…葉敬です…おはようございます…」
電話の主は、葉敬だった…
私の義父の葉敬だった…
夫の葉尊の実父の葉敬だった…
私は、驚いたが、それは、一瞬だけ…
一瞬だけだった…
考えてみれば、昨日、葉敬は、来日したばかり…
今日、電話があっても。おかしくは、なかったからだ…
なにより、ホントは、昨日、来日したのだから、私の家に泊まると、思っていた…
何度も言うように、今、私の住む、このマンションは、元は、葉敬のもの…
だから、ホントは、わざわざ、台湾から来日したのだから、この家に、泊まるのは、当たり前だった…
しかしながら、葉敬が、今回、来日した際に、同行した関係者が、多かった…
まるで、大名行列のように、多かった…
台湾の大物実業家だから、当然なのかも、しれん…
プライベートでも、大勢の関係者を連れて来日するのが、当然かも、しれん…
が、
それでは、この家に泊まるのは、無理…
できんかった…
このマンションは、いわゆる億ションで、高価だから、広いが、それでも、二十人や、三十人も泊まれるほど、広くは、ないからだ…
だから、葉敬は、ホテルに泊まった…
泊まったのだ…
それゆえ、その葉敬から、今朝、連絡があっても、おかしくも、なんとも、なかった…
むしろ、当たり前だった…
連絡があって、当たり前だった…
私が、そんなことを、考えていると、
「…お姉さんは、今日は、なにか、用事がありますか?…」
と、葉敬が、電話の向こう側から、聞いてきた…
私は、とっさに、
「…ないさ…」
と、返答した…
事実、予定は、まったくなかった…
当たり前だった…
今の私は、専業主婦…
専業主婦=無職…
働いていない…
以前は、契約社員だったが、契約が、終了して、次の仕事を探そうとしている最中に夫の葉尊と出会い結婚したからだ…
だから、無職…
専業主婦だ…
そして、なにより、この平凡な矢田トモコが、台湾の大財閥の跡取り息子と結婚して、まだ半年あまり…
あまりにも、身分違いの結婚をして、バタバタし過ぎた…
いわば、落ち着く暇がまるで、なかったのだ…
だから、プライベートもなにもあったものじゃない…
それゆえ、予定もなにも、なかった…
なかったのだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…そうですか…それは、よかった…」
と、葉敬が、電話の向こう側から、言った…
実に、上機嫌に、言った…
それから、続けて、
「…それでは、今日、これから、お姉さんも、私たちと、いっしょに、どこか、行きましょう…」
と、言った…
仰天のことを、言った…
さらに、
「…私たちと言うのは、もちろん、リンもいっしょです…」
ち、付け加えた…
「…いいでしょ? …お姉さん?…」
葉敬が、聞く…
私の夫の実父、台湾の大富豪が、聞く…
当然ながら、嫌とは、言えんかった…
ホントは、嫌だが、嫌とは、言えんかった…
「…ハイ…ぜひ…」
としか、言えんかった…
言えんかったのだ(涙)…
が、
そんな私の気持ちを知ってか、知らずか、わからんが、
「…そうですか…それは、よかった…」
と、葉敬が、やはり、上機嫌に言った…
実に、楽しそうに、言った…
だから、私も、
「…こちらこそ、ごいっしょできて、嬉しいです…」
と、返した…
社交辞令というやつだ(苦笑)…
ホントは、嫌で、嫌で、たまらんかったが、口では、そう言った…
心で、思っていることと、真逆のことを、言った…
いわば、顔で笑って、心で泣いてというやつだ…
自分の心と、真逆のことを、言ったのだ…
すると、葉敬は、実に、上機嫌で、
「…では、これから、お迎えに行きます…」
と、告げた…
まさかの、言葉だった…
まさかの、展開だった…
一瞬、頭の中が、パニクった…
考えもせん、展開だったからだ…
諸行無常…
いや、
とにかく、予想外の展開に、この矢田の心が、乱された…
思いっきり、乱された(涙)…




