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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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61/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 61

あのアムンゼン…


 アラブの至宝のことを、考え続けた…


 すると、いつのまにか、食事をする私の手が止まった…


 これは、誰でも、同じ…


 同じだ…

 

 あまりにも、なにか、考え事に夢中になると、食事も、手につかなくなる…


 私も、それと、同じだった…


 人間は、誰もが、それほど、器用ではない…


 考え事をしながら、同時に、なにかをし続けることは、できない…

 

つまり、そういうことだった(笑)…


 私が、箸を止めて、考え込んでいると、葉尊も、すぐに、それに、気付いた…


 「…どうしました? …お姉さん…お腹が、空いているんでしょ?…どうして、食べないんですか…」


 「…いや、アムンゼンのことを、考えてな…」


 「…殿下のことですか?…」


 「…あのアムンゼンの狙いが、わからんのさ…」


 「…殿下の狙いは、ハマスが、イスラエルを攻撃することを、事前に思いとどまらせることだと、さっき、お姉さんに、言ったじゃ、ないですか?…」


 「…それは、わかったさ…」


 「…だったら、なにを?…」


 「…いや、それだけとは、思えんのさ…」


 「…どういうことですか?…」


 「…あのアムンゼンのことだ…他にも、狙いがあるんじゃないかと、思ってな…」


 「…」


 「…アイツは、食わせものさ…したたかな男さ…」


 「…」


 「…考えてみれば、あのオスマンが、ラーメンを食べるのを、ネットにアップしたんだって、今回の件と関係があるのかも、しれんさ…」


 「…関係ですか?…」


 「…そうさ…たしか、葉問が、あの動画をアムンゼンが、ネットにアップしたのは、オスマンに試練を与えるためだと、言っていたが、私は、信じんさ…」


 「…」


 「…アレは、きっと、別の狙いがあるのさ…」


 「…どんな狙いですか?…」


 「…それは、わからんさ…ただ、オスマンに試練を与えるだ、なんだと、葉問は、言っていたが、私は、違うと思うさ…」


 「…どうして、そう思うんですか?…」


 「…あのアムンゼンは、試練だなんだと、そんな意味のないことは、しないさ…」


 「…」


 「…それは、高校野球のしごきと、いっしょさ…アムンゼンは、意味のないことは、しないさ…練習と言っても、理屈に合わんことは、せんさ…」


 私が、言うと、


 「…」


 と、葉尊は、なにも、言わんかった…


 私同様、箸を止めて、考え込んだ…


 それから、


 「…たしかに、お姉さんの言うことも、一理ある…ただ、甥のオスマン殿下に試練を与えるためだけに、ラーメンを食べる動画をアップするなんて、ありえないかも、しれない…」


 と、呟いた…


 そして、私同様、考え込んだ…


 が、


 私は、それを見て、


 「…いかんさ…」


 と、言った…


 「…いかんさって、なにが、いかんさなのですか?…」


 「…葉尊…オマエには、会社がある…さっさと、飯を食わねば、いかんさ…」


 私は、慌てて、言った…


 「…そうです…忘れていました…」


 葉尊は、言って、慌てて、食事を再開した…


 夢中になって、ご飯をかきこんだ…


 私は、それを、見て、やはり、この葉尊には、私が、必要だと、確信した…


 この葉尊は、この矢田よりも、六歳年下…


 だから、頼りないと言ったら、悪いが、誰かが、この葉尊の面倒をみて、やらねば、ならんからだ…


 そして、面倒をみるのは、今のところ、この矢田以外の誰も、いなかった…


 誰も、いなかったのだ…


 仕方がない…


 面倒をみてやるか?


 私は、思った…


 私の細い目で、葉尊を見ながら、思ったのだ…


 葉尊は、長身のイケメンで、大金持ちの息子だが、やはり、それゆえ、世間を知らん…


 この矢田のように、苦労をしていないからだ…


 だから、ダメだ…


 このままでは、ダメだ…


 放っておけば、誰かに騙されて、大変な目に遭うかも、しれん…


 だから、当面の間、この矢田が、この葉尊の面倒をみて、やらねば、ならん…


 そう、思った…


 すると、勢いよく、ご飯を食べていた葉尊が、またも、箸を止めて、


 「…どうしたんですか? …お姉さん…ボクをジッと見て?…」


 と、聞いた…


 私は、いつもの、


 「…なんでもないさ…なんでもないさ…」


 と、言って、葉尊同様、慌てて、ご飯をかきこんだ…


 すると、空腹だったから、ご飯が、とりわけ、おいしかった…


 丸一日近く、なにも食べていないから、当たり前だった…


 昨日、空港に、お義父さんを迎えに行く前に、朝食を食べて以来だから、お腹が空いて、当たり前だった…


 葉尊は、私のそんな姿を見て、なにも、言わんかった…


 これ以上、なにも、言わんかった…


 ただ、黙って、私といっしょに、ご飯を食べた…


 それから、まもなくして、葉尊は、家を出た…


 会社に行くためだ…


 葉尊は、日本の総合電機メーカー、クールの社長…


 だから、家を出れば、すでに、外で、迎えのクルマが、葉尊を待っている…


 それゆえ、余計に、急いで、家を出ねば、ならん…


 すでに、マンションの駐車場で、会社から、派遣された、お抱えの運転手が、葉尊を待っているからだ…


 だから、一分でも、早く家を出ねば、ならん…


 いつまでも、運転手を待たせるわけには、いかんからだ…


 葉尊は、社長だから、運転手を待たせても、構わないでしょ?


 と、いう人間は、いるかも、しれん…


 立場が、違うのだから、当然という人間も、いるかも、しれん…


 が、


 それは、違う…


 立場が、違っても、互いに、相手を気遣う気持ちが、なければ、ならん…


 そうでなければ、相手の気持ちが離れる…


 私自身、キレイごとを、言うつもりは、さらさらない…


 嫌な人間は、嫌だからだ…


 だが、大抵の人間は嫌でもなんでもない…


 そんな人間に、尊大な態度をとって、わざわざ、敵に回す必要は、ないからだ…


 葉尊は、今は、クールの社長だが、一生、今の地位にいられるか、どうかは、わからない…


 誰もが、将来のことは、わからないからだ…


 あのひとが、まさか、あんなことに…


 なんて、例は、古今東西、枚挙にいとまがない…


 だから、そのときになって、誰も、葉尊を助ける相手が、いない…


 誰一人、味方になってくれる人間が、いない…


 そんな惨めな目に遭って、もらいたくないからだ…


 葉尊は、大企業の社長…


 そして、葉尊の実父、葉敬は、台湾屈指の大企業、台北筆頭のオーナー社長…


 だから、葉尊の一生は、誰が考えても、安泰と考えるが、そうでない可能性もある…


 それは、例えば、一般の庶民のような暮らしを続けていれば、一生安泰だろう…


 しかしながら、金持ちには、誘惑が多い…


 それは、女を囲うとか、そういうことではなく、大抵は、投資…


 どこそこの会社を買収するとか、なんとか…


 すると、当然、資金が、何十億、何百億と必要となってくる…


 そして、それが、一度ならず、二度も、三度も、失敗すれば、一文無しになりかねない…


 いかに、資産が、何百億あろうとも、一文無しになりかねない…


 当たり前のことだ…


 その実例が、ソニーの創業者、盛田昭夫の実子、英夫の凋落だ…


 最初は、スキー場、そして、次は、レースのF1参入…


 そのいずれも失敗して、数百億の金が、吹き飛んだそうだ…


 普通に考えて、ありえん話だが、事実だ…


 自分の持つ、数百億の財産…


 それが、消えたわけだ…


 もはや、ホラー映画に近いが、事実だ…


 まさに、平家物語ではないが、おごれるもの久しからず…


 その実例だ…


 だから、私は、葉尊に、そんな目に遭って、もらいたくない…


 そう、思って、葉尊に厳しく接するのだ…


 私は、葉尊が、いなくなった部屋で、ジッと考えた…


 考え続けたのだ…


 この矢田トモコ、35歳…


 ひとは、私を玉の輿に乗った、運のいい女…


 平凡な、庶民に過ぎない、女が、台湾の大財閥の御曹司と結婚したから、35歳のシンデレラと、呼ばれ、調子に乗っていると、思うかも、しれんが、私は、少しも調子に乗っていない…


 なぜなら、先のことは、わからんからだ…


 今は、いい…


 豪勢な暮らしをしている…


 しかし、それが、十年後も二十年後も、三十年後も、同じかと、言えば、微妙…


 微妙だからだ…


 正直、よくわからない…


 先に例に挙げた盛田昭夫の息子の英夫ではないが、失敗するものも、多いからだ…


 英夫の場合は、父親が、有名人だから、話題になったが、やはり、同じように、失敗した人間は、世の中に、少なからず、いるだろう…


 ただし、誰もが、英夫ほど、多くの投資をしていないし、桁が少ないから、話題にならない…


 そういうことだ…


 そして、それを、思えば、日本の戦国大名も、そうだし、中国の歴代の王朝も、同じ…


 先祖から、受け継いだ地位を守り切れず、失脚あるいは、滅亡した例は、数知れず…


 ただし、今は、戦国時代でも、なんでもないから、そこまで、派手ではない…


 つまり、わかりづらい…


 盛田英夫の凋落は、今の時代にあって、稀有…


 非常に、稀な例だ…


 しかしながら、同じように、凋落した人間は、多いだろう…


 ただし、それが、世間で、話題にならないだけだ…


 規模が大きくないからだ…


 だから、話題にならない…


 そういうことだ…


 とりわけ、この日本では、バブル時代に成り上がり、その後、凋落した例は、多いだろう…


 いわば、ミニ英夫が、日本中のあちこち、至る所に存在したわけだ…


 ただ、話題になることはない…


 そういうことだ…


 そして、そんなことを、考え続けていると、もう一人の大金持ちを思い出した…


 他でもない、アラブの至宝…


 アムンゼンのことを、思い出した…


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