35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 56
「…なんだと? …抗争だと?…」
私は、目を細めて、葉問に聞いた…
実に、意味深…
意味深な言葉だったからだ…
「…それは、どういう意味だ?…」
私が、聞くと、葉問が、笑った…
実に、意味深に笑った…
私は、頭に来た…
私をバカに、したと、思ったからだ…
「…さっさと、答えろ、葉問!…」
私は、頭にきて、葉問を怒鳴った…
怒鳴ったのだ…
すると、
「…お姉さんも、見たでしょ?…」
と、葉問が、聞いた…
「…見た? …なにを、見たんだ?…」
「…殿下の豪邸で、天女をイメージしたリンの肖像画を…」
葉問が、いきなり、言った…
私が、思っても、見ないことを、言った…
「…たしかに、見たさ…でも、アレが、どうかしたのか?…」
「…アレは、殿下の抗争の意思表示です…」
「…なんだと?…」
「…アレは、リンを知っているものならば、誰が、見ても、リンを描いたものと、気付くでしょう…それが、殿下の狙いです…」
「…狙い?…」
「…そうです…」
葉問が、言う…
実に、意味深に、言う…
「…狙いは、なんだ?…」
「…わかりません…」
「…わからないだと?…」
「…ハイ…」
葉問が、自信たっぷりに、言う…
自分は、わからないと、自信たっぷりに、言う…
だから、私は、
「…オマエ、おかしくないか?…」
と、言ってやった…
「…なにが、おかしくないんですか?…」
「…だって、そうだろ? わからないと、自信たっぷりに、言うなんて…」
私が、言うと、葉問が、笑った…
実に、愉快そうに、笑った…
「…たしかに、お姉さんの言う通りですね…自信たっぷりに、わからないと言うのは、おかしいですね…」
「…」
「…でも、事実です…殿下は、狡猾です…決して、自分の考えを他人に、読ませない…」
「…」
「…だから、傍から見れば、なにを考えているか、わからない…」
「…」
「…殿下は、自分の見た目を最大限に利用しています…子供にしか、見えない見た目を最大限、利用しています…」
「…」
「…おそらく、殿下がリンを好きと言うのは、事実か、どうか、わかりません…」
「…なんだと?…」
「…殿下は、あのカラダです…おそらく、成人男子が、持つ、性的欲求は、ないでしょう…」
「…性的欲求だと?…」
「…ぶっちゃけ、あの女と寝たい…セックスをしたいという欲求です…」
「…」
「…ある意味、殿下は、宦官と同じです…」
「…宦官と同じだと?…」
「…宦官は、男ですが、去勢されていますから、子供を作ることが、できない…つまり、子孫を作れない…だから、現世の自分の欲求にのみ、こだわる…財産を作ったりすることに、こだわる…執着する…」
「…」
「…ですが、殿下は、生まれつき、財産は、腐るほど、ある…だから、金に執着しない…」
「…」
「…おそらく、殿下の頭の中にあるのは、サウジアラビア…そして、アラブ世界です…」
「…」
「…かつて、私は、イギリスと結婚したと、公言したエリザベス一世女王と同じです…」
「…」
「…殿下の視線の先には、サウジアラビアが、そして、アラブ世界が、常にある…だからこそ、殿下は、アラブの至宝なんです…」
葉問が、力を込めて言う…
が、
私は、信じんかった…
なにしろ、あのアムンゼンだ…
3歳にしか、見えんガキだ…
つい、先日も、この矢田といっしょに、ラーメンを食べた…
この矢田と、甥のオスマンと三人で、ラーメンを食べた…
あのアムンゼンが、どうしても、そんなに、偉くは、見えんかった…
これは、おそらく、大会社の社長と同じ…
プライベートで、いつも、冗談を言いあったりして、会社での偉い姿を見たことが、ない人間を、偉いとは、誰も、思わない…
それと、同じだ…
そして、それを、考えたとき、ふと、オスマンのことを、思い出した…
あのオスマンが、この矢田とアムンゼンといっしょに、ラーメンを食べている…
その映像が、サウジアラビアに流れて、大騒ぎになっていることを、思い出した…
なぜ、たかだか、ラーメンを食べていることが、大騒ぎになったのか?
それは、イスラム世界は、肉食禁止だからだ…
それが、ラーメンを食べた…
厚切りの分厚いチャーシューを食べた…
それが、問題になったことを、思い出した…
思い出したのだ…
しかも、その映像を、流した張本人は、あのアムンゼンだと言う…
にわかには、信じられんかったが、たしかに、あの映像を取れる人間は、限られる…
だから、犯人は、あのアムンゼンの可能性が、高い…
しかし、なぜ、あのアムンゼンが、そんなことを、するのか、わからない…
なぜなら、あのオスマンは、あのアムンゼンの甥…
そして、あのアムンゼンの忠実なボディーガードだからだ…
その忠実なボディーガードをなぜ、裏切るような真似をしたのか?
さっぱり、わからんかった…
わからんかったのだ…
だから、葉問に、
「…あのオスマンが、分厚いチャーシューを食べている映像が、サウジアラビア本国で流れて、問題になっていると、聞いたが、アレは、アムンゼンが、わざと、流したと、たしか、オマエが、言っていたな…」
と、聞いた…
「…どうして、アムンゼンは、そんな真似をしたんだ?…」
「…おそらく、殿下は、オスマンに試練を与えようとしたんじゃないでしょうか?…」
「…試練だと?…」
「…そうです…」
「…なんでだ?…なんで、そんなことをする?…」
「…殿下から、見れば、オスマンは、苦労が足りてないと、思っているのかも、しれない…だから、わざと…」
「…それを、言えば、あのアムンゼンだって、ボンボンだ…苦労はしていないだろ?…」
「…たしかに、生まれは、アムンゼン殿下とオスマンは、同じサウジアラビアの王族ですが、殿下は、あの外見です…苦労は、人並み以上に、しているでしょう…だから、余計に、オスマンを見て、苦労が、足りてないと、思うのでしょう…」
「…」
「…だから、わざと、試練を与えた…そう、考えるのが、正しいでしょう…」
「…」
「…なにしろ、オスマンは、あの外見です…長身で、イケメン…叔父のアムンゼン殿下とは、真逆です…サウジアラビア国内で、女性からの支持率が、驚異的に、高いそうです…」
「…なんだと? …女性からの支持率だと?…」
「…要するに、女から、モテる…だから、今、サウジアラビア国内で、オスマンを非難する連中は、皆、男…つまり、嫉妬です…イケメンで、金持ちの王族…だから、許せない…そういうことです…」
葉問が、笑う…
「…まあ、今、オスマンは、サウジアラビア国内で、男の嫉妬の的に、なっている…でも、オスマン本人は、この日本にいる…だから、たいした影響は、ない…実に、幸運です…」
と、葉問が、笑いながら、言った後、
「…ですが、それも、殿下の狙いかも、しれません…」
と、付け加えた…
「…殿下の狙いだと?…」
「…さすがに、かわいい甥を直接、男たちの嫉妬の嵐の前に立たせるわけには、いかない…日本国内という安全圏にいるからこそ、今回のことを、仕掛けたのかも、知れません…」
「…」
「…かわいい子には、旅をさせよと、日本のことわざにあるそうじゃ、ないですか?…殿下の真意も、おそらく、それと、同じでしょう…オスマンが、かわいいからこそ、試練を与える…そういうことでしょう…」
葉問が、説明する…
アムンゼンの真意を説明する…
私は、それに、意義をとなえるつもりは、まるでなかった…
が、
しかし、だ…
どうして、そんなことが、この葉問にわかる?
それが、問題だった…
この矢田ですら、わからないことを、簡単に、解説する…
なにしろ、この矢田は、あのアムンゼンと親しい…
あのアムンゼンとオスマンといっしょに、ラーメンを食べた仲でもある…
しかしながら、あのアムンゼンは、そんなことは、一言も、この矢田に、言わんかった…
あれほど、この矢田を、
「…矢田さん…」
「…矢田さん…」
と、慕っているにも、かかわらず、一言も、この矢田に、言わんかった…
だが、この葉問は、あのアムンゼンの真意を知っている…
ただの想像だけでは、あるまい…
おそらく、どこかから、情報を集めて、自分なりに、考えて、答えを出したに、決まっている…
そうで、なければ、これほど、自信を持って、私に言うわけは、ない…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そう考えると、ひとつの答えが、浮かんだ…
この葉問が、誰に、そんなことを、聞いたのか?
答えが、浮かんだのだ…
「…リンダか?…」
私は、言った…
「…リンダが、葉問…オマエに、教えたんだな…」
私は、断定した…
勝手に、決めつけた…
「…お姉さん…どうして、そう、思うんですか?…」
葉問が、笑いながら、聞く…
「…リンダが、オマエに惚れてるからさ…」
私は、言ってやった…
「…そして、そのリンダに、アムンゼンは、惚れてる…」
私は、言った…
「…だから、リンダが、アムンゼンから得た情報をオマエに、教えたんじゃないのか?…」
私が、言うと、葉問が、笑った…
笑いながら、
「…さすがです…お姉さん…」
と、私を褒めた…
「…当たり前さ…」
私は、言ってやった…
「…私を誰だと、思っているのさ…矢田トモコさ…この矢田に隠し事はできんさ…この矢田の目をごまかすことは、不可能なのさ…」
私が、言うと、葉問が、笑った…
実に、意味深に笑ったのだ…
「…なにが、おかしい?…葉問?…」
私は、聞いてやった…
「…おかしい? …なにがです?…」
「…オマエのその笑いだ?…一体、なんだ? その笑いは?…」
私は、怒って言ってやった…
すると、だ…
「…お姉さん…大事なことを、忘れてますよ…」
「…大事なこと?…」
「…そうです…」
「…なんだ? …それは?…」
「…空港で、昼間、葉敬を迎えたとき、リンは、リンダと同じ格好をしてきましたよね? 同じような派手な格好をしてきましたよね?…」
「…それが、どうかしたのか?…」
「…アレは、リンダの指示です…」
葉問が、仰天の事実を言った…




