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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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54/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 54

「…どういう意味だ?…」


 私は、言った…


 「…悪い噂しか、聞かないから、接触したというのは、どういう意味だ?…」


 と、付け加えた…


 すると、葉尊は、ジッと、中身を飲み干したグラスを見ながら、指で、弄びつつ、


 「…要するに、峰不二子ですよ…」


 と、ゆっくりと、言った…


 「…なに? …峰不二子?…」


 「…そうです…つまり、さまざまな男を翻弄する噂が、彼女の持ち味です…」


 「…なんだと? …持ち味?…」


 「…つまり、自分の噂が、色々流れることに、よって、自分の価値を高めている…」


 「…」


 「…だから、ボクは、ちょっと、イタズラをしたくなったんです…」


 「…イタズラ?…」


 「…ひとを介して、リンと知り合うことが、できました…だから、お姉さんには、申し訳ないですが、お姉さんに、ちょっかいを出して、みればと、提案しました…」


 「…なんだと?…」


 「…お姉さんには、申し訳ないですが、どうしても、そうしたかったんです…」


 「…なんでだ? …なんで、そんなことを、したかった?…」


 「…お姉さんが、父といっしょにいたからです…」


 「…なんだと? …私が、お義父さんと、いっしょに、いたからだと?…」


 「…そうです…だから、安心して、お姉さんにちょっかいを出すことが、できた…なにか、あれば、父が、止めることが、わかっていたからです…」


 「…どうして、そんな真似を?…」


 「…リンが、どこまで、やるか、見てみたかったからです…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…ボクが、お姉さんにわざと、ちょっかいを出してみろ、と、リンに命じます…でも、これが、お姉さんが、リンの立場だったら、どうですか?…」


 「…なんだ? …なにを、言いたい?…」


 「…要するに、どこまで、やるかです…それで、リンの性格を知ることができる…」


 「…性格?…」


 「…誰かに、ちょっかいを出してみろと、言っても、それが、悪口を言う程度なのか? それとも、直接、暴力に訴えるか? これは、ひとそれぞれです…」


 「…」


 「…ですが、どこまで、やるかで、その人間の性格を知ることが、できる…」


 「…」


 「…ボクは。リンの性格を見てみたかった…そして、おそらく、父も、ボクの目的に、気付いたはずです…」


 「…どうして、そんなことが、わかる?…」


 「…ボクの人脈というか、情報網は、父に遠く及びません…だから、おおげさに、言えば、ボクの知るところは、すなわち父の知るところとなる…」


 「…」


 「…だから、すでに、ボクが、リンと接触したのを、父は、知っているはずです…」


 「…」


 「…つまり、ボクは父の手のひらの上で、動いているに過ぎません…」


 「…」


 「…だから、たぶん、父は、ボクの目的に、気付いた…」


 「…目的?…」


 「…リンの背後に、誰がいるか? それが、知りたい…」


 「…リンの背後だと?…」


 「…リンは、台湾で、一番有名なチアガールです…彼女には、色々な噂が、飛び交っている…いわゆる、芸能界の枕疑惑や、政界や財界の枕疑惑です…ですが、なにひとつ、確証がない…証拠を掴めたことがない…出るのは、あくまで、噂だけ…そして、本人も、なにより、それを、理解した上で、行動している…」


 「…」


 「…今回、父が、リンといっしょに、来日した理由は、さまざまですが、おそらく、父の狙いは、リンの背後にいる存在です…」


 「…背後にいる、存在?…」


 「…それを、父は知りたがっている…だから、父は、リンといっしょに来日した…ボクは、父の目的をそう、見ています…」


 私は、仰天した…


 仰天したのだ…


 たしか、最初の話では、台湾の球団の買収の話だった…


 チアガールのリンの所属する、プロ野球球団が、売却の噂が出た…


 事実、その通りで、その買い手に、葉敬の名前が出た…


 なにしろ、葉敬は、台湾の大企業、台北筆頭のオーナー経営者…


 だから、球団の買い手として、名前が出るのは、当たり前だった…


 金持ちだから、当たり前だった…


 そして、葉敬自身が、難しい立場にいると、いうことだった…


 難しい立場というのは、葉敬に、球団の買収を勧めるのが、台湾の政界や財界の有力者だということだからだった…


 葉敬の旧知の政界や財界の有力者だからだった…


 だから、むげにはできない…


 簡単に断ることが、できない…


 これが、旧知の知人であっても、一般の人間なら、いい…


 あるいは、学生時代の友人、知人や、幼馴染だったら、いい…


 なぜなら、利害関係が、ないからだ…


 いうなれば、ただの、昔からの知り合いに、過ぎないからだ…


 だから、嫌なら、簡単に断れる…


 しかし、相手が、いかに、昔からの友人や知人であっても、政界や財界の有力者なら、話が、変わる…


 相手の面子があるからだ…


 だから、簡単に断ることが、できない…


 相手の面子を考慮しなければ、ならないからだ…


 だから、むげに、断ることが、できない…


 仮に、断るとしても、順序を踏んで、断らなければ、ならない…


 順序を踏んでというのは、実際に検討するということだ…


 あるいは、検討するフリをすることだ…


 例えば、


 「…あの球団を買ってよ…」


 と、相手に、言われても、


 「…嫌…」


 と、あっさりと、返すことは、できない…


 それでは、相手の面子を潰すことに、なるからだ…


 だから、できない…


 当たり前だ…


 そして、なにより、その売り出された球団の最大のウリは、あのリンが、所属すること…


 台湾で、絶大な人気を誇る、チアガールのリンが、所属することだった…


 そして、そのリンの人柄を知るためにも、今回、葉敬は、いっしょに、来日するということだった…


 なにしろ、葉敬に買えと、迫ったプロ野球球団の最大のウリは、リンだったからだ…


 野球選手ではなく、チアガールのリンだったからだ…


 だから、いわば、最大の商品…


 球団の中で、一番大事な商品だからだ…


 だから、その商品を見極めるために、リンといっしょに、来日すると、言っていた…


 それが…


 随分、話が、違ってきた…


 いや、


 話が、違ったわけでは、ないのかも、しれない…


 元々、球団の買収の話は、あった…


 あったが、それは、表向きの話…


 裏でも、いろいろとあるということだろう…


 いわば、本音と建て前というか…


 つまり、表には、できない話もあると、いうことだ…


 そして、そんなことを、考えていると、ふと、あのアムンゼンのことを、思い出した…


 あのアラブの至宝のことを、思い出した…


 あのアムンゼンは、あのリンのファンだと言う…


 が、


 それが、真実か否かは、わからない…


 なぜなら、あのアムンゼンは、食わせ物だからだ…


 さっき、葉尊が、リンを評したように、食わせ物だからだ…


 食わせ物=油断のならない人物だからだ…


 あのリンとアムンゼンは、似ている…


 なぜなら、あのリンは、派手なチアガールを装っているが、実は、内面が、違う…


 そして、それは、あのアムンゼンも同じ…


 3歳の外見を持つことをいいことに、それを最大限利用している…


 つまり、子供のフリをしている…


 ホントは、30歳なのに、3歳の子供のフリをしている…


 まるで、名探偵コナンだ…


 コナンは、ホントは、16歳の高校生探偵の工藤新一が、6歳の子供の江戸川コナンを演じているのだが、それ以上だ…


 それ以上に、年齢差が、大きい…


 そして、私が、あのアムンゼンの豪邸を訪れたとき、あのリンをイメージした天女の絵を見せた…


 本来、偶像崇拝を禁じるイスラム世界の禁を破ってまで、リンをモチーフにした絵を描いて、見せた…


 いかに、アムンゼンが、リンを慕っているか、周囲に見せるためだ…


 あれを見れば、いかに、アムンゼンが、リンに憧れているか、わかるからだ…


 だが、本当に、そうか?


 本当に、アムンゼンは、リンに憧れているのだろうか?


 疑問が、残る…


 なぜなら、あのアムンゼンは、食わせ物だからだ…


 食わせ物=ハッキリ言えば、見た目と中身が違う…


 ハッキリ言えば、見た目と中身が、別物だからだ…


 だから、騙される…


 その見た目に騙される…


 中身は、別物だからだ…


 だから、アムンゼンは、その見た目を利用して、子供のフリをして、あの保育園で、活動している…


 3歳の子供なら、大人は、油断する…


 まさか、3歳の子供にしか、見えないアムンゼンが、実は、30歳の大人だとは、夢にも、思わないからだ…


 だから、油断する…


 油断=警戒しない…


 それゆえ、大人は、つい、ポロっと、相手が、子供だと思って、大人相手なら、言わないことも、言う…


 つまりは、あのアムンゼンは、自分のルックスを最大限活用しているわけだ…


 子供にしか、見えないルックスを利用しているわけだ…


 と、そこまで、考えて、気付いた…


 たしかに、あのアムンゼンは、小人症だから、特殊な事例だが、外見と中身が、違うことは、世間では、ありがちなことだと、気付いた…


 女を、例に取れば、いかにも、清純を気取っていても、影では、あっちの男、こっちの男と、いろいろな男と関係している女は、いつの時代でも、どこの世界でも、いるものだ…


 つまり、外見は、清純でも、中身は、遊び人の女は、いるものだ…


 要するに、見た目と中身が、違うということだ…


 外見は、まじめに見えても、中身は、違うということだ…


 これは、誰でも、わかるものだ…


 私に限らず、誰でも、そんな人間を、間近に見たことがあるものだ…


 まじめに、見える人間が、まじめでは、ない…


 真逆に、いかにも、遊んでいそうな派手な女が、遊んでいない…


 そんな実例は、世間を見れば、枚挙にいとまがないからだ…


 これは、女に限らず、男でも、同じ…


 なにより、もっと、ありがちなのが、頭がよさそうな人間が、頭が、よくなかったり、真逆に、頭が、悪そうな人間が、頭が、良かったり、することがある…


 これもまた、同じ…


 外見と中身が、違うということだ…


 ここまで、考えると、むしろ、外見と中身が一致する方が、少ないのでは?


 と、思ってしまう(笑)…


 が、


 いづれにしても、大半は、接していれば、外見と中身が、違うことに、気付くものだ…


 そして、そんなことを、考えると、私は、ふと、あのアムンゼンのことを、考えた…


 いや、


 アムンゼンのことではない…


 夫の葉尊が、なぜ、実父の葉敬に、アムンゼンのことを、伝えないのか?


 を、考えたのだ…


 これは、もしかしたら、葉尊が、アムンゼンを切り札にするつもりでは?


 と、思った…


 つまりは、葉尊は、今、実父の葉敬の手のひらの上で、動いているに、過ぎない…


 それを、快く思わない葉尊が、実父の葉敬に対抗するため、アムンゼンを、自分の味方につけようとしているのでは、と、考えたのだ…


 そして、その可能性はある…


 十分、あると、睨んだ…


 睨んだのだ…


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