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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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53/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 53

私は、ビビった…


 正直、ビビった…


 この質問は、しては、いけない質問だったらしい…


 さすがに、そこまでは、考えんかった…


 だが、


 少し考えれば、わかる話だった…


 夫の葉尊が、実父の葉敬に、アムンゼンを紹介しない…


 実の父親に、紹介しろと、言われても、紹介しない…


 となれば、なにか、理由があるからだ…


 なにか、葉尊に理由=考えが、あるからだ…


 私は、いまさらだが、それに、気付いた…


 夫の葉尊の顔色が、変わったことで、気付いた…


 言わなければ、良かった…


 聞かなければ、良かった…


 と、思ったが、後の祭りだった…


 言ってしまったことは、仕方がない…


 聞いてしまったことは、仕方がないからだ…


 私は、内心、ビビりながら、そんなことを、考えていると、葉尊が、グラスを一気にあおった…


 グラスの中に、残ったウイスキーを一気に飲み干した…


 それから、


 「…別に大した理由はありませんよ…」


 と、言った…


 「…ただ、父を困らせたかっただけです…」


 「…お義父さんを困らせたかった?…」


 「…そうです…」


 そう言うと、空になったグラスに、ウイスキーを注いだ…


 グラス一杯に注いだ…


 私は、驚いた…


 なぜなら、当然、水で、割って飲むものだと、思っていたからだ…


 だから、驚いた…


 驚いたのだ…


 「…父を…葉敬を困らせてやりたかった…それが、理由です…」


 「…どうしてだ? …どうして、困らせて、やりたかったんだ?…」


 私は、聞いた…


 ホントは、聞かない方が、良かったのかも、しれんが、聞いてしまった…


 いわば、毒を食らわば皿まで…


 一度聞いてしまった以上、聞いた方が、良いと思ったからだ…


 すると、葉敬が、苦笑いを浮かべながら、


 「…それは、簡単です…」


 「…簡単だと?…」


 「…そう、簡単です…要するに、ボクは、父が好きではないからです…」


 「…」


 「…そして、父もボクを好きではない…」


 「…そんなことは、ないだろ? 現に、オマエは、クールの社長だ…ホントに、嫌いなら、いくら実の息子でも、子会社とはいえ、日本の総合電機メーカーの社長は、任せんだろ?…」


 「…名目だけですよ…」


 「…名目だけ?…」


 「…そうです…クールの経営は、実質、台湾から、連れてきた、父の側近が、経営しています…ボクは、ただ、それを、承認するだけ…当たり前じゃないですか?…」


 「…なにが、当たり前なんだ?…」


 「…ボクは、今、29歳です…29歳の若造が、いかに、社長に祭り上げられようと、日本のクールの経営が、できるわけがありません…社員が、納得しませんよ…」


 「…」


 「…だから、それがわかっているから、父は、自分の側近を台湾から、送り込んで、クールの取締役に据えた…その方が、言い方は、悪いが、重しになる…若いボクでは、侮られるからです…」


 「…」


 「…だから、率直に、言って、ボクは、名目だけ…単に、お飾りに過ぎません…」


 葉尊が、言う…


 しみじみと、言う…


 私は、それを、聞いて、当たり前だと、思った…


 驚きも、なにもなかった…


 たしかに、若い葉尊が、いかに、親会社から、社長として、送り込まれても、周囲の人間が、社長として、認めるか、否かと、問われれば、難しいだろう…


 これが、日本のベンチャー企業のように、いかに、若くても、自分が、会社を創業して、会社を大きくしたのなら、話は別だ…


 社長の力量を周囲の人間に見せているからだ…


 だから、別だ…


 そして、そんなベンチャー企業の場合は、なにより、社員が、皆、社長と同じくらいの年齢か、あるいは、社長よりも、年下の年齢が、多い…


 だから、正直、社員を束ねやすい…


 しかしながら、クールにそれは、当てはまらない…


 なぜなら、クールは、日本の昔からある、大企業だからだ…


 だから、社員の数も、桁違いに、多ければ、社員の年齢も、また違う…


 29歳の社長の葉尊よりも、年齢が、はるかに高い、五十代の社員もいれば、四十代の社員も、多いだろう…


 だから、束ねるのに、苦労する…


 クールに昔から、在籍した社員から、見れば、葉尊は、外から来た若造に過ぎないからだ…


 だから、束ねるのに、苦労する…


 そして、それが、わかっているから、葉敬は、自分の側近を、台湾から、クールに送り込んだのだろう…


 クールの取締役にして、送り込んだのだろう…


 そうしなければ、クールを統治できないからだ…


 台北筆頭の子会社として、統治できないからだ…


 若い葉尊では、クールを率いることが、できないからだ…


 率直に言えば、クールの社員に舐められるからだ…


 だから、葉尊が、クールの社長なのは、名目だけ…


 名目=形だけだ…


 おそらく、クールのホントの実力者は、葉敬が、クールに送り込んだ、葉敬の側近…


 その側近が、事実上、クールを仕切っている…


 クールを束ねているに、違いない…


 私は、そう見た…


 私は、そう睨んだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…正直、疲れました…」


 と、葉尊が、愚痴をこぼした…


 あるいは、弱音を吐いた…


 私は、驚いた…


 葉尊が、私の前で、愚痴をこぼしたり、弱音を吐いたのは、これが、初めてだったかららだ…


 だから、驚いた…


 同時に、気付いた…


 これは、当たり前かも、しれないと、気付いたのだ…


 なにしろ、葉尊と、結婚して、半年…


 いっしょに、暮らし出して、まだ三か月ちょっとした経っていない…


 だから、まだお互いのことが、わからない…


 互いに、相手のことが、わからない…


 だから、当たり前だった…


 当たり前だったのだ…


 これが、会社の同僚や、学生時代の同級生だったりすれば、話が、違う…


 いわば、相手の性格が、わかっている…


 日常で、接していれば、相手の性格がわかっているからだ…


 だから、違う…


 しかしながら、私は、葉尊と半年ちょっと前に知り合ったばかり…


 だから、お互いのことが、わからない…


 お互いのことを、知らない…


 いわば、まっさらの状態で、知り合ったのだ…


 だから、相手の性格が、わからない…


 互いにわかることと言えば、相手の地位やルックスだけ…


 金持ちか、一般人か?


 ルックスが、いいか、悪いか?


 それだけだ…


 いわば、街を歩いていて、偶然見かけた人間と結婚するのに、等しい…


 互いに初対面だから、相手のことが、わからない…


 わからないまま、結婚したからだ…


 そして、そんなことを、考えていると、ふと、リンのことを、思い出した…


 思い出したのだ…


 なぜなら、あのリンは、私を、いじめた…


 私を標的にして、嫌味を連発した…


 そして、それを、指示したのが、こともあろうに、葉尊だと、葉敬が、言った…


 葉尊の父の葉敬が言ったのだ…


 ホントに、そうなのだろうか?


 私は、疑問…


 疑問だった…


 葉尊と、いっしょに、暮らし出して、まだ三か月ちょっと…


 正直、葉尊が、どんな性格なのか?


 まだ掴めない…


 しかしながら、私に嫌がらせをするようには、見えない…


 そこまで、性格が悪いとは、思えないからだ…


 だから、


 「…リンのことだが…」


 と、葉尊に切り出した…


 まさか、直接、葉尊に、


 「…オマエ…リンに命じて、私に嫌がらせをしたのか?…」


 とは、聞けないからだ…


 だから、


 「…リンのことだが…」


 と、切り出した…


 いわば、曖昧に切り出した…


 わざと、それ以上、言わなかった…


 葉尊が、どういう反応を示すのか?


 知りたかったからだ…


 私が、リンの名前を、出すと、明らかに、葉尊は、動揺した…


 そして、その動揺を押し隠すように、グイッと、手のひらで、握り締めたグラスをあおった…


 あおったのだ…


 水で割ってない、ストレートのウイスキーを、一気飲みしたのだ…


 それから、ゆっくりと、


 「…あのリンは、食わせ物だ…」


 と、呟いた…


 「…食わせ物?…」


 「…そうです…華やかな姿は、表の顔…裏では…」


 そう、言って、言葉を切った…


 私は、


 「…」


 と、黙った…


 一切、口をきかなかった…


 葉尊が、この先、どんな言葉を口にするのか、知りたかったからだ…


 もし、私が、なにか、言えば、葉尊は、なにも、言わなくなってしまうかも、しれんからだ…


 だから、黙った…


 すると、だ…


 「…あのリンは、食わせ物です…」


 と、葉尊が、繰り返した…


 一語一語、ゆっくりと噛みしめるように、繰り返した…


 「…だから、ボクは、リンと接触した…」


 葉尊が、意外なことを、言った…


 「…あのリンに対しては、良い噂がなかった…あるのは、悪い噂だけ…」


 「…なんだと?…」


 「…でも、だからこそ、ボクは、リンに接触した…」


 葉尊が、実に、意味深に言った…


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