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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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50/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 50

これは、驚き…


 まさに、驚きだった…


 まさか、お義父さんが、葉問を好きだったとは、思わんかった…


 夢にも、思わんかった…


 むしろ、お義父さんは、葉問を嫌っていた…


 葉問の存在を、決して、認めなかった…


 しかしながら、本物の葉問を、お義父さんが、好きだったというなら、それも、わかる気が、する…


 あの葉問は、ニセモノと、言えば、言い過ぎだが、ホンモノではない…


 葉尊が、作り出した幻影というか…


 あくまで、葉尊のカラダを借りた、存在だからだ…


 仮に、ホンモノの葉問と、瓜二つの存在だと、しても、認めることは、できない…


 いや、


 認めてしまえば、ホンモノの葉問を否定することになる…


 おそらく、お義父さんは、ニセモノの葉問に惹かれる自分を、恐れるあまり、わざと、ニセモノの葉問に冷たく接した…


 それが、真相だろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、葉尊は、自分が、父親の葉敬に好かれていないから、わざと、葉問を蘇らせた…


 自分のカラダを使って、無意識に葉問を蘇らせた…


 少なくとも、葉敬は、そう、葉尊を見た…


 自分の息子を見た…


 そういうことだろう…


 そして、その一連のやりとりを、このリンは、唖然とした表情で、見ていた…


 まさか、自分が、この矢田を目の敵にして、嫌がらせを繰り返した結果が、こんな展開になるとは、予想だに、しなかったろう…


 当たり前のことだ…


 そして、話が、横道にそれたことは、葉敬にも、わかっていた…


 これも、当たり前だった…


 「…少しばかり、話が、横道にそれたようだ…」


 と、リンを睨みつけながら、葉敬が、言った…


 「…リン…お姉さんに、嫌がらせをするのを、キミに命じたのは、葉尊だね…」


 葉敬が言う…


 いや、


 葉敬が、決めつけるように、言った…


 リンは、ジッと、葉敬を、見た…


 葉敬を睨むように、見た…


 いや、


 葉敬を睨むと、言うより、葉敬の顔をまっすぐに、見ていた…


 蛇に睨まれた蛙ではないが、葉敬に睨まれ、自分から、葉敬から、目が離せないように、思えた…


 ただ、ジッと、無言のまま、葉敬を見つめていた…


 すると、業を煮やしたのか、葉敬が、


 「…その服だ…」


 と、いきなり、リンの服装を言った…


 私には、なにが、なんだか、わからなかった…


 どうして、葉敬が、いきなり、リンの服装に、言及するのか、わけが、わからなかったからだ…


 「…その服装が、誰と被るかは、言うまでもない…」


 葉敬は、そう言いながら、リンダを見た…


 ハリウッドのセックス・シンボルを見た…


 これには、リンダも仰天した…


 リンダも、驚いて、リンを見た…


 それから、リンダが、


 「…私? …私を意識して?…」


 と、呟いた…


 「…その通りだ…」


 葉敬が、答える…


 「…そして、それも、葉尊の入れ知恵だろう…」


 「…葉尊の入れ知恵?…」


 と、リンダ。


 「…そうだ…つまりは、このリンに、リンダと同じ格好をして、やって来いと、葉尊が、命じたわけだ…」


 と、葉敬…


 「…葉尊が、命じる? …どうして、そんなことを?…」


 「…葉問を、誘惑するためだ…」


 「…葉問を誘惑?…」


 「…葉尊は、葉問が、リンダ…オマエを好きだと、思っている…だからだ…」


 「…そんな…」


 リンダは、どう答えていいか、わからんかった…


 なぜなら、リンダは、葉問が、好き…


 しかしながら、葉問が、自分を、好きではないと、思っているからだ…


 それが、葉問が、リンダを好きと言ったので、どうして、いいか、わからんかったのだ…


 正直、嬉しいには、違いないが、あまりにも、突然、そんなことを、言われたので、どうして、いいか、わからん様子だった…


 そして、そんなことを、私が、考えていると、葉敬が、


 「…葉問は、私にとって、生きがいだった…」


 と、しみじみ、言った…


 「…幼い葉問は、私にとって、生きがい以外の何物でも、なかった…会社は…台北筆頭は、葉問に継がせるつもりだった…」


 葉敬が、仰天の事実を言う…


 「…そして、それは、おそらく、幼い葉尊にも、わかっていたはずだ…子供は、大人が、思っている以上に、鋭い…自分より、弟の葉問を私が、溺愛していることに、幼い葉尊は、容易に、気付いていたはずだ…」


 「…そんな…」


 と、リンダ。


 「…だから、葉尊は、葉問をあんな目に…」


 葉敬が、言う…


 実に、悔しそうに、言う…


 これは、私は、驚いた…


 実に、驚いた…


 実に、仰天の告白だったからだ…


 そして、その告白を、リンも、驚いた表情で、見ていた…


 目を見開いて、葉敬を、凝視していた…


 それから、ゆっくりと、


 「…まさか、会長が、葉尊さんと、不仲とは…」


 と、ため息混じりに、呟いた…


 心底、驚いた様子だった…


 そして、それを、見ていた、バニラが、


 「…葉敬は、どうして、わかったの?…」


 と、直球の質問を、した…


 葉敬の愛人であり、事実上の妻である、バニラでなければ、できない直球の質問だった…


 「…アラブの至宝だよ…」


 と、いきなり、葉尊が、言った…


 これには、私も仰天した…


 まさか、この場面で、アラブの至宝の名前が出てくるとは、思わんかったからだ…


 「…葉尊の率いるクールも、私の率いる台北筆頭も、アラブの至宝と呼ばれた方のおかげで、アラブ世界で、驚異的に、売り上げが、上がった…すべては、アラブの至宝と呼ばれた方のおかげだ…」


 葉敬が、しみじみと言う…


 「…しかしながら、アラブの至宝と呼ばれた方が、誰だか、わからない…私は、これまで、会ったことが、ない…だから、一度お会いして、礼を言いたいと、思って、葉尊に言ったのだが…」


 葉敬が、説明する…


 「…だが、明らかに、葉尊は、アラブの至宝と呼ばれた方と、面識があるはずなのに、一向に、私に会わせようとは、しない…」


 葉敬が続ける…


 「…そして、今回、このリンと、いっしょに、来日することになり、それを、葉尊に伝え、ついでに、アラブの至宝と呼ばれる方に会わせてくれと、頼んだのだが、それも、無視され…」


 葉駅が、説明する…


 私は、それを、聞いて、仰天した…


 まさか…


 まさか、葉尊が、アラブの至宝のことを、お義父さんに告げないことが、このリンを疑うきっかけになるとは、思わんかったからだ…


 まさか、そんなことが…


 まさか、そんなことが、原因で、葉敬が、葉尊を疑うきっかけに、なるとは、思っても、みんことだったからだ…


 だから、驚いた…


 驚いたのだ…


 すると、葉敬が、


 「…私は、アラブの至宝と呼ばれる方に、お会いしたかった…お会いして、礼を言いたかった…しかし、それを、葉尊が…」


 と、実に、悔しそうに、続けた…


 それを、聞いて、今度は、リンが、仰天した…


 いや、


 明らかに、仰天したように、見えた…


 「…アラブの至宝…」


 と、呟いて、目を見開いた…


 「…その名前は、聞いたことがある…たしか、アラブ世界に、君臨する、影の実力者…」


 リンが、言う…


 仰天の言葉を言う…


 そして、その言葉で、私は、リンの正体の片鱗が、見えた気がした…


 なぜなら、ただの台湾のチアガールが、アラブの至宝を知っているはずが、ないからだ…


 やはり、このリンは、C国のスパイか?


 私は、思った…


 思ったのだ…


 が、


 誰も、今のリンの発言に突っ込む者は、いなかった…


 あるいは、リンの正体に気付いたのかも、しれんが、誰も、今のリンの発言に突っ込む者は、いなかった…


 かくいう、この矢田も、突っ込まんかった…


 なぜなら、証拠が、ないからだ…


 なにも、証拠がないからだった…


 だから、この矢田も突っ込まんかった…


 突っ込まんかったのだ…


 そして、この葉敬の来日の一日目は、これで、終わった…


 正直、わけのわからん展開というか…

 

 思ってもみん展開だった…


 まったくの想定外の展開だった…


 私は、ただ、仕事で、忙しい夫の葉尊に代わって、台湾から、来日する、お義父さんを、出迎えに、空港に、行っただけだった…


 それが、こんな展開になるとは、思っても、みんかった…


 夢にも、思ってみんかったのだ…


 

 結局、私は、その日、家に帰った…


 あくまで、私の目的は、台湾から、来日した葉敬を出迎えに行くことだったからだ…


 葉敬を出迎えて、家に連れてきて、泊まって、もらうつもりだったからだ…


 しかしながら、葉敬は、大勢の取り巻きを連れて、来日した…


 だから、自分だけ、この家にやって来ることは、できんかった…


 それゆえ、来日した葉敬は、大勢の取り巻きと共に、帝国ホテルに泊まった…


 帝国ホテルは、葉敬の定宿だった…


 台湾の大実業家の葉敬が、来日したときの、定宿だったのだ…


 私は、ひとり、トボトボと、電車に乗って、自宅に戻った…


 いや、


 一人では、ない…


 途中まで、リンダもいた…


 リンダ・ヘイワースもいた…


 なぜ、私とリンダが、いっしょに帰ったのか?


 それは、リンダも、私も葉敬の家族では、ないからだった…


 いや、


 厳密には、私は、家族だ…


 なにしろ、葉敬は、私の夫の父…


 私の義理の父だからだ…


 だから、厳密には、家族だ…


 ただ、葉敬にとって、家族は、むしろ、バニラと、マリアだった…


 バニラは、葉敬の事実上の妻…


 マリアは、葉敬の娘だからだ…


 だから、家族だった…


 葉敬の家族だった…


 それゆえ、家族でない、私とリンダは、帝国ホテルから、去った…


 去ったのだ…


 そして、リンダもまた、仕事があるとかで、途中で、別れた…


 だから、私は、一人で、トボトボと、家に帰った…


 正直、家に帰る足取りが、重たかった…


 まさか、葉敬が、葉尊を嫌っているとは、思わんかったからだ…


 まさか、葉敬=お義父さんが、私の夫の葉尊を嫌っているとは、思わんかったからだ…


 だから、足取りが、重かった…


 正直、気が重かった…


 自宅に戻って来た葉尊と会って、どういう対応をするのか、悩んだ…


 どういう顔をして、会って、いいのか、悩んだのだ…


 そして、そんなことを、考えながら、自宅に戻った…


 家に、戻ると、当たり前だが、誰も、いなかった…


 この家は、私と葉尊の二人暮らし…


 夫の葉尊は、当たり前だが、夜にならなければ、自宅に帰って来ない…


 だから、誰も、いなかった…


 いなかったのだ…


 私は、家に入ると、ため息をついた…


 意識せずとも、自然にため息が出た…


 今夜、これから、帰って来る葉尊と、どんな顔をして、会おうか?


 それを、考えるだけで、気が重かった…


 重かったのだ…


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