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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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49/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 49

私は、リンを見た…


 私の細い目をさらに、細めて、見た…


 リンが、どんな反応をするのか、見た…


 見たのだ…


 リンは、ジッと、押し黙ったままだった…


 あまりにも、意外な展開に、自分でも、どうしていいか、わからない様子だった…


 「…誰に、頼まれた?…」


 葉敬が、リンに優しく、聞く…


 が、


 その声には、かすかに、怒りが、含まれていた…


 明らかに、葉敬の怒りが、含まれていた…


 そして、それは、この場にいる全員にわかった…


 葉敬が、怒っていることは、誰の目にも、明らかだったからだ…


 そして、そんな葉敬に、今度は、バニラが、


 「…どういうこと?…」


 と、聞いた…


 今、怒っている葉敬に、質問が、できるのは、バニラしか、いなかった…


 葉敬の事実上の妻である、バニラしか、いなかった…


 他に、怒った葉敬に、質問できるものなど、誰も、いなかった…


 「…このリンは、さっきから、ずっと、お姉さんを怒らせるべく、お姉さんにケンカを売っている…しかも、この私がいる、前でね…たとえ、お姉さんにケンカを売るとしても、普通は、私に隠れてするものだ…なにしろ、お姉さんは、私の義理の娘になるからね…」


 「…」


 「…だが、お姉さんに嫌味を言うことを、ずっと、止めない…これは、見方を変えれば、私に対する嫌味だ…私に対する挑戦だ…」


 葉敬が、厳しい表情で、言う…


 「…そうじゃ、ないか?…」


 葉敬が、誰にとも、なく、言った…


 が、


 当然、返事は、ない…


 誰もが、葉敬の質問に答えることが、できない…


 なぜなら、葉敬は、絶対権力者だからだ…


 台北筆頭の創業者であり、オーナーだからだ…


 だから、誰も、なにも、言えなかった…


 言えなかったのだ…


 「…違うかね?…」


 葉敬が続ける…


 もはや、葉敬が、怒っているのは、誰の目にも、明らかだった…


 しかも、しかも、だ…


 その怒りは、想定以上というか…


 こんなに、怒った葉敬を、私は、見たことが、なかった…


 私の見る、葉敬は、いつも、笑っていた…


 いつも、愛想よく、


 「…お姉さん…」


 と、私に話しかけてきた…


 それが、一転して…


 私は、恐ろしかった…


 正直、怖かった…


 この世の中で、なにが、怖いといっても、普段、ニコニコと愛想のよい人物が、激怒することぐらい、怖いことは、ない…


 これは、誰でも、同じだろう…


 いつも、ニコニコした顔しか、見ていない人物が、激怒する…


 これは、怖い…


 実に、怖い…


 なぜなら、そんな顔は、見たことがないからだ…


 だから、怖い…


 怖いのだ…


 だから、私も、怒った葉敬が、怖かった…


 怖かったのだ…


 そして、それは、私だけではない…


 ここにいる、全員が、怖かった…


 そして、それは、葉敬の事実上の妻である、バニラも、同じだった…


 もはや、バニラも、葉敬に、なにか、言うことが、できなかった…


 私は、どうして、いいか、わからず、この場に、立っていた…


 緊張した面持ちで、立っていた…


 すると、だ…


 葉敬の口から、思いがけない名前が、出た…


 「…リン…キミに、お姉さんの悪口をけしかけているのは、葉尊か…」


 いきなり、葉敬が、葉尊の名前を出した…


 実の息子の名前を出した…


 これには、仰天した…


 実に、仰天した…


 なにしろ、葉尊は、私の夫でもある…


 それが、まさか、自分の妻の悪口を、このリンに言わせるなんて…


 考えも、しない、事態だったからだ…


 そして、これには、リンも驚いた様子だった…


 呆気に取られた表情で、


 「…どうして、そんなことを…」


 と、言った…


 いや、


 呟いた…


 正直、葉敬に対しては、面と向かって言えないからだ…


 だから、葉敬相手では、なく、むしろ、自分自身に呟くように、言ったのだ…


 「…答えは、簡単だ…葉尊は、私が、嫌いだからだ…」


 あっさりと、葉敬が、言う…


 これには、驚いた…


 まさに、まさか、だ…


 まさか、そんなことを、葉敬が、言うとは、思わなかった…


 思っても、みんかったからだ…


 が、


 しかしながら、そう言われると、なんとなく、わかった…


 なんとなく、予感があった…


 この葉敬は、私に優しい…


 とんでもなく、優しい…


 それは、もしかしたら、葉尊に対する当てつけ…


 自分の息子に対する当てつけかとも、思った…


 血は繋がっているが、ホントは、好きでは、ない…


 むしろ、嫌っている…


 血が繋がっているから、息子として、扱っているに、過ぎない…


 だから、それに当てつけるかのように、私を可愛がる…


 私を溺愛する…


 そういうことかも、しれない…


 なにしろ、葉敬の実子は、葉尊だけ…


 葉尊一人だけだ…


 葉尊は、ホントは、双子だったが、双子の弟の葉問は、事故で死んだ…


 今現在、ときおり、ひょっこりと現れる葉問は、葉尊が、作り出した幻影に過ぎない…


 葉尊のもう一つの人格に過ぎない…


 なにしろ、カラダは、葉尊のカラダなのだ…


 だから、人格だけが、別人に過ぎない…


 正直、私も、最初は、同一人物ではないか?


 と、疑った…


 しかしながら、実際に、多重人格は、存在する…


 演技ではない…


 一つのカラダに、何人もの人格が、存在する実例が、ある…


 それゆえ、それを知った私は、疑うのを、止めた…


 きちんと、葉問という、葉尊とは、別の人格が、存在することを、認めたわけだ…


 私が、そんなことを、考えていると、リンが、


 「…葉尊が、葉敬を嫌っている?…」


 と、驚いた様子で、言った…


 心底、ビックリした様子で、言った…


 これは、当たり前…


 当たり前だった…


 なにしろ、この矢田も、今のお義父さんの発言には、ビックリした…


 まさに、まさか、だ…


 まさか、お義父さんが、自分の息子が、自分を嫌っていると、発言するとは、夢にも、思わんかったからだ…


 これが、普通の家庭でも、あまりないことだが、まして、お義父さんは、台北筆頭のオーナー会長…


 台湾を代表する大手メーカーの会長だ…


 その会長が、自身の後継者と、周囲に目されている、自分の息子が、自分を嫌っていると、公言するとは、思わんかった…


 思わんかったのだ…


 すると、葉敬が、


 「…そうさ…葉尊は、私を嫌っているさ…」


 と、リンに、告げた…


 まるで、当たり前のように、告げた…


 この当たり前のように、告げたと、言うのは、言葉に力を込めるとか、言うのでは、なく、さらりと、当たり前のように、告げたからだ…


 「…葉尊が、私を嫌っている証拠に、あの葉問が、いる…」


 葉敬が、穏やかに、告げた…


 「…葉問が…どういうこと?…」


 と、リンダが、口を出した…


 私は、驚いたが、少し考えて、納得した…


 なぜなら、リンダは、葉問が、好きだからだ…


 リンダは、私のような、周囲の身近な人間には、自分は、性同一障害と、言っている…


 性同一障害…つまりは、カラダは、女だが、心は、男と言っている…


が、私は、それを、信用しない…


 それは、リンダが、葉問を好きなことを、知っているからだ…


 だから、信用しない…


 たしかに、リンダが、性同一障害に近い状態であることは、わかる…


 ハリウッドのセックス・シンボルと、呼ばれながら、29歳で、処女と告白したのを、聞いたからだ…


 29歳で、処女というのが、世間で、珍しいか、否かは、正直、私には、わからない…


 しかしながら、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれ、ハッキリ言って、セクシーを売りにする女が、処女だと、聞き、その女が、実は、性同一障害と告白すれば、納得する…


 なにより、セクシーを売りにする以上、周囲には、リンダをどうにかしたいと、思う、男たちが、たくさん、言い寄ってくるのは、火を見るより、明らか…


 しかしながら、そのような状況の中で、処女でいると、いうのは、おかしい…


 なぜなら、普通は、大勢の男たちが、言い寄ってくれば、一人や二人は、自分好みの男が、寄ってきて、女も、その気になるはずだからだ…


 それが、ないと、いうのは、おかしい…


 だから、性同一障害というのは、納得するが、やはり、心の底から、納得できないと、言うのは、葉問を好きだと、以前、このリンダが、告げたから…


 私は、それを、身近で、聞いたから、このリンダが、自分は、性同一障害だから、男に興味がないと、言っても、心の底から、納得できないのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…私は、葉問が、好きだった…葉尊よりも、好きだった…」


 と、葉敬が、告げた…


 これまで、聞いたことのない発言をした…


 「…好きだった…葉問を?…」


 リンダが、目を大きく見開いて、言った…


 正真正銘、驚いた様子だった…


 なぜなら、葉敬が、葉問を嫌っていることを、知っていたからだ…


 「…でも、葉敬、アナタは、葉問を嫌って…」


 リンダが、口にする…


 私が、思っていることを、口にする…


 「…それは、本物の葉問だ…あの葉問じゃない!…」


 葉敬が、怒鳴るように、言った…


 「…でも、それが、どうして、葉尊が、葉敬を嫌っていることと、なんの関係が…」


 と、今度は、バニラが、葉敬に聞いた…


 当たり前の質問だった…


 「…それは、簡単だ…葉尊は、私が嫌いだから、あえて、葉問を蘇らせたのだ…私に対する当てつけとして…」


 葉敬が、言う…


 仰天の事実を言った…


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