35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 51
私は、一人、自宅で、悩んだ…
悩み抜いた…
考えれば、考えるほど、どうして、いいか、わからんかった…
どういう顔をして、夫の葉尊と接すれば、いいか、わからんかったのだ…
私は、悩んだ…
悩み抜いた…
一体、これほど、悩んだのは、いつ以来だろう?
考えた…
なぜなら、夫の葉尊のことを、考えたくないからだった…
考えたくないから、つい、別のことを、考えた…
つまり、夫の葉尊のことを、考えたくないから、無意識に逃げたのだ…
そういうことだ…
が、
当然、逃げ切ることは、できない…
いつまでも、逃げていることは、できない…
だから、ほかのことを、考えるつもりでも、つい、元に戻った…
夫の葉尊のことを、考えた…
そして、そんなことを、まるで、メリーゴーランドのように、グルグルと、同じことを、考え続けた…
まるで、メリーゴーランドが、いつまでも、同じところを、グルグルと回っているように、同じことを、いつまでも、考え続けていた…
そして、考え続けていると、いつのまにか、つい、ウトウトと、してしまった…
なにも、しないで、ただ、考え続けていたからだ…
また、今日、空港に、お義父さんを迎えに行くことで、極度に、緊張していたせいも、あるかも、しれない…
なにしろ、お義父さんの葉敬は、大物…
台湾屈指の財界人だ…
だから、緊張する…
この平凡な矢田トモコは、緊張する…
日本で、言えば、トヨタの会長に、会うようなものだからだ…
だから、緊張する…
本当なら、この矢田如きは、葉敬に会うことなど、できない…
絶対できない…
しかし、なぜか、この矢田は、葉敬の息子の葉尊に、気に入られ、葉尊と、結婚した…
おまけに、なぜか、その結婚を、葉敬が、許した…
これは、謎だった…
この矢田が、いくら考えても、解けぬ謎だったのだ…
しかも、
しかも、だ…
なぜか、この矢田は、葉敬にも、気に入られていた…
これは、私の一方的な思い込みなどではなく、傍から、見ても、間違いなく、気に入られていた…
これも、また、解けぬ謎だった…
そして、いくら、葉敬に気に入られようと、私は、葉敬に会うのは、いつも、緊張していた…
もちろん、今日も例外ではない…
やはり、緊張した…
そのせいも、あるだろう…
私は、疲れていた…
葉敬を迎えに、空港に、行き、帰って来た…
それだけで、疲れ切っていた…
いや、
ここ数日、葉敬が、やって来るから、家の中の大掃除に、燃えていたから、それで、疲れ切っていたのも、ある…
なにしろ、葉敬が、初めて、我が家にやって来るのだ…
少しでも、いいところを見せねば、ならん…
出来た嫁を演出せねば、ならん!…
私は、そのために、燃えた…
掃除に、燃えたのだ…
それが、今日の葉敬との、再会を機に、燃え尽きてしまったというのは、ある…
そして、さっき、明らかに、なった、ホントは、葉敬は、葉問が、好きだった…
葉尊が、好きではなかった…
その衝撃の事実を聞かされて、驚いた…
驚いたのだ…
そして、それもまた、私の悩みの種となった…
なぜなら、ここだけの話、私は、夫の葉尊よりも、葉問の方が、気が合う…
ずばり、葉問との方が、夫の葉尊よりも、話しやすいのだ…
だから、夫の葉尊よりも、葉問の方が、好きなのか?
と、問われれば、それもまた、微妙…
実に、微妙だ(笑)…
なぜなら、いかに、夫の葉尊よりも、葉問の方が、気が合うといっても、それが、イコール、好きとは、限らないからだ…
これは、誰でも、同じだろう…
わかりやすい話、私と同じ例で、言えば、夫よりも、夫の兄や、夫の弟の方が、話しやすいし、気も合う…
だったら、今の夫とは、別れて、夫の兄や、夫の弟と、再婚すれば、いいのではないか?
とでも、問われたら、違う気がする…
それは、あくまで、気が合うだけ…
話が合うだけだからだ…
それと、男女の愛情は、違うと、思う…
これは、男でも、同じ…
同じだ…
自分の妻よりも、妻の姉や、妻の妹の方が、自分と、気が合うし、話も、合う…
だったら、今の妻と別れて、妻の姉や、妻の妹と再婚すれば、いいのでは?
とでも、言われても、それは、ただ、気が合うだけ…
話が合うだけで、結婚となると、また、違う気がする…
なぜなら、結婚には、男女の愛情が、不可欠だからだ…
ぶっちゃけ、いくら、気が合ったり、話が合ったりしても、それは、男女の愛情とは、また別のものだからだ…
私は、そんなことを、考えた…
そんなことを、考え続けた…
そして、そんなことを、アレコレ、考え続けている間に、いつのまにか、つい、ウトウトしてしまった…
ウトウトして、眠りについて、しまったのだ…
そして、目覚めた…
目覚めると、すっかり、あたりが、暗くなっていることに、気付いた…
すでに、夜…
が、
家の中に、誰か、いることに、すぐに、気付いた…
なぜなら、光が、漏れていたからだ…
だから、誰か、いることが、わかった…
この家に、誰か、私以外の人間が、いることが、わかったのだ…
そして、当たり前だが、この家に、私以外の人間は、葉尊しか、いなかった…
夫の葉尊しか、いなかったのだ…
だから、夫が、帰って来たのか?
と、思った…
夫の葉尊が、会社から、帰って来たと、思ったのだ…
そして、眠っている私を見て、起こすのは、可哀そうだと、思い、声をかけずにいたと、思ったのだ…
だから、私は、眠い目をこすりながら、夫の葉尊の元へ、行くべく、歩き出した…
歩き出したのだ…
正直、怖かった…
葉尊と会うのが、怖かったのだ…
なにしろ、昼間、葉敬が、
「…葉尊よりも、葉問が、好きだった…」
と、衝撃の事実を聞いたばかりだ…
だから、怖かった…
怖かったのだ…
正直、世の中には、知らない方が、良かったと、言うのがある…
この事実も、間違いなく、その一つだった…
知らない方が、良かった事実だった…
その事実を知ったとき、幼い葉尊は、どう思っただろう?
間違いなく、心に傷を負ったに違いない…
正直、どこの家庭にも、ある話だ…
兄弟姉妹が、何人か、いれば、親でも、好き嫌いが出る…
当たり前だ…
ただ、葉尊の場合は、親が、会社の経営者だった…
それが、大きな違いだ…
葉尊が、幼いときは、まだ、葉敬が率いる台北筆頭は、大きな会社では、なかったというが、それでも、父親が、自分を後継者にしないと、子供心にも、わかると、傷が、深いに違いない…
大人になると、大抵の大人が、自分の子供のときのことを忘れてしまうが、稀に、ハッキリと、覚えているものも、いる…
おそらく、葉尊も、その一人なのだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
だから、葉尊が、大人になった今も、父親の葉敬とギクシャクしている…
そういうことだろう…
葉尊は、おそらく、子供時代に、葉敬から、受けた仕打ちが忘れられないのだ…
だから、すでに、弟の葉問が、なくなり、葉敬の後継者は、葉尊ただ一人と、なった今でも、葉敬とうまくいかないのだろう…
子供時代に受けた屈辱は、生涯忘れることが、できないのだろう…
私は、夫の葉尊の気持ちを、そう見た…
見たのだ…
また、一方の葉敬…
葉敬も、また、おそらく、どうしていいのか、わからないのかも、しれない…
自分の後継者は、葉尊と、決まっているのだが、その葉尊と、うまくいかない…
血が繋がった父子にも、かかわらず、うまくコミュニケーションが、取れない…
そういうことだろう…
私は、そんなことを、考えながら、葉尊のいる部屋に向かった…
光を放った部屋に向かった…
私が、葉尊のいると、思われる部屋に、入ると、葉尊が、一人で、酒を飲んでいた…
葉尊が、いる部屋は、ダイニング…
葉尊は、一人で、なにもしないで、酒を飲んでいた…
テレビも、パソコンも、スマホも、せずに、ただ酒を飲んでいた…
ウイスキーを、飲んでいた…
あの琥珀色のグラスを、傾ける姿を見て、ウイスキーを飲んでいるのが、わかった…
ただ、それが、ストレートで、飲んでいるのか?
水で、割っているのかは、わからない…
ただ、酒を飲んでいるのだけは、わかった…
私は、驚いた…
正直、驚いた…
葉尊と、結婚して、半年ちょっと…
葉尊と、いっしょに、このマンションで、暮らし出して、三か月あまり…
だが、こんな葉尊の姿を見るのは、初めてだった…
初めてだったのだ…
もちろん、自宅で、酒を飲むのが、悪いと、言っているのではない…
私といっしょに、この自宅で、葉尊と酒を飲んだこともある…
まだ、いっしょに、暮らし出して、三か月ちょっと、だから、数えるほどだが、ある…
しかしながら、今の葉尊は、傍から見ると、例えば、女に振られたとか…
あるいは、会社で、嫌なことがあったとかで、家に帰って、一人で、やけ酒を飲んでいるように、見えた…
もちろん、そう見えただけだ…
昼間、葉敬が、葉尊を好きではないと、言ったことが、私の頭に、こびりついているから、そう見えただけかも、しれない…
だから、ホントのところは、わからない…
ただ、私には、そう見えた…
そう、見えただけだ…
そして、そんなことを、考えながら、葉尊の元に、行った…
すると、近くに、私が、来たのが、葉尊にも、わかったのだろう…
ウイスキーの入った琥珀色のグラスを見ていた葉尊が、顔を上げて、私を見た…
見たのだ…
それは、まるで、私を睨むような視線で、見たのだ…
私を射すくめるような視線で、見たのだ…
それに、気付いた私は、正直、ブルッた…
思わず、足が、震え出しそうに、なるかと、思うくらい、ブルッた…




