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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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15/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 15

このアムンゼンが、私を好き?…


 アラブの至宝が、この矢田を好き?…


 正直、わけがわからん(苦笑)…


 私は、悩んだ…


 悩んだのだ…


 「…それは、ホントか? オスマン…このアムンゼンが、好きなのは、リンじゃ、なかったのか?…」


 「…それは、女として…憧れとして、です…」


 「…憧れとして、だと?…」


 「…そうです…例えば、テレビで見る、アイドルと本気で、恋愛したいと、思う一般人は、皆無でしょ?…」


 「…それは…」


 「…オジサンも、それと、同じです…」


 「…だったら、この矢田は、なんなんだ?…私は、アイドルでも、なんでもないゾ…しかも、人妻だ…葉尊という立派な夫もいる…」


 「…オジサンが、矢田さんを好きなのは、本音で、言いあえるからです…」


 「…本音だと?…」


 「…矢田さんには、裏表が、まるでない…だから、誰からも愛される…あのリンダさんからも、バニラさんからも、愛されている…男女の別なく、愛されている…これは、普通、あり得ないことです…なぜなら、二人とも、世界的に有名な女優とモデル…そんな二人に、愛され、慕われる矢田さんです…オジサンが、気にならないはずが、ありません…」


 「…なんだと?…」


 「…オジサンは、こう見えて、結構ミーハーなんです…」


 オスマンが、仰天の事実を言う…


 「…ミーハー? …このアムンゼンが、か?…」


 「…そうです…今回のリンしかり…オジサンは、結構、そういう傾向が昔から、あって…」


 オスマンが、続けると、


 「…いい加減にしろ…オスマン…」


 と、アムンゼンが、一喝した…


 「…スイマセン…」


 オスマンが、詫びる…


 「…ですが…」


 「…もういい…オスマン…」


 アムンゼンが、怒った…


 明らかに、アムンゼンが、機嫌を損ねた…


 「……まったく、オマエが、こんなにおしゃべりだとは、思わなかったゾ…」


 「…それは、相手が矢田さんだからです…」


 「…相手が私だから?…」


 と、私。


 「…ボクもこの歳になって、気付きました…」


 「…なんに、気付いたんだ?…」


 と、私。


 「…昔は、威厳があって、なにが、あっても、動ぜずに、どっしりと、構えているのが、リーダーだと、思ってました…」


 「…父のように、か?…」


 と、アムンゼン。


 「…そうです…ですが、歳をとって、気付いたのは、なんでも、気軽に、言いあえるような人間が、実は、一番いいんじゃないかと、考えが変わりました…」


 「…どうして、変わったんだ…」


 と、私。


 「…いわゆる、お偉いさんは、話しづらい…」


 オスマンが、笑う…


 「…話しづらい?…」


 「…だから、威厳が、保てているのかも、しれませんが、正直、用事がなければ、近寄りたくもありません…」


 「…」


 「…ちょうど、矢田さんの真逆です…」


 「…私の真逆?…」


 「…ハッキリ言って、矢田さんには、なにもありません…」


 「…なんだと?…」


 「…ですが、世界的に著名なリンダさんや、バニラさんが、矢田さんを慕っている…これは、矢田さんに魅力があるからです…」


 「…私に魅力が?…」


 「…そうです…だから、慕われる…オジサンが、矢田さんを好きなのも、同じ理由です…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 これは、いつものこと…


 いつものことだったのだ…


 よく、私を面白い…


 私をお笑い芸人のように面白いと、言うが、私は、全然、私を面白いと、思ったことはない…


 まったく面白いと思ったことはない!…


 なぜなら、私が、自分を面白いと、思えば、迷わず、吉本芸人の道を目指したと、思う…


 だが、


 私は、目指さなかった!…


 理由は、簡単…


 それは、私が、面白くないからだ…


 もし、私が、本当に、面白いならば、間違いなく、吉本の芸人を目指した…


 理由は、明白…


 金だ!


 成功すれば、大金を得ることが、できる…


 だから、目指すに決まっている…


 成功すれば、年収で、億は、軽い…


 大成功すれば、5億、10億と、得ることができる…


 しかしながら、この矢田には、そんな才能がなかった…


 これっぽっちもなかった(涙)…


 だから、今現在も、平凡な人生を歩んでいる…


 平凡そのものの人生を歩んでいる…


 そういうことだ…


 だから、


 「…私は、平凡さ…平凡な人間さ…」


 と、言ってやった…


 「…周りが、私を勝手に、誤解しているだけさ…」


 「…いえ、平凡ではありません…」


 アムンゼンが答える…


 「…なんだと?…」


 「…平凡な人間なら、リンダさんやバニラさんが、矢田さんを慕うわけがありません…リンダさんも、バニラさんも一流です…ですから、一流の人間といつも接しています…そんな一流の人間が、矢田さんを慕うのは、矢田さんもまた、一流だからです…」


 「…私が、一流?…」


 「…そうです…」


 アムンゼンが、真顔で、言った…


 アラブの至宝が、真顔で、言った…


 私は、きっと、このアラブの至宝が、今朝、なにか、悪いものでも、食べたのだと、思った…


 あるいは、今朝、なにか、悪いものでも、飲んだのだと思った…


 要するに、一時的に頭がおかしくなったのだ…


 人間、誰でも、そんなときはある…


 この矢田トモコにもある…


 要するに、なにか、悪いものを食べたり、飲んだりしたから、一時的に、頭が錯乱したのだ…


 私は、そう思ったのだ…


 私は、そう、確信したのだ…


 だから、相手にしないことにした…


 頭のおかしな人間に、この矢田が、まともな対応をしては、世間に笑われるからだ…


 実は、この矢田トモコ…


 人並み以上に、世間体を気にする女だった…


 常に、世間から、どう見られるか、気にする女だった…


 だから、今、このアラブの至宝と言いあって、それが、世間にバレたら、マズいと思った…


 アラブの至宝が、その日の朝、朝食で、食べ合わせが悪くて、つい、精神に変調をきたした…


 その精神に変調をきたしたアラブの至宝の言葉を真に受けて、この矢田が、その言葉を鵜呑みにすれば、後で、この矢田は、世間の笑いものになる…


 そう、思ったのだ…


 だから、忘れることにした…


 今の話は、聞かなかったことにした…


 今の話は、なかったことにしたのだ…


 だから、話を変えることにした…


 なにに、変えようかと、思ったが、やはり、リンの話題に限ると、思った…


 なにしろ、この部屋中、至る所に、リンの絵が描かれている…


 まるで、天女のように、描かれているからだ…


 私は、腕を組み、足を開いて、そのリンの絵を見た…


 威厳を出すためだ…


 この矢田トモコ…


 正直、威厳がない…


 まるでない(笑)…


 だから、少しでも、威厳を出すために、偉そうにした…


 腕を組み、足を広げたのだ…


 そして、まるで、絵画評論家のように、


 「…この絵は、まるで、天女だ…そうだろ? アムンゼン…」


 と、アムンゼンに呼びかけた…


 アラブの至宝に、呼びかけた…


 すると、だ…


 アムンゼンが、同意した…


 「…やはり、矢田さんも、そう思いますか?…」


 と、言った…


 私の作戦勝ちだった…


 このアムンゼンが、私の話に、乗ったのだ…


 「…そう、思ったさ…だから、言ったのさ…」


 「…これは、ある意味仕方ないことかも、しれません…」


 「…仕方ない? どうして、仕方ないんだ?…」


 「…元々、アラブ世界では、偶像崇拝が、否定されてます…」


 「…偶像崇拝が、否定? …どういう意味だ?…」


 「…要するに、アメリカを代表する、有名な歌手や女優のポスターを張ることを、禁止しています…特定の人物のポスターを張ることを禁止しています…だから、このボクが、リンのポスターを張ることも、難しい…」


 「…」


 「…それで、この絵を描いた画家が、気を利かせて、わざと、天女のように、描いた…特定の人物では、ないからです…その方が、いいと判断したのでしょう…だから、文句も言えません…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 「…オマエも色々大変だな…」


 「…たしかに、ボクの立場は、色々制約があります…これは、ボクの立場上、仕方がないことです…」


 「…どうして、仕方がないんだ?…」


 「…誰だって、自分の好きなように、行動できる人間は、いません…例えば、日本の総理大臣が、女好きだからって、キャバクラに入り浸るわけには、いかないでしょ?…」


 「…それは…」


 「…それと、同じです…誰にでも、立場がある…矢田さんも、今は、クールの社長夫人です…日本の家電量販店で、クールの製品以外の他社の製品を購入するわけには、いかないでしょ?…」


 「…それは…」


 私は、言葉に詰まった…


 なぜなら、その通りだからだ…


 「…それと同じで、この部屋の装飾を依頼した画家も、ボクに配慮したのでしょう…やはり、サウジの王族が、特定の女のファンだと、わかるのは、おかしい…偶像崇拝になる…だから、わざと、天女のように描いたのでしょう…それを、思うと、怒る気にも、なりませんでした…」


 「…そうか、オマエも、色々大変だな…」


 「…ボクが、矢田さんに憧れるのは、まさに、天女のように、天衣無縫だからです…」


 「…天衣無縫?…」


 「…何事にも、とらわれず、何事にも、頓着しない…矢田さんだから、できることです…」


 「…私だから、できること?…」


 「…どんな人間も、多かれ少なかれ、地位や名誉にとらわれます…でも、矢田さんには、それがない…」


 「…私にはない?…」


 「…矢田さんは、あらゆるものにとらわれずに、生きる…その姿に、リンダさんや、バニラさんは、憧れているんだと、思います…」


 「…私に憧れてる? ウソ?…」


 「…ウソでは、ありません…」


 「…」


 「…誰でも、自分にできないことを、たやすくやりとげる人間には、憧れや嫉妬が、存在します…」


 「…憧れや嫉妬?…」


 「…テレビで見る芸能人が、その最たる例でしょう…自分の方が、キレイだ…自分の方が、カッコイイ…そう思う人間は、老若男女を問わず、少なからず、存在します…ただ、矢田さんは、善人です…だから、憎まれない…誰もが、矢田さんに憧れる…」


 「…私に憧れる?…」


 「…きっと、今回、葉敬さんが、リンの面倒を矢田さんにしてもらいたいと、考えるのは、そんな狙いがあるからかも、しれません…」


 「…お義父さんの狙い?…」


 「…そうです…」


 アムンゼンが、したり顔で、言う…


 アラブの至宝が、思わせぶりに言った…


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