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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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16/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 16

「…オマエ…リンが好きなんじゃ、なかったのか?…」


 私は、言った…


 「…それは、好きですよ…」


 「…でも、オマエの話を聞くと、どこか、他人行儀というか…リンと距離を置いているように、聞こえてな…」


 「…それは、当たり前ですよ…」


 「…どうして、当たり前なんだ?…」


 「…矢田さん、ボクは、こう見えても、30歳です…」


 「…それは、知ってるさ…」


 「…つまり、そういうことです…」


 「…そういうことって、どういうことだ?…」


 「…つまり、むやみに、恋に憧れる中学生や高校生ではないということです…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…若ければ、例えば、ルックスが良ければ、無条件で憧れます…でも、30歳にも、なれば、実際の性格は、どうなのか? とか、年収は? とか、どんなご両親の元で、育ったのか? とか、色々、気にするものです…」


 「…そうか?…」


 「…だから、考えるんです?…」


 「…考える? …なにを、だ?…」


 「…葉敬さんの狙いを、です…矢田さんに、リンの面倒を見させる狙いを、です…」


 アムンゼンが、指摘する…


 私は、それを、聞いて、思った…


 このアムンゼン…


 いや、


 アラブの至宝…


 リンに夢中だと、聞いたが、事実は、違うかも、しれん…


 リンに夢中と、思わせているだけかも、しれん…


 なにしろ、アラブの至宝だ…


 常人とは、違う…


 この矢田に、そんなに簡単に自分の考えを読ませるわけがない…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 だから、


 「…でも、アムンゼン…オマエ、リンが好きなんだろ?…」


 と、言ってやった…


 直球で、聞いてやった…


 すると、あっけなく、


 「…それは、好きですよ…」


 と、アムンゼンが、肯定した…


 「…それは、特に、ボクのような背の低い男は、たぶん、いっしょですよ…」


 「…なにが、いっしょなんだ?…」


 「…背の低い男は、背の高い女に憧れる…背の低い女も、また同じ…背の高い男に憧れる…要するに、ないものねだりです…自分にないものだから、それを持つ、相手に憧れる…そんなところです…」


 「…」


 「…これは、身長を例に挙げましたが、顔も同じ…ルックスの良くない男や女ほど、ルックスにこだわる者が、多かったりするものです…だから、このオスマンは、長身で、イケメンだから、女性にモテモテですが、このオスマンをチヤホヤする女性に、美人は、少ない…」


 「…オジサン…それは…」


 オスマンが、抗議する…


 「…でも、事実だろ?…」


 と、アムンゼン…


 「…それは、ボクの口からは…」


 オスマンが、しどろもどろになった…


 私は、それを見て、吹き出しそうになった…


 小人症のアムンゼンが、甥の長身でイケメンのオスマンをいじっているのだが、オスマンは、反論できない…


 アムンゼンに逆らうことが、できない…


 この姿を見て、あらためて、このアムンゼンと、オスマンの関係を考えた…


 考えたのだ…


 そして、思った…


 「…それは、そうと…アムンゼン…オマエ、どうするんだ?…」


 と、私は、アムンゼンに聞いた…


 「…どうするって、なにを、です…矢田さん?…」


 と、アムンゼン…


 「…いや、リンが来日したら、アムンゼン、オマエもリンと会いたいだろ?…」


 「…それは、もちろんです…」


 「…だったら、どういう立場で、会うんだ?…」


 「…どういう立場というと?…」


 「…オマエは、バカか?…」


 「…なにが、バカなんですか?…」


 アムンゼンが、血相を変えた…


 アラブの至宝が、血相を変えた…


 「…仮に、私が、リンをオマエに紹介するとするだろ? そのときに、どういう肩書で、リンと会うかだ…まさか、オマエが、サウジアラビアの王族と名乗るわけには、いかんだろ?…」


 「…それは…」


 「…そもそも、オマエがサウジアラビアの王族と名乗れば、どうして、この矢田が、そんな偉い人間と知り合えたのか、疑問を持つに決まっているさ…」


 「…だったら、ボクはどうすれば?…」


 「…そうだな…マリアの友達とでも、言えばいいさ…同じ保育園に通う友達とでも、いえばいいさ…」


 「…マリアの友達?…」


 「…不服か?…」


 「…いえ、不服では…」


 「…だったら、それで、いいだろ?…」


 私が、言うと、


 「…プッ!…」


 と、オスマンが、吹き出した…


 「…な、なんだ? …なにが、おかしい? …オスマン?…」


 「…いえ、オジサンは、まるで、矢田さんの前では、形無しだと…」


 「…」


 「…オジサンの権威は、アラブ諸国では、比類がない…誰もが、オジサンに、ひれ伏す…それが、この日本では、矢田さんに滅法弱い…だから、それを、考えると…」


 オスマンが、苦笑する…


 私は、驚いて、アムンゼンを見た…


 この小人症のアムンゼンを驚いて、見た…


 誰が、見ても、3歳児にしか、見えないアムンゼンを見た…


 そして、言って、やった…


 「…オマエ…そんなに、偉いのか?…」


 と、言ってやった…


 「…それは、もちろん…」


 アムンゼンが、当たり前のように、言う…


 「…矢田さんが、サウジアラビアでの、ボクの姿を見れば、卒倒しますよ…」


 「…卒倒だと?…」


 「…ボクは、サウジアラビアのみならず、アラブ世界では、日本の天皇陛下より、偉いんです…」


 「…なんだと?…」


 思わず、言った…


 つい、口に出した…


 たしかに、このアムンゼンの言うことは、間違ってないかも、しれん…


 ウソは、ないかも、しれん…


 だが、


 今現在、この矢田の目の前にいるのは、3歳にしか、見えんガキ…


 3歳にしか、見えん、肌の浅黒い生意気なガキだった…


 クソ生意気なガキだったのだ…


 だから、どこを、どう見ても、偉くは、見えんかった…


 この矢田より、偉くは、見えんかった…


 が、


 しかし、世の中、そういうものだろう…


 このアムンゼンは、極端な例としても、例えば、街中で、偶然、誰かと、トラブルになったりして、後に、そのひとが、どこかの会社のお偉いさんだったり、すれば、仰天するものだ…


 つまりは、初対面で、誰が、どう見ても、偉くもなんとも、見えない人間が、実は、偉かった例など、世間には、枚挙にいとまがないだろうということだ…


 だから、別に、アムンゼンが、おかしいわけでも、なんでもない…


 ただ、やはり、現実問題、目の前に3歳にしか、見えんガキがいて、それが、実は、30歳で、しかも、サウジアラビアの王族…


 さらに、アラブの至宝と呼ばれ、その頭脳が、アラブ世界でも、類を見ないほどの頭脳の持ち主だと、聞いても、誰も、ピンとこない…


 そういうことだ…


 私は、思った…


 思ったのだ…



 そして、家に帰って、その日のことを、夫の葉尊と話した…


 夕食を食べながら、話した…


 私は、当たり前だが、結婚している…


 私は、人妻…


 なぜ、今さら、そんなことを、言うのか?


 実は、この物語の中では、私が、人妻であることを、照明するシーンが少ないからだ…


 だから、読み進めると、この私が、独身のように、見えるからだ…


 だが、それは、間違い…


 とんでもない、間違いだ(苦笑)…


 私は、豪華マンションに住んでいる…


 葉尊の父、葉敬が、私たち夫婦に譲ってくれたのだ…


 以前は、葉敬は、このマンションに住んで、日本に滞在したときは、このマンションに住んでいた…


 葉敬は、台湾の実業家…


 台湾屈指の財界人だ…


 台湾で、葉敬の名前を知らない者は、皆無…


 誰もいない…


 台湾では、立志伝中の人物だ…


 不謹慎だが、正直、亡くなれば、台湾の教科書に載るだろう…


 日本で言えば、三井創業者や、三菱創業者に匹敵する…


 あるいは、松下幸之助だ…


 それほども大人物だ…


 にもかかわらず、なぜか、私は、その大人物に気に入られている…


 その証拠に、私と、息子の葉尊との結婚を、承諾してくれた…


 快く、許してくれた…


 だから、私にとっては、文字通りの大恩人…


 ハッキリ言って、お義父さんのいる方向に、足を向けて、寝られない…


 それほどの、私にとっての大恩人だった…


 その大恩人が、今度、リンを連れて、来日する…


 しかしながら、それを、聞いたのは、目の前の夫の葉尊のもう一人の人格である、葉問から…


 お義父さんからは、なにも、聞いてない…


 だが、それでも、おそらく、あのアムンゼンもまた、その情報を、どこからか、得て、私に接触したに、決まっている…


 アムンゼンの真の目的は、なにか?


 私には、わからない…


 たしかに、あのアムンゼンは、リンを好きなのかもしれない…


 だが、決して、それだけでは、ないだろう…


 あのアムンゼンは、私利私欲に走る人間では、ない…


 仮に、リンを好きだとしても、なにか、別の目的があるに決まっている…


 だが、その目的がわからない…


 おそらくは、サウジアラビアに対する、ことなのかも、しれん…


 あのアムンゼンは、国士…


 今、現在、この日本では、口にすることもないが、まぎれもなく、国士だった…


 常に、国のことを、第一に考える男だった…


 国=サウジアラビアのことを、第一に考えている男だ…


 その証拠に、あのアムンゼンが、通う保育園…


 あの保育園は、日本に滞在する、世界中のセレブの子弟たちが、通う保育園…


 つまり、あの保育園に通うことで、この日本にいながら、世界中のセレブの子弟たちと、知り合うことができる…


 そして、当たり前だが、そのセレブの子弟たちを、親が、送り迎えしている…


 それを、見て、例えば、誰それの親と誰それの親が、親しくしているのを、見れば、なにか、わかるかも、しれん…


 例えば、企業で言えば、合併とか…


 互いに、世界的な企業の創業者の一族であれば、後で、


 …ああ、だから、仲が良かったのか!…


 と、気付いたりするものだ…


 政治も同じ…


 何国の大使と何国の大使が、仲良くなって、後に、


 …なんとか、共同宣言とか…


 出したりする…


 それを、見て、だから、仲が良かったのか?


 と、納得したりするものだ…


 だから、アムンゼンは、ホントは、30歳なのだが、3歳児のフリをして、あの保育園で、必死になって、情報活動に従事している…


 なにか、祖国=サウジアラビアに関係する情報が、ありは、しないか、探している…


 だから、国士…


 国士=愛国者なのだ…


 私は、そんなことを、考えながら、葉尊と、食事を摂った…


 葉尊は、原則、朝夕の二食は、家で、私と一緒に、食事を摂る…


 夫婦なのだから、当たり前だ…


 もちろん、夫婦といえども、別人格…


 だから、言っていいことと、悪いことがある…


 話していいことと、悪いことがある…


 だから、実は、詳しい話はしない…


 しかしながら、私が、アムンゼンと親しいことは、夫もわかっている…


 夫の葉尊もわかっている…


 だから、やんわりと、


 「…実は、今日の昼間、アムンゼンと、会ってな…」


 と、いうところから、話し出した…


 「…殿下とですか?…」


 「…そうさ…」


 「…アイツ、台湾のチアガールのリンとかいう女のファンで、今度、会わせてやると、約束したのさ…」


 私が、言うと、葉尊の顔色が変わった…


 明らかに一変した…


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