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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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14/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 14

「…な、なんだ? これは?…」


 私は、繰り返した…


 と、


 そこには、リンがいた…


 いや、


 リンがいたというより、部屋のあちこちに、リンが、絵で、描かれていた…


 ちょうど、一般家庭で言えば、部屋中至る所に、好きなアイドルのポスターが、張られているのと、似ている…


 ちょうど、中学生や高校生の男のコが、部屋中に、好きなアイドルの水着姿のポスターを、張っている…


 それと、同じで、この部屋には、あの台湾のチアガールのリンの絵が至る所に描かれてあった…


 しかも、


 しかも、だ…


 この部屋は、何度も言うように、美術館や博物館を改装した部屋…


 だから、部屋中に張ってある、リンの絵画もまた、芸術品だった…


 正直、リンの絵画は、大半が、チアガール姿か、水着姿だった…


 にも、かかわらず、いやらしさが、まるでない(笑)…


 あくまで、高尚というか…


 正直、変な感じだった…


 だから、うっかり、


 「…これでは、芸術品だな…」


 と、呟いてしまった…


 「…これでは、ダメだ…いやらしさが、まるでない…水着の写真もチアガールの写真もいやらしさが、なければ、ダメさ…」


 私が、力を込めて言うと、アムンゼンが、


 「…その通りです…矢田さんのおっしゃる通りです…」


 アムンゼンが頷いた…


 「…たしかに、キレイなんですが、いやらしさがない…これでは、聖母マリアを描いたのと、同じです…生身の姿が、まるでない…生身の生々しさがない…」


 アムンゼンが、嘆く…


 「…これでは、感情移入ができません…リンに、夢中になれません…正直、困ったものです…」


 アムンゼンが、続けた…


 私はそれを、見て、考え込んだ…


 その場で、腕を組んで、沈思黙考した…


 なぜ、沈思黙考したか?


 それは、この矢田とアムンゼンの意見が、一致したからだ…


 おそらく、初めて、一致したからだ…


 つまりは、この矢田が、アムンゼンに近づいている…


 アラブの至宝に、近づいている…


 と、いうことは、どうだ?


 いずれは、この矢田が、アムンゼンにとって、代わって、アラブの至宝と呼ばれる日が近づいている…


 そういうことではないのか?


 もちろん、一瞬だ…


 そんなバカなことは、ありえない…


 しかしながら、ほんの些細なことでも、凡人が、いわゆる天才と、同じように、考えたとき、


 「…ああ、こんな頭もいいひとでも、自分と同じように、考えるんだ…」


 と、感嘆するものだ…


 それと、同じだった…


 この矢田も、それと、同じだったのだ…


 私は、今、初めて、このアムンゼンと同じ位置に立った…


 初めて、同じ目線で、物事を、見た…


 そういうことだ…


 と、いうことは、やはり、この矢田も、近い将来、アラブの至宝と呼ばれる日が、近いのかも、しれん…


 なぜか、またしても、そんなことを、考えた…


 アムンゼンを見ながら、考えた…


 3歳のガキを見ながら、考えたのだ…


 そして、この矢田のアムンゼンを見る視線に、アムンゼンもまた、気付いたらしい…


 「…どうしました、矢田さん、そんな細い目で、ボクを見て?…」


 「…いや、この矢田も、オマエと、肩を並べたかも、しれんと、思ってな…」


 「…ボクと肩を? …冗談は、顔だけにして下さい…矢田さんが、ボクに叶うわけないでしょ? そもそも、ボクと矢田さんでは、比較の対象じゃ、ありません…」


 「…なんだと?…」


 「…いや、わかりました…今、このリンを見て、いやらしさが、足りないとボクが、言ったら、矢田さんも、同じことを、言った…つまり、考えたことが、同じです…だから、ボクと、矢田さんが、同じだと、思ったんでしょ?…」


 「…そうさ…」


 「…それでは、頭の悪い偏差値30代の工業高校を出た男が、東大卒の男より、早く仕事が終わったから、オレは、社会に出れば、東大卒より優れているんだと、豪語するのと、同じです…」


 「…なんだと?…」


 「…簡単なことも、難しいことも、同じに考える…それと、同じです…」


 私は、言葉もなかった…


 たしかに、その通り…


 その通りなのだが、悔しかった…


 このアムンゼンに言い負かされて、悔しかったのだ…


 だから、睨んでやった…


 口で、勝てんから、睨んでやった…


 さすがに、手を出すことは、できん…


 なにしろ、相手は、アラブの至宝だ…


 手を出せば、簡単に勝てるが、それでは、いかん…


 なぜなら、それは、誰でも、できることだからだ…


 だから、いかん…


 そもそも、この矢田は、暴力が、好かん…


 暴力が、苦手…


 だから、いかに、この矢田が、勝てる相手でも、暴力に訴えることは、ない…


 35歳の矢田だ…


 いかに、相手が、30歳でも、カラダが、3歳なら、勝てる…


 しかし、それは、せんかった…


 なぜなら、それは、私の流儀では、ないからだ…


 だから、せんかった…


 かといって、この矢田にできることなど、なにも、ない…


 だから、睨んだ…


 睨んだのだ…


 正直、それしか、思い浮かばんかった…


 思い浮かばんかったのだ(涙)…


 すると、なんと、このアムンゼンが、予想外の行動に出た…


 なんと、この矢田を睨み返したのだ…


 元々は、アラブの至宝と呼ばれるほどの頭脳の持ち主…


 家柄も良い…


 サウジアラビアの王族出身…


 前サウジアラビア国王の息子であり、現サウジアラビア国王の腹違いの弟…


 当たり前だが、プライドが、滅茶苦茶高い…


 まさに、百獣の王のライオン並みに高い…


 そして、そのプライドの高さを隠すことなく、この矢田を睨み返した…


 ライオン並みの気迫で、この矢田を睨み返した…


 私は、ビビった…


 もしかしたら、この矢田は、アムンゼンを本気で、怒らせたのかも、しれんかった…


 アラブの至宝を本気で、怒らせたのかも、しれんかった…


 だとすれば、どうなる?


 この矢田など、真っ先に、あの世に送られるかも、しれんかった…


 だから、それを、考えれば、怖かった…


 怖かったのだ…


 だから、とりあえず、睨むのは、止めようと思った…


 それゆえ、急いで、目を伏せた…


 すると、だ…


 「…おや、どうしました? 矢田さん、ボクを睨まないんですか?…」


 と、アムンゼンが、挑発した…


 3歳のガキが、こともあろうに、35歳の矢田を挑発したのだ…


 だが、


 この矢田トモコは、アムンゼンの挑発に乗らんかった…


 なにしろ、この矢田トモコは、35歳…


 たかだか、3歳のガキに凄まれて、同じレベルで、対応するわけには、いかんからだ…


 この矢田トモコは、大人…


 立派な大人だからだ…


 だから、せんかった…


 睨み返さなかった…


 すると、だ…


 「…二人とも、もういい加減にしましょう…」


 と、オスマンが言った…


 私と、アムンゼンの仲裁に入ったのだ…


 「…オジサンも、です…これ以上、やったら、矢田さんに嫌われますよ…」


 オスマンが、言う…


 「…矢田さんに、嫌われる? それが、どうした?…」


 「…矢田さんに、嫌われれば、あのマリアという女のコも、オジサンを嫌います…なにしろ、あのマリアは、この矢田さんに、なついている…それを、忘れたオジサンじゃ、ないでしょ?…」


 「…それは、わかっている…」


 アムンゼンが、憮然とした表情で、言う…


 「…わかっては、いるが…」


 「…ここで、矢田さんと争ってなんになります…それに、矢田さんは、来日するリンの世話をするそうです…オジサンは、リンの大ファン…ここで、矢田さんと争うのは、不毛でしょ?…」


 オスマンが、説得する…


 アラブの至宝を説得する…


 私は、それを、見て、


 「…プッ!…」


 と、吹き出す寸前だった…


 本来なら、見た目通り…


 二十代後半の長身で、イケメンのオスマンが、3歳の子供に、優しく、言い聞かせる…


 これは、まったくおかしくないのだが、事実は、違う…


 3歳のガキにしか、見えないアムンゼンは、実は、30歳の大人で、二十代後半の長身のイケメンのオスマンは、アムンゼンの甥…


 だから、実際は、甥が、オジサンをまるで、子供に言いきかせるように、説得しているのだ…


 だから、それを、考えると、笑ってしまう…


 つい、笑ってしまうのだ…


 そして、なぜか、このアムンゼンが、私の笑いに気づいた…


 「…矢田さん…なにが、おかしいんですか?…」


 と、いきなり、言ったのだ…


 私は、慌てたが、


 「…なんのことだ?…」


 と、知らんふりをした…


 その方が、都合がいいと、思ったからだ…


 「…矢田さん…ボクの目は、ごまかせませんよ…今、たしかに、矢田さんは、笑いました…矢田さんの大きな口が、ニヤリとしました…」


 アムンゼンが、憤慨する…


 が、


 私は、認めんかった…


 「…知らんな…」


 と、言い張った…


 「…オマエの見間違いだろ?…」


 「…知らないわけは、ないじゃないですか!…」


 アムンゼンが、激高する…


 私は、正直、ビビったが、今さら、笑いましたとは、言えんかった…


 口が裂けても、言えんかった…


 だから、なにも、言わんかった…


 これ以上は、なにも、言わんかった…


 すると、だ…


 「…オジサン…そんな感情的にならずに…」


 と、またも、オスマンが、私とアムンゼンの間に入った…


 「…オジサンは、相手が矢田さんだと、いつもの沈着冷静さは、どこへやら…まるで、子供に返る…」


 オスマンが、呆れた口調で言う…


 「…オジサンは、ホントは、矢田さんが、好きなんですよ…」


 「…なんだと? …この矢田が好き?…」


 「…好きでなければ、矢田さんに、こんな態度は、取りませんよ…」


 「…なんだと?…」


 「…オジサンは、きっと、矢田さんに甘えているんだと、思います…そうでしょ? オジサン?…」


 「…バカなことを、言うな!…」


 アムンゼンが、一喝して、否定した…


 「…ふざけたことを、言うんじゃない!…」


 アムンゼンが、怒った…


 しかしながら、その顔は、真っ赤…


 激怒して、真っ赤というよりは、ホントのことを、言われて、真っ赤になったというのが、真相というか…


 当てはまると、思った…


 思ったのだ…


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