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神徒奇譚  作者: 早村友裕
第一章 蒼都編
7/23

町へ(2)

 小さい。

 あたしが知っている神徒より格段に小さい。

 これならあたしでも倒せそう。

 朱印を収束、早口で真言を唱え。

「『撃ち抜け』」

 一発でカエルははじけ飛び、ちゃりんと古銭が1枚だけ落ちた。

 神徒自体が小さいからなのか古銭の量も少ない。

 しかし、カエルは次から次から湧いてくる。

 なるほど、ここはこうして小さい獲物を狩るための場所なんだね。

 そういえば、いつも神徒が現れるときに頭の中に響き渡るあの声も聞こえない。根本的に何か違う神徒なのだろうか。

 ケイくんが弓でとんとんとんと順調にカエルを倒し、あたしがたまに手を出して。取り漏らした分は、テラスががぶりと牙で仕留める。

 いや、しかし、とんでもない数のカエルだ。

 毎日こんなにもたくさん湧くのなら、少し頑張れば大きめの神徒を狩ったくらいの古銭が手に入るだろう。

 アギは、自分の出番はなさそうだ、と少し離れたところで腰を下ろして完全に見学に徹していた。

「すごいねえ、無限に湧いてきそう」

 あたしが笑うと、ケイくんはぷるぷるぷると首を横に振った。

 心なしか焦って、疲れているように見える。

「……いや、なんか、変ス。いつもこんなに湧いてこない。いつもなら、ちょっと待って、たまに湧いて、粘っても一日で古銭10枚が関の山なんスよ。それなのに、今日はおかしい――」

 と、そこであたしはあたしの特異体質を思い出した。

 壮大な景色を見て満足して、完全に忘れるところだった。

 町の外に出たということは、ここはお社から遠い場所。

 そしてもともと神徒がわきやすい場所。

 血の気が引いた。

 なんで忘れていたんだろう。


 あまりに途切れず大発生する神徒に、とうとうケイくんは疲れて弓を下ろしてしまった。膝に手をつき、肩で息をしている。何十匹も連続で倒し続けていたもんね。

 その間にも池からは次から次から白いカエルがわいてくる。この小ささで人間を丸のみにすることはないだろうが、ケイくん自身が言っていたように指を喰われるくらいのことはしてしまうかもしれない。

「アギ!」

 あたしが呼ぶまでもなく、アギは三叉戟を握りなおし、振りかぶった。

 ああああ待って、そのまま攻撃したら――

 あたしは足場の光玉を蹴った。

 間一髪、ケイくんの手を引いて上空に逃れたとき、アギの一振りで池の水がカエルと共にすべて弾け飛んだのが見えた。



 眼下にアギの攻撃力を見て、ケイくんはぽつりとこぼした。

「……えっぐ」

 しかし、ぼんやりとしてはいられなかった。

 跳ね上がった池の水と共に、あたしの周囲に人型の紙がひらひら舞いはじめたのだ。

 どこからともなく舞い落ちてくるそれらは、風の影響も受けずに、アギの目の前に収束していった。


―― ノウマク サ マン ダ


 ああ、やっぱり声がする。

 頭の中に響く声。

 テラスがわおーん、と遠吠えする。

 あたしはケイくんを連れて、テラスと共にアギの後ろへ退避した。

 人型の紙が積み重なるようにくっついて、白く発光する生き物になる。

 そして目の前に降臨したのは、大きな大きな、今度こそ見慣れた大きさの神徒――白い巨大なガマガエルが、長い舌を伸ばしていた。

 よく見ると、長い舌が1本ではなく3本ある。

 恐ろしい姿をした神徒は、その長い舌をアギに向かって振り下ろした。

 アギは慌てず三叉戟で迎撃、3本の舌を一刀ですべて両断した。

 千切れた舌はびちびちと生き物のように地面を跳ねながら、やがて人型の白い紙に戻り、霧散した。

 ガマガエルは舌を切られた瞬間こそ少し止まったが、すぐに切られた舌をしゅるしゅると口の中に戻した。

 しかし、次に口を開けたとき、舌の数が5本に増えていた。

「増えんのかよ?!」

 1本1本がばらばらに動いてアギの頭上から襲い掛かる。

 ずどん、どすん、と地面をえぐる攻撃を、アギは最小限の動作で避けていた。

 当たらないと知るや、カエルはぐっと縮んで、勢いよく飛びあがった。

 足の力をバネにして、頭突きでアギに突っ込んでいく。

 アギは大きく着物をひるがえして空に飛んだ。

 頭上から三叉戟で狙うが、カエルも伸ばした舌を樹木に絡め、戻す勢いで巨体を動かし、攻撃をよけた。

 思ったより知能もあるみたい。

 あたしも少し、手伝おうか。

「テラス」

 名を呼んだだけで察したのか、利発な白狼はわんと鳴いてあたしと逆方向に走り出した。

 光玉を蹴り、まっすぐ加速。

 ぐんとカエルの目の前に迫る。

 巨大なカエルの真っ白な眼球と視線が合い――神徒に視力があるのかは知らないが――攻撃の対象をあたしとテラスに変えさせる。

 鞭のようにしなり、上下左右あらゆる方向から飛んでくる舌を、空中でひらりひらりとよけながらテラスと位置を交代する。惑わせるように大きく動き、かく乱する。

 巨大カエルは両目をぎょろぎょろさせながら敵を追うが、だんだんその動きは緩慢になってきた。

 目がぐるぐるまわり、舌の動きはめちゃくちゃになり、左右上下に適当に追っていくからだんだん絡まってきた。

 テラスと並んで地面に着地するころには、カエルの動きは完全に封じられていた。

 アギは口元に笑みを湛えてあたしの頭にぽん、と手を置いた。

「前に言ったこと、やっとわかったか? 大きい攻撃を当てる時は、まず敵の動きを止めるんだ」

 褒められた。

 あたしはこそばゆくて、嬉しくて笑う。

 アギは大きく三叉戟を振りかぶると、神徒に向かって投擲した。

 赤い光を帯びた三叉戟は、巨大ガマガエルの腹を貫いて、向こうが見えるほどの大穴をあけた。

 衝撃で神徒がぶるぶる震えたのは一瞬。

 白い人型に戻った神徒は、じゃらじゃらじゃらと古銭を残して、消えた。

 賢い狼がすでに古銭を集め始めている。

 小さいカエルを倒した分も含めてそれなりの量があるはずだ。

「早めに戻って奉納するぞ」

「そうだね、ガーシャとも合流しなきゃ」

 そう言うと、アギは、完全に忘れていた、という顔をしていた。

 わざわざついてきてくれた、大事な幼馴染のこと忘れないでよ。

 ガーシャの方こそ、もしかしてお社の裏から勝手に消えたあたしたちのこと探してないかな?


 ケイくんは、疲れて座っていたのもあったけれど、巨大な神徒に腰を抜かしていたらしい。

 あんな神徒見たことない、なぜ驚かない、そして当たり前に一撃で倒す意味が分からない、朱印も見たことないものばかり、ついでに言うとあたしが空中を歩くように飛ぶのも意味が分からない。

 たくさん文句を言われたけどよくわかんない。

 面倒になって流したけど、彼はぷんすか怒ったままだった。

「でも、とりあえず町に戻ろうよ、ケイくん。その、師匠?って人のところに連れてってくれるんでしょう?」

 手を差し出すと、ケイくんは不承不承ながら手を取ってくれた。

 でも、それを見たアギが後ろからケイくんの手を叩き落とす。

「いでえっ。何するんスか!」

「ナユタに触んな」

「やめてよ、アギ!」

 村を出たというのに相変わらず過保護な兄に、あたしはため息をついたのだった。



 大量の古銭を神社に奉納した後、ケイくんに連れられてきたのは、町はずれにある大きなお屋敷だった。

 周囲をぐるりと低い生垣に囲まれているだけで、中は殺風景な中に雑草が目立つ庭だが、とにかく敷地が広い。真ん中の建物も、平屋だがとんでもなく大きい。

「しーーしょーーおーー! 入りますよー!」

 ケイくんは大きな声で叫ぶと、普通に引き戸を開けて中に入っていった。

「お二人もどうぞ。荷物はその辺に置いといてもらって……あー、オオカミくんはどうしようか」

「テラスは女の子だよ」

 訂正すると、ケイくんは口をパクパクさせて、テラスさん、と言い換えた。

「やっぱり、荷物置いたら外から回りましょうか。玄関出て、左手にまわってもらっていいスか? すぐに中から開けるんで」


 まわりこんだ建物の側面は、全面が引き戸になっていた。

 少し待っていると、中からガタガタと音がして、引き戸が開けられていく。

「今全部開けるから待っててください」

 ひょいっと顔を出したケイくんが扉をがたがた、ずーっと押していくと、全部の扉が重なるようにして端に収納された。どうやら雨戸で閉じられていたようだ。

 雨戸があくと、その中は広い広い畳敷きの部屋になっていた。不思議と静謐な空気に満たされている。奥に神棚があり、手前には名前が書かれた札が下がっている。

 どうやら武術の道場のようだ。

 その道場の片隅に、見覚えのある人影が柱にもたれるように休んでいた。

「あっ、ガーシャ!」

 あたしが大声を上げると、ガーシャはふっと顔を上げた。

「ああ、ナユちゃんもアギもきたんだ。ごめんごめん、待ってる間に寝ちゃった」

 中に人がいることに気づいていなかったのだろう、ケイくんはびっくりしてがたん、と縁側から落ちていた。

 いててて、とお尻を押さえながら立ち上がった。

 ガーシャはケイくんに驚かせてごめんね、と謝って縁側の方にやってきた。

「朝、お社に戻ったら二人ともいなかったからびっくりしたよ。でもまあ、二人ならここに来るだろうなって思ってさ。ここで待っててよかった」

「ごめんね、勝手にいなくなって」

 あたしとアギは合流する気あんまりなかったしちょいちょいガーシャのこと忘れてました!

 ごめんなさい。合流できてよかった!



「ガーシャ、連れに会えたのか?」

「はい、会えました。ありがとうございます、ゴクジョウさん」

 ガーシャの背後から突然誰かが現れた。

 気配が全くなかった。

 アギを見ると、眉間にしわが寄っていたからおそらくアギをしても気配を読めなったのだろう。

 (ほの)かに、背筋がぞくりとした。

 あたしはあまりわからないけれど、きっと強い人なんだろう。

 灰色のぼさぼさ髪に無精ひげ。やる気なさそうな目。不潔な感じはないが、見た目に無頓着な感じだ。

 ガーシャもそこそこ背が高いと思うのだが、それよりさらに上背がある。アギと同じか、それより高いくらいだろう。鍛えていそうな太い手首にぐるぐると革ひもで勾玉を巻いていた。

「ししょー! 聞いてくださいよ、なんかこの人たち変なんスよお。朝からずっといろんなことがあって、俺もう無理なんスよお!」

「あーはいはい、わかるわかる。ケイ、二人をここに連れてくるまで、一人でよく頑張ったな」

 心から理解するようなその口ぶりでケイくんを(ねぎら)い。

 その人はあたしとアギの方を見た。

「初めまして、だな。俺はゴクジョウ。この町の神徒狩りの……一応、長だ。長と言っても戦う以外は何もせんがな」

「初めまして。ナユタです。こっちはあたしの兄のアギと、テラス。まだ山から下りてきたばかりで何も知らないので、いろいろ知りたいと思います。よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げると、ゴクジョウさんはかすかに笑った。

「まあ、先にガーシャから大方の事情は聞いている。ちょうど面倒くさい討伐があるから、手伝ってくれるなら何日かここに泊まってくれてかまわねえ。が、その代わり、家事は手伝ってくれよ。ケイ、一通り掃除洗濯炊事の場所教えてやれ」

「うっす」

 ケイくんが軽快に返事をした。

「あとお前、アギ、だったな。戦い方が我流らしいな。後で見てやる。これでも一応、ここの道場主だからな」

「俺が?」

 突然言われたアギは驚いていたが、気配を感じさせずに現れたゴクジョウさんに興味があるようだ。

 珍しくちょっと嬉しそうに承諾していた。



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