はじめてのおつかい(前)
城下町から少し離れた場所に移動した一行。
さっきから自分の脚に犬のように纏わりついているダイアナ。
糊狼なのか?
「縛!お手!おすわり!待て!後はビーツ様の言う事を聞け!」
言いたい事だけ口にするとミーヤは指をパチンと鳴らした。
何にもないただの原っぱだったところから、土が盛り上がるとそこから家が出て来た。
「試しにやってみたけど、我ながら凄いわ」
かかかかか〜!
高笑いをすると引き戸を引いて中へと入って行った。
続いてビーツ達も入って来ると外から見るとこじんまりした家にしか見えないのに、中は領主の屋敷のように広い廊下がどこまでも続いている。
「あ、靴脱いでよ。ダイアナはこれをやってから」
ピーッと口笛を吹くと大きな盥と水瓶が異空間からでて来た。
大きな白い手がダイアナを掴むと盥の中に入れ、頭から水瓶の水をぶっかける。
ダイアナは何度も逃げようとするが、縛の術にかかっているために涙目で体を洗ってもらっている状態。
全てが終わると、「ドライ」「ブラッシング」と声を出せば一瞬でダイアナが綺麗になって行く。
ほんとは水攻めみたいに洗わなくても良かったんだけど…。
大きな手にもみくしゃにされたダイアナはすでに疲労困憊。
戦意喪失だ。
ここまで疲れてくれれば、夜もゆっくり休めそうだ。
ミーヤの頭の中では狼=夜の遠吠えの式が出来上がっている。
まさか、その遠吠えは雄だけの役割だとは知らない。
「さあてと、私は一番奥の部屋にいるから、好きにしてて」
大きく伸びをするとスッと体を消した。
「ビーツ様…」
「言うな…わかっておる」
ミーヤの身に纏う魔術の量が日に日に増えて来ている。
ブラウが神妙な面持ちでビーツの顔を見ている。
どうやら、彼もミーヤがただの変態だとは思っていないようだ。
一応、変態なのだが。
夜中に起きてブラウの寝顔を見て一人真っ赤な顔をしてはあはあ言っているところなんぞを見てしまえば、こいつは本当に大丈夫なのだろうかと本気で思ってしまう。
毎回夜になるとブラウが寝る周りには結界を幾重にも張り巡らせているが、どうやら変態の気力にはどんな結界も役に立たないどころか、返ってミーヤの変態度の度数を上げてしまった。
こうしてブラウが無事なのが不思議なくらいだ。
「ブラウ…御主、世界を救いたいとは思わないのか?」
「それはいかような事ですか?ビーツ様?」
首を傾げて聞いて来る麗しの少年ブラウ。
まさか、この幼気な少年に世界の平和を守るためにミーヤの毒牙にかかってくれとは言えまい。
ブルブルと肩を震わせているブラウにそんな邪な考えを悟られぬように、薬壺の中身を広げると確認し始めた。
いつの間にかブラウは部屋へと行ってしまったらしい。ジェンガもだ。
あの人狼の子もその辺の部屋に連れて行かれたのだろう。
「ふむ…足りんの…」
「何が?」
「うげ!!」
「なーによその妖怪でも見たようなその驚きようは」
ビーツ様酷い!傷ついたと言っている割には嬉しそうな顔をしているミーヤにため息しか出て来ない。
「ねえ、何が足りないの?」
「んーレジェンヌと言う花の根なんだがな…。これは今の季節しか手に入らない物なんじゃ。しかも、この王都でしかな…」
「あ!だったら、私が買いに行って来るよ!そのレジェメ!」
「ミーヤ。レジェンヌだ」
「あーそれそれ!で、何の効果がある薬草なの?」
「まあ、発熱や咳。この花の葉っぱは、湿疹によく効くんじゃ。花の方は煎じて飲めば若返り効果がある」
最後の方だけが耳に入ったミーヤはシュッタ!っと手を挙げると「私がそのレジュメを買いに行って来る!」と告げるとどこでそれを入手するのかも聞かずに外へと飛び出して行った。
「台風じゃな…」
そう呟くビーツの眉間には大きく皺が刻まれた。
あ!!あやつにどこでレジェンヌを手に入れられるのかを教えるのを忘れていた。
あれは確かに今のこの季節しか手に入らない物だが、この王都に入ってからビーツは色々な店に陳列されている薬を見て回ったが、なぜかどこにもレジェンヌはなかった。
あれは花と言う風にミーヤに教えたが、動く花だ。
身丈は、二メルくらいで長い手足を持っている。根とは言ってるが、この世界の植物で根っこと言うのはいつも地下にあるものではない。
空に向かってその根を張り巡らせている。
あれは、可愛いように見えて凶暴だからな…。一抹の不安が頭を過るが、それさえもミーヤなら百回殺したとしても二百回は生きて返って来るだろうと無責任なことを考えていた。
「おや? ビーツ様。ミーヤはどうしたのですか?」
「……」
ビーツからミーヤにおつかいを頼んだと聞き、ブラウは珍しく可愛らしい顔を歪めた。
「どうしたのじゃ」
「いえ…実は、城に向けて連絡用の赤い帚を飛ばしたのですが…それが返って来た時に妙な事を口走っていて…」
ブラウが小さな帚を巻物から韻を結んで召還すると、帚は小さな男の子の姿になった。
小さな口が城や城の周りでここ最近の出来事を身振り手振り、必死な顔で訴えて来る。
この帚の言う事を纏めるとどうやら、ここ数年でレジェンヌの花ばかりか、ライキの雫と呼ばれる王都でしか手に入らない薬草達が次々に姿を消していると言う事だ。それはどうやら人族と呼ばれる魔力もない人間達が理の谷を通り親無し山脈と呼ばれる山々を超えて珍しく薬になるものを乱獲している。
今回はそのことでエルフ族や魔人と呼ばれる魔界族の族長達が王都に集まり、今後の未来に向けての話し合いをする。
そのためにブラウもやって来たのだが、彼の故郷であるセンギャン山にも人族による被害が出ている。
人族は魔術師達を雇い、色々な土地の珍しい物を乱獲し始めていた。
彼らの寿命は長くても五十年短い物だと数年だと言う。魔族やエルフ族、ドワール達は人族達を嫌った。彼らは何も力を持たないくせに人の物を横取りする。人族以外は無益な戦いは望まない。それは世界の均衡を崩すと言う事を知っているから。
だが彼ら人族はそれさえもわからない。迷いの森の守護者と狼族が絶滅の域までに追いつめられたのは、何の魔力も持たない人族の出したゴミが森を浸食し彼らを弱らせた。弱ったドグーラを次々と乱獲していったのは人族の王とか言う。そう考えると人族って何様なのよなのだ。
ジャンガもダイアナもようは人族のせいで家族を奪われて行ったのに、何代か前の王がやったことで神様が怒っちゃったから、その尻拭いよろしくねってことで選ばれたのがミーヤだ。
その事をミーヤに話せば彼女のことだ『お仕置き決定!』とか叫んで、城ごと破壊するに決まっている。
ルンルン♪
おつかいおつかい嬉しいな〜♪
調子っぱずれの歌を歌いながらもミーヤは楽しそうだ。
この異世界でしかも城下町だ。
そこでの初めてのおつかいとくれば、誰だって嬉しいに決まっている。
ビーツ様から預かったのは40ブンだ。
へーその何とかって花は本当に高いのね…。
魔術は使うなとビーツ様に言われていたから、歩きましたよ。
歩きたくなかったのにさ…フン。まあ、歩いたからこんなたくさんの精霊さんたちから歓迎を受けてるんだけどね…。
だから、髪を七色に染めるは止めろって!
花の精たちがミーヤの黒髪を見て嬉しそうに触ると、虹色に染めて行く。
これって変に目だたないか?
そう聞けば妖精達は首を横に振っている。
どうやら黒髪の方が目だつから、これにしておけばいいらしい。
ふーん。これってわりかし凄くね?
「ねーねー君♪どこ行くの?」
いきなり変な声が降って来たと思ったら、何もない空から人が男が二人降って来た。
誰?この人達…?!




