エピローグ 若宮朋佳
エピローグ。
幸せエピソードを書きたくなって、長めになっちゃいました。
最後までお付き合いいただければうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
4月、私は大学生になった。
入学式前の日曜日。
川上先生と初めて(?)の普通のデート……。
う……。緊張する……。
何を着たらいいんだ!?
大人っぽく見られたいけど……。
悩み過ぎてもう何だかわけがわからなくなった。
とりあえずお気に入りの服を着て、少しメイクしてみた。
うう。
川上先生とは私の最寄り駅の駅ビルにあるカフェで待ち合わせしていた。
うう、緊張するー。
カフェはオープンなスペースだから、すぐ川上先生を見つけて……。
ああ、なんでこんなにドキドキするんだろう。もう、いいんだよね。誰かに見られても!?
いいのか? 本当に!?
遠目からぎこちなく挨拶をして、自分のドリンクを買いに行き、席に合流した。
「先に来てくれると思っていたんだけどな」
そう言われて苦笑するしかない。
「いや、でも……」
「入学式、明日だろ?
準備はできた?」
「はい、準備はできてます。アキもこころちゃんも一緒だし。本当に気持ちが楽。
楽しみです」
「ふーん。俺との方が楽じゃないって感じ?」
は。
「いや、その、まだなんか、この状況に慣れないっていうか。
すぐに切り替えはできない。先生は先生だし」
私はため息混じりにそう言った。
おかしいけど、そうなのだ。もうあんなことやこんなことをしている仲なのに。
普通のデートしているという感覚がおかしい。
「その先生ってのやめようか」
え?
「じゃ、な、何とお呼びすれば!?」
「かなり挙動不審になってるぞ!?」
「と、とりあえず、落ち着かせて下さい!」
私はティーラテを飲んで、また、ため息をついた。
「落ち着いた?」
「ひっ! まだれす」
あ、噛んだ。
私は真っ赤になってしまった。
川上先生は笑いを噛み殺している。
ああ、大人っぽく見られたかったのに、私、なに、やってるんだろう!?
ショボーンとなり、静かにラテを啜る。
「飲み終わったら行こう」
ど、どこへ?
私は目だけで訴えた。
「心配するな。
明日は入学式だろ?
何かプレゼントしたいし」
ということは今日はそういうことにはならない……。
ほっとするような、ちょっと残念な気もするような……。
「なに? したかった?」
笑いながら言われて、私は川上先生を睨んだ。
もう、知らないっ!
カフェを出て、駐車場に行き、車に乗った。
なんだかほっとした。
「露骨にほっとした顔してる。
慣れって怖いな」
「笑い事じゃないよ!」
私の言葉に川上先生は真顔になり「ごめん」と謝ってくれた。
「まあ、まだ卒業したばかりだもんな。
でも、もう見られても、まあ、大丈夫だしな」
「ああ、うん。それはそうなんだけど……」
私は流れる車窓を見ながら返事をした。
「で、どこへ?」
「朋佳は好きなブランドとかある?」
「ブランド?」
うーん?
あまり興味なかったから?
「……わからないな。
大学生になったら、そのうちかな?」
「なら、俺の好きなのでいい?」
「うん? まあ、なんでも?」
そのまま、都心の方へ車はどんどん進んで行って、なんだかアトリエみたいな小さな、でも高級な感じのお店の駐車場に車は滑り込んだ。
「どうぞ」
エスコートされるように車のドアを開けてもらうのは、ほぼ初めてだ。あれ、お尻に怪我した時はあったかも?
「ありがとう……」
お店に入ると、あ、このデザイン! と気がついた。
「気がついた?」
頷く。ネックレスとイヤリングのお店だよね、きっと。
今も身につけてる。
「いらっしゃいませ!
今日は何をお探しですか?」
店員さんに声を掛けられ「彼女に初めての指輪を贈りたくて」と答える川上先生!?
指輪!?
まあ、指輪なら、いつでも身につけていられるか……。
いいのかな?
「ではこちらにどうぞ!
どんな感じのものをお探しでしょう?」
店員さんの言葉に川上先生が私を見る。
は?
えーと。
「日常的に身につけていられるシンプルなものが……」
「いつも身につけられるものですね……。するとこのラインかな」
シンプルな指輪だけど、細かくデザインが入っていて綺麗。
でも、男女ペアみたいな展開なんですけど!?
「……結婚指輪?」
先生が言って、私は慌てる。
「え? そんな!?」
スタッフさんが笑って言った。
「当店のペアリングのラインです。
結婚指輪として購入される方もいますけど、普段使いの指輪として単体で購入される方も多いですよ」
あ、焦った……。
「ペアリングか。俺も揃いで買おうかな」
えっ?
お揃いとか!?
……なんかにやけちゃう。
「……うれしい?」
「……うん」
私は素直に頷いた。
本当に恋人同士みたい。あれ、告白しなくていいのか!?
私は先生の耳元に手を添えて囁いた。
「川上先生、好きです。お付き合いして下さい」
川上先生が真っ赤になった。
「……そういうことは俺から言うからっ!」
いや、言いそうにないから。
そのまま、行こうとしてるやろ?
結局、プラチナと金を組み合わせたデザインのリングを選んだ。
プラチナだけだと結婚指輪感が強いのと、お値段的にプラチナだけよりは抑えられてる。
先生も買ったけど、学院では身につけられないだろうな。
シンプルな細めの指輪だけど、ペアだから、10万円軽く超えちゃった。
あわわ……。いいのかな?
指輪のサイズもあって、その場で持ち帰ることができた。
私、けっこう細いのかな。
『7号あって良かったです!』と店員さんにほっとしたように言われた。
指輪のサイズなんて初めてだから、わからないや……。
お店を出て、車であの海の公園に行った。
車の中で先生がケースから指輪を取り出し、左手の薬指に嵌めてくれた。
「朋佳、愛しています。結婚を前提に交際して下さい!」
「はい。よろしくお願いします」
私は先生の指輪も貰って、先生の左手の薬指に……。
左手の手の甲からの傷が痛々しい。
少し悲しくなった。
そっと、指輪を嵌めた。
「ありがとう。受け入れてくれて」
「私こそ、よろしくお願いします。そ、その……、け、健司さん」
先生がふっと笑った。
「ぎごちない……」
「しょうがないでしょ!?
6年間も先生だったんだから!?」
「……次は俺の家に連れて行くから。
植える木、持ってきな」
「え、いいの?」
「ま、1本ずつな」
「はい」
「指輪のケースは俺が預かってていい?
仕事の時は……、付けられないかもしれない」
私は頷く。
「私はいつでもつけていられるし、大丈夫」
「……御両親にどう説明するの?」
「……恋人ができましたって報告するけど……、まだお父さんには……名前言えないかも……」
「だよな」
私達は笑った。
入学式が終わり、私達は大学での生活を楽しんでいる。
私の指輪は最初注目されたけど『婚約者がいるので』と言えばそれで済んだ。
楽だ。
アキが「いいな、私もそうしようかな」って言ってたくらい。
け、健司さんも、中学一年の担任になり忙しそう。
5月の連休の時にやっと会う約束ができた。
マンションまで健司さんが迎えに来てくれて、父と母に挨拶してくれた。
父はちょっと怒ってたけど、認めてくれた。そんな気はしていたそうだ……。
母は大喜びしてた。
「柚子にしたんだ」
「うん、金魚葉の……。棘があるから気をつけて」
車で川上先生の自宅である、あの離れに行き、降りた。
2回目だ。ここに来るのは。
駐車場からそのまま上に上がり離れに入る。
ああ、やはりこの中庭の作り、前世を思い出すな……。
先生じゃない、健司さんはガラス戸を開けてくれて、中庭に私を呼んだ。
「ここに植えたらいい」
中庭から見上げる空は……。
青空で雲が流れていた。
私と健司さんで柚子の木を植えた。
ふふ、大きくなって実がつくかな? その前に花か!
「限りある生を……、君と命ある限り」
健司さんが呟いた。
私も言った。
「老いて命尽きるまで、そばにいれたら、いいな」
健司さんが抱きしめてくれた。
土と水の匂い。陽の光と微かな風。
私も抱きしめ返す。
前世の罪も罰も忘れて、今、今世が始まった気がした。
☆ ☆ ☆ 完 ☆ ☆ ☆
最後まで読んで下さり、本当にどうもありがとうございます。
第1章を書いてから、少ししたら学院生活がぽこぽこ浮かんで来て、書いているうちにこの最後の中庭のシーンが中途で浮かびました。それをラストにしたいと思い、ずっと書き続けてきました。
前世の繋がりがあるとはいえ、先生と女子高生の恋はやばいよなと思いつつ、けっこう楽しく書いてしまいました。
朋佳だけじゃなく、登場人物達の、弱味とか、怒りとか、悩みとか、不安とか、人を思う気持ちとか、そういうものも伝わったらいいなと思います。
読み返してみたら、川上先生だけじゃなく、朋佳もだんだん前世の感情に囚われていたところから、人間らしく成長していっていることに気づきました。
川上先生と朋佳の人間への生まれ変わりの話でもあったのかなと書き終えてから思いました。
ブックマークしてお付き合いして下さった皆様。途中で評価をしてくれた方。
本当に励まされました。どうもありがとうございます。
読み終えたら、ぜひ評価をお願いします。
感想を頂けたら、とてもとてもうれしいです。どうぞよろしくお願いします。




