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今世と前世と罪と罰  作者: 月迎 百
第10章 川上健司
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8 既成事実

どうぞよろしくお願いします。

 保健室で応急手当てを受けたが、結局、大学の裏門の方に救急車を呼ぶことになった。朋佳と俺と朋佳の母と都が一緒に行くことになった。


 俺は左手の甲から手首の方へ切り上げられ20cmほどの切り傷。

 朋佳は右臀部に15cmほどの切り傷ができていたそうだ。


 切りつけられたんだな。……刺されたのではなくて、本当によかった。

 治療は消毒して縫合だ。


 俺の方が治療が早く済んで廊下へ出ると都と朋佳の母がいた。


「本当に良かった。

 最初、腰のあたりを刺されたのかとヒヤッとしたけど。

 お尻の傷なら、川上が責任取れるでしょ」


 都がそう言って、朋佳の母がほっとしたように、でもまだ顔色は良くないが……、微笑んだ。

 俺は自分の左手を見た。

 包帯で覆われている。

 そして朋佳の母に向き合うと謝った。


「俺、いや、私を庇って朋佳さんは怪我を、申し訳ありません」


「いえ、悪いのは義弘さんです。

 先生も朋佳も何も……。

 それに……、朋佳は、謝られるよりは褒めてもらいたいんじゃないかしら。

 大切な人を守ったんですもの。

 でも……、なんで。

 あの子は本当にトラブルによく巻き込まれて……、そういう運命なんでしょうかね……」


 その時、治療が終わり、朋佳の母は呼ばれて治療室の中へ入って行った。


 傷の位置が移動したりするのにむずかしい場所ということもあり、大事を取って今日は入院することになったそうだ。

 病室に移動し、ベッドにうつ伏せで横になっている朋佳。


「お尻……。なんで、動いたり座ったりができないじゃん……。

 しかも、お尻を怪我したなんて、笑い話じゃん」


 朋佳は俺を見ると弱々しくも笑いを含んだ微笑みを浮かべた。


「川上先生、都さん。クラスのみんなに謝っておいて。

 会計は典ちゃんに預けてあるから大丈夫と思うけど……」


「わかった! 典ちゃんによーくお礼を言っといてあげる。なにしろ命の恩人だもんね」


 都がウインクして朋佳に答えてから、朋佳の母に目配せして「ちょっと話を……」と病室の外に連れ出した。俺と朋佳をふたりきりにしてくれた!?


 俺はベッドの横の椅子に腰かけて朋佳の右手をそっと握った。


「助けてくれて、ありがとう。

 でも、朋佳が傷つく方が、俺には、自分が傷つけられるより、何倍も何倍も、堪えた……」


「逆だね。前世と。

 でも、私はもし、死んでても後悔はないかな。

 川上先生を助けられたんだから。

 前世では、私が殺してるし……。

 でも、罪滅ぼしじゃなく、本当に愛している人を救えたのなら、後悔はないよ」


「ああ……、俺は……」


 前世で俺は妹に自分を殺させた。

 先に死ぬことでこの思いから逃げたんだ。

 愛する者の死を見届けることから逃げた。

 殺してもらったのに。


「私、死んでないってば!

 もう、そんな顔しないでよ!

 典ちゃんに感謝!

 命の恩人がたくさんだよ。加藤先生に都さんに田中先生に教頭先生に西村先生と、警備員さん?

 ……川上先生の方が手で痛そう。

 神経、手の方が敏感で痛みをより感じそうじゃない?」


 朋佳が俺の左手を見て唇を嚙みしめた。

 そんな朋佳がとても愛しくて、俺は握っている右手に力を込めた。


「大丈夫。痛み止めも貰ってる。

 学院に戻って、報告や警察の対応もあるしな。

 それから、朋佳のお尻の傷……、俺が責任をとるからな」


 朋佳は恥ずかしそうに、でも顔を赤くして笑った。


「これが本当の合法的な『既成事実』ってやつ?」


 俺達は笑った。

読んで下さり、ありがとうございます。

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