38 文化祭 日曜日③
どうぞよろしくお願いします。
「どこか、大人がたくさんで取り押さえられそうなところ」
車の陰にしゃがみこみながら呟いた私の言葉に川上先生が言い返す。
「無理だ、生徒や小学生も来ているんだぞ!」
「でも、このままじゃ!」
「駐車場で取り押さえる!
加藤、来てくれないか?」
あ、そうか、電話繋いだままにしてたんだっけ。
「加藤と都が警備員を連れて来てくれるそうだ。
それから横川が警備担当の先生に駐車場と連絡してくれたそうだ」
「じゃあ、何とか駐車場に引き留めとかないと!」
「俺が出るよ」
「ダメだよ!
私の方が目立つ格好しているし、駐車場内逃げ回るから!」
私はそう言うなり、わざと見つかるように近くの車の後ろに走り込んだ。
ちょうど地下に下りてきた天堂さんが見たはず。
「おーい!
出て来い! 雅と匠海も来てるんだろう!
カレンダーに書いてあったからな!!」
天堂さんの声が地下駐車場に響いた。
やっぱり……、天堂家に侵入して、カレンダーを見て、チケットを盗んだんだ。
ああ……。
だいぶ離れてるな。私は今度は真ん中をどうどうと横切って、反対側へ回り込んだ。
天堂さんをこちらに移動させるために。
天堂さんの位置を把握して、車の周りを追いかけっこしてれば、時間は稼げるはず!
私は天道さんがそのまま中学棟の方へ歩いて行こうとするのを見て、驚いて立ち上がった。
止めなきゃ!
天堂さんが振り返る。ニヤリと笑っている。
「雅と匠海はどこにいる?」
「もう帰りました!
はるみ伯母さんのチケット盗んだんでしょ!
天堂家に不法侵入して!
伯母さんにも伝えたから!
警察に通報が行くかもよ!」
「……もう、いいんだ。
結局、私より下の奴が講師になった。
もう、私は、帝慶ではやっていけないし、この分野でも先頭には立てない。
地方の小さな大学でなら……、講師や准教授くらいにはなれるかもしれないが……。
もう無理だ。おしまいなんだ。
お前と川上が邪魔しなければ……」
低い呪詛のような声が流れて来る。駐車場で変に響いて、ぞわっとした。
私の後ろの方から階段を下りて来る足音がして、見ると都さんと加藤さんと警備員さんが来てくれた!
向こう側の中学棟の方からは体育の先生と教頭先生と田中先生!
天堂さんはじりじりっと真ん中あたりに寄って、私を見た。
右手にナイフが光っているのが私には見えた。
「ナイフ持ってる!
気をつけて!」
私は叫んで、その声と同時に川上先生が近くの車の影から天堂さんに飛び掛かった。
危ない!
私は駆け寄ろうとした。
天堂と川上先生が揉み合いになり、天堂が振り払った右手のナイフが川上先生の左手を切り裂いたのが見えて!
川上先生が左手を右手で押さえて下がろうとして、よろけて座りこむ、そこへ天堂がナイフを振り上げてっ!
私は迷わず、間に飛び込んだ。
川上先生の頭を必死に胸に抱えて守る。
腰のあたりにドンと強く何かがぶつかる感触があり、私は川上先生の頭を抱えながら押し倒すみたいになった。
「トモちゃん!!」
都さんの悲鳴にも似た、私の名前を呼ぶ声。
倒れ込みながらも後ろを見たら、体育の先生に腕を掴まれ、加藤さんにさらに押さえ込まれようとしている天堂が見えた。
あ、捕まった、良かった……。
とたんにすごく右のお尻のあたりが熱く痛くなった。あれ?
足になんか伝う感覚は血?
あれ?
川上先生から離れるように立ち上がるとなんかふらつく。
あれ、マジ痛いな。
倒れないように足踏みしたら、血がたらって、足もとのコンクリ面に血が垂れて……。
お尻に手をやると……、血だ!
私はサーッと血の気が引いた。
そのまま、目の前が白くなって、平衡感覚がなくなり倒れる。
倒れる直前、川上先生が掴んでくれたのがわかったけど……。
読んで下さり、ありがとうございます。
第9章はこれでおしまいになり、次の第10章へ続きます。
もう少しお付き合いをどうぞよろしくお願いします。




