26 思惑
どうぞよろしくお願いします。
「篠原は川上に近づこうとしているよね」と都。
私は言った。
「川上に今付き合っている人がいないか、聞かれた」
「なんて答えたの」と都。
「……付き合っている人はいないと思うけど、好きな人はいるみたいだと」
「そうなの?
あー、でも、篠原に言っちゃだめな奴じゃない?
よけいにファイト燃やしてそう」
「何よ、どう答えれば正解よ?」
「うーん、そうねぇ。……ん、思いつかないわ」
「なによ、もう!」
「でもさ、篠原にしてみれば、恋人がいようがいまいが、来るわよね。ぐいぐいとさ。
それだけ、天堂先生から逃げたいと自覚してきたってことだから」
「でも、匠海くんがいるのよ」
「うーん、天堂家に置いて行くつもりなんじゃないの?
そのほうがしっかり育ててくれそうぐらい思っているのかもよ?」
「俺が気になっているのは……」と加藤が会話に入ってきた。
「朋佳さんのことだ。
帰りの時の天堂先生、朋佳さんの手を握ったりして……、その……、親密度のギアを一段上げてきたみたいな。
朋佳さんも戸惑っていた」
「手を?」
川上が顔を顰めた。
「ああ、バイト代を渡しながら、今日の感謝を伝えるって体だったが、言葉にも熱を感じたし、好意を隠さない感じ、だった」
川上が私を見る。私は頷いて、でも、首を傾げた。
「それは私も感じた。
でも、篠原とお互い依存し合っているような関係で、今日だって篠原は文句を言いながら天堂先生のためにお酒を探しに行っていたわけで。本当に離れるつもりなら、そんなことしないんじゃない?」
都が鼻で笑う。
「今、天堂先生がぽしゃるのは都合が悪いんでしょ。
そうなったら、離婚に応じてくれなくなりそうだし。
そうなったら、一緒にいる旨味もない。
篠原としては両方で考えているのかもね。
天堂先生を機嫌よく乗せておいて、その状態で川上と復縁できれば離婚できるだろうし。
ダメな時はぽしゃった天堂先生より、成功してて機嫌よい天堂先生の方がいいだろうし」
加藤が苦笑して言う。
「まあ、それはあるだろうな。
でも、俺が気になっているのは、朋佳さんのことだよ」
「ん、それ二度目?」と都が言った。
「篠原が朋佳さんを自分の身代わりにしようとしていたら?
それを、考えたくないけど、あの夫婦でやろうとしていたら?
それぞれの思惑はあるけれど、求めているのは朋佳さんに匠海くんと天堂の世話をさせること。そうすれば、天堂は篠原を手離すだろう」
「それが篠原の狙い?」
私は愕然とした。
さっき加藤に言われた時は、そんなことがあるかと思ったけれど、これまでの話からなら、ありえると思えた。
「天堂先生も日本に帰って来て、自分の意見を言ったり機嫌の悪さを隠さず、自由に出歩くようになって、匠海くんをうまく世話できていない篠原より、若くて素直な朋佳さんの方が魅力的に思えているのかもしれない」
都が怪訝そうな顔をした。
「なになに、あんなおじさんになっているのに、まだ女子高生にもてるとか思ってるわけ? 天堂先生?」
「……だから、今回は無理やりに捕まえに来るかもよ。
篠原は高校卒業して大学中退。まあ日本で何かしら仕事をしようと思えばできるだろう。逃げることができる。
それをわかったから、今度は高校中退させたら?」
加藤の指摘に背筋が寒くなった。
加藤が川上を見た。
「守るんだろ?」
川上が頷いた。
「ああ、守る。みんな協力してくれるか?」
都だけが怪訝そうな表情だ。
「その朋佳っていう女子高生……、川上と横川の教え子なんだっけ?」
川上が苦しそうな表情をした。
加藤が言った。
「教え子でもあるけど、大切な人なんだろ」
読んで下さり、ありがとうございます。
これでこの章は終わり、次の朋佳の視点での章が始まります。
これからもどうぞよろしくお願いします。




