441-22-3_王妃からの招待状
周囲の人たちを観察していると、ローラ夫人の背後から、突然、恥ずかしそうに令嬢が声を掛けてきた。丸く愛らしい目が印象的な少女だ。年齢的には私と同じくらい?
「あ、あの、に、西の貴婦人様、ご、ご機嫌よう……」
「はい、どちらのご令嬢でしょうか?」
「え、えと、わ、私は、み、南の……」
「あぁ、分かりますよ、南のご令嬢ですね」
「よ、良かった。え、えと、ご子息様は、お元気にされておられますでしょうか?」
「もしかして、息子のご学友のお嬢様かしら?」
「は、はい」
レイナードお兄様の同級生? 私よりも身体の線が女性的。う〜ん、お兄様、やっぱりモテるのね。それにしても、ローラ夫人に直接話そうとするなんて、この子、見た目よりも積極的みたい。
イリハの口がへの字になっている。
ローラ夫人は令嬢に優しく答えてあげた。
「そうですね、私も元気にしていて欲しいと願っています。ですが、息子は今、主人の申し付けで王都を離れました。しばらくは戻らないでしょう」
「レイナード様に何かあったのですか? あ!」
彼女は、咄嗟にレースグローブをはめた手で口を覆った。個人の名前を口にしてしまって、焦っている。
「す、すみません!」
「いいのですよ。息子の事を気に掛けていただいているのね、ありがとう、南のご令嬢」
令嬢は、頭を下げて慌てるように行ってしまった。
「失礼な人! あんなの私は認めない!」
「イリハ、そういう言い方をしてはいけません」
ローラ夫人がイリハを諌める。
「だって……」
イリハの頬が膨らんでいる。彼女はボソッと呟いた。
「エリアがお兄様と結婚すればいいのに……」
は? 何、バカのこと言ってんの? 聞こえないフリしよう。
それにしても、満月のお茶会とは我が家の令嬢を売り込んだり、息子の嫁を探したりと、つまりはそういう場なのだ。
ふぅ〜、なんか大変な場所に来ちゃった気がする……。
レイブン伯爵夫人の仕事は完璧だった。しばらくすると、貴婦人に囲まれて身動きできない程になってしまった。
「ホッホッホ、そちらが銀の髪の妖精さん? まぁ、お美しい! 是非、うちの晩餐会にもお越しくださいな」
ローラ夫人が楽しげな笑みを浮かべる。
苦笑いするしかない。
「え、ええ、フフフ……」
「あらまぁ、見事な銀の髪。ご婚約はされてらっしゃるのかしら? うちには息子が三人もおりますから今ならより取りみどり、選び放題ですわ、ウフフフ」
「そ、そうですか、アハハ……」
「あなたなら、うちのイケメン息子にも釣り合いますわね、オホホホ。嫁候補リストの一番上に入れて差し上げましょう」
「い、いやぁ、それは……」
はぁ〜、この場から離れたい……。そう思った時、小さな視線を感じた。
ゴテゴテの衣装を纏った貴婦人たちに混じって、周囲と雰囲気が異なり清楚感が漂う少女が一人、羨望の眼差しでこちらを見ていたのだ。その令嬢はピンク色のふわふわと膨らんだドレスを着て、頬に手を当てながら口を開けたままにしている。
彼女と目が合った。
黒目がちな瞳に長い栗色の髪、それに長いまつ毛の上品な顔立ち。私に何か言いたげな表情だ。
「あ、あの……」
そう言って声を掛けようとすると、彼女は慌てて行ってしまった。
今のは、どこのご令嬢かな……?
彼女と入れ替わりに王宮の女性従者が近寄ってくる。従者は一礼し、ローラ夫人に何かを手渡した。
「銀の髪のご令嬢、そして、薬師の従者の方にこれを」
「確かに承りました」
ローラ夫人が、王宮の紋章が刻印された銀製のカードを二枚受け取った。
「エリアさん、このお誘いはお二人に宛てられたものですので、私がご一緒するわけにはまいりません」
いつの間にか側にいたレイブン伯爵夫人が、カードを覗き込む。
「王妃様からお呼びがございましたわね、良かったわ。第一王子様のご容態は分かりませんけれど、あなたなら、ゆくゆくは皇太子妃候補になれるんじゃないかしら。頑張って王妃様に名前とお顔を覚えてもらってらっしゃい」
「あ、ありがとうございます」
ヨシっ! 皇太子妃なんて興味ないけど、王妃様の信頼を勝ち取る絶好のチャンスだ!
早速、サナレさんとともに王妃の控え室に向かった。
入り口の従者にカードを見せる。
「どうぞ」
彼女が扉を開けると、控え室も明かりを落とした薄暗い部屋だった。手前にはパーテションが置いてあり、二人の女性従者が仕切りの両脇で頭を下げた。
「こちらへお越しください」
左側の従者に続いてパーテションを回り込むと、黒いスーツを着た女性たちにボディチェックをされる。奥には女性らしき剣士も三人立っている。そのさらに奥には別の部屋が見えた。
「どうぞ、お進みください」
「はい」
従者の後に続いて女騎士の脇を抜け、奥の部屋へ向かう。従者は扉の前で一礼すると部屋の中に向かって呼びかけた。
「ボズウィック男爵様ご令嬢と、従者の方でございます」
「お通しして」
「かしこまりました」
従者の女性は扉から身体をずらし、通路を開けて頭を下げた。
この奥に、王妃様がいるのね……。




