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No Name's Trust  作者: 大道福丸
傭兵達の日常
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嵐の夜に……②

 トモル達は順番に仲間達の部屋を訪ね、各々を叩き起こし、電気のついてないロビーに集めると、アピオンから聞いた話をそのまま伝えた。

「この嵐がオリジンズの仕業だっちゅうんか?」

「にわかには」

「信じられないわね……」

 全員が全員、寝起きということもあって、話をすんなり飲み込めなかった。いや、完全覚醒状態でもきっと似たような反応だったであろう。それほど常軌を逸しているスケール感の話だった。

「信じられないのは無理もありません。ぼくもいまだに半信半疑ですし」

「だけどおれっちの能力と、多少のおふざけはするが、みんなの安眠を下らない冗談で邪魔するほど性格が終わってないってことは、それなりの付き合いでわかってくれているだろ?」

「まぁな。いつもならワイらヤバいって慌てふためいてる時に限って、のほほんとしてるお前が似合わない真剣な顔でそれだけ言うんやからマジなんやろ」

「信じた上で他に方法はないのか?直談判しに行くにはあまりにも得体のしれない相手だ」

「他に方法って……ぼくがそれを皆さんに訊きたかったんですけどね……」

「これだけの嵐を起こすオリジンズなんて間違いなく十字軍案件だわ。さすがのあたしでも何も思いつかない」

「となると、ぼくがアピオンの策を実行するしかないのか」

「ワイも行くで」

「ケントさん?本気で言ってるんですか?」

「一人くらい付き添いがおった方がええやろ。で、こん中で飛べるのはワイしかおらん。ならワイが行くしかない」

「気持ちは嬉しいですけど、今回はお金にならない純粋なボランティアですよ?」

「ワイのことを見くびるなや!金よりも人命!ケントくんは大切なことを理解している賢い男の子や!!」

 トモルを真っ直ぐ見つめるケントの瞳は曇り無くキラキラと輝いていた。それはそれは不自然なほどに……。

「いまいち信用できないですけど、何かあった時に隣にケントさんがいるのは心強いのは確か。そこまで言うならついて来てください」

「おうよ!!」

「メルヤミさん達は……」

「グロウムの市長や警察消防に連絡を取る。美術館の件で繋がりがあるから、いつでも動かせるように準備させておくことくらいはできるでしょ。トラウゴット、ゾーイ、あなた達も手伝って」

「「はい」」

「私は残りのメイド達とピースプレイヤーを装着して、外に取り残されている人達を救助しに行く。こんな深夜だから、あまり出歩いている人はあまりいないと思うが」

「よろしくお願いします。アピオン」

「おう!おれっちの体格じゃ外に出た瞬間、彼方に吹き飛ばされちまうからな。お嬢様の側で大人しくしてるよ」

「アピオンが何か感じ取ったらすぐに連絡する。通信できる状態だったらだけど」

「はい。こちらも何かあったらすぐに」

 その場に集まった面々はお互いの役割を確認すると、顔を見合わせて頷きあった。

「では、行きましょうケントさん!」

「おうよ!」

「熱く行こう!ドラグゼオ!!」

「ツムゾルム!嵐の中出撃や!!」

 トモルとケントは光の中で各々のパーソナルカラーに彩られた機械鎧を装着すると、ホテルの外に出た。


ザアァァァァァァァァァッ!!ビュウッ!!


「これは……」

 そこはレストランと食事していた時と大きく様変わりしていた。

 一メートル先も見えないほど凄まじい勢いで雨が降り、生身では立っていられないほどの暴風が吹きすさび、足下はすでに脛の部分まで水に浸っていた。

「ちょっと凄いですね……」

「天気予報のおっちゃん、姉ちゃんに使い古された言葉なんて使いとうないけど、水の入ったバケツをひっくり返したみたいやな」

「どんだけデカいバケツですか」

「もうダムくらいのサイズなんやろ。知らんけど」

「って、下らないこと言ってる場合じゃ――」


バギィン!!!


「「!!?」」

 突如、横から何かが激しく割れるような音が聞こえた。二人は反射的にそちらを向くと、かなりの太さを誇る大樹が見事にへし折られていた。

「マジでふざけてる場合や無さそうやな。この風速だと結構な大きさの車も転がされるで」

「はい……一刻も早くどっかに行ってもらいましょう!!」

「おう!一発ガツンと言ったろうや!!」


ボオォォォォォッ!!


 ドラグゼオとツムゾルムは炎を下方に噴き出し、水たまりに波紋を作りながら、浮かび上がった。そして……。

「ドラグゼオ!全速だ!!」

「ツムゾルムも負けんなや!!」

 一気に急上昇!あっという間に渦巻く暗雲の近くまで高度を上げた。しかし……。


ザアァァァァァァッ!ブオォン!ブオォォン!!


「ッ!!?」

 そこからはさらに雨と風が強まり、簡単には先には進めなかった。

「乱気流がまるで防御壁みたいに何重にも重なって……」

「こんな中、飛ぼうとする奴は自殺志願者だけか、ワイらみたいなアホだけやろうな」

「ですね……!」

「それでも必ずここを突破して……」

「ええ……!!」

「この嵐を起こしてるオリジンズの映像を撮ったる!!」

「はい…………え?」

 桃色のマスクの下できょとんとした顔を浮かべると、思わず今の状況にそぐわない言葉を口にした同僚の方を振り返った。

「なんや?マスク越しでもわかるくらいのアホ面晒しおって」

「いや、オリジンズの映像って……?」

「はぁ?マジでボランティアでこんな危険なことするかいな。これだけの規模のことを起こせるオリジンズ、きっと写真や動画だけでもかなり高く売れるで!身体の一部なんか手に入れられた日には、もっと……!!」

「マ、マスク越しでもわかるほど金に目を眩ませた悪どい顔をしている!?」

 トモルは心の底から失望した。

「くそ……ケントさんの本性を見抜けないなんて……!そしてこんな儲け話に気がつかなかったなんて……!!」

 がめついケントに、そしてそんな彼に遅れを取った自分自身に。

「お前も大概やな」

「ですが、考えてみれば確かにこれだけ危険を冒しているんですから、相応のリターンがあってもいいはずです!ケントさん、必ずオリジンズの姿をカメラに収めましょう!そして大金をゲットしましょう!!」

「ワイは最初からそのつもりやって!!」

 下世話な欲望を胸に二人は限界まで加速し、乱気流の中に突入して行った。

「ぐうぅ……!!ケントさん大丈夫ですか!?」

「ギリギリな……特級のドラグゼオでもきついなら、当然感情でパワーアップできないツムゾルムはいっぱいいっぱいや」

「もう少しですから頑張ってください!」

「せやな。ここまで来たらアピオンやなくてもわかるわ。ヤバいのがおるって……!!」

 二人は本能とこれまでの経験からターゲットが近いことを感じ取っていた。そしてそれの持つ強大な力もより強く……。

「やっぱ引き返しますか?」

「アホか!今さらやめられるかい!!」

「では、行きましょう。先行しますから、ぼくを風避けにしてついて来てください」

「おおきに!終わったらチャーハン奢ったるわ!!」

「それは楽し――」

「キイィィィィィィィィッ!!」

「「!!?」」

 こんな嵐の中で聞こえるはずのない生き物の鳴き声が聞こえた。

 いるはずのない生き物の姿がそこにあった。

 二人の目の前にこの暴風の中を難なく飛び回る虫の群れが現れ、襲いかかってきたのだ!

「キイィィィィィィィィッ!!」

「くっ!!」


ビュン!!グラッ!!


「うおっ!?」

 虫の突撃は避けたが、その後身体に受けた風によって体勢を崩しかける。

「このッ!!」


ボオォォッ!!


 それでも桃色の炎竜は全身の各部から炎を噴射し、器用に姿勢を制御した。


ビュン!グラッ!!


「うおおぉぉぉぉッ!!?」

「ケントさん!!?」

 一方のツムゾルムはドラグゼオと同じ状況に陥っても立て直すほどのスペックがなく、回転しながら無軌道に嵐の中を転がり回る。

「ケントさん!手を!!」

「おおう……!!」


ガシッ!!


「ふん!」

 このままミキサーにかけられた果物のように粉々になるかと思われたツムゾルムだったが、ドラグゼオがレスキュー。差し出した手をしっかりと掴み、ようやくまた自分の身体のコントロールを取り戻した。

「ありがとさん……」

「いえ……それよりもこの『嵐蟲(らんちゅう)』は厄介ですね」

「らんちゅう?」

「今、ぼくが名付けました」

「好きやなそういうの」

「名前がないと不便でしょ。対策を考えるにしても名前があった方が……」

「………」

「……ケントさん?」

「悪い。どうやらワイはここまでみたいや」

「え!?」

「今ので理解したわ。ここから先はツムゾルムでは行けない領域なんやと。ちょっとばかし見立てが甘かったわ」

「でも、ぼくがサポートすれば……」

「サポートしてもらってる時点で、足手纏い以外の何者でもない。お前の足を引っ張ることはしたくない。ここは大人しく引き返すが吉や」

「ケントさん……」

 トモルはなぜだか無性に寂しくなって、少しだけ目を潤ませる。

 それをツムゾルムは肩に手を回し、引き寄せ、額同士を触れ合わせた。

「そんな顔するなや。いつものことやろ。大事な所はお前が決める……丸投げされてるとも言うけど。とにかくワイは地上に戻ってジョゼットのおっさん達の手伝いをするから」

「ぼくはこのままオリジンズに会いに行って、この嵐を止める……!」

「グッド。あとカメラで記録することも忘れずにな」

「ええ、ぼくもお金はたくさん欲しいですから」

「んじゃ、気張りや……いや、今回はさすがにワイらがそない頑張る理由もあらへんから、お前も無理やと思ったらすぐに撤退せえ。逃げることは決して悪いことやあらへんぞ」

「はい……!」

「ほな……またな」

 そう言うとツムゾルムは手を放し、敬礼しながら地上へと落ちて行った。

「……最初のプランに戻っただけだ。この嵐はドラグゼオが止める!」

 逆にドラグゼオは上に昇って行く。エメラルドを彷彿とさせる緑色の二つの眼で渦巻く暗雲を睨んで。炎を身体の中で凝縮しながら。

「「「キイィィィィィィィィッ!!」」」

 そんな昇竜にトモル命名嵐蟲が群がってくる。

「飛んで火に入る夏の虫とはお前達のことだな……ドラグゼオ葬炎弾!!」


ボオォォォォォッ!!


「「「――ッ!!?」」」

 ドラグゼオは体内で凝縮していた炎を解放!全身を体表と同じ色の鮮やかな桃色の炎で包み、間抜けにも突っ込んで来た嵐蟲を焼き尽くした!

「はあぁぁぁッ!!」

 さらにその炎の迸りに比例するように超加速!そして勢いそのままに火の玉となって暗雲に頭から突撃した!

「突き破れぇッ!!」


ボシュンッ!!!


「……なんだと?」

 暗雲の中は外と打って変わって静かな空間が広がっていた。そしてその中心にそれはいた。

 古来より雲の中にそれは住んでいると言われていた。

 しかし、科学の進んだ現在においてこの話をするときっと大抵の人は下らない迷信だと一笑に付し、一部の人はそうだねと信じてもいないのに適当に話を合わせてくれるであろう。

 かくいうトモル・ラブザも彼らと同じであった。雲の中にそれはいないと、ただの伝承だと信じていなかった。

 その時までは……。

「ドラゴン……!?」

「それは主もだろ、四番目」


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