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No Name's Trust  作者: 大道福丸
傭兵達の日常
113/132

弔いは盛大に⑩ ラストダンス

「!!!」

「何!!?」

 頭上から強襲しようと迫るドラグゼオと何も知らないはずの標的の視線が交差した!

 ヘブンダンサーは目の前の幻を無視して、上にいる本物の方に目を、そして両手のライフルとショットガンを向けた!

「まずい!?」

 ドラグゼオは必殺技を中断!ブレーキをかけながら、両手で前方を覆い、さらに全身に薄く炎を纏った。

「!!!」


ババババババッ!!バァン!ガギィガギィン!!


「――ぐっ!!?」

 けれど、その程度の防御では銃弾をはね除けられず桃と黒の装甲を抉られてしまう。だが、それ以上に問題なのは衝撃で体勢が崩れ、コントロール不可能になってしまったことだ。

「うわあぁぁぁぁっ!!?」

「………」

 木の葉のように空中をくるくると回転しながら、自らのすぐ横を落ちていく竜をヘブンダンサーは見送った。レールガンを展開しながら……。

「今よヘブンダンサー!!竜に終わりの一撃を!!」

「…………」

 戦いに関しては素人であるフレンジーが思いつくことなど、あのウルバノ・ゼルベーニの経験を継承しているヘブンダンサーが思いつかないはずもなく、すでに照準は完了、発射態勢に入っていた。

「てえぇっ!!」

「!!!」


バシュウゥゥゥン!!


 発射されたヘブンダンサーの最大火力レールガン!大気の壁を突き破り、周囲の水分を蒸発させながら、ドラグゼオへと迫る!

「くっ!この!!」


ボオッ!!ボオッ!!


 ドラグゼオはここでようやく炎の噴射と根性で姿勢制御に成功!ヘブンダンサーの方、レールガンがやって来ている方を向くと即座に……。

「炎竜壁!!」

 炎の盾を生成!自らの前面を覆い尽くした!


ボオッ……バシュウゥゥゥン!!


 レールガン着弾!そして炎竜壁を軽々と貫通!弾丸は予定通りドラグゼオに……。

「りゃあっ!!」


ガリイィィィィンッ!!


「――ぐっ!!?」

 炎竜はギリギリで身体を翻した。

 弾丸は胸の装甲を横断し、痛々しい傷を刻みつけるが、致命傷とまではいかない。全ては炎の盾が間に合ったからだ。

(炎竜壁が勢いを落としてくれたおかげで助かった……今のは本当に死ぬかと思ったよ……良かった)

 安堵し、思わずホッと息をつくトモル。だが、まだ窮地を脱したわけではない!


バシュウゥゥゥン!!


「!!?」

 第二射発射!天使の持つレールガンが再び天から裁きを下すように降って来る!

「少しはゆっくりさせておくれよ!!」


ヒュッ!バシャアァァァァァン!!


 体勢さえ崩されてなければやはりドラグゼオなら回避は難しくなかった。今日二本目となる水柱がそそり立つ。

(このまま空振りさせて弾切れを狙うか?いや……)

「!!」


バァン!バァン!バァン!!


「そんな安易な策で勝てる相手じゃないんだよ!この人は本当に!!」

 レールガンを展開しつつ、ライフルで的確に狙撃してくる。桃色の炎竜は空中に前衛的なアートを描きながら、ただ逃げ回る。

(ライフルも避けることに徹すれば問題ない。問題なのは相手も、ウルバノ・ゼルベーニもそれがわかっているはずだってこと。なのにそれを続けるってことは……)

 考えるまでもなかった。今しがたトモル自身が思案していたことをまんまやっているだけなのだから。

(こちらのガス欠狙いか。先の教会での戦いや、ここまで飛んで来たなら、こっちが先に根を上げると思っているのか?悔しいけど正解だよ……!!)

 竜は憎らしそうにヘブンダンサーを睨んだ。なんとなくほくそ笑んでいるように見えた。

(このまま均衡状態を維持してもぼくには何のメリットもない。ここはリスク承知で短期決戦に挑むしかないか……!!)

 覚悟を決めたトモルの想いが再びドラグゼオの全身を駆け巡り、彼の敵を焼き尽くす業火へと変換される。

「はあッ!!」

「!!?」

「何!?」


ボオォォォォォォォッ!!


 それはまさに火の玉だった。ドラグゼオはその全身に炎を灯し、自らを巨大な火の玉と化したのだ!

「ドラグゼオ葬炎弾……行くぞ!!」

 その火の玉は空を疾走した!

 海水を蒸発させながら、ただ真っ直ぐ、いつもよりも眩い桃色の軌跡を描きながら!ヘブンダンサーの下方から掬い上げるような軌道で疾走した!

「!!!」

「ヘブンダンサー!!撃ち落として!!」


バァン!バァン!ババババババババッ!!


 戦闘の素人のフレンジーでもそれを食らうとまずいと理解したのか慌てて迎撃するように命令を下す。例の如くそれよりも早くヘブンダンサーは動いて、あるだけ弾丸をばらまいていたが。


ジュウゥゥゥゥゥッ!!


「!!?」

「なにいぃぃぃぃぃぃッ!!?」

 けれど、悲しいかなそれらは全て竜が纏う炎に触れた瞬間、消えてなくなってしまった。全て一瞬で跡形もなく蒸発してしまったのだ!

「うりゃあぁぁぁっ!!」

 火の玉となったドラグゼオはそのまま頭からターゲットへと突っ込んでいく!

「ヘブンダンサー!?」

「!!!」


ボオォォォォォッ!!ヒュッ!!


「ちっ!」

「……あれ?」

 ヘブンダンサーはあっさりとドラグゼオ葬炎弾を回避した。それはそれは易々と……。

「このレベルの相手にはこれだけスピードを上げても当たらないのか!?いや!そんなことないはず!!」

 青い空にまた桃色の炎で弧を描きながらUターン!ドラゴンは再度突撃を敢行する!

「喰らえ!!」


ボオォォォォォッ!!ヒュン!!


 だけどこれもヘブンダンサーは難なく回避。その純白の身体に一切触れさせることができなかった。

「くそ!!」

 悔しさを滲ませながらまたまたUターンしてドラグゼオのサードアタック!今度こそとどめを刺すと、勢い良くさらに炎を爛々と燃やしながら飛び出した!


ボオォォォォォッ!!ヒュン!!


 けれどこれも不発。ヘブンダンサーの身体は綺麗な新品のままだ。

(これって……)

 瞬間、フレンジーの脳裏に先ほどのFKTスカイとツムゾルムの戦いと、その顛末が甦った。

(これ、さっきと同じ展開じゃない?スピードを重視した結果、逆に攻撃が単調になって読み易くなったあのアタシの……スカイの失態と同じことをピンクドラゴンはやってしまっている)

 自然と口角が上がる。先ほどと同じ展開ならば勝つのは……。

「ヘブンダンサー!回避に専念しなさい!!」

「!!!」


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!


「あはっ!!」

 狙い通り愛しの作品には一発も当たらず。ヘブンダンサーは涼しい顔で余裕をもって右往左往する巨大な火の玉と化したドラグゼオの突撃を全てを躱し切った。

(やはり思った通り!アタシのヘブンダンサーなら速いだけのこんな攻撃に当たるわけがない!そしてこれだけのエネルギーを放出していればいずれ……)


ボオォォォォォォォォ……


「くっ!?」

「ははッ!!」

 あからさまにドラグゼオが纏う炎の勢いが衰えた。ゆらゆらと力無く揺れ、それはまるで今にも消えそうな風前の灯火……。

 フレンジーは勝利を確信した。

「ヘブンダンサー!今よ!!」

 言われるまでもなくヘブンダンサーは直進してくるドラグゼオにレールガンの照準をすでに合わせていた。


ボシュッ!!


 そしてそれとほぼ同時にドラグゼオの炎も完全に鎮火。無防備の状態をさらけ出す。

「今度こそアタシの勝ちよ!!」

「!!!」


バシュウゥゥゥン!!ドゴオォォォォォン!!


 発射された弾丸は見事に命中し、ドラグゼオの左半身を吹き飛ばした……空っぽのドラグゼオの。

「!!?」

「な!!?中身は!!?」

「ここだよ」

「「!!?」」

 トモルは空中に投げ出されていた。重力に引っ張られ、海面へと落下していた。思惑通りに。

「まさかレールガンを避けるために!?」

「違う!お前に勝つためだ!!」

「な!?」

「オーダーだ!ウェイター!英雄の形見を、この手に!!」


フッ!!ガチャッ!!


 トモルの注文通り虚空から教会で見せられたタグが出現する。それを手に取ると……。

「力を貸してくれ……ラストダンサー!!」

 その真の名前を高らかに叫ぶ!

 タグは光の粒子に分解、ゼルベーニの髪と似た灰色をした機械鎧に再構成されると、トモルの全身に装着された。

 そして直ぐ様背部のグレネードキャノンを右腕の下を通すように展開、それを両手で構え、マスク裏のディスプレイのカーソルを上空のかつての主人の身体を素材としたヘブンダンサーに合わせる。

「に、逃げなさい!!ヘブンダンサー!!逃げるのよ!!」

 一転してピンチに陥ったフレンジーは慌てて逃走するように自らの最高傑作に命じた……が。

「!!!」


ボォン!!ブシュウゥゥゥゥッ!!


「!!?」

「なぁッ!!?」

 動こうとした瞬間、ヘブンダンサーのスラスターから煙が上がった!白いもくもくとした意図せぬ煙が!

「少しずつ、気づかれないように通り過ぎ様に火の粉を飛行ユニットに放っていた。そろそろ影響が出る頃合いかと思って勝負に出たんだ」

「ヘブンダンサー!?ヘブンダンサー!!?動け!動きなさい!!」

「!!?!!?」

「聞こえてないか」

 慌てふためくフレンジーの声を聞いても気持ちは晴れなかった。これからすることはそれだけトモルにとって億劫なことなのだ。

「ゼルベーニさん……こんな形で弔うことになってすいません!でも、せめてあなたの愛機で盛大に……!!」


ボォン!!


 引き金を引くと天に昇るようにグレネード弾が発射された。それは飛行装置を破壊され、身動き取れないヘブンダンサーに……。

「アタシの最高傑作がぁぁぁぁぁッ!!?」


ドゴオォォォォォォォォォン!!!


 ゼルベーニの最後のマシン、ラストダンサーが放ったグレネード弾はゼルベーニの遺体ごとヘブンダンサーを跡形もなく破壊し、故郷の海に爆炎の花を咲かせた。

「戻って来い!ドラグゼオ!!」

「!!!」

 そして半壊状態のドラグゼオは身体にむち打ち、主人の下へ。海面に叩きつけられる直前で再びラストダンサーに代わって装着され、トモルを空へと戻した。

「今回もギリギリだったけど、なるようになったな。あとは……」

 満身創痍の炎竜はひび割れた緑色の眼で遠くに漂うクルーザーを見下ろした。



「アタシの……アタシのヘブンダンサーが!FKTシリーズが全滅なんて!!?」

 デッキで戦いをタブレットで観戦していたフレンジーは怒りのあまり端末を海に投げ捨てると、操舵室に向かった。

「いや、まだよ!まだアタシ自身が無事ならば新しいFKTを作れる!そうよ!今回は素材にした奴らが雑魚だっただけ!もっと強い戦士の死体を集めれば――」

「聞き捨てならんな」

「――ッ!?」

 操舵室に入るフレンジーを待っていたのはイエローとブラックのツートンカラー、頭と胴体が一体化し首がなく、玩具のマジックハンドのような手をした水浸しのピースプレイヤーだった。

「ディマリナス……!?」

「さすがに詳しいな」

「その声はスカイと戦った……」

「せや。あれから急いでこいつで海の中泳いでここまで来たっちゅうわけや。しんどかったで」

 ケントディマリナスは肩を叩くような仕草をした。

 そんなのんきな黄色いマシンとは対照的にフレンジーは足をガタガタと震わせ、顔を引きつらせた。

「賢いな。自分がこれからどうなるか理解したか」

「あ……あの……」

「ん?」

「助けてくれませんか?」

「みっともないのう。命乞いまでして生きたいんか?」

「そりゃそうでしょ……」

「せやな。気持ちは痛いほどわかるで」

「じゃあ……」

「でもダメや」


ゴォン!!


「――ッ!?」

 マジックハンドのような手で拳骨一発!フレンジーは頭に大きなたんこぶを作りながら、気絶した。

「命にリスペクトのないお前なんかこのまま海に捨ててオリジンズの餌にしてやりたいところやけど……聞き出さなきゃならない余罪もたっぷりありそうやから、今日はこの辺にしといたるわ」

 そう言うとケントディマリナスは耳元に手を当てた。

「えー!聞こえるでしょうか?地獄からでも見えるようなド派手な花火を上げてくれたドラグゼオくん。こちらは無事にターゲットを確保しましたよっと」



「……聞こえていますよ」

 トモルは苦笑いを浮かべながらそっと呟くと、軽く深呼吸して、改めてヘブンダンサーの残骸が撒かれた海を見つめた。

「これでもうあなたを眠りから覚ますようなことはありません。ウルバノ・ゼルベーニよ、伝説の傭兵よ、どうかこの海で安らかに……さようなら」

 トモルは目を瞑り、故人が穏やかでいられるようにと祈りを捧げる……。

 こうして破天荒な傭兵ウルバノ・ゼルベーニの破天荒極まりない葬式は終わりを迎えたのだった。


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