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No Name's Trust  作者: 大道福丸
傭兵達の日常
112/130

弔いは盛大に⑨ ヘブン

「どこだ……?」

 穏やかな青い海の上を桃色の炎が駆ける。大切な人を取り戻すためにドラゴンは目を凝らし、ひたすらに沖に向かって進んでいた。そしてついに……。

「………あれか?」

 ドラグゼオのエメラルドを彷彿とさせる緑色の眼が捉えたのは、一隻の白いクルーザーだった。

 一見するととても小奇麗で高そうなその船を見つけると喜びと同時に更なる苛立ちがこみ上げてきた。

「ずいぶんといい船に乗ってるじゃないか……!!」

 マスクの下で眉を潜めるトモル。その時であった。

「別にいいでしょ。アタシがいい船に乗ったって」

「!!?」

 上方からターゲットである憎き女の声が聞こえた。体勢を立て直し、急停止し、声のした方を見上げると、それは……トモル的にはあってはならない存在がそこにいた。

「……間に合わなかったか……!!」

 そこにいたのは今まで彼の前に立ちはだかって来たFKTシリーズと良く似たピースプレイヤー。

 神々しさを感じさせる純白のボディーに背中には翼を生やし、その後ろには折り畳まれた銃のようなものがついている。両手にも銃を持っていて、まるでその姿は物騒な天使。

 そしてその纏う雰囲気はトモルがかつて共に任務をこなした男、ウルバノ・ゼルベーニに酷似していた。

「残念だったわね。すでにウルバノ・ゼルベーニはアタシの手によって最強にして最高のFKTに生まれ変わったわ。名付けて『FKT-SPヘブンダンサー』!!」

「ちっ!」

 喋っているうちに元気を取り戻したのか、明らかに高揚していくフレンジーの声が不愉快で仕方なかった。

「これまでのFKTはこのヘブンダンサーに至るためのプロトタイプでしかない!つまりこのヘブンダンサーがあなたに勝てば、今までの負けはチャラよ!!」

「ずいぶんと都合のいい。あんたの作品が負け続けているのは、あんたが間違っていることと、才能がないことの何よりの証明だ!素直に認めろよ!!」

「ッ!?どいつもこいつも生意気な……!!アタシの才能に間違いはない!それを教えて上げなさい!ヘブンダンサー!!」

「!!」

 ヘブンダンサーは背中のキャノンを右の脇の下を通すように展開!銃口がバチバチと帯電する!

「このレールガンで海の藻屑になりなさい!!」

「!!!」


バシュウゥゥゥン!!


 発射された弾丸は凄まじい加速で一気に目にも止まらぬトップスピードに到達し、きっと大抵のピースプレイヤーならば何もきずに貫かれていただろう。

 だが、今回の相手は完全適合の境地に至った特級ピースプレイヤー、ドラグゼオである。

「なってたまるか!!」


ヒュッ!バシュウゥン!ドボオォォォォン!!


 ドラグゼオは難なく回避。外れたレールガンは代わりに海に着弾し、水柱を立て、海水を巻き上げ、周囲に雨を降らした。

「ちいっ!!」

「所詮この程度なんだよ!あんたの作品なんて!!」

 怒りのドラグゼオはその桃色の鱗から発する熱によって雨粒を蒸発させながら、一気に間合いを詰めた!そして……。

「はあッ!!」

 下から身体ごとぶつかるようにアッパーを放つ!

「!!」


ヒュッ!


「ッ!?」

 けれどヘブンダンサーもまたドラグゼオに負けない機敏な動きで後方にスライド移動し、回避。

 目の前を通り過ぎようとする竜の目と亡者の踊り子のカメラが交差した。

「この!!」

 ドラグゼオは咄嗟に各部から炎を噴射し、回転!後ろ回し蹴りを繰り出す!

「!!」

 それに呼応するようにヘブンダンサーもその名に違わぬ華麗なターン!こちらも負けじと後ろ回し蹴りを放った!


ガァン!!


「――ッ!!?」

 足裏が衝突!結果は引き分けで両者後方に吹き飛……いや!

「!!!」

 次の行動に移ったのが早かったのはヘブンダンサー!左手に持ったショットガンの引き金を躊躇なく引く!


ババババババッ!!


 目の前に広がる散弾!それに対し桃色の竜は……。

「炎竜壁!!」


ボシュッ!!


 その体表と同じ桃色の炎の盾を生成し、シャットアウト!したのだが……。

「!!」

「ッ!?」


ゴォン!!


 炎のバリアを回り込んで蹴り!今度は綺麗に脇腹に決まり、トモルの肋骨が悲鳴を上げる。

「この!!」

 やられたらやり返すと痛みに耐えてドラグゼオ、反撃のナックル!


ブゥン!!


 しかしすでにヘブンダンサーは射程の外に離脱済み。拳は虚空に炸裂した。

「!!」


バァン!バァン!キィン!ガギィン!!


「――ぐうっ!?」

 そして下がりながらライフルで狙撃!竜の鱗を少しずつだが確実に削り取っていく。

(これがウルバノ・ゼルベーニの力と技……味方の時はあんなに心強かったのに、敵となるとこんなにも厄介で不愉快なのか!?)

 苛立つトモルの感情が伝播し、さらにドラグゼオの纏う熱気が上昇する。そしてそれは覚悟の証でもあった。

(ゼルベーニさんの遺体を傷つけたくなかったが、もう無茶苦茶されてしまった上に、手加減できるレベルじゃない!ここは心を鬼にして、ただの超強い自律型ピースプレイヤーとして破壊させてもらう!!)

「ガンドラグ!!」

 決意をさらに強固にするために愛用の複合兵装を召喚!感情を炎の弾に変換し、装填すると躊躇うことなくトリガーを押し込んだ!


ボオッ!ボオッ!ボオッ!!


「ちっ!」

 しかしヘブンダンサーは相も変わらず踊るように飛び回り、襲いかかる火の弾を軽やかに躱した。

「!!」


バァン!バァン!バァン!!キィン!


「ぐっ!?」

 そして反撃のライフル。こちらは確実に当ててくる。

「死人が調子に乗るなよ!!」

「!!」


ボオッ!ヒュッ!バァン!ガギィ!!


 円を描くように移動しながら銃を撃ち合う旋回戦。結果は同じで桃色の炎は白いボディーを捉えることはないが、ライフル弾は竜に傷を刻み続ける。

(老獪な戦い方ってのはこういうのを言うんだろうな。決してガンドラグの射程に入らないように立ち回っている。それでいて自分はライフルが当てられる距離をきっちり維持し続ける)

 ドラグゼオはグッと接近する素振りを見せると、ヘブンダンサーはビクリと何かを察知したような反応を見せた。

(フェイントも見極めるか。本当に素晴らしいな。ゼルベーニさんそのものの動きだ。スペックではドラグゼオが勝っているはずなのに、ここまでやり込められるのはひとえにあの人の生前積み重ねた筆舌にし難い戦いの記憶の力……それを!)

 感心すると同時にまた沸々と怒りが燃え滾る。何故伝説の傭兵と呼ばれた男がこんな目にあっているのだと。

(もうパニッシュメントで一気に吹き飛ばす!!跡形もなくこの世から消し去ってやる!!)

 ドラグゼオは自身の最強にして最も広範囲を殲滅できる必殺技を放とうと感情を、炎のエネルギーを身体の中に溜め込んだ……が。

「!!!」

「ですよね~」

 異変に勘づいたヘブンダンサーは攻撃を即座に中断すると、全速力でさらに大きく距離を取った。

(ゼルベーニさんならこれも気づくよな。っていうか、ちょうどパニッシュメントの影響が出なさそうなギリギリの位置に陣取ってるし。これじゃあドラグゼオ葬炎弾もちょっと無理か。なら、敵の裏をかくのあの技で)

 ドラグゼオは溜め込んだエネルギーをガンドラグに注入。そして銃口を向けた……眼下に広がる青い海に。

「ドロンさせてもらいます!!」


ボオンッ!!ジュワアァァァァァァァァッ!!


「!!?」

「何!?」

 発射されたのは先ほど撃ち合ってた時よりも遥かに大きい火球。それが海面に着水するとたちまち海水を蒸発させ、もの凄い量の水蒸気を発生させた。それを起こした桃色の竜を覆い隠すほど大量の……。

「目眩まし!?索敵よヘブンダンサー!!不意打ちを狙って来るわよ!!」

「…………」

 わかっていると言わんばかりにゼルベーニの技と戦いの記憶を引き継いだ純白の操り人形は水蒸気のカーテンに向けて若干開いて銃を構えた。どこから竜が襲いかかって来ても対応できるように。

「!!!」

「来た!!」


バサアッ!!


 そんな彼の前に再び桃色の竜が姿を現す!銃のグリップから燃え盛る炎の刃をそそり立たせながら!

「!!」

「ヘブンダンサー!!」

 創造主であるフレンジーの指示よりもヘブンダンサーは速く動いた。

 両手の銃を一直線に迫って来る桃色の竜に向けると、最もダメージを与えられるタイミングを計る。

 それを頭上から同じくガンドラグから炎の剣を生成した桃色の竜が見ていた。

「蜃気楼の双子 (ジェミニミラージュ)……」

 ヘブンダンサーの前にいるのは炎で作った分身、ただの幻であった。そして本物は頭上からとどめの一撃を放とうと準備していた。

(エクスフレイムスラッシュで……終わらせる!!)

 ドラグゼオは静かに、気づかれないように炎を噴射し、悲しき踊り子の脳天へと落ちて行った。




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