弔いは盛大に⑧ スカイ
「とっとと天国に帰れや!!」
バン!バン!ババババババッ!!
リベンジ戦、先に仕掛けたのはツムゾルム!借りを倍返ししようとベルクヴァインセキュリティから借りた銃を連射する!
「!!」
ヒュン!ヒュン!ヒュン!!
しかし、FKTスカイには一発も当たらず!器用にスラスターを吹かし、身体を傾けて空中を自由自在に動き回って躱し切った。
「ちっ!すばしっこいな!!」
「それがアタシのFKTスカイよ!あなたの不細工なツギハギマシンなんかじゃ到底相手にならない!そうでしょ!!」
「!!」
ババババババババババババッ!!
「くっ!!」
スカイとは打って変わって、必死になって動きながら弾丸の雨から逃げるツムゾルム。その不恰好な姿がフレンジーの言葉の正しさを証明しているようだった。
「はははっ!やっぱり強いわ!アタシのスカイ!!」
「くそ!あんま調子に乗るやな!!」
イエローのマシンは急速方向転換!逃げの姿勢から一転、敵機に向かって加速する!
「もう自棄になったの?ならさっさと終わらせちゃいなさい!」
「!!」
ババババババババババババッ!!
当然スカイは迎撃に動く。さっき以上の弾幕がツムゾルムの眼前に広がる。
「きばれやツムゾルム!!」
ヒュッ!ヒュッ!キィン!キィン!!
「!!?」
「なんですって!?」
「真っ正面から当たらなければツムゾルムならこんなもんや!!」
ツムゾルムの機動力とケントの反射神経では全て回避することはできなかった。
その代わり前面に盛られた装甲にうまい角度で弾丸を当てることによって弾き逸らす。
だから無傷のままスカイの懐まで接近することができた!
「足蹴にされた恨み……返すで!!」
ホバリングで姿勢制御しながら、地上と変わらないフォームと勢いでキックを振り抜く!
「!!!」
ガギィ!!
「ッ!?」
しかしそれと遜色ない動きでスカイの方も蹴りを放ち、両者の脚が交差する。
「残念。恨みを返せなかったわね~」
「くっ!」
「!!」
ガァン!!
「――ッ!?」
もう一方の足でスカイ追撃!腹に衝撃を受けるとツムゾルムは意図せず高度を落とした。
ババババババババババババッ!!
そこにまた追撃!弾丸を上からひたすらにばらまく!
「この!!」
ヒュッ!!ババババババババババババッ!!
これはかろうじて回避!
地面に激突寸前で体勢を立て直したツムゾルムはアスファルトに背中を向けたまま、擦れるギリギリの高度で飛行し、弾丸の着弾点から離脱した。しかし……。
「!!」
「いっ!!?」
スカイはいつの間にかツムゾルムの逃げる方向に先回りしていた!再び蹴りを繰り出す素振りを見せながら!
「今度こそKOしちゃいなさい!!」
「!!」
「されてたまるか!!」
ガッ!ガギィィィィィッ!!
ツムゾルムはくるりと回転すると、両足を地面に下ろして急ブレーキ!火花を散らしながら、確実に減速していく!そして……。
「!!!」
「シャアッ!!」
ガッ!!ブゥン!!
地面を蹴り出し上空へエスケープ!スカイの蹴りをすんでのところで空振りさせて、自身は再び天へと戻った!
「結果オーライ!上を取った!!」
怪我の功名か有利な位置へと移動できたと喜ぶケントは意気揚々と引き金にかけた指に力を込めた……が。
「スカイ!!」
「!!!」
ヒュッ!バン!バン!ババババババババッ!!
「な!?」
だが、スカイはその弾幕の中を泳ぐように間隙を縫い、あろうことか真っ正面からツムゾルムに接近して来た!
「ワイとは格が違うと言いたいんか!?」
「!!」
ガギィ!!
「――ッ!?」
その通りだと言わんばかりに一気に懐まで潜り込むとツムゾルムの持っていたハンドガンを自身の銃のグリップをぶつけ、払い落とした。
「借りもんやぞ!コラァ!!」
ならばとツムゾルムももう一本の手に持っているアサルトライフルのグリップで顔面を叩き割ってやろうと容赦なく撃ち下ろす。
ブゥン!!
「ぐっ!?」
けれどそうはさせまいとスカイは今度は一気に距離を離し、ツムゾルムの腕の届く位置から離脱した。そして……。
ババババババババババッ!!キィン!キィン!
後退しながら銃撃!弾丸を浴びせかけられたツムゾルムだが、例の如く上手いこと角度をつけて弾き……。
ガリッ!!
「――ッ!?」
弾き返すことができなかった。受け流せない角度で装甲に当たってしまい黄色の体表が抉り取られる。
(くそッ!!こんな綱渡りみたいなやり方
、ずっと続けられるわけないか……なんとしてもツムゾルムが限界を迎える前に撃ち落とす!)
距離を取った撃ち合いを覚悟したツムゾルムは残ったアサルトライフルを構えた。しかし……。
「!!」
「な!?」
瞬間、スカイ再接近!またツムゾルムの眼前まで詰め寄ってきた!
「この野郎!!」
ならばと腰の裏にマウントされたダガーを引き抜き、そのまま下から上に振り上げる!
ヒュ!!
「………」
「こいつ……!!」
そしたら再び離れる。スカイは挑発するように逆さまになりながら距離を取った。
「ワイと同じ土俵にはのらんってことか……!?殴り合いしようとしたら離れて、撃ち合いしようとしたら近づく……そういうことか!!」
バババババババババッ!!キィン!ガリッ!
「ぐっ!?」
返事は言葉ではなく弾丸で。またツムゾルムは自慢の装甲を削り取られてしまい、たまらず逃げ出す。
「!!」
当然FKTスカイは追跡。銃を連射しながらツムゾルムの飛んだ軌道をトレースするようにぴったりついて行く。
「やっぱ空中戦の醍醐味は追って追われてのドッグファイトやな……勝負に相応しいわ!!」
グッ!!ヒュン!!
ツムゾルムは身体を大の字に広げ、全身に風を受けて急ブレーキをかけながら浮き上がった。結果、ケントの狙い通りに追って来るスカイの上をまたまた取ることができた。
(脳天……いや!胴体を突き刺してしまいや!!)
そして直ぐ様、急降下!ダガーを構えてスカイの背中に……。
「!!」
「ッ!?」
グルッ!!ドゴオッ!!
「――ぐっ!?」
スカイの頭部が反転!視線が交差したと思ったら、遅れて身体の方もターン!その流れのまま回し蹴りを放った!
けれどツムゾルムはかろうじてガードに成功する……蹴りは。
ババババババババババババッ!!
「ぐあっ!!?」
至近距離からの二丁の銃での追撃!もろに食らってしまい黄色と黒の破片がボロボロと空中に巻き散らされる!
「野郎!!」
ヒュッ!!
考えも無しにダガーを投げたが、もちろん当たらない。しかし、回避のためにスカイが攻撃を中断し、後退してくれたので、あのまま蜂の巣にされることだけは防げた。
「はぁ……はぁ……くそが……!!」
肩を上下させ、息を整えるケント。身に纏う特製の愛機も戦闘開始の時から変わり果てた姿になっていた。
(悔しいが認めるしかない……こいつはワイより少なくとも空中戦においては格上や。どこの誰だか知らんが、めっちゃ強い……!!)
イエローのマスクの下で悔しさに顔を歪めるケント。
その表情は不愉快にもカメラ越しのフレンジーに伝わったようで……。
「はははッ!!やっぱりダメダメじゃないあなた!アタシの見立て通り、あの中では一番弱い。FKTにする価値もないくらいに」
「別になりたくないわ……」
自分の作品の力を遺憾なく見せつけ上機嫌のフレンジーに反論したかったが、この体たらくでは負け惜しみにしかならないのでケントの声に力はなかった。
「フフフ……可哀想に。たまたまお葬式に来ただけなのに、こんなことに巻き込まれちゃって」
「まったくや……」
「ならば少しでも楽に!そして誇らしく終わらせてあげる!あなたに見せてあげるわ!FKTスカイの真の力を!!」
「なんやと……?」
ガゴッ!!ボオォォォォォッ!!
フレンジーの言葉を合図にFKTスカイは両脚をパージ。なんと太腿部分から切り離したのだ!そして分割面から炎が噴射する!
さらに前腕部と縦に開いた頭部から嘴のように鋭利な刃が飛び出す。その姿は最早人型と形容するには躊躇われるものだった。
「これがFKTスカイの本当の姿よ」
「化け物が……!!」
「そうよ!化け物よ!!誰も倒せない空の怪物!それがアタシの開発したFKTスカイ!!」
ボオォォッ!!
「――なっ!?」
スカイは体勢を変えてツムゾルムに突撃!新たに太腿から噴射された炎を余すことなく推進力に変えて、今まで以上の加速とトップスピードを実現した!
「速――」
「!!」
ザンッ!!
「――いっ!!?」
その初見ではとてもじゃないが対応できない圧倒的なスピードに当然ツムゾルムは何もできずにアサルトライフルを斬り裂かれてしまう。
「くそ!?武器が!?」
「これで万事休すね!ノロマさん!!」
青い空に炎で軌跡を描きながらUターン!再度突撃を敢行する!銃を乱射しながら!
「この!!」
ババババババッ!ガリッ!!ヒュン!!
「ッ!?」
ツムゾルムはこれをかろうじて回避。銃撃は何発か掠めたが、肝心の嘴や腕の刃による攻撃はきちんと対処し、致命的なダメージを受けることだけは防いだ。
「中々やるじゃない。でも、ラッキーがいつまで続くかしらね!スカイ!!」
「!!!」
FKTスカイのサードアタック!今度こそとどめを刺すと、勢い良く飛び出した!
ババババババッ!ヒュン!!
「……あれ?」
けれどこれも不発。しかも今回は銃の方も一発も当てられなかった。
「へ、へぇ~、本当にラッキーなようね。今日はあなたの人生で最も幸運な日なのかしら?いや、アタシのスカイと戦うことになったんだから、不幸な――」
「ごちゃごちゃうっさいわ」
「――ッ!!?」
「御託はええから早くかかってこいや。フリーのマッドサイエンティストさん」
ツムゾルムは先ほどまでの狼狽ぶりから打って変わって、堂々とした態度で壊れたアサルトライフルを投げ捨て、人差し指を上に向けてちょいちょいと動かした。あからさまな挑発だ。
「FKTスカイ!!そいつを殺して!!」
それにフレンジーはまんまと乗る!その主人の不満を晴らすためにスカイはまたまたスラスターをフル稼働させ、突撃する!しかし……。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!
「な……!!?」
しかしいくらやっても一発も当たらず。ツムゾルムは涼しい顔で余裕をもって全てを躱し切った。
「な、何で!!?何で急にスカイの攻撃に対応できるようになったの!!?フルパワー状態になったのに何で!?」
混乱から答える義理など一切ない敵に疑問を投げかけるフレンジー。
けれど義理はなくとも、相手の心に深い傷をつけられるなら喜んで答えるのがケント・ドキという男だ。呆れ返りながらも楽しそうに口を開く。
「そのFKTって奴は死んだ人間を素材にして造るんやろ?」
「そ、そうよ……」
「で、そいつの生前の記憶や動きを完璧に再現できるのがストロングポイント」
「そう!その通り!!」
「そいつ生きてる時、脚なかったんか?」
「……え?」
「生きてる時の動き再現するのに、生きてる時と違う体型にしたらあかんやろ」
「…………あ」
「その姿は航空力学とかでは、空を飛ぶには最適な格好かも知れんが、その名も無き戦士の経験を活かすための形やない。トップスピードは速くなっても、脚や全身を使ってバランスを取ることで実現する機敏な動きができなくなったら、何も怖くない。単調になり過ぎや」
「だからあんたは……」
「ワイは確かにあん中なら一番弱いかもしれんが、それでも馴れない身体に四苦八苦してる奴に負けるほどではないわ」
「ぐうぅ……!!?」
自分のミスで勝てる勝負を手放してしまったフレンジー。屈辱と後悔にまみれたイカれ女が、この後どうするかというともちろん……。
「FKTスカイ!!こうなったらリミッター解除よ!!器用に動けないなら、奴が避けられないスピードを出せばいいのよ!!」
「!!!」
もちろん自棄になって無茶をする。機体が壊れないようにかけていた制限を感情のままに解除すると、スカイはギシギシと身体を軋ませながら加速して、ラストアタックに挑む!
「この速度なら、あんたのマシンでは!!仮に避けられても手ぶらなら!!」
「ホンマ阿保やな……ウェイター!槍を!!」
『はい!転送します!!』
「!!?」
「なっ!?」
耳元でユルキの声が響くと、目の前に車の中にあった組み立て式の槍が組み立てられた状態で虚空から現れる。それをツムゾルムは手に取ると切っ先を飛んで来ているスカイに向けて、がっちりと固定した。
「ストップ!ストップよFKTスカイ!!」
「それは無理な話やで」
ガッ!!ザシュウッ!!
「!!?!!?」
「ぐっ!?」
「スカイ!!?」
スカイは自らそれはそれは凄まじい勢いで槍に突っ込み、串刺しになった。
「ウリャアッ!!」
ズボッ!!
さらにツムゾルムは刺したばかりの槍を引き抜くとそこに……。
「これであの世に送り返したる!!」
ドゴオッ!!
ぽっかりと空いた穴に、腰裏に隠し持っていた手榴弾を突っ込んだ!
「ほな!さいなら!!」
「スカ――」
ドゴオォォォォォォォォォォォン!!
「ぐうっ!?」
ツムゾルムが僅かに後退した直後に手榴弾は大爆発!スカイの身体を内部から消し飛ばし、爆風で仕掛けたツムゾルム自身も吹き飛ばした!
「ぐっ!よい……しょっ!!ふぅ……」
地面にぶつかる寸前で体勢を立て直したツムゾルム。ゆっくりとまた高度を上げると、小さな雲のように漂う爆煙を見つめた。
「もし脚をつけたまま続けとったら、きっとワイの負けやった。色んな意味で何もわかっとらんタチの悪いアホに目をつけられたの。御愁傷様」
ケントは手を合わせ、名も知らぬ戦士の眠りが二度と妨げられないようにと祈った。
「あとなんといってもこの勝利はあんさんのおかげや、ユルキさん。いや、ウェイターって言った方がええか?」
『昔の話です』
耳元から照れたようなユルキの声が聞こえた。通信先できっと耳を赤らめながら話しているのだろう。
「まさかどこでも何でも欲しいものを目の前に出してくれる伝説のエヴォリスト、通称ウェイターがあんさんだったとは」
『どこでも何でもじゃありませんよ。自分の体液でマーキングされた半径二キロ以内の場所や人に、自分の体重以下の無機物、特急ピースプレイヤーとコアストーン以外しか送れません』
「それでも十分凄いけどな」
『だから素性を隠してたんです。自分自身は戦闘能力が皆無なんで、言うこと聞かせようと思えばいくらでも方法はありますから』
「だからベルクヴァインさんの側にいて守ってもらってたんか」
『傭兵戦争からずっとね。一緒に仕事をして信用できる人だと思ったので、彼のスカウトを受けたんです。自分の安全を保障してくれるなら、この力を会社のために役立ててくれと』
「うんうん、ええ話や。それで少しでも役に立とうと、送れる物を増やすために、あえて太って」
『いや、太っているのは別に能力のためじゃないですよ。何だったら絶賛ダイエット中ですし』
「え?」
『ダイエット中ですし』
「失礼しました……」
勝利を手にした二人の間に気まずい空気が流れた。
『……まぁ、自分の体型のことは置いておいて、あとはフレンジーを捕まえるだけですね。それも特級ピースプレイヤーのドラグゼオが追跡に行ってるなら、きっと問題ないでしょ』
「そうやとええんやけど……」
マスクの下のケントの顔に陰がかかり、終わったばかりの戦いが脳内でリフレインした。
(フレンジーの奴、最初は片手間に観戦してるだけやったのに、後半は付きっきりでマシンに指示を出してた。単純に自分の作品がワイをやり込めるのを見るのが楽しくなっただけならええ。だが、もしやるべき作業が終わったからだとしたら……?)
最悪の想像が頭を過ると、思わず身震いした。
(ただフレンジーの場合は普通の人間と思考回路が全然違うからな。さっきの弱くなるフルパワーモードといい、ゼルベーニさんの遺体が欲しいのにミサイルをぶっぱなしてきたことといい、常識や合理性で考えられん行動を取る。だったら……)
「……やめた」
ツムゾルムは両手を後頭部に当てて、空を見上げた。
『ケントくん?』
「死体を兵器化しようなんてするアホが何を考えてるかなんて、賢くて優しいケントくんにはわからへん。だから考えるのはやめや。ワイはワイのやるべきことをやる」
『やるべきこととは?』
「トモルのアホを信じることや。どんな相手が出て来ようと、あいつなら必ず勝つってな」
そう言うとケントは爛々と燃える太陽を見つめた。




