弔いは盛大に④ 屍
(一体どうなってるんや……!?)
(何故あの状態で動ける……?)
(首を落とされても生きていられることなんてあるのか?)
信じ難い光景を目の当たりにし、思考停止に陥りそうになるがケント、ジョゼット、ベルクヴァインは必死にこの奇妙極まりない状況を把握しようと脳を動かした。
(一番シンプルな答えは自律型のP.P.ドロイドだったってことになるはずやけど……)
(それだったら私達なら戦いの中で気づけていたはずだ)
(AIの動きは効率を重視した固さがあるからな。奴にはそれがなかった)
(だとしたら遠隔操作型……って言いたいところやけど)
(遠隔型にも独特の違和感がある。最新の脳波コントロール方式で操っても必ず動きにタイムラグが出るはず)
(これもどんなに小さなものでも我らなら違和感を感じるだろう)
(それにあのフレンジーとかいう女の話を思い出してみると操ってるというより、命じてる感じがする)
(間違いなく奴は声の女とは別の意思で動いていた)
(あいつの動きには“生”があった。達人の生きざまがあった……)
(なら今のこの状況はどういうことやねん!?)
脳みそをフル回転させたが、結局答えは見つからなかった。
それはトモルも同じようで……。
(自律型とも遠隔型とも思えない。ただわかっているのは……こいつはヤバいってことだ!!)
ドラグゼオは不安を振り払うかの如く構えを取った。どんな攻撃にも対応できるようにオーソドックスな構えを。
「あら?ボクシングはやめたの?」
「……そろそろそいつが対応して来そうなんで」
「正解。きっと彼ならすでに攻略の糸口を見つけているはずよ。あのまま決めきるべきだったわねピンクドラゴン」
「決めるも何も、普通ならさっきの一撃終わってるはずなんですよ……!!」
地面に転がるファイターの首を見下ろし、苛立ち、「ちっ!」と舌打ちをする。いくら考えても今のこの状況が不可解かつ理不尽で受け入れられなかった。
「ストレスは身体に良くないわよ」
「ご忠告どうも。でも、そう思うんならこんなことしないで欲しかったんですけど」
「こんなことって……大切な人を亡くした悲しみに打ちひしがれる人達に攻撃を加えること?例えばこんな風に」
ババババババババババババッ!!
「うわあっ!!?」
「きゃあっ!!?」
「ッ……」
「!!?」
突如銃弾の雨が参列者の前に降り注ぐ!けたたましい音に驚き尻餅をつくものもいれば、ついには気を失う者まで出てきた。
「この攻撃は!?」
ドラグゼオの緑色の眼が弾丸の軌道を遡っていく。
そこには先ほど、いや現在進行形で戦っているファイターと良く似た、しかし背中に鋭角な翼を生やしたピースプレイヤーがホバリングしながら、両手の銃を参列者に向けていた。
「新手か……!!」
「『FKTスカイ』よ。今のは威嚇だけど次は……当てる」
女の言葉に応じ、スカイの人差し指に力がこもっていく。
「ふざけるな!!」
「本当にな……!」
「ふん!!」
それと同時にドラグゼオが、ブラーヴ改二が、アイトシルトが動き出す!ミサイルを防いだ時のように参列者の前に盾になるように並んだ!そして……。
「もう一度炎竜壁!!」
ボシュボシュ!ボシュ!!
ドラグゼオは再び炎の盾を生成し、弾丸をその燃え滾る熱で蒸発させた。
「ふん!!」
キンキンキンキンキンキン!!
ブラーヴ改二は青黒のボディーを大の字に広げて、全身で弾丸の雨を浴びる。しかしいくら当たろうがその強固な装甲に傷をつけることはできない。
「はっ!!」
キンキンキンキンキンキン!!
アイトシルトは身体と同じガンメタリックの盾を召喚し、参列者を守る。最強の護衛集団の長として誰一人失わないぞと、特級でもないのに、全身から強い感情が溢れ出しているような鬼気迫る姿であった。
「皆さん!ここは一旦教会の中へ!!」
「それができたら苦労はせん……」
「足が震えて……」
「立てないなら這いつくばってでもいいから移動しろ!死にたくないならな!」
「「「はい!!」」」
葬儀の時は誰よりも穏やかだったベルクヴァインの怒声に腰を抜かしていた参列者は飛び起き、我先にと教会へと走って行った。他の者もそれに続く。ユルキとアピオン以外。
「はははっ!なんでみっともない!!そこまでして生きたいのかしらね!」
「そりゃそうやろ……!!」
不愉快な笑い声を響かせるFKTスカイをツムゾルムを装着したケントが強襲!躊躇うことなく背後から殴りかかる!
ヒュッ!ブゥン!!
「はっ!」
「なんやて……!?」
けれどスカイはスラスターを吹かし、急激に高度を下げてパンチを回避。拳は何もない空間を通過し、風切り音を鳴らしただけに終わった。
「そんなつぎはぎだらけのマシンにアタシの作品が後れを取るわけないでしょ!!」
ガァン!!
「――ッ!!?」
さらに急上昇からの頭突き!見事にスカイの頭頂部はツムゾルムの顎を捉えた!
(ワイがこんなあっさり!!なんやねんこいつら!!?この動きどう考えても達人――)
「!!」
ドゴォッ!!
「――がっ!!?」
器用に一回転するとその勢いを利用して踵落とし!これまたツムゾルムの頭部に見事に命中させ、地面へと強制的にお返しした。
「ケントさん!?」
「お仲間の心配もいいけど、やっぱり生身の人達を気にかけた方が良くない?」
「ッ!?」
スカイは再び両手の銃で狙いを定めた。参列者が逃げ込んだ教会に……。
「一網打尽……とはいかなくても、一人や二人は死んで欲しいわね!!」
「くそ!!」
ババババババッ!!ボシュッ!!
弾丸と教会の間にドラゴンがカットイン!またまた炎の盾を生み出し、弾丸を防いだ。
「ドラゴンが教会を守るなんて、中々素敵な光景ね」
「この……!!」
「もう少し見ていたいからあなたはそこで大人しくしてなさい」
ババババババッ!!ボシュッ!!
どうやらフレンジーという性悪女の目的は参列者を殺すことではなく、厄介な炎竜を目的のものから引き離すことのようだった。そしてそれは今のところ上手くいってしまっている。
「これで一番ヤバそうなのは教会に釘付け、アタシの崇高な目的の邪魔はできない。あとは……ファイター!!」
「!!」
「「ッ!!?」」
ガン!ガァン!!
「ッ!?」
「くっ!?」
ドラグゼオに注意が向いているのをこれ幸いと息を潜めスカイに近づいていたブラーヴ改二とアイトシルトを一蹴する!
その打撃は盾から手を放させ、青黒の装甲に守られたジョゼットの骨にまで響いた。
「これで準備完了。仕上げは……『FKTワイルド』!!」
「!!」
ドゴォ!!
「な!?」
「なんだと!?」
ここに来て第三のFKT登場!地面からドリルを手にした先の二体を一回り逞しくしたようなマシンが飛び出して来た!
一同はその予想だにしない登場に心の底から驚いた。
けれど、すぐにこの後、この得体の知れない連中の行動にさらに驚愕し、嫌悪感を抱くことになる!
「さぁ!手に入れて!伝説の英雄の屍を!!」
「は!?」
「ゼルベーニさんを!?」
ドリルを投げ捨てたワイルドはあろうことかゼルベーニの入った棺を担ぎ上げたのだ!
(まずいこのままじゃ……!!)
刹那、ユルキが反射的に口内に唾液を溜めた。そして慣れた仕草で……。
(ごめんなさい!ゼルベーニさん!!)
ペッ!!ビチャッ!!
唾を吐き出し、ゼルベーニの眠る棺の端に命中させた。
(これでとりあえずは…)
「ワイルド!戻って来なさい!我が手に伝説の戦士の骸を!!」
「!!」
ワイルドは命じられるがまま勢い良く走り出した!傭兵達に背を向けて、棺を肩に乗せて全力で逃亡した!
「まさか狙いがゼルベーニ殿の遺体だとは……一体何のために……!?」
「詮索するのは後だ!!奴を追うぞジョゼットくん!!」
「いえ、もう遅いわ!スカイ!!」
「!!」
ガシッ!!ヒュン!!
ワイルドが片手を伸ばすと、飛んで来たスカイがキャッチ!全身のスラスターをフルパワーで稼働させ、棺と共に空中に持ち上げた!
「空に逃げるか!ならば撃ち落とす!!……と、したいところなんだが……」
「くっ!?」
ジョゼットとベルクヴァインの胸の奥に故人との思い出が甦るとどうしてもそれをすることができなかった。頭ではそれが最善だとわかっていても、魂が拒絶する。
「生ぬるいわね。それでも戦士?」
「ぐっ……!?」
「まぁ、仮に実行しようとしてもアタシのかわいいFKTファイターがやらせはしないけど」
「!!」
躊躇する二人の下に首なしのピースプレイヤーが突っ込んで来た!
「ガナビッドーザー再び!!」
「!?」
その首なしファイターにピースプレイヤーを換装したケントが横から突っ込む!
「シャアッ!!」
ガギンッ!!
勢いそのままに撃ち下ろされたハンマーだったがファイターは両手をクロスしてガード、あっさりと受け止めた……ケントの思惑通りに。
「この子にはそんな攻撃通用しないわよ」
「わかってますって。だからポチッとな」
ボォン!!バギィンッ!!
「――なっ!?」
「!!?」
黄色のマシンがハンマーの長い柄に付いたスイッチを押すと、ファイターの腕に設置されて面が爆発するように撃ち出され、直接触れていた右手を粉砕、その下の左腕にも亀裂を入れた!
「くっ!?こんな機能が!?」
「見たか!これがケントスペシャルや!!」
「!!」
ブゥン!!
「おっと」
反撃の蹴りをあっさり回避。自分の役目は終わったとばかりにガナビッドーザーはそのまま後退していった。あとは仲間に任せますよと。
「よくやった!ドキ!!」
「あとはわたし達が!!」
ブラーヴ改二とアイトシルトが詰めていた!一気に射程内に入ると……。
「!!」
そうはさせないと先に動いたのはボロボロのファイター!無事な左足をガンメタリックのマシンの顔面に向かって振り抜く!
ガッ!!ザシュ!!
「!!?」
アイトシルトは腕でガード……するだけには飽き足らず、相手の力を利用して脛にナイフを突き刺した。
「おかげで勘が戻って来たよ。これはそのお礼だ」
「!!」
ヒュッ!!
ファイターはナイフの刺さった足を器用に動かし、前蹴りを放ったがこれまたあっさり避けられてしまった。
「お前がドラグゼオの打撃に慣れたように、こちらだって学習するんだよ。ましてや満身創痍で鈍くなった蹴りなど……」
「傭兵戦争を生き残った戦士には通用しないってことだ!!」
アイトシルトに交代してブラーヴ改二!刺の付いたナックルガードを装備し、パンチを撃ち込む!
「!!」
対するファイターもパンチ!ひびだらけの左拳で真っ向勝負を挑む!
ゴッ!バキバキバギィンッ!!
「!!?」
けれど悲しいかな一切勝負にならなかった。
ブラーヴ改二の拳はかろうじて形を保っていたファイターの左腕を跡形もなく砕き壊した。きっと万全の状態でもそうなっていただろう……そう確信が持てるほどにド派手に、豪快に。
「くっ!?これ以上の戦闘続行は無理よ!逃げなさいファイター!!」
「そうはさせない!だろ!ドラグゼオ!!」
「はい!!」
愛銃ガンドラグのグリップから桃色の炎の刃を発生させると、炎と同じ桃色をした竜は腰を下ろし、両足に力を込めた。そして……。
「エクスフレイムスラッシュ!!」
ザザンッ!!
力を解放し、突撃。桃炎の刃で通り過ぎ様にファイターの胴体にXを描き、溶断した。
当然これを受けて、身体を分けられて動ける者などいるはずもなく、ファイターは完全に沈黙。バラバラになって地面を転がった。
「なるようになったな……って、一息ついてる場合じゃないか」
勝者であるドラグゼオは自らが切り分けた敵機を不愉快そうに見下ろす。
「フレンジーと言ったな?あなたの目的は何だ?」
「フッ……教えてあ~げない!!」
若干ノイズがかかっていたが、幸か不幸かスピーカーは生きていて、厳かな別れの儀式をぶち壊したくそ女の声を再び聞くことができた。
大切な作品とやらを壊されて、落ち込む素振りでも見せていれば、溜飲が下がったというものだが、残念ながら相も変わらず挑発的な言葉を発し、炎竜の逆鱗に容赦なくタッチしてくる。
「あまりぼく達を甘く見ない方がいい。こんなふざけた真似をして、おめおめと逃げられると思うな」
「必ずアタシを見つけ出すって?」
「あぁ、そして必ずゼルベーニさんを取り戻す」
「あっそ。精々頑張りなさいピンクドラゴンと愉快なお仲間さん達」
ボシュ……
ファイターの切断面からドラグゼオの熱によるものではない煙が立ち昇った。
「証拠隠滅か……悔しいけど、今のところぼくらやられっぱなしみたいですね」
「くそ!!」
竜がやるせなそうに仲間達の方を向くと、ガナビッドーザーがファイターの首を蹴って八つ当たりした。




